2022年度入試状況から読み解く
私立中学校 2023年度入試予測

2022年度入試状況から読み解く 私立中学校 2023年度入試予測

コロナ下も2年目となった2022年度の中学入試。受験生の総数は「5万人」以上に膨らみ、激戦模様が続いています。急変する社会状況で私立中のニーズが高まり、「中学受験ブーム」は加熱。来春2023年度も全体的に厳しい入試となりそうです。その「動向」を2022年度の結果分析などから探っていきましょう。

私立中への「期待値」が上昇し、受験生総数は「5万人」以上に

“12歳の選択肢”として、首都圏(1都3県)で中学受験がまさにブームとなっています。

1都3県では私立・国立中学校の受験生総数(私立が主体)は、大手塾の推計で2015年度に約4万5500人でした。それが上り調子で増え続け、2020年度に約5万1400人と「5万人」の大台を突破したのです。

2021年度は入試本番の時期がコロナ禍に見舞われながらも、約5万1400人と同数の受験生数になりました。2022年度も1月後半から2月にかけてコロナの感染爆発が起こりましたが、受験生総数は約600人増えて約5万2000人にのぼりました。

コロナ下でもブームは熱いままで、とても多くの小6生が中学入試に臨んでいるのです。私立・国立中の受験率(私立が主体)は2020、2021年度に17.3%、2022年度は17.6%に上がり、「6人に1人以上」の割合が続いています。

昨今、AI(人工知能)などの技術革新が急激でグローバル化の深化もあり、現在の子どもたちが大人に成長した時代は社会構造や職種が大きく変わるとみられています。そうした新時代には、大学入試改革(2021年度より)でも掲げる「思考力・判断力・表現力」が一段と求められるのは必至です。それらの能力を育むのにふさわしく、大学進学への指導もきめ細かな私立の6年一貫教育校のニーズが高まっているのです。

なお、1都3県の私立・国立中の受験生総数に公立中高一貫校の受検者を加えると、中学受験率は2020~2022年度に約22%と推計され、首都圏では「5人に1人以上」が中学入試を受けています。

来春2023年度も、大規模模試の参加状況から、受験生総数が「5万人」以上の激戦入試が続きそうです。気を引きしめて、充分な対策学習を進めていきましょう。

埼玉、千葉などの1月入試 コロナの感染状況で影響は

では、埼玉、千葉県などの「1月入試」から主な学校の受験動向などをみていきます。

埼玉県の私立中入試は1月10日が開始日で、この日からの数日間が“埼玉受験”のメインです。2022年度は、このメインの時期がコロナの感染爆発に至っておらず、そのため特に東京などからの「試し受験」層が前年(2021年度)より増えたところもみられました。

上位レベルで「マンモス入試校」の栄東では、2022年度は入試枠(3回→4回)などが変わり、その合計の受験者は1万147人で、前年に比べ1626人増とかなり増えました。最も大規模入試のA日程(1月10日または11日を選択)では受験者6869人、倍率は1月10日1.4倍、11日1.7倍でした。東大特待合格のみを判定する東大特待Ⅰ(4科または算数1科)は受験者1265人で、倍率は4科2.1倍、算数1科4.3倍に。2023年度は各試験(B日程を除く)の東大特待合格者により、3種クラスのうち最上位の東大選抜クラスを編成します。

かたや開智では、受験者の合計(5回試験)は3354人で、前年に比べ91人増とあまり増えていません。先端1の受験者が1360人と最も多く、この倍率は前年と同じ1.6倍に。合格者全員が最上位のS特待となる先端特待では受験者408人で、倍率も3.1倍→3.0倍とわずかに低下しました。

ほかの難関・上位校では、浦和明の星女子の1回が受験者76人増(1925人→2001人)、ただ合格者も増やしたため、倍率は前年と同じ2.0倍に。淑徳与野の1回は受験者が78人増えましたが、合格者の増員で倍率は2.0倍→1.9倍と若干下がりました。

立教新座の1回(1月25日)は試験日が遅く、コロナの影響を受けて受験者数は2020年度の1800人台から2021、2022年度(1680人→1647人)は少なめに。この3年間の倍率をみると2.4倍→2.2倍→2.0倍と下がり、2022年度は合格レベル(大手模試の結果偏差値)もやや緩和しました。

千葉県の私立中入試(一般)は1月20日に開始されます。2月入試までの間隔が短く、2022年度もコロナ感染を警戒して難関・上位校では東京からの「試し受験」層が減ったところもありました。

そうしたなか、首都圏で最難関レベルの渋谷教育学園幕張の1次は、受験者が前年に比べ136人増(1661人→1797人)と増加に転じました。倍率は2.4倍→2.8倍に上昇しています。

一方、昭和学院秀英の1回は受験者140人減(1289人→1149人)となり、倍率は3.7倍→2.9倍にダウン。「初日」(1月20日)の午後入試は受験者690人(前年681人)、倍率5.2倍と前年並みになりました。東邦大付東邦の前期も受験者は44人減で、倍率2.3倍→2.2倍とわずかに低下しました。

市川の1回でも受験者42人減(2472人→2430人)。男子枠の倍率は前年と同じ2.1倍で、女子枠は2.7倍→2.6倍と若干下がりました。

常磐線の沿線では、芝浦工業大柏は1回の受験者が51人増、2回は66人増。倍率は1回2.1倍→2.2倍と若干上がり、2回は3.0倍→6.1倍に急上昇という結果でした。

2023年度も1月中のコロナの感染状況によっては、埼玉、千葉県の上位校で受験者数や倍率などに「動き」が出る可能性があるとみられます。

なお、2023年度は千葉県に「流通経済大学付属柏中学校」が新設されます(設置認可申請中)。

茨城県では、江戸川学園取手は3コース制の募集で、2022年度は1月には試験を3回実施。受験者は1回で128人減(871人→743人)、2回(適性型含む)は6人減。1、2回とも合格者が絞りこまれ、1回の倍率は前年と同じ1.8倍になり、2回は2.0倍→2.3倍に上昇。新設された「適性型」試験は受験者341人、倍率は4.5倍になりました。

寮がある地方の学校の「首都圏会場入試」も1月の“選択肢”の一つです。2022年度は早稲田佐賀、西大和学園(奈良)、佐久長聖(長野)、不二聖心女子学院(静岡)、盛岡白百合学園(岩手)、函館ラ・サール(北海道)、北嶺(北海道)など約20校が1月に首都圏入試を実施。これらの受験者は合計で約9700人でした。

2月の受験動向をチェック 「厳しさ」の度合いに変化も

東京都、神奈川県の私立中入試は2月1日に開始され、6日ごろにほぼ終了します。コロナ禍の影響で、前年(2021年度)は安全志向がぐっと強まる情勢に。2022年度には上位校志向が回復へ向かいながらも、難関・上位レベルの各校では受験状況に“ばらつき”が出ています。おもな学校の動向などをみていきましょう。なお、文中の「合格レベル」は大手模試の結果偏差値です。

●男子校

2022年度、男子御三家などでは開成の受験者が前年とほぼ同数(1051人→1050人)で、倍率は前年の2.6倍から2.5倍に。麻布は受験者46人増(844人→890人)、倍率2.2倍→2.4倍に。武蔵の受験者は52人増、かたや駒場東邦では68人減(623人→555人)。武蔵の倍率は3.1倍→3.5倍に上がり、駒場東邦は2.2倍→1.9倍と2倍を切りました。武蔵は合格レベルもやや上がり、駒場東邦ではやや下がっています。

神奈川の聖光学院では、1回の受験者は24人増、2回は4人減、倍率は1回2.7倍→2.8倍となり、2回も合格者の絞りこみで4.0倍→4.1倍と若干上昇。一方、栄光学園は受験者91人減で、倍率3.1倍→2.7倍にダウンしました。

ほかの上位進学校はどうでしょうか。受験者が増えたのは、世田谷学園(1次138人増・2次148人増・3次17人増・算数特選207人増)や、暁星(1回74人増・2回50人増)、芝(1回37人増・2回42人増)、海城(1回8人増・2回49人増)、成城(1回2人増・2回49人増・3回36人増)などでした。このなかで、世田谷学園は前年の受験者急減の「反動」が出たとみられます。暁星では1回の倍率が、前年低めの1.7倍から2.8倍へ上昇し合格レベルも上がっています。また同校の2回は6.1倍→12.3倍もの高倍率にアップ。

一方、受験者が減ったところも目立ち、例えば、巣鴨(Ⅰ期34人減・Ⅱ期105人減・Ⅲ期112人減・算数選抜36人減)は、Ⅰ期の倍率が3.8倍→2.8倍とかなり下がり、Ⅱ期(2.8倍→2.1倍)、Ⅲ期(6.6倍→3.6倍)も「緩和」しました。このほか、桐朋、高輪、サレジオ学院、逗子開成なども全回で受験者数がダウン。

難関・上位の大学付属校では、早稲田大高等学院中学部(31人増)、慶應義塾普通部(12人増)などで受験者が増え、立教池袋(1回22人減・2回27人減)などで減少。早稲田大高等学院中学部の倍率は3.0倍→3.3倍と上向きました。

中堅校のなかでは、獨協が前年に続いてかなりの受験者増(1回85人増・2回123人増・3回55人増・4回35人増)になりました。倍率は1、2回3倍台、3回4倍台、4回は7倍台にアップ。

●女子校

2022年度、女子御三家の受験者は女子学院で45人増え(664人→709人)、桜蔭は27人減り(561人→534人)、雙葉は11人減。女子学院の倍率は2.4倍→2.6倍に上がり、桜蔭は2.0倍→1.9倍、雙葉は3.1倍→2.9倍と下向きました。

レベルで御三家と肩を並べる豊島岡女子学園の1回では受験者7人減(1006人→999人)、倍率は2.5倍→2.4倍に。2、3回の受験者は前年とほぼ同数(各1人減)ですが、合格者が絞りこまれ、2回7.2倍→9.9倍、3回7.4倍→10.3倍もの高倍率に上昇。2、3回は「狭き門」傾向が続くでしょう。

ほかの難関・上位校で受験者が増えたのは、吉祥女子(1回35人増・2回80人増)や、頌栄女子学院(1回24人増・2回15人増)、フェリス女学院(21人増)、洗足学園(1回11人増・2回16人増・3回6人増)、学習院女子(A10人増・B24人増)などでした。

このなかで、吉祥女子の倍率は1回2.6倍→2.8倍、2回2.9倍→3.1倍とやや上昇し、1回は合格レベルもやや上がっています。

洗足学園では2022年春の東大合格者数が20人と“躍進”したため、2023年度は人気が高まり、合格レベルも上がるかもしれません。

一方、難関・上位校で受験者が減ったのは、横浜共立学園(A71人減・B16人減)や立教女学院(42人減)のほか、鎌倉女学院、香蘭女学校、日本女子大附、東洋英和女学院など。これらの学校は全回の試験で受験者減少となりました。横浜共立学園では、倍率はA試験1.8倍→1.4倍、B試験3.0倍→2.7倍と低下、合格レベルもやや下がっています。

また、共立女子(2月1日70人減・2月2日92人減・合科型5人増・英語4技能4人増)は、2月1日試験、2日試験が2年連続でかなりの受験者減に。倍率は2020年度に1日、2日試験とも3倍台だったのが、2022年度はともに2.2倍まで下がりました。

中堅校などでは、実践女子学園に“勢い”があり、「2科・4科入試」は受験者が急増(1回111人増・2回111人増・3回156人増・4回151人増・5回58人増・6回114人増)。1~4回の倍率は、前年の2倍前後からそろって3倍台に上がっています。

●共学校

2022年度に、大学付属校でトップレベルの早稲田大系属早稲田実業学校では、男子枠の受験者は21人減(329人→308人)、女子枠は3人減(195人→192人)。倍率は、女子枠では前年と同じ3.9倍。男子枠は定員の削減(85人→約70人)により3.2倍→3.6倍に高まり、合格レベルもやや上がっています。

慶應義塾中等部は、男子枠の受験者は前年と同数(891人)で、女子枠は23人減(395人→372人)。倍率は女子枠では6.4倍→6.2倍と下向き、一方、男子枠は合格者の絞りこみで5.6倍→6.4倍に上がりました。

神奈川では、慶應義塾湘南藤沢の受験者は10人増(471人→481人)。倍率は5.5倍→6.1倍に。

ほかの上位付属校で、受験者が増えたのは中央大附(1回68人増、2回16人増)など。中央大附の倍率は1回3.2倍→3.5倍に上がり、2回は合格者が多めに出され5.8倍→4.6倍にダウン。1回は合格レベルもやや上がっています。

併設大学への内部進学率が低い「進学校的付属校」では、神奈川大附の受験者が急増(1回228人増・2回121人増・3回87人増)しました。倍率は1回で2.2倍→2.8倍に上がり、2回(2.1倍→3.0倍)、3回(6.1倍→7.2倍)もアップ。

上位レベルの付属校では、受験者の減少が目につき、明治大付明治(1回86人減・2回32人減)や青山学院(75人減)のほか、法政大、青山学院横浜英和、成城学園などが全回の試験で減っています。明治大付明治の倍率は1回2.9倍→2.6倍、2回4.5倍→4.0倍に、青山学院では4.3倍→4.0倍に低下。

一方、共学の進学校の中では渋谷教育学園渋谷がトップ校です。同校の受験者は1回57人増(365人→422人)、2回40人増、3回60人増。倍率は1回3.6倍、2回3.1倍、3回8.2倍と全回で高まりました。

前年に新設された広尾学園小石川は人気が続き、新たな「上位校」に。受験者は全回で増え(1回105人増・2回5人増・3回29人増・4回45人増・5回69人増・インターAG5人増)、合格者も絞りこまれ、1回では倍率2.3倍→7.2倍に急上昇。1回以外は全て午後入試で、2回6.9倍、3回9.6倍、4回12.4倍、5回14.8倍、インターAG6.7倍とそろって前年よりも高倍率に。合格レベルも上昇が目立ちました。ただ、難化により2023年度は「敬遠傾向」が出るとも予測されます。

「午後入試」もうまく活用し、2月1、2日で合格確保を

東京、神奈川の2月入試は1日、2日がとくに活発であり、3日以降になると試験を行う学校数や定員が少なくなります。そうした中、最近では1日、2日を中心に「午後入試」を多数の中堅校、上位校の一部などが実施。近年は算数などの1教科入試を午後に導入する学校も増えています。午後を使って併願の幅を広げるパターンは、東京、神奈川の受験生には「当たり前」という現状です。

2022年度は2月1日午後入試の受験者は約2万7000人で、2月1日午前の受験者(約4万2000人)の約64%にのぼっています。また2月2日午後の方も2日午前の受験者の半数以上(約52%)に。

2月1日午後の枠をみると、東京都市大付では受験者が計1119人、山脇学園は836人、東京農業大第一は831人、広尾学園は計799人集まりました。

ここ数年は、午後入試もうまく活用し、2月1日、2日の「前半戦」で合格を確保する重要性がより高まっています。受験生の総数が「5万人」以上に膨らんで、3日以降の試験は全体的に厳しくなっているからです。

2022年度は、2月1日(午前)の平均倍率は約2.1倍で、2日(同)は約2.4倍、それが3日(同)には約3.5倍に。3日以降の「後半戦」では倍率6倍~10倍以上の「超激戦校」もみられます。このように、2月3日以降は“危険”もあるため、1日、2日、あるいは1月中に合格を取れるように適切な併願校を選択することが必要になります。

また、2月2日までの合否の結果によっては、3日以降にどの学校を受けるか、「後半戦」の受験パターンも事前によく考えておきましょう。

2023年度のおもな変更点は 「新タイプ入試」利用も一策

2023年度入試のおもな変更点などを挙げましょう。東京女子学園は中学・高校とも共学化し、中学募集のみの目黒星美学園(女子校)も共学に変わり、それぞれ校名を「芝国際」(予定)、「サレジアン国際学園世田谷」に変更します。

横浜雙葉は、定員を100人→90人に削減。このため、倍率が上がるとみられます。

東京都市大付では、2月1日(午前)の試験を新設。2日は試験を行わず、これまでの4日、6日試験を3日、5日に前倒しして、グローバル入試(英語・算数・作文)は2日から3日に移します。1日の午後入試は日程に変更はありません。

洗足学園では2月1日、2日の試験がともに2科・4科選択から4科のみに変わり、全回(3回)が4科入試に。東洋大京北は2科・4科選択だった2月1日(午前)、2日、4日の枠に限り4科入試に切り換えます。

日本大豊山女子、聖セシリア女子では2月1日午後に算数のみの1教科入試を導入。

最近は、英語を取り入れた入試方式(2022年度は約140校)や、公立一貫校の出題形式に合わせた「適性検査」型の試験を多くの学校が取り入れています。ほかに「思考力型」や、「教科総合型」「プレゼンテーション型(自己アピール)」「プログラミング」など多様な試験を行う学校もあります。これらの「新タイプ入試」を受験プランの“選択肢”として検討するのもよいでしょう。