親子ともに「よい受験」を終えるために必要なことは何か?〜実力派の地域密着塾に聞く、中高受験のノウハウと塾の役割〜(前編)

中学・高校情報 取材:松本 陽一 文:ライター 林 郁子
親子ともに「よい受験」を終えるために必要なことは何か?〜実力派の地域密着塾に聞く、中高受験のノウハウと塾の役割〜(前編)

近年、首都圏を中心に私立中学受験熱が高まっています。コロナ禍におけるオンライン授業の取り組みや、変化する大学入試への対応が評価されているからです。さらに高校受験でも、修学支援金の拡充が後押しし、私学人気が高まっています。そうした中、受験生個々に、志望校選択の適切なアドバイスをおこない、中学、高校受験で毎年着実な成果を上げているのが、千葉県八千代市にある学習塾、日米文化学院です。同塾の代表である柳田浩靖先生と、総務主任として子どもたちや保護者への受験対策にあたる柳田真衣先生に、入学後の成長をも見据えた「よい受験」とは何かをうかがいました。前後編の前編では、まず2023年の中高受験の振り返りを中心に話を聞きました。

今の中学受験には明確な対策が必要

―受験についてのお話をうかがう前に、まず日米文化学院の概要をご紹介ください。

柳田(浩):日米文化学院は千葉県八千代市勝田台に教室を置く学習塾で、創業者の父の代から40年以上、地元密着で経営しています。指導対象は小学1年生から高校3年生までで、1クラスは10人から20人までの少人数授業が特色です。

―長年、地域密着で多くの受験生を指導されてきた立場から、最近の中高受験の動向についてどのように感じられていますか。


柳田(真):まず中学受験についてですが、受験者数の増加により難易度が上がっています。倍率は年々上がっていき、その分、合格率が下がっています。特にこの春の2023年入試については、「全滅してしまった」という厳しい状況を反映した声も多く聞きました。幸い当学院では全員合格することができましたが、中学受験には明確な対策が必要であるということを改めて実感しました。


―2023年入試が特に厳しかったのはなぜでしょうか。


柳田(浩):首都圏の私立中学校や中高一貫校の多くは複数回の入試を実施していて、千葉・埼玉は1月から、東京都内は2月から受験がスタートします。そのため、千葉、埼玉の学校には都内からの「前受け」とよばれる本番前のお試し受験もふくめ、県外から多くの受験が集まるのがここ数年の傾向です。けれど、21年、22年は新型コロナウイルス感染症の影響で、こうした越境受験をする子どもの数がやや減少していました。それが今年はコロナ禍前の状況に戻り、かつ受験生も増えているため、より厳しくなったということです。


柳田(真):さらに千葉県内の上位校については、都内からの本命受験生も増えています。お試しではなく、「合格したらぜひこの学校に通いたい」、「都内の学校も受験するが第一志望はこちら」と考える受験生です。一方で千葉県内の受験生や保護者は、都内など県外の学校の受験に対して「合格しても通わないから」と消極的な場合があります。ただ、千葉県内だけで受験戦略を組むことは難しい。都内に比べれば私立中学が少なく、それぞれの受験生が狙える範囲の学校が限られることや、午後入試もあまり実施されていないことから、そもそも受験のチャンスが少ないためです。


―場所や日程を踏まえた受験戦略が欠かせないということですね。


柳田(真):当学院では、今年は推薦入試で合格をした生徒以外は全員、都内の中学も受験することを前提にしました。千葉県内の学校が第一志望でも、必ず都内も受けることを念頭に置いて一人一人に合わせた受験戦略を組んだのです。例えば、1月21日に千葉県内の第一志望校の1回目入試を受ける生徒には、1回目入試が不合格だった場合、2月3日の2回目入試前の1日と2日を都内の入試にあてて、2回目入試まで受験モードを維持するプランを組みました。

さらにいえば、1月中に千葉県や埼玉県内、さらには寮のある学校で、とにかく1校、合格をとっておくようにしました。中学受験は12歳の受験です。いざ受験となると、想像以上のプレッシャーがかかります。1つ合格していることで、非常に大きな安心感が生まれるのです。中学受験は兄弟がいない限り、どのご家庭も初めての経験です。長年の経験を生かしながら、受験前には徹底的に受験戦略を話し合うようにしています。

難問奇問ではなく、基本的知識をベースに思考力を問う問題が増える?

―ほかにはこの春の中学受験で、注目すべきポイントはありますか?


柳田(真):今回、いくつかの難関校で合格最低点が高くなる傾向がありました。問題自体は易化し、基本的知識を駆使して、思考力を問う問題が増えたように感じます。ということは一方で、「難問で一発逆転」というパターンが難しくなったのではないでしょうか。こうした傾向が来年以降も続くのかどうかは、注視したいと思っています。

柳田(浩):私は、ようやく全貌が見えてきた大学入学共通テストの影響ではないかと思っています。共通テストでは、思考力や判断力を問う問題が出されています。中学入試での問題の易化も、単に易しくなったというのではなく、基礎的な知識があればその場で考えて解ける問題になった。シンプルな知識を組み合わせて論理的に考えればわかる。パターン化された問題から、思考力を問う問題への移行です。

私立人気で変化する高校受験

―高校受験についてはいかがでしょうか。


柳田(浩):千葉県内については、公立を第一志望にする受験生が、B推薦(併願推薦)で私立をおさえてから、公立に挑戦することが多くありました。しかし、私立の中堅校でも大学合格実績が堅調な人気校は、推薦の基準を上げる、B推薦を中止してA推薦(単願推薦)のみに移行するケースが出てきました。今後は私立高校が人気になることで、私立を本命にして、不合格だった場合に安全圏の公立を受験するというパターンも出てくるかもしれません。


ーなぜ、私立の人気が高くなっているのでしょうか。


柳田(浩):大学受験対策では、先生の転勤がない私立の方が、受験のノウハウが蓄積されやすいメリットがあります。特に、近年大学入試で割合が増えている総合型選抜で、面接や小論文指導における手厚さが注目されています。さらに、高等学校等就学支援金(就学支援金)制度で、世帯年収別に私立高校の授業料支援が増加した影響もあり、私立が選びやすくなっているのは確かです。

高校受験のために学校見学に行く受験生も増えています。施設の充実ぶりや、学校の説明に魅力を感じて、受験生が私立の方に興味を持つことも多いでしょう。


―そのほかの高校受験の傾向などはありますか。


柳田(浩):千葉県の公立高校では「思考力を問う問題」が増えています。基礎学力に加えて論理的に考える力をしっかりと身につける必要があると思います。


後編に続く

親子ともに「よい受験」を終えるために必要なことは何か?〜実力派の地域密着塾に聞く、中高受験のノウハウと塾の役割〜(前編)

左:柳田浩靖先生 右:柳田真衣先生