いくつもの困難を乗り越えて、世界最高峰のソーラーカーの大会で第8位の大健闘! –常にチャレンジ精神で進み続ける工学院大学ソーラーチーム

大学改革
いくつもの困難を乗り越えて、世界最高峰のソーラーカーの大会で第8位の大健闘! –常にチャレンジ精神で進み続ける工学院大学ソーラーチーム

去る12月12日、工学院大学新宿キャンパスで「工学院大学ソーラーチーム世界大会報告会」が開かれた。この報告会は、同大の学生有志による工学院大学ソーラーチームが主催。10月22日から29日にかけてオーストラリアで開催された世界最高峰のソーラーカーレース「2023 Bridgestone World Solar Challenge(BWSC)」で、同チームが世界第8位の成績を収めたことを、サポート企業や関係者に感謝とともに報告した。

想定外の困難に次々と見舞われながらも常に前向きに走り続けたチームの軌跡と、学生たちの成長を紹介したい。

世界最高峰のソーラーカーレースに、新たな技術で挑み続ける学生たち

BWSCは太陽光を動力源として、オーストラリア大陸の北部ダーウィンから南部アデレードまでの3022kmを、約5日間かけて走破するソーラーカーレースだ。1987年に始まった歴史あるソーラーカーレースで、世界各国から大学生を含む多くの若きエンジニアが集まり、競い合う。

この大会に2013年から挑み続けるのが、工学院大学ソーラーチームだ。同大学の学生グループによる創造活動である学生プロジェクトのうちの1団体で、八王子キャンパスを拠点に、各学科の1年生から大学院修士2年生まで約80名が車両設計・製作はもちろん、マネジメントや広報までを自らこなす。産学連携のバックアップを受け、研究開発から、レース参加までを通してクリーンエネルギー分野の技術開発と社会実装に取り組んでいる。

同チームは、これまで2015年にクルーザークラス(実用性を競う部門)で準優勝、2019年にチャレンジャークラス(速さを競う部門)で5位入賞の実績があり、2019年には技術賞にあたる「テクニカルイノベーションアワード」も受賞した。

コロナ禍により4年ぶり5回目の参加となった今回の大会には、7月にお披露目された新車両「Koga(コーガ)」でチャレンジャークラスに出場。30を超える企業の協力で生まれた「Koga」は、前輪1輪、後輪2輪の計3輪の単胴型を採用。世界初となる地面から支えるサスペンションとフレーム技術などを採用し、空力性能の向上やドライバーの搭乗スペースの拡大、低重心化を目指す、オリジナリティ溢れる先駆的な車体となっている。

度重なる車両輸送トラブルを乗り越えたチーム力

報告会には、学生リーダーで工学部機械システム工学科3年生の中川立土さんと機械班で同学科4年生のKENJI GUTIERREZ JIMENEZさん、同大機械システム工学科教授の濱根洋人教授が登壇したほか、多くのチームメンバーもかたわらで見守った。

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最初に中川さんが「今回は世界8位という結果になった。トラブルがあったけれどチームは諦めず世界大会という舞台で成長できた」と大会の結果を報告した。

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写真=中川さん


これまで同チームの監督を務めて濱根教授は、今大会での監督引退を発表。協力企業や団体へのお礼と、学生に向けて「死に物狂いでやって失敗しても、そこで人間的に成長する。どんなに失敗しても若者はまたチャレンジする機会がある」「学生のみなさん、今回はいろいろな困難に挑戦してくれてありがとう」というエールと感謝を送った。

以降、中川さんとKENJIさんが中心となって大会について報告した。

今回大会では工学院大学ソーラーチームは何度も、大会辞退の危機に直面。学生や大学関係者、支援者が必死の工夫と努力で乗り切っていた。

まず「Koga」をオーストラリアに運ぶ自動車船が急遽運航停止となり、コンテナ船を使った輸送へと切り替える事態となった。しかし、手配したコンテナ船もキャンセルとなり、別ルートのコンテナ船を探しだし、ぎりぎりの日程で輸出することになった。

当初、コンテナ船はレースのゴール地点であるアデレードに到着するため、そこからスタート地点のダーウィンまで約3000kmを運ぶ予定であったが、現地でトラブルがあり、到着地はアデレードよりもさらに1000キロメートル離れたメルボルンとなり、検疫の遅延で受け取りまで2週間以上が経過。現地で少しでも早く車両を受け取るために、コーディネーターがメルボルンの業者と連日交渉を重ねた。

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大会開始10日前の10月12日夕方に「Koga」を受け取ると、ドライバーを交代しながら昼夜連続でトラックを運転し、メルボルンからダーウィンまでの約4000kmを2日半で縦断した。

「Koga」到着後は、車検に向けて学生はチームごとに24時間体制で車両の整備やレース準備に奔走。技術スタッフがホテルの駐車場と倉庫を借りて整備を続ける一方、マネジメントスタッフがサポートカーの手配やレース中の砂漠でのキャンプに必要な食料や生活用品の買い出しを行った。

大会関係者に相談し、最終日に移動したもらった車検だが、そこでも思いがけない事態が発生した。「Koga」のチャレンジングな機構の一つである、後輪が移動して長さが変わるホイールベースが物議をかもし、短い状態と長い状態での2回の車検と予選を課されてしまったのだ。2日間で車検と予選を終えることができたが、2回の平均タイムがスタート順位に採用された結果、最速タイムは5位だったが、11位からのスタートとなった。

レース1日目から太陽光電池に不具合を抱えつつ、前向きに完走を目指す

10月22日、本戦開始。度重なる輸送トラブルや車検を乗り越え、無事にレースのスタートを切ることができた「Koga」。しかし、初日走行中からバッテリ残量が急激に減るため、予定していた時速90kmよりも減速することを余儀なくされる。原因は太陽光電池の発電不良で、設置の4㎡のうち2㎡しか発電できていないことが判明した。

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連日、レース終了後の時間帯に、回路の交換や熱対策ファンの設置、太陽電池の清掃のなどできる限りの手を尽くすも改善は見られなかった。メンバーで話し合い、とにかく完走を目指すことを確認。大会規定である平均時速60km以下になると失格となってしまうため、2日目から4日目はバッテリ残量を見極めつつぎりぎりのペースでの走行を続けた。

幸いなことに、ゴールのアデレードに向けて南下することによって気温が下がり、また天気が回復して日照量が増えたことで発電効率がよくなり、5日目は速度を上げることが可能に。最終日となる6日目も走り続け、15時、ついにアデレードでゴールを果たした。

4年ぶりの世界大会の参加で得たものを、次の挑戦へ繋げていく

さまざまなトラブルにより、前回大会から目標としていた優勝を手にすることはできなかったものの、報告会に参加した学生たちの表情には悔しさよりも清々しさがうかがえた。

「過酷な環境の中で最先端技術を試し、エンジニアリングを楽しむことができました。日本からの声援は心強かったです。予定通りに進まないことや現地での対応の難しさを感じ、何度もレース辞退の危機に直面しました。けれど、結果的にオーストラリア国内を1万km以上駆け回り、プロジェクトを完遂させることができました。機会があればまた挑戦してみたいです」と中川さんは大会を振り返り、チームの成果に胸を張る。

いくつもの困難を乗り越えて、世界最高峰のソーラーカーの大会で第8位の大健闘! --常にチャレンジ精神で進み続ける工学院大学ソーラーチーム

「船便で車両が帰ってきたら、今回のトラブルの原因を追求したいです。そこまでがレースだと思っています」(中川さん)

KENJIさんは「また海外の大会に挑戦したい」と意気込む。「今回は機械班として技術以外にもロジスティックなことを勉強することができました、反省点をまとめて、二度とミスのないように改善していきたいです」(KENJIさん)

学生インタビュー

報告会の終了後、今大会に参加したチームメンバーから、大学院情報学専攻修士1年生の守屋響さん、工学部機械システム工学科3年生の四宮穂香さん、同3年生の正山博基さんの3名に、大会を終えての感想や産学連携で取り組む学生プロジェクトの意義について話を聞いた。

工学院大学ソーラーチームとの出会い

―まずみなさんそれぞれが今回のレースで果たした役割を教えてください。

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守屋:私は、大会ではドライバーを務めました。車を作る時は、ステアリングとパネルを開く部分などを担当しました。

四宮:私は、キャノピーというドライバーが乗車する部分の開閉の設計を担当しました。

正山:車の製作では正面のライトとウィンカーやブレーキランプなどの電気系統を担当しました。大会中はメディア担当を務めました。

―ソーラーカープロジェクトに参加したきっかけはなんですか?

守屋:私は工学院大学附属高等学校の出身なので、大学入学前から学生プロジェクトという取り組みがあることを知っていて、入学したらぜひ何かやってみようと考えていました。鳥人間や学生フォーミュラのプロジェクトにも興味があったのですが、ちょうど入学時が2019年で前回のBWSC参加でソーラーチームが盛り上がっていて楽しそうだったので、ソーラーチームに参加しました。

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写真=守屋さん

四宮:学生プロジェクトはほとんどの人は1年生から参加するのですが、私は友達に誘われたことをきっかけに2年生から入りました。もとは車にもソーラーカーにも興味がなかったのですが、参加してみたらとにかくものづくりが面白くてすっかりのめり込んでしまいました。先輩の教え方もわかりやすく、聞けば深くまで掘り下げてくれるのもよかったです。とにかく自分の手でものをつくる楽しさに夢中になりました。

正山:私は、新入生歓迎会の発表でオーストラリア大会参加の話などを聞いて興味を持ちました。もともと車が好きだったので、ソーラーカーを運転してみたいと思ったのが大きいですね。入ってみたら、自分でオリジナルなものをつくることにもはまりました。まだドライバーは担当していないので、次回はドライバーで大会に参加したいと思っています。

守屋:ソーラーカーの場合、乗車部分のスペースが小さいので、ドライバーは小柄で体がやわらかい人という条件があるんですよね。だから、「Koga」は乗車スペースの問題にも取り組んで、少し広くとれるように設計されています。

とは言ってもドライバーはかなりハード。時速60km以上で約5時間、休憩なく運転することができる体力や集中力が必要なので、ドライバーを目指すならそのあたりもがんばってください。

常に前向きでポジティブなマインドが困難を乗り越える原動力

―今回大会は、車両輸送の段階からトラブルの連続で、さらにレースが始まってからも太陽電池の不具合などがありました。大会辞退の危機に何度も直面しながらも、乗り越えられたのはなぜですか?

四宮:このチームだからこそ、ですね。なにがあっても乗り越えられる、とりあえず進もうと常に前向きに考えるチームなので。

いくつもの困難を乗り越えて、世界最高峰のソーラーカーの大会で第8位の大健闘! --常にチャレンジ精神で進み続ける工学院大学ソーラーチーム
写真=四宮さん

守屋:私は先発隊としてメルボルンで車の到着を待っている立場でした。とりあえず、大変なことは起こっていると認識しつつも、「きっと間に合うだろう」という楽観的に構えていました。車両がぎりぎりまで届かないことはもちろん整備やテストができないという問題はあるんですが、他のチームに「Koga」の情報を探られないというメリットもあるぞ、というくらいのポジティブな考え方を大事にしていましたね。

正山:私は後発隊だったので、万一出場辞退で後発隊は現地に行けないなんてことになったらどうしようという心配はありました。ただ、チームとして「もし出場辞退になったとしても、見学のために参加した方が学生の勉強になる」というスタンスだったので、それは嬉しかったです。お金がもったいないではなくて、現地で得られる学生の経験の方を重視してくれるんだなって。

四宮:トラブルがあっても、とにかく大会に出場できたという経験やここまでやってきたことは変わらないので、もう楽しめばいいやという気持ちでしたね。

貴重な経験を後輩につないでいくことの大切さ

―今回大会で、それぞれの立場で大事にしていたことはなんですか?

四宮:安全に完走することが目標の一つです。私が設計を担当していたキャノピーというのはドライバーが乗っているコックピット部分でしたから、衝突事故などでドライバーが危険な目にあわないようにということに心を砕いていました。

守屋:優勝を狙っていたのでもちろん勝つことは大事です。けれど、一度の参加でレースに優勝するのはすごく難しい。一度参加して、その経験を振り返って、こうしたらいいということを見つけていくんです。海外などたくさんの敵チームの車やレース運びなどを見て、しっかりと学ぶこと。今回はコロナ禍で4年ぶりの世界大会でしたから、ほとんどのメンバーが初参加です。大会の参加で得られたものはすごく大きいと思います。

自分が優勝できればもちろん嬉しいですが、私たちのソーラーカーはチャレンジングな機構が多いので、一度レースに参加したことで、次からもっとできることが増えたんじゃないかと思います。

正山:一番大事なのは優勝することですが、それがかなわなくても完走することはとても大事なことだと思います。今回の大会では46チーム参加があって、完走できたのは10数チームほど。8位という順位だけ取り出すと振るわないように感じるかもしれませんが、もっと誇っていいことだと思います。走れなくなるような故障も、電気を使いすぎて平均速度が規定以下になってリタイヤすることもなかったんですからね。

いくつもの困難を乗り越えて、世界最高峰のソーラーカーの大会で第8位の大健闘! --常にチャレンジ精神で進み続ける工学院大学ソーラーチーム
写真=正山さん

―大会を通して自分が一番成長できたことを教えてください。

守屋:一から作って完成させることができた経験ですね。私がプロジェクトに参加した翌年からコロナ禍で大学に来られなくなりました。2020年段階では2021年の大会に参加する予定だったので、それに向けてオンラインで設計を進めたりしていました。それが結果的に、今回の大会にもつながりましたね。

四宮:私は大学に入るまで何かを最後までやり遂げた経験がありませんでした。だから、設計から加工、組み立てまでやり遂げた達成感は、自分を成長させてくれたと思います。授業でももちろんネジをつくったりすることはあるんですが、自分でいちから考えたものを作ることはなかなかなくて。ソーラーカーづくりは授業とは別次元の経験だと思います。

正山:CADなど図面でみていたものを実物のかたちにしていくおもしろさをすごく感じました。ソーラーカーはいろいろな分野の技術の結集です。私は機械システム工学科ですが、ちょうどチームに電気系の学生がいなかったので、自ら手を挙げてライトなどの製作を担当しました。自分の専門外のことにも挑戦できるのも、いい経験になったと思います。

学生の強みと企業の強みが結びつく産学連携の化学反応

―産学連携の取り組みを通して、どんなことを学びましたか?

守屋:企業の方に、パーツの加工をしてもらうことがあったのですが、最初こちらが出した設計図に対して、「ここはこうしないとうまくいかない」というような具体的な指摘をしていただきました。それをフィードバックして、設計図を書き直して再度依頼をして、無事加工に至りました。このように、企業の方とのやり取りを通して精度を上げてものづくりを行う難しさを学びました。

四宮:ソーラーカーづくりを通して、企業の方と関わると、すごく自分の仕事に誇りをもってやっていらっしゃるなと感じる瞬間が多々ありました。私もそんなふうに仕事に向き合っていきたいと、自分の中のキャリア意識が高まりました。

正山:企業の方とお話しをしていると、企業としてのものづくりは利益とか作業効率も考えないといけないんだなということに気づきました。私たちがやっているソーラーカーづくりは、そのあたりはあまり考えずに、とにかく挑戦しているんだなと実感しました。ただ、チャレンジングだからゆえに関心を持ってもらえることもあります。例えば今回、タイヤの機構にレールを使っているので、レールを取り扱っている企業さんに購入の問い合わせをしたのですが、車に使うというと「初めて聞いた」と驚かれて、学生ならではのアイデアをおもしろがってくれましたし、そういうところから何か新しいものが生まれると思いました。

―最後に、高校生の方に向けて、工学院大学のよさを教えてください。

守屋:いろいろなことをチャレンジさせてくれる大学です。学生プロジェクトだけでなく部活もとても盛んです。特に学生プロジェクトは個別に予算もつきますし、今あるプロジェクトだけでなく、自分がやりたいものを新たに立ち上げることもできます。授業で学んだことを、社会に向けて実践できる環境が整っているのはすごく大きな魅力だと思います。

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正山:学生プロジェクトはやりたいことを自由に試せる場所です。利益や効率を考えずにやりたいことに挑戦できる機会はそうそうありません。大学ってそういうことを思い切りできる場所だと思います。また、学生プロジェクトは企業の方とつながる機会もたくさんあります。現役エンジニアの方は学生とは桁違いの経験値があって、学生のうちにそうした方とお話しができるのもすごくよかったです。

四宮:私は最初車やソーラーカーに興味がありませんでしたが、それはよく知らなかったからなんですよね。飛び込んでみて初めてそのおもしろさがわかりました。いろいろなことに挑戦できる工学院大学で、なんでもたくさん経験して、自分の世界を広げてください。