【私立高等学校】2024年度入試状況から読み解く2025年度入試予測
首都圏の私立高校入試は、都県ごとに制度面や受験事情に違いがあります。各エリアの難関・上位校の入試状況や、押さえ校の併願制度などをチェックし、私立で「成功」を収めるための受験プランを検討しましょう。来春2025年度入試につながる2024年度の結果分析を行い、変更点もご紹介します。
【東京都】難関・上位校の動向は?「併願優遇」を多数校が実施
東京都内の私立高校では、受験のメインである一般入試は2月10日に開始され、12日までの3日間に大半の高校が試験を行っています。
2024年度の一般入試の状況をみてみましょう。難関・上位大学の付属校では、慶應義塾女子が推薦の定員増により、一般の定員を約10人削減(約80人→約70人)。しかし実際には一般合格者は前年(2023年度)よりも多く出され、倍率は前年の3.4倍から3.1倍に低下という結果に。とはいえ、2025年度は合格者数の削減に注意しましょう。
一方、早稲田大高等学院の倍率は、受験者28人増で2.7倍→2.8倍と若干上昇。早稲田大系属早稲田実業学校では、男子枠は受験者8人減と合格者増員で3.7倍→3.2倍(繰り上げ合格を含む)に下がり、女子枠は受験者32人増で4.0倍→4.5倍に上昇しています。
青山学院は、前年(2023年)に日曜を避けて試験日を2月11日に前倒しして、2024年度は従来の12日に戻りました(受験者10人減、倍率4.1倍)。このため、「12日校」の明治大付明治では青山学院との競合が影響し、男子枠で受験者51人減、女子枠は101人減、倍率は男子枠2.2倍→1.8倍、女子枠2.7倍→2.5倍に下がりました。
かたや「11日校」の中央大では、前年の青山学院との競合が解消され、受験者は47人増。ただ合格者の増員で、倍率は3.1倍→2.9倍(繰り上げ合格を含む)とやや低下。
ほかの上位大学付属校では、 で受験者が目立って減少(161人減)、2022・2023年度に倍率が4倍に達したため敬遠傾向が出たようです。2024年度は3.5倍に低下しました。この中央大附から流入した層があって、中央大杉並は受験者24人増、倍率2.8倍→3.1倍に上がりました。
難関・上位進学校はどうでしょうか。開成では受験者10人減、ただ合格者が減って倍率は2.9倍→3.0倍に。桐朋は倍率1.5倍→1.6倍とわずかに上がり、城北は受験者急減(100人減)で1.9倍→1.3倍に低下。巣鴨は5科・3科選択制で、5科2.2倍→1.6倍、3科3.5倍→2.7倍にダウン。
さて、中堅校などは一般入試に「併願優遇」の枠を設ける高校が多数にのぼります。都立志望者などは、この併願優遇で押さえ(すべり止め)の都内校を確保するのが一般的な受験作戦です。
併願優遇とは、その高校を第2志望やそれ以下で受験するときの制度で、各校が定めた内申点の基準などを満たせば、入試前の段階でほぼ合格となるなど優遇があります。2024年度は一般募集校181校のうち約145校が併願優遇を実施しました。
この実施校のなかで、一般受験者増加が目立ったのは駒場学園(713人増)です。地理的・レベル的に近い他校が併願優遇の内申基準を上げたため、受験生が流入したことがプラス要因とみられます。
一方、前年(2023年度)に自由ヶ丘学園、芝国際は共学化などで人気が急上昇。ただ2024年度は自由ヶ丘学園では下位コースで、芝国際は全コースで併願優遇を廃止。それが響き、一般受験者はそれぞれ734人減、465人減と急減しています。
次に、推薦入試について述べましょう。2024年度に推薦を行ったのは、全体の9割以上の164校です。推薦の試験は1月22日以降に行われます。
都内私立では、単願推薦(第1志望)に加え、他校と併願できる推薦も行う高校がかなりあります(2024年度は約75校)。ただし、この併願推薦は埼玉、千葉など都外受験生を対象としています。
中堅校などは、単願、併願推薦とも各校の内申基準イコール合格基準というところが大半です。この場合は、中学校を通した12月の「入試相談」で合格がほぼ内定します。秋以降の「個別相談会」で推薦や、併願優遇(一般)の合否を打診できる高校も多くなっています。
その一方、一部の難関・上位校などは内申基準を出願条件とし、推薦本番の学科試験、面接などで合否が争われます。2024年度も上位大学付属校などは倍率2~3倍台の「厳しさ」となりました。
最後に、2025年度の変更点などを挙げましょう。東京女子学院は共学化し、校名を「英明フロンティア」に変更します(中学は2026年度に共学化)。
試験日などの変更では、日本大鶴ヶ丘が一般の試験を2回実施(2月10日、11日)に増やし、受験しやすくなります。一方、明治学院東村山では一般の試験日を2月12日から同11日に変更。
入試方式では、大森学園は一般の1、2回に専願(単願)優遇制度を新設。学習院(一般のみを実施)は面接を廃止します。啓明学園では特待推薦、併願推薦を導入する予定です。
順天は2回実施していた併願推薦を1回に変更。なお同校は2026年度に北里大の付属校になり、同年度から同大への内部進学を開始予定です。
また、宝仙学園(共学部)は今春2024年度から順天堂大の系属校になり、同大医学部への内部進学枠(数人程度)を設置。2025年度には医学進学コース(仮称)を導入します。
コース制などの変更では、昭和第一学園は特別選抜コースを英語コースに改編。サレジオ工業高専は、これまでの4学科のうち3学科を募集停止とし、情報工学科のみの募集に。
明治大付八王子では定員を推薦85人→約80人、一般85人→約80人に変更。このため、やや難化する可能性もあります。かたや成蹊は推薦の定員を約20人→約25人に増やす予定です。
東京農業大第一は高校募集を停止し、完全中高一貫校となります。一方、東邦音楽大附東邦では高校、中学ともに募集を停止します。
【神奈川県】「内申重視」の状況が続き、「書類選考」制度が高人気に
神奈川県の私立高校では、都内私立高と同じで推薦入試は1月22日以降、一般入試は2月10日以降に行われます。
まず1月の推薦について述べましょう。2024年度は神奈川の私立56校のうち、51校が推薦入試を実施しています。県内私立の推薦は単願(第1志望)のみで、1月の本番では面接、作文などが課され、学科試験は行っていません。2024年度は、一部の高校(北鎌倉女子学園、聖セシリア女子)では書類審査のみとしました。
各高校が定めた推薦の内申点の基準を満たせば、中学校を通した12月の「入試相談」で合格が内定し、本番は無競争(全員合格)となる高校が例年、大多数です。2024年度も、推薦で不合格が出たのは慶應義塾(倍率は2.4倍)などに限られました。
では、一般入試についてみていきましょう。
神奈川私立は、一般入試に「書類選考」の枠を設ける高校が多いのが特徴です。「書類選考」とは、書類審査だけで済む制度で、各高校の内申基準などを満たして12月の「入試相談」を経れば、合格が決まります。法政大国際、法政大第二の場合は単願(第1志望)のみですが、ほかの実施校では公立など他校と「併願可」としています。
併願可の書類選考は、難関・上位校の中央大附横浜(A方式)、桐蔭学園(B方式)などにも広がり、2024年度はこの制度を県内私立36校が実施。受験者は合計で約2万6000人となりました。
近年は、書類選考が受験の中心という学校も増えており、一般を書類選考のみで募集する学校(2024年度は捜真女学校、向上、湘南学院、横浜創学館など)もあります。
県内私立を押さえ(すべり止め)にするときの手段として、「併願受験」の制度も定着しています。
「併願受験」も、各高校の内申基準などを満たせば12月の「入試相談」でほぼ合格とされますが、2月の本番試験を受験しないといけません。2024年度は、県内で併願受験の実施校は約30校。そのほか「単願受験」を設ける高校も少なくありません。2024年度に併願、単願受験を利用したのは約1万4000人でした。
なお、横浜創英では2024年度に併願受験を廃止して、一般はフリー受験(入試相談を行わない)のみに。また下位コースの募集停止もあって、一般受験者は998人減と大幅に減りました。
一部の難関・上位校は、併願可の書類選考や併願受験を行っていません。慶應義塾、日本女子大附、桐光学園、法政大国際、法政大第二などです。
難関・上位校の一般入試の状況をみてみましょう。2024年度に倍率が高かったのは、桐蔭学園のA方式(5.3倍)、法政大第二の「学科試験」(男子枠4.2倍・女子枠2.7倍)、慶應義塾(3.6倍)、中央大附横浜のB方式(3.6倍)、法政大国際の「学科試験」(2.9倍)、山手学院のオープン(A2.1倍、B2.5倍)などがありました。
さて、2月の一般では「オープン入試」という制度もあります。書類選考(併願可)や併願受験を行っている学校では、内申を使わず本番のテストで合否が決まる枠がオープン入試と総称されています。2024年度は、この実施校は32校でした。
“内申本位”の併願制度で確保した学校よりも「『上』を狙いたい」といった場合などはオープン入試でチャレンジするのもよいでしょう。
では、2025年度の変更点にふれておきましょう。
森村学園(共学校)は高校募集を再開し、一般入試(定員約10人・書類選考)、帰国生入試(定員若干)を実施。横浜富士見丘学園は2種のクラス制で、進学クラス(女子のみ)を共学化します(特進クラスは2019年度に共学化)。
横浜翠陵では一般に書類選考を導入、それ以外の一般では面接を廃止(予定)。
武相は進学コースの特進クラスに加え、進学クラスでも新たに学業特待の内申基準を設けます。
コースの変更では、北鎌倉女子学園が国際コースを、白鵬女子はダンスアート表現コースを新設。一方、三浦学苑はIBコースを募集停止とします。
【埼玉県】「1月併願」中心の受験地図個別相談会で合否の打診を
埼玉県の私立高校入試は1月22日以降に実施されます。東京、神奈川の私立のような「推薦」「一般」による日程のくくりはありません。
例年、この「初日」(1月22日)からの数日間に、県内私立の大半が併願入試(併願推薦)を2、3回行っており、この1月の併願入試が募集、受験の中心となっています。
1月の併願入試とは、3月上旬の公立・合格発表まで他校との併願が自由で、さらに、入試前の「個別相談会」で合格がほぼ判明する“優遇”があります。このため「受験しやすい」と人気が高く、2024年度も県内私立の総応募者数のうち、1月併願入試が約73%と大半を占め、単願入試(単願推薦)は約17%、一般入試は約10%でした。
県内私立47校のうち、1月併願は大多数の高校にすっかり定着。この併願制度がないのは、難関校(慶應義塾志木、早稲田大本庄高等学院、立教新座)や、音楽系高校(東邦音楽大附東邦大第二、武蔵野音楽大附)など少数です。
一般的には、1月併願で押さえ(すべり止め)の県内校を確保し、そのうえで公立やさらにレベルの高い私立にチャレンジという受験パターンが埼玉では「当たり前」になっています。
さて、1月併願入試、または単願入試を受験するときは各高校で夏ごろ~秋以降に開催される「個別相談会」に必ず出席しましょう。この場で、模試の結果や内申点(通知表のコピー)など成績が分かる資料を提示すると、私立側が併願、単願入試の合否の見通しを話してくれます。近年は、各地域の公的なテストなども資料として見てくれる高校が増えています。
2024年度に、併願、単願入試など全体の受験者がかなり増加したのは、花咲徳栄(350人増)、浦和実業学園(304人増)、細田学園(239人増)、春日部共栄(251人増)などがありました。このなかで、浦和実業学園は前年(2023年度)に約480人増え、2年連続で“好調”に。
一方、難関校は「個別相談型」ではない推薦入試(第1志望)、一般入試を実施しています。
2024年度の一般入試の状況をみてみましょう。慶應義塾志木では受験者65人増で、倍率は前年の2.9倍から3.1倍とやや上昇。
早稲田大本庄高等学院の男子枠では、受験者21人減ながらも合格者の絞り込みで倍率3.5倍→3.6倍と若干上向きに。同校の女子枠は受験者19人増と合格者減により3.3倍→3.5倍に上がりました。立教新座は受験者54人増、合格者の絞り込みで倍率2.1倍→2.3倍となっています。
では、2025年度の変更点などを挙げましょう。
開智は、定員をTコース(50人→60人)、S1コース(100人→120人)で増やし、S2コース(70人→60人)で削減。城西大付川越は3コースのうち、特進コースの定員を約25人減(約105人→約80人)、また単願入試で面接を廃止します。本庄東は出願時の自己推薦書提出を廃止します。
淑徳与野では、これまでMS類(単願のみ)の入試科目は英語、思考力テストでしたが、他の類型と同じ国語、数学、英語に変更。
コースなどの変更では、西武学園文理は普通科の5クラス制を改編し、アートクラスを導入、新たな6クラス制となります。春日部共栄では最上位の東大選抜コースを新設。埼玉栄はα選抜クラス(学力奨学生クラス)を設置する予定です。
なお、武蔵野音楽大附は2027年度に東京都練馬区へ移転する予定と発表しました。これは現在の中3生が高校3年に進級する年度です。
【千葉県】前期の定員比率が98%に!「前期決戦」で合格勝ち取る
千葉県の私立高校入試では、「前期選抜」は1月17日に開始され、20日までに大半の学校の試験が集中。「後期選抜」は2月15日以降の実施です。
ただ、「前期決戦」の状況が、近年はより際立ったものに。2024年度には県内私立53校中、38校が試験を「前期のみ」とし、後期も実施したのは15校と少数派でした。なかでも、上位レベルの高校は、後期の実施校がすでに無くなっています。
後期を実施した15校でも、その大半は後期の定員が20人以下と少なく、「若干名」としたところも(4校)。県内私立の全体では、前期の定員比率が約98%で、後期はわずか約2%でした。
受験生の側も、前期へ集中しており、2024年度は、県内私立の総応募者数のうち、前期が占める割合が約99%(途中集計値)にのぼっています。
明らかな「前期勝負」の様相であり、「前期で合格をつかむ」ことが一般的な作戦となります。
中堅レベルなど多くの県内私立は、前期の推薦(単願、併願)が受験の中心で、とくに併願推薦(第2志望以下)に例年多くの受験生が集まっています。併願推薦で押さえ校(すべり止め)を確保して、公立や私立上位校にチャレンジという受験パターンが千葉の生徒には「定番」的です。
中堅校などは併願推薦、単願推薦(第1志望)とも、各校の内申点の基準などを満たせば、中学校を通した12月の「入試相談」でほぼ合格とされるところが大半になっています。また、試験の名称は「推薦」ではなくても“入試相談型”で実質的に推薦と同様という高校もあります。
2024年度のトピックは、千葉敬愛が全コースで、敬愛学園、東葉などが一部のコースで併願推薦を廃止したことです。この影響で、前期の受験者が千葉敬愛では1212人減、敬愛学園は609人減と大幅に減少。これらの学校から受験生が流れて、千葉経済大附は前期受験者が646人増、千葉英和は359人増など急増のところもみられました。
さて、一部の上位校などは併願推薦を行わず、「テスト勝負」の一般入試が受験の中心です。
主な難関・上位校の2024年度の動向をみてみましょう。県内最上位の渋谷教育学園幕張の「学力枠」では受験者微増(2人増)と合格者の削減で倍率2.8倍→3.3倍に上がりました。一方、市川の一般は受験者19人減、合格者の増員で倍率1.8倍→1.7倍と若干下向きに。昭和学院秀英も受験者28人減と合格者が多めに出されたことで、倍率1.9倍→1.7倍に下がっています。
なお、茨城県の江戸川学園取手では一般を1月に2回実施。倍率は、医科コースの1回3.7倍、2回2.8倍。東大コースの1回5.5倍、2回3.0倍。難関大コースは他コースからのスライド合格を含めると1回2.5倍、2回3.3倍でした。
では、2025年度の変更点をみておきましょう。
八千代松陰では前期1、2回とも学科試験(国・数・英)に加え、新たに面接を実施。中央学院は前期・一般選抜の単願、後期で面接を導入する予定です。成田は、合格発表時に各教科・総合成績の得点を開示します(順位は発表しない)。
桜林は総合進学コースを新設し、2→3コース制に。茂原北陵では家政科(女子のみ)を共学化し、その名称をライフデザイン科に変更します。