2021年度入試状況から読み解く 私立中学校2022年度入試予測

2021年度入試状況から読み解く 私立中学校2022年度入試予測

2021年度の中学入試はコロナ禍に見舞われながらも受験生の総数は「5万人」の大台を突破し、私立中への高い支持や期待値がうかがわれました。ただ、安全志向が広がって、難関・上位校の受験者減少が目立ち、片や中堅校などは人気アップもみられました。2021年度の受験状況をチェックし、来春2022年度入試の「動き」を探っていきましょう。

受験生総数は「5万人台」続く コロナ下でも熱い私立中人気

首都圏(1都3県)の中学入試は、2021年度はコロナの緊急事態宣言が出された中での異例の入試となりました。コロナショックの経済情勢も影響し、中学受験生の総数は減るとの見方もありましたが、実際にはどうだったでしょうか。

1都3県では、私立・国立中学校の受験生総数(私立が主体)は約5万1400人で、前年(2020年度)と同数だったとある大手塾では推計しています。2016〜2020年度に増加が続き、この間に約5900人増えて、2020・2021年度は2年連続で「5万人」の大台を突破したのです。

コロナ下でも中学受験生が減らなかったのは、その背景として「小中学校の休校(2020年3月〜5月)の影響」が指摘されています。多くの私立中がオンライン授業などを早くから実施したのに対し、公立校では休校への対応が不十分であり、「私立中志向」が強まる一因になったようです。

私立・国立中の受験率(私立が主体)は、2021年度は17.3%となり、「6人に1人以上」の割合でした。なお、公立中高一貫校(1都3県)の受検者を加えると、受験率は約22%と推計され、ここ数年、首都圏では「5人に1人以上」が中学入試に臨んでいます。

2021年度は大学入試改革が行われ、新たな「大学入学共通テスト」では出題が「思考力重視」へシフトしたことが判明。こうした大学入試の“新傾向”も、受験指導がきめ細かな私立の中高一貫校の支持へとつながるでしょう。

来春2022年度の中学入試では、大規模な模試の参加状況から、受験生の総数が増加しそうな気配です。気を引きしめて、各自の志望校に合った対策学習に取り組んでいきましょう。

埼玉、千葉などの1月入試 遠方からの「試し受験」は減少

では、埼玉、千葉県などの「1月入試」から主な学校の受験動向などをみていきます。

埼玉県の私立中入試は1月10日が開始日で、首都圏のなかで最も早い日程です。このため埼玉では、ほかの都県からの「試し受験」層が特に上位校に多数集まります。ただ、2021年度はコロナ下で「感染リスクを避けたい」と東京や神奈川からの「試し受験」が減少した“異変”があり、安全志向も強まったようです。

そうしたなか、上位レベルで「マンモス入試校」の栄東は、全体の受験者(3回試験)が8521人となり、1万人を超えた前年(2020年度)に比べ1586人も減少しました。

また、開智では受験者の合計(5回試験)は3263人で、前年比670人減となっています。

開智は特進の先端クラスのみの募集に変わり、受験者が最も集まったのは先端1(1396人・1月10日)でこの倍率は1.6倍に。とくに合格レベルが高い先端特待(受験者558人・同11日)は倍率3.1倍でした。

ほかの難関・上位校でも、受験者数をみると、立教新座の1回では191人減(1871人→1680人)で、倍率は2.4倍→2.2倍に低下。

浦和明の星女子の1回でも受験者128人減(2053人→1925人)。淑徳与野の1回は受験者89人減。しかし、この両校では合格者を減らしたため、ともに倍率は1.9倍→2.0倍と若干上昇。

片や、埼玉の中堅校などは、星野学園(531人増)、青山学院大系属浦和ルーテル学院(306人増)、城北埼玉(252人増)などで1月試験の合計の受験者がかなり増加しました。

2022年度の変更は、栄東では試験日などが変わり、A日程(1月10日または同11日を選択)、東大特待Ⅰ(同12日)、B日程(同16日)、東大Ⅱ(同18日)という形に。このなかでA、B日程は基本問題を中心に出題し、東大特待Ⅰでは4科または算数1科で、特進の東大クラス特待合格(3種)のみを判定します。

一方、千葉県の私立中入試(一般)は1月20日に開始されます。2021年度は埼玉と同様、コロナ感染のリスクで東京からの「試し受験」層が減少、また安全志向が広がり、千葉の難関・上位校でも「受験者減少」がみられました。

県内最難関の渋谷教育学園幕張は最近、東大合格者数のベストテンに定着。同校の1次では受験者397人減(2058人→1661人)と急減し、倍率は3.3倍→2.4倍にダウンしました。

市川の1回でも受験者は302人減(2774人→2472人)。ただ、とくに合格者が絞りこまれた男子枠は倍率が前年(2020年度)と同じ2.1倍で、女子枠は2.9倍→2.7倍とやや低下。

また、東邦大付東邦の前期は受験者が222人減(2392人→2170人)ながらも、合格者数の削減により倍率は2.4倍→2.3倍と若干の低下に。なお12月の推薦(単願)は受験者728人、倍率18.2倍で“狭き門”が続いています。

一方、昭和学院秀英の1回では受験者14人増、しかし合格者が増員され、倍率は3.9倍→3.7倍と低下。「初日」(1月20日)の午後入試は受験者681人(前年801人)、倍率5.3倍でした。

常磐線の沿線では、芝浦工業大柏の受験者は1回4人増、2回116人減。合格者が多めに出され、倍率は1回2.2倍→2.1倍に、2回5.3倍→3.0倍に下がりました。

中堅校では、2021年度に共学化し、校名変更した光英VERITAS(旧・聖徳大附女子)で1 月試験の受験者(合計)が358人増となっています。

さて、2022年度には1月にコロナが沈静化していた場合は、それが埼玉、千葉とも上位校の受験者数や倍率の「アップ」につながる可能性があるとみられます。

なお、茨城県の江戸川学園取手は3コース制の募集で、2021年度は1月中には試験を2回実施。受験者は1回で77人増(794人→871人)、2回は34人増。1回は合格者が増員されたため倍率2.0倍→1.8倍に下がり、2回は1.6倍→2.0倍に上がりました。2022年度には、4科型は英語(リスニングのみ)を含めた5科型に変更します。

寮がある地方の学校の「首都圏会場入試」も1月の“選択肢”の一つです。2021年度は早稲田佐賀、西大和学園(奈良)、佐久長聖(長野)、秀光(宮城)、盛岡白百合学園(岩手)、函館ラ・サール(北海道)、北嶺(北海道)などが1月に首都圏入試を実施しました。

2月校の「動向」をチェック 安全志向が急に高まったが

東京都、神奈川県の私立中入試は2月1日に開始され、6日ごろにほぼ終了します。おもな学校の受験状況などをみていきましょう。

●男子校

2021年度に、男子御三家などでは、開成の受験者が前年に比べ137人減り(1188人→1051人)、麻布も127人減で、武蔵は微減(6人減)。片や駒場東邦では47人増加(576人→623人)。開成の倍率は、前年の3.0倍から2.6倍に低下。麻布では2.5倍→2.2倍に。駒場東邦は2.0倍→2.2倍とやや上がりました。

神奈川の聖光学院では受験者が減少(1回101人減・2回112人減)し、倍率は1回3.0倍→2.7倍、2回5.8倍→4.0倍にダウン。栄光学園は受験者が微減(4人減)ながらも、合格者の絞りこみで倍率3.0倍→3.1倍と若干上昇。

ほかの上位進学校はどうだったでしょうか。受験者が増えたのは、サレジオ学院(A62人増・B79人増)や、高輪(A19人増・B67人増・C61人増・算数午後7人増)、海城(1回9人増・2回36人増)など。高輪ではJR高輪ゲートウェイ駅の開業もプラス要素かもしれません。

一方、受験者が減ったところの方が多く、例えば、世田谷学園では急減(1次120人減・2次137人減・3次179人減・算数特選93人減)。ほかに巣鴨、成城、攻玉社、城北、暁星なども全回の試験で受験者減となりました。

2021年度は「難関・上位校へのチャレンジ受験を避ける」という安全志向が広がり、それが特に男子校の受験状況に反映されています。コロナ禍で塾も“休校”などの時期があり、「実力が思うように伸びない受験生が増えた」ことなどが、こうした安全志向の要因といわれます。

難関・上位の大学付属校でも、早稲田(1回57人減・2回119人減)のほか、慶應義塾普通部、早稲田大高等学院中学部、学習院などで受験者が減少しました。早稲田の倍率は1回3.2倍→2.9倍、2回4.3倍→3.9倍に下がっています。なお早稲田は「半進学校」で、併設の早稲田大に内部進学するのは約半数です。一方、明治大付中野では受験者増(1回13人増・2回54人増)に。

安全志向により、受験生は中堅レベルの学校に流れて、男子校では日本大豊山(1回116人増・2回201人増・3回171人増・4回133人増)、獨協(1回52人増・3回37人増・4回103人増)の受験者増が目立ちました。

獨協で2月1日に新設された午後入試(2回試験)は受験者562人が集まっています。

●女子校

2021年度に、女子御三家では女子学院の受験者が82人減り(746人→664人)、雙葉も34人減。桜蔭では29人増(532人→561人)でした。女子学院の倍率は2.7倍→2.4倍に下がり、桜蔭では1.9倍→2.0倍と若干上昇。

レベルで御三家と肩を並べる豊島岡女子学園の1回では受験者20人増(986人→1006人)、倍率は前年と同じ2.5倍に。2回は15人減りましたが、3回は6人増、それぞれ7.2倍、7.4倍の高倍率で、2022年度も「狭き門」となるでしょう。

ほかの難関・上位校で受験者が増えたのは、鷗友学園女子(1回93人増・2回84人増)、フェリス女学院(30人増)など。安全志向の強まりで、「鷗友学園女子の1回(2月1日)は御三家を避けた層が集まった」とある受験関係者はみています。同校の倍率は1回2.0倍→2.4倍、2回3.5倍→4.9倍にアップ。

また、富士見(1回40人増・2回37人増・3回32人増・算数1科85人増)、晃華学園(1回16人増・2回37人増・3回29人増)などで受験者増となりました。

一方、上位校で受験者が減ったのは、香蘭女学校(1回83人減・2回66人減)や、吉祥女子、洗足学園、白百合学園など。香蘭女学校の倍率は1回3.9倍→3.3倍、2回5.8倍→4.6倍にダウン。

そのほか、共立女子(2月1日131人減・2月2日226人減・合科型150人減・インタラクティブ27人減)や、恵泉女学園、田園調布学園、東京女学館などで全回の試験が受験者減に。

安全志向で中堅校などの人気が上がり、例えば、実践女子学園(1回38人増・2回108人増・3回87人増・4回91人増・5回92人増・基礎学力124人増)では受験者が急増。女子美術大付、昭和女子大附昭和なども受験者が増えました。

●共学校

2021年度に、大学付属校でトップレベルの早稲田大系属早稲田実業学校では、男子枠の受験者は30人減(359人→329人)、女子枠の方は27人減(222人→195人)。男子枠の倍率は3.5倍→3.2倍、女子枠は4.0倍→3.9倍と下向きました。ただ、2022年度は男子枠では定員が85人→約70人に削減されるため、「難化」が予測されます。

一方、慶應義塾中等部では、受験者は男子枠56人増(835人→891人)、女子枠44人増(351人→395人)。倍率は男子枠4.9倍→5.6倍、女子枠6.1倍→6.4倍にアップ。同校の1次試験は2月3日であり、前年に競合した青山学院が元の2月2日に戻ったことも影響したようです。

その青山学院では受験者14人増(885人→899人)、倍率は4.2倍→4.3倍と若干上昇。

神奈川では慶應義塾湘南藤沢の受験者は微増(2人増、469人→471人)。合格者をやや減らし、倍率は5.2倍→5.5倍に上がりました。

ほかに、上位の大学付属校で受験者が増えたのは、法政大(1回46人増・2回47人増・3回13人増)など。また、芝浦工業大附は共学化(2021年度)の“効果”もあって受験者増(1回84人増・2回111人増・3回65人増)で、新設された「特色入試」の受験者は230人でした。

上位の付属校で受験者が減ったのは、青山学院横浜英和(A40人減・B116人減・C60人減)のほか、中央大附、法政大第二など。

共学の進学校では、上位校が数少ない中、渋谷教育学園渋谷がトップ校です。同校の受験者は1回11人減(376人→365人)、2回28人増(685人→713人)、3回64人増(442人→506人)で、倍率は1回3.3倍、2回2.7倍、3回7.4倍に。

上位進学校の三田国際学園では1回を除いて、ほかの試験(2〜4回など)は受験者減が目立ちました。片や、青稜は全回の試験で受験者が増えています(1回A55人増・同B2人増・2回A78人増・同B76人増)。

新たに開校した広尾学園小石川は6回の試験を行い、受験者は合計で1713人集まり、好調にスタートを切りました。

さて、2021年度は先に述べたように安全志向が広がり、そのため難関・上位校で受験者数や倍率の「ダウン」がかなり見られました。2022年度にはそれらの学校で受験生の揺り戻しが起き、「アップ」が予想されるため十分に注意しましょう。

「午後入試」も上手に使い、2月1、2日で合格取りたい

東京、神奈川の2月入試は1日、2日がとくに活発であり、3日以降になると試験を行う学校数や定員が少なくなります。

そうしたなか、最近は1日、2日を中心に「午後入試」を多数の中堅校などが実施。ここ数年は算数などの1教科入試を午後に導入する学校も。

午後を使って併願の幅を広げる受験パターンは、東京、神奈川の生徒にはもはや「当たり前」となっているのです。

2021年度は2月1日だけで午後入試の受験者は約2万4200人で、2月1日午前の受験者(約4万1000人)の60%近くにのぼっています。

この1日午後の枠に、例えば、東京都市大付では受験者が計969人、山脇学園は854人、広尾学園は計803人集まりました。

2022年度の例では、日本大藤沢が2月2日に午後入試を新たに導入します。

この1、2年は、午後入試もうまく活用し、2月1日、2日の「前半戦」で合格を確保する重要性がより高まっています。受験生の総数が「5万人台」に膨らんで、とくに3日以降の試験は全体的に厳しくなっているからです。

2021年度は、2月1日の平均倍率は約2.1倍で、それが3日には約3.7倍に。3日以降の「後半戦」では倍率6倍〜10倍以上の「超激戦校」もみられました。

このような“危険”もあるため、2月1日、2日、あるいは1月中に合格を取れるように的確な併願校を選択することが大きなポイントです。2日までの合否の結果によっては、3日以降にどの学校を受けるか、2月の「後半戦」の受験パターンも十分に考えておきましょう。

2022 年度のおもな変更点は 「新タイプ入試」利用の作戦も

2022年度入試のおもな変更点などを挙げましょう。開校する私立中は「千代田国際」(予定の校名・共学校)です。これは武蔵野大附千代田高等学院が中学校を再開するものです。

星美学園(女子校)は中学・高校とも共学化し、校名を「サレジアン国際学園」に変更します。

なお、豊島岡女子学園は高校募集を停止し、完全中高一貫校になります。

2021年度はコロナ対応で面接を取りやめた学校が多く、その中でフェリス女学院では2022年度も面接を中止し、代わりに「筆記による人物考査」(10分程度)を新たに実施します。

一方、青山学院横浜英和では3回の試験とも4科でしたが、B、C日程(2月2日午後、3日午後)を2科(国語・算数)に切り替えます。

湘南白百合学園は、算数1教科入試(2月1日午後)を算数または国語の1教科入試に変更。

共立女子では、これまでのインタラクティブ入試(2月3日午前)を2月3日午後に移し、この試験を英語4技能・算数に変更します。

近年は、英語を取り入れた入試の実施校が急増しました(2021年度は約140校)。また、公立一貫校の出題形式に合わせた「適性検査」型の試験を多数の私立中が行っています(2021年度は約150校)。ほかに「思考力型」や「教科総合型」、「プレゼンテーション型(自己アピール)」「プログラミング」など多様な試験を行う学校もあります。

これらの「新タイプ入試」を、自分の志向や能力に応じて“選択肢”に加えてみるのも一策です。