2019年度入試状況から読み解く 私立中学校 2020年度入試予測

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2019年度入試状況から読み解く 私立中学校 2020年度入試予測

改革に積極的な学校として人気が高い三田国際学園=写真

昨年に続き2019年度も中学受験者総数が増加した。21年度の大学入試改革をにらみ、私立中高に対する期待の表れといえる。大学付属校人気は続いているものの、一部で一段落した模様だ。英語や算数1教科、思考力テストなど入試のバリエーションが広がっている。19年度の中学入試動向から20年度入試の傾向を探る。

19年度は1都3県(東京、神奈川、埼玉、千葉)の小学校卒業生が前年より約1万人増えたことが追い風となり、中学受験生数が増加した。昨年より2,200人増え、さらに受験率も0.2ポイント微増している。その背景にあるのは21年度からの大学入試改革だ。

従来のセンター試験に替わり導入される大学入学共通テストは、記述式問題を取り入れ、英語で外部試験を利用して「読む、書く、聴く、話す」の4技能をはかるなど、より思考力や記述力が必要とされる内容にシフトする。保護者や受験生には、私学なら新テストに柔軟に対応してくれるという期待が高まっている。

大学付属校の人気も続いている。併設大学へ進学できる安心感に加えて、施設や設備が整っており、高大連携で大学の授業が受けられるなど、受験勉強にとらわれないアカデミックな教育が魅力となっている。

一方で、その人気にやや陰りも見られる。女子受験生の付属校志向はまだ強いままだが、男子は高人気が続いて難化したため、敬遠する受験生も出てきた。男子校の芝浦工業大附、早稲田や、共学校の明治大付中野八王子、中央大附の男子などでは志願者が減った。

大きな増加となったのは、19年に日本大の準付属校になった目黒日本大だ。明治大付中野は新校舎効果で増加した。立教大もすべての付属校で増えている。神奈川では、青山学院横浜英和、中央大附横浜、法政大第二などほとんどの学校が増加した。

さらに19年は知名度の高い難関校と、新しい教育に取り組む学校が人気を二分している。難関校では麻布、駒場東邦、武蔵、栄光学園などの男子校、女子学院、雙葉などの女子校で増えた。改革に積極的な学校として人気が高い広尾学園、三田国際学園、開智日本橋学園などは志願者が3,000人を超え、相変わらずの人気ぶりだ。

また、ここ数年不調だったキリスト教主義の女子校で受験生が増加した。晃華学園、白百合学園、フェリス女学院、横浜雙葉などだ。

埼玉・千葉などの1月入試 栄東は受験生数1万人超え

埼玉の入試は1月10日から、続く千葉は1月20日から始まる。埼玉では細田学園と公立中高一貫校の大宮国際中教が新設され、全体の志願者数は前年度を上回った。圧巻は栄東で、例年1万人以上が志願する。志願者総数では前年より減少したものの、東大Ⅱは4科のほか算数1教科が選択できるようになり、志願者が1,038人から1,159人に増えて難度も上がった。

開智は、志願者が6,000人を超えた。埼玉の私立中は早くに入試が始まるため、東京や神奈川、千葉の受験生の「試し受験」に多くの学校が利用されている。青山学院大系属浦和ルーテル学院は19年度から青山学院大の系属校になり、校名も変更。99人から307人に志願者が急増した。


千葉トップの渋谷教育学園幕張は前年並みで、280人の募集に2,745人が志願し、相変わらず厳しい入試だった。例年高競争率の東邦大付東邦の推薦入試は、男子が16.5倍、女子が24.3倍と激戦。昭和学院秀英は、18年度から1月20日の午後に算数重視の特別入試を実施。30人の募集に、前年の766人を上回る928人が志願し激戦になった。志願者総数も2,681人から3,027人に増えている。


茨城の江戸川学園取手は、志願者は減ったものの各回とも合格最低点が上昇するなど難化している。茗溪学園は国際バカロレアの教育プログラムを実施し、グローバル教育を強化している。英語エッセイの入試に加えて、19年度は英語資格入試を実施した。


埼玉や千葉の特徴として、浦和明の星女子、淑徳与野、国府台女子学院、和洋国府台女子などの女子校が志願者を増やした。

2月校は東洋大京北、青稜が躍進 改革を進めた学校が人気に

東京、神奈川の私立中入試は2月1日に始まり、5日頃にほぼ終了する。最近は日程が前倒し傾向だったこともあり、3日までに入試を終える人が多くなっていた。19年度は志願者が増加したことから競争が厳しくなり、4、5日の後半日程まで受験を続ける受験生が目立った。

神奈川では全体の志願者数が減少した。桐蔭学園中教と慶應義塾湘南藤沢の減少が影響したようだ。桐蔭学園は中学校の募集を停止し、中等教育学校を共学化する改革を行ったため募集人員を削減、慶應義塾湘南藤沢は慶應義塾横浜初等部から内部進学者が初めて入学するため募集人員を絞ったことで志願者が減少した。


東京の注目校は、東洋大京北と青稜だ。東洋大京北は志願者が前年の倍以上の1,931人。併設の東洋大の積極的な改革が高く評価され大学入試で人気がアップし、中高にも人気が波及した。青稜も48%アップの2,301人が志願。湾岸地区の開発により品川区付近やりんかい線沿線に人口が流入し、志願者が増加しているためだ。


入試回数が増えたことで、志願者を増やした学校もある。巣鴨は46%増の1,461人が志願し、2年連続で高い増加率となった。18年度に入試を2回から3回に増やし、19年度はさらに1日午後に算数1教科入試を追加した。


世田谷学園も1日午後に算数1教科入試を新設し、志願者が41%増加し1,532人になった。午後の1教科なら負担も少ないため、開成などの難関校を午前中に受験し、午後に併願した受験生も多かったようだ。


香蘭女学校は2月2日に午後入試を新設し、738人の志願者を集めた。晃華学園も入試回数を増やし、志願者が250人から492人に増えている。大妻も入試回数を3回から4回に増やし、407人増の2,067人が志願した。


改革を進めた学校にも注目が集まっている。18年度に女子校から共学化した文化学園大杉並は、日本とカナダの高校卒業資格が取れるダブルディプロマコースを卒業した一期生が、難関大や海外名門大への合格実績を挙げたことが評価され、志願者が599人から686人に増加した。中学にもダブルディプロマの準備コースが設置され、さらに人気を呼びそうだ。


19年度に共学化し、校名を武蔵野女子学院から変更した武蔵野大は教育改革への期待が集まり、282人増えて531人が志願した。目黒日本大は大学付属校化により前年の約4.8倍の535人に激増。新しく開校したドルトン東京学園は、661人の志願者を集めた。21年度には芝浦工業大附が共学化する予定だ。


近年は、入試の多様化が進み、19年度は適性検査型、思考力、自己アピール、ピサ型などの入試を行う学校は前年より11校増え、147校*が実施した。英語入試も13校が新設し、125校*が導入した。慶應義塾湘南藤沢は、英検2級から準1級クラスのハイレベルな受験生対象の入試を導入。20年度以降も英語入試が広がりそうだ。

また、算数1教科入試も増えている。男子校だけでなく、普連土学園、山脇学園、品川女子学院、大妻中野などの女子校も実施している。


20年度は、首都圏では小学校卒業者が2,300人増える見込みだ。大学入学共通テストは24年度から新学習指導要領に対応し、より思考力や読解力が試される試験になる。そのため、20年度はさらに私立中高への期待が高まり、志願者が増えると予測される。


20年度は品川翔英(小野学園女子から名称変更予定)、聖ヨゼフ学園が共学化する。啓明学園や湘南白百合学園、田園調布学園が算数1教科入試を新設。入試の多様化も進み、清泉女学院は、総合力を測るAP(アカデミックポテンシャル)入試を、山脇学園は探究サイエンス入試を新設する。中学入試も変化し続けている。しっかりと情報を把握して臨むことが大切だ。

(*のデータは首都圏中学模試センター調べ)