【探究学習に力を入れている女子校1位】「知りたい」ことを自らの手で突き詰めていく山脇学園の探究学習―山脇学園中学校・高等学校
平和で持続可能な社会の実現に向けて、高い志と能力を持った女性の育成に力を入れる山脇学園中学校・高等学校。今年度の学習塾の塾長・教室長が選ぶ中高一貫校ランキングでは、「校舎など施設、設備が充実している」で2位(女子校1位)と昨年に引き続き高い評価を得た。また、「探究学習に力を入れている」6位(女子校1位)、「グローバル教育に力を入れている」9位(女子校1位)などの項目で上位にランクインした。
今回の取材では、「探究学習」、「グローバル教育」に加え「理数教育」をキーワードにした、同校の特色ある教育について、前後編に分けて紹介する。前編では中学校の探究学習「チャレンジプログラム」について、中学3学年部長の岩永洋輔先生と中学3年生の生徒3名に、後編では高校の「サイエンスコース」について、サイエンス教育部の大西一成先生と高校2年生の生徒2名にお話を聞いた。
【中学】生徒の興味・関心に合わせた3つのチャレンジプログラム
-中学3年生で取り組まれているチャレンジプログラムについて、概要を教えてください。
写真=中学3学年部長の岩永洋輔先生
岩永:チャレンジプログラムは、高校から始まる探究学習に備えるため、中高一貫のメリットを活かし、中学生のうちに探究学習のプロセスを身につけることを目的としています。
生徒はまず自分の研究テーマを設定します。自然科学をテーマにした「科学研究チャレンジ」、英語をツールにさまざまなテーマに取り組む「英語チャレンジ」、自由なテーマの深掘りをする「マイチャレンジ」の3つのプログラムに分かれ、このプログラムに合わせて中3のクラスも編成されます。
科学研究チャレンジプログラムは、テクノロジー領域とサイエンス領域のグループ活動と、夏休みの個人研究、屋久島での観察をテーマにした研修を行います。
英語チャレンジプログラムは、Advanced ClassとIntermediate Classとに分かれています。5月に各クラスともに世界共通教育という世界をさまざまな角度から見直す学習を行ったあと、留学生との交流活動を行います。その後、Advanced Classはオキナワインターナショナルスクール(OIS)で国際バカロレア(IB)特別コースに参加、Intermediate Classはイギリスで世界各国の留学生が集まる全寮制学校に通い英語を学ぶとともに多様な国籍の人たちとのコミュニケーションを通じて異文化を体験します。
マイチャレンジプログラムは、5月の京都・奈良への修学旅行での自主研修で、小さな探究テーマを設定し、調査・研究、発表というサイクルを一度経験し、そのうえで「マイテーマ」への探究活動に取り組みます。
すべてのプログラムで、9月に文化祭「山脇祭」での中間発表と年度末の最終発表があり、英語チャレンジプログラムはさらに英語のエッセイとしてまとめます。
-プログラムごとに研修旅行をはじめとする、取り組み内容もかなり異なっているのですね。
岩永:もともとこのプログラムは2013年度に協働力の醸成のために始まったもので、当初は科学研究チャレンジと英語チャレンジの2つのプログラムに分かれていました。研修旅行では、科学研究チャレンジは沖縄の西表島での野生生物調査、英語チャレンジはイギリスで日々の英語学習の成果を試すという内容で行なっていました。その後、科学と英語以外の自由なテーマが設定できるマイチャレンジが加わり、プログラムの内容も随時ブラッシュアップを続けています。
オーディエンスに影響を与えるような、魅力的な発表を目指す
-プログラムを通して、生徒たちにはどのような成長を期待しますか?
岩永:全てのプログラムで身につけて欲しいのは自己表現力です。それ以外の目標はプログラムごとにやや異なっています。
マイチャレンジプログラムでは、フィールドワークを通した実践力と協働力をよりしっかりと学んでほしいと考えています。グループで何かに取り組むことは難しいですが、一人ではできないことがたくさんあります。例えば人前での発表は緊張しますが、オーディエンスがいるから発表が成立します。そういった一つ一つのことを体験していってほしいですね。
科学研究チャレンジプログラムでは、フィールドワークを通して、観察力や分析力など、高校でのサイエンスコースにつながるサイエンスの基礎力を身につけてほしいと思っています。
英語チャレンジプログラムはクラスによって別々の研修になります。イギリス研修では異文化理解が一番です。夏のヨーロッパにはさまざまな国の人が語学習得のために集まります。異なる価値観の人たちの中で自分をどのように表現するかを模索してほしいですね。沖縄研修ではOISでのIBコースという、非常にハイレベルなプログラムに挑戦します。オールイングリッシュの授業で教科を横断する学びに取り組むのは非常に難しいと思いますが、その大変さを乗り越えて楽しんでほしいと思います。
すべてのプログラムにおいて最終的に辿り着いてほしいのは、探究学習の成果を発表することで聴いた人に変化をもたらすことです。発表は、多くの人の前で自由に意見を言える機会です。自分がうまくしゃべれたら終わりではなく、オーディエンスに影響を与えるような発表のスキルを身につけること。中学のうちから発表を繰り返すことで、オーディエンスにとって魅力的な発表を目指してほしいですね。
写真=中間発表
-チャレンジプログラムは、積極性や粘り強さなどの非認知スキルの向上にも役立っていますか?
岩永:チャレンジプログラムの目標の一つがまさにそうした非認知スキルの向上です。非認知スキルはテストの点数や偏差値では測れない内面的な力と言われていますが、非認知スキルの向上が学力の向上につながるというエビデンスはありますし、将来の社会で活躍するために欠かせない能力です。
今年から非認知スキルの評価を全校的に取り入れています。今年の中3は、創造性、論理的思考力、疑う力、解決意向、課題設定などの項目で、高い数値が出ています。評価は年3回行う予定で、年間を通しての個人のデータ比較はまだなので、今後どのようなデータが出るのかが楽しみです。
-これらのプログラムを今後どのように発展させていきたいですか?
岩永:どのプログラムでも、生徒が最も苦労するのは探究テーマの設定です。いきなり「仮説を立ててください」と言ってもわからないのは当然なので、プログラムの前段となる中1、中2の授業などを活用して下地をつくり、仮説を立てることに慣れていけるといいと思っています。たとえば、「日本の人口が減っているのはなぜ?」というのは、単なる疑問で探究テーマにはなりません。また、「日本の人口が減っているのは、少子化が関係している」というのは、仮説の設定にはなっていますが、調べればすぐにわかることなので、探究テーマにはなり得ません。現状でも、苦労のすえ最終的には生徒たちはみなテーマ設定ができているので、中3までに仮説を立てる練習をしておくと時間短縮になり、チャレンジプログラムで取り組むテーマもより深いものにできるのではないかと期待しています。
《中3生徒インタビュー》
写真=右からTさん(英語チャレンジプログラム)、Kさん(科学研究チャレンジプログラム)、Yさん(マイチャレンジプログラム)、岩永先生
-最初にみなさんの取り組んでいる探究活動について教えてください。
Y:私は「青春と出世の因果関係」をテーマにしています。学生時代などに多くの仲間と青春を謳歌した人はコミュニケーション力が培われ、それが将来の仕事を成功に導くのではないかという仮説を立てています。
T:私は、日本の子どもは同年代のアメリカ人の子どもに比べて精神年齢が低いのではないかという仮説に基づく、国別の子どもの精神年齢の比較をテーマにしています。私は幼稚園のころ3年間、アメリカで過ごした経験があるのですが、日本に帰国した時に小学校の子どもたちとの間に違和感があり、それはなんだろうかとずっと考えていました。中学入学を機に、探究してみようと考えました。
K:私は、彩雲という色のついた雲がきれいに見える条件について調べました。もともと写真を撮ることが好きで、たまたま旅行中にきれいな雲を撮影することができたことがきっかけで、彩雲のことを知り、どんな雲が彩雲になるのか、また、どのような気象条件の時に彩雲がよく見えるのかを知りたいと思ったためです。
実験では、自分で撮影した雲の写真を記録し、気象庁の気象データを合わせて、最適な条件を探しました。私の場合は、これを夏休みの課題にしたので既に結果も出ています。
彩雲の研究が一旦終わったため、今後は、高校からの研究活動に向けて、新たに災害に関する気象データと災害救助ロボットを関連づけて、災害時に役立つような研究ができないかと考えています。この研究は、同じクラスでロボットを探究テーマに取り組んでいた友達と共同で進めて行く予定です。
-苦労したことや工夫したことはありますか?
Y:青春と出世という独自のテーマなので、インターネットで調べても類似研究がないため、1つ1つデータを集める必要が生じました。そこで、文化祭や学校説明会に参加し、保護者の方にアンケートを配って回答を集めました。しかし、なかなか必要数が集まらないため、同学年の生徒の保護者に協力してもらうために、ネット上にアンケートフォームを設置して、回答を募っています。
文化祭の中間発表では、テーマの設定や仮説あたりまでしか発表ができなかったのですが、その場で回答いただいたアンケートに「おもしろい研究ですね」という一言があり、ものすごくやる気がわきました。
T:私も仮説を立証するためのエビデンスをどう集めればいいのかに悩んでいます。インターネットで調べても精神年齢に関する研究はもともとあまり多くなく、その中でも子どもを対象にしたものはほとんどありませんでした。今は、調査方法に試行錯誤しています。
K:私は研究を始める際に、彩雲についてまったく知識がありませんでした。調べてみると彩雲の研究をしていて、雲に関する本も書かれている気象庁の先生がいたので、アポを取って研究室にうかがってお話しを聞きました。初めてメールを送る際には少し緊張しましたが、好きなことのためにできることはなんでもやりたいと思っていたので、躊躇はしませんでした。
自分で調べるだけでは限界があるので、専門家の方から直接お話を聞くことができれば多くのことを吸収することができます。また、学校の先生や友達とはまったく違って視点からアドバイスをもらえるので、今後も、積極的に外部の方の協力をお願いしていければと思っています。
-プログラムに取り組むことで、成長できたと思えることはありますか?
Y:小学校では人前での発表経験がなかったのですが、チャレンジプログラムでは、その機会が多くあります。発表を通して、原稿づくりや見やすい資料づくりがうまくできるようになったと思います。
また、中間発表などでほかのクラスの発表を見ると、自分では考えたこともなかったテーマがあり刺激を受けました。
T:英語チャレンジクラスは普段から発表の機会が多くあるため、自分の意見を積極的に伝えることができるようになりました。自分の好きなことを研究するのがこんなに楽しいということに気づいたことも成長だと思います。
K:屋久島と種子島での研修では、研究の一環として鹿児島大学の見学と授業体験をすることができました。また、発表の際にも、大学の先生が聞きに来られてアドバイスもいただきました。大学の先生の前で発表するので、最初はうろたえてしまいましたが、一度発表してしまえば一気に度胸がついた気がします。
-最後に山脇学園の好きな点を教えてください。
Y:学校がきれいで設備が整っていることです。サイエンスアイランドやイングリッシュアイランド、カフェテリア、ラーニングフォレストなど、生徒のための施設や設備が充実しているのはうれしいです。
先生には厳しい先生も優しい先生もいますが、どの先生も生徒のことを真剣に考えてくれていることがよくわかります。叱ることがあっても、理由をしっかりと説明してくれるので、私たちも納得できます。
T:私は英語チャレンジプログラムのAdvanced Classで英語を存分に学べることが一番好きな点です。先生とも友達とも英語で話す機会が毎日あります。校内の施設では、イギリスの街並みを再現したイングリッシュアイランドが大好きで、放課後、先生とおしゃべりをしたり、ゲームをしたりするのも楽しいです。
ほかに礼法やお琴、習字、華道といった、日本の伝統文化を学べることも他校にはないよさだと思います。
K:山脇に入学する前は、自分の好きなことを自分で研究する環境がありませんでした。科学研究チャレンジプログラムの先生は、なんでも驚くほど自由にやらせてくれるので、今、自分がしたいことがのびのびとできています。チャレンジを通して、自分の可能性や将来が少し見えてきたように思います。