面倒見が良い大学とはどのような大学か

大学選び入門 松本 陽一
面倒見が良い大学とはどのような大学か

写真=金沢工業大学のPBL


大学通信では毎年全国2000高校の進路指導教諭を対象に、大学に対するイメージ調査を行っている。その中の質問項目の一つが「面倒見が良い大学を教えてください」だ。

面倒見が良い大学ランキング2021(全国編)はこちら

2021年度は金沢工業大学、武蔵大学、東北大学・・・といった大学がランクインした。実はこのランキング、評価を好意的に受け止めてくれる大学がある一方で、懐疑的な大学も多い。理由は「面倒見」の意味の受け取り方にポジティブ・ネガティブ両面があるからだ。

面倒見と言うと何か「手取り足取り」と言った、「学生に転ばぬ先の杖を用意してくれる」イメージがある。大学は学生が社会人になる一歩手前の教育機関だ。面倒見が学生の自立を妨げるのではないかと言う考えから、ランクインした大学には、素直に喜ばれないことがある。

では、進路指導教諭はどのような理由で「面倒見が良い大学」の票を投じているのだろうか。高校の先生は生徒の自立を願っているはずれあり、「学生に手取り足取り手を掛けてくれる」という理由だけで投票しているとは考えづらい。そこで、高校の進路指導教諭が考える「面倒見の良さ」とは何かを探るために、データ分析と各大学への取材を行った。

見えてきた「高校卒業後の成長」というキーワード

面倒見が良い大学とはどのような大学か
「面倒見が良い大学と他項目との相関係数」(2021年度 大学通信調べ)


高校進路指導教諭対象のイメージ調査では「面倒見が良い大学」だけでなく、「小規模だが評価できる大学」や「教育力が高い大学」など様々な項目を調査している。そこで、面倒見が良い大学と他項目とのポイント数における相関関係を求めてみた。表にある相関係数の値が1に近いほど、項目との相関が強いことになる。結果、一番相関が強かったのが「入学後、生徒を伸ばしてくれる大学」だった。他項目と比較しても相関の強さがうかがえる。「入学後、生徒を伸ばしてくれる」つまり、学生を成長させる仕組みに、「面倒見が良い大学」の評価ポイントを探るヒントが隠れているのではないかと考えた。

では、ランキング上位の大学はどのように学生を成長させているのか。ランキング上位の大学から3大学をピックアップして取材した。

事例1 金沢工業大学

金沢工業大学は面倒見が良い大学17年連続全国1位。この評価は不動のものに見える。これだけの評価を得るに至った原点は、1995年からはじまった教育改革にある。法人本部企画部広報課の山川亮太郎さんはこう語る。

「改革に当たり、当時の教職員がアメリカの大学を視察しました。複数の視察先で異口同音に言われたことは『研究だけでなく学生の教育にこそ力を入れている』ということでした」。

このことがきっかけとなり、同大では学生の教育環境の整備に本腰を入れる。そこで最優先の取り組みとなったのがPBL(プロジェクト・ベースド・ラーニング)の導入だった。今でこそ、さまざまな大学でよく聞かれるようになったPBLだが、ここではすでに25年以上の歴史がある。現在では「プロジェクトデザイン」という科目の中で1、2年生全員がPBLに取り組んでいる。さらに、「KITオナーズプロジェクト」という、正課外のプロジェクト活動も数多く実施されている。これもPBLの一環という位置づけだ。

PBLの重要性について山川さんは説明する。「本学の学生は日常的に勉強することが当たり前になっています。定期考査だけでなく、普段の授業における課題や小テストにも成績の比重を大きくしていますから、普段から手が抜けないのです。ただし、勉強が単に義務になってしまっては、モチベーションがあがりません。そこで、大きな役割となっているのがPBLです。PBLを通して、獲得した知識がどのように実装されているかに気づく。気づくことで、授業を通じて勉強することの大切さを実感する。こうして授業とプロジェクトが循環することにより、学びのモチベーションが向上し、学生は学びの面白さを感じながら成長するのです」。

金沢工業大学の長年の教育成果は、海を越えて認められ、ベトナムの越日工業大学では、金沢工業大学の「プロジェクトデザイン」のカリキュラムが取り入れられている。さらに、質の高い工学教育を提供する教育機関の世界的な枠組みであるCDIO※にも加盟が認められた。


「大学教育を考えるときに一番大切にしていることは『学生のためにどうあるべきか』です。学生が『こういうことがやりたい』と成長意欲を示した時に、それができる環境を用意することが私たちの役割です」(山川さん)。


※CDIOとは、Conceive(考え出す)、Design(設計する)、Implement(実行する)、Operate(操作・運用する)の略で、工学教育の改革を目的として開発された考え方。

事例2 武蔵大学

面倒見が良い大学とはどのような大学か

武蔵大学のラーニングコモンズ


2位の武蔵大学には、「ゼミの武蔵」というキャッチフレーズがある。開学以来ゼミを重視し、1年次から4年次までゼミが必修となっている。徹底した少人数教育を伝統的に行ってきた同大が、今年立ち上げたのが国際教養学部だ。同学部には、経済経営学とグローバルスタディーズの2専攻があり、経済経営学専攻はもともと経済学部の中にあったロンドン大学と武蔵大学のパラレル・ディグリー・プログラムを移行したものだ。ロンドン大学と冠が付いていることからも分かるように、武蔵大学とロンドン大学の2学位取得を目指すカリキュラムだ。そのハードルは非常に高く、英語で経済経営学の授業を理解し、ロンドン大学が設定した学位取得基準をクリアしなければならない。数学の知識も経済学を学ぶ上では必須だ。

プログラム開始以降、修了した学生は年々増えており、直近の3期生の学位取得者は10名。1期生の2名を大きく上回った。新校舎に作られたラーニングコモンズの自習スペースには、日曜日に大学に来て勉強する学生の姿を見ることができる。聞けば、休日でも部屋を開けて欲しいと学生の方から志願してきたのだという。

本年度就任した高橋徳行学長はこう語る。「学生には日々の努力が求められます。入試の成績も大切ですが、なにより大事なのは、入学後もコツコツと学問を積み上げていく姿勢です。それが最終的には、ロンドン大学の学位取得という大きな成長につながります」。

事例3 昭和女子大学

面倒見が良い大学とはどのような大学か

TUJとのダブルディグリープログラムを修了し卒業した学生


女子大学の中で1位にランクインしたのが昭和女子大学だ。この大学のスローガンは「学生が成長する大学」。まさに、本稿で考察している「面倒見が良い大学」と「入学後、生徒を伸ばしてくれる大学」との関係を体現しているような惹句だ。同大ではここ数年、さまざまな改革が続いている。

目玉は「スーパーグローバルキャンパス」の実現。2019年にはテンプル大学ジャパンキャンパス(TUJ)を、東京世田谷区にある昭和女子大学のキャンパス内に誘致。これにより、同大の学生が、TUJの授業を履修するカリキュラムや、学位を同時取得できるダブルディグリープログラムを実現した。ダブルディグリープログラムの提携大学はTUJのほかに、中国の上海交通大学、韓国の淑明女子大学校、豪州のクイーンズランド大学がある。上海交通大学とのプログラムは、2014年の開始から今までに52名が修了しており実績を重ねている。チャレンジした学生の修了率が高いことが特徴で、学生のやり抜く力が育まれた証左だろう。さらに、今年5月にはTUJとのダブルディグリープログラムを修了した1期生4名が卒業した。

国際学部学部長川畑由美教授はこう語る。「昭和女子大学の『面倒見の良さ』はアカデミックなものにシフトしたと考えています。学生支援はもちろんですが、学生の本分である学問に対しても、きちんと面倒を見るという姿勢です。さらに、面倒見と言うと『ケア』のイメージが強いですが、本学では『ガイダンス』に近いと考えています。つまり、学生に対して何でも支援するのではなく、まずは方向性を提案してみるということです。勉強する中でつまずくことがあっても、まずは『こっちの方向でやってみたら?』とアドバイスをします。決して最初から手を差し伸べることはありません。そのような導き方が功を奏してし、自主性が生まれ、本学の学生は本当に良く勉強します。そして、自らの力で大きなハードルを乗り越えたときに真の成長が待っているのです」。

 

今回紹介した「面倒見が良い」とされる3大学の共通点は何か。それは、学生に対して、アカデミックなハードルをきちんと用意し、それを乗り越えることで学生の成長を促している点だ。学生には、学びへのモチベーションがあり、日頃からよく勉強することも共通する。冒頭で懸念したような、「手取り足取り」のイメージはない。

 

今回は「面倒見が良い大学」にランクインした全ての大学を取材したわけではない。高校生の皆さんは、各大学が行っている学生を成長させる取り組みについて調べることで、「面倒見が良い大学」のランキングを有効に活用してもらいたい。