学校制服–教育ジャーナリスト小林哲夫氏のコラム

中学・高校情報 教育ジャーナリスト 小林 哲夫
学校制服–教育ジャーナリスト小林哲夫氏のコラム

かわいいスカート、かっこいいブレザー。多くの学校では最重要テーマとして制服リニューアルを考え、実行してきた。

2023年、埼玉県立深谷高校では開校50年を機に制服のモデルチェンジを行った。

男女ともにライトグレーのブレザーで女子はタータンチェックのスカート、男子は紺のズボンである。同校が新しい制服について、次のようなセールスポイントをあげている。①ストレッチ性が向上し動きやすい。②水洗いが可能で撥水加工、③UVカットで速乾性にすぐれドライな着心地、④自転車通学者の安全対策としてブレザーのセンターベントに反射加工を施した、⑤志向や趣味に合わせて、女子はスラックスを選べる。

制服リニューアルには4つのポイントがある。

(1)見た目
女子は紺あるいはグレーのスカートからタータンチェックが主流となった。嚆矢となったのは、1980年代前半に採用した頌栄女子学院中学校・高校であろう。同校の学校史にこんな記述がある。「セーラー服」が女子中学生または高校生の代名詞として使われる有り様で、まるで国が制定した国民服のようである。創立一〇〇周年までにはこの「国民服」を頌栄から追放したいと考えた院長は、昭和五十七年(一九八二)の四月から、中学校も高等学校も一年生に新制服を着用させた。この年の新入生は、タータンチェックのキルトスカートに紺のブレザーコートで入学式に臨み、参列した在校生のセーラー服と際だった対比を見せた」(『頌栄女子学院百年史』1984年)。

1990年代、タータンチェックで生徒殺到、偏差値上昇という神話が伝わり全国に広まった。2010年代、AKB48の登場でこれらは圧倒的に支持されるようになる。

(2)非行防止
男子の詰め襟をブレザーにしたのは、長ラン、中ラン、ボンタンなど「不良ファッション」をなくすためという側面があった。制服を変形させてヤンキー、ツッパリを気どらせる風潮に、学校は制服リニューアルで対応した。

(3)機能性、健康管理
生徒からの要望に応じて、新しい素材で伸び縮み自在ゆえ活動しやすくなった。夏は通気性が良く、冬は防寒性にすぐれた制服を導入。

(4)多様化への対応
性の多様化に対応するため、女子がスラックスを選べるようになった。2022年、都内の進学校、桜蔭中学高校がスラックス採用を認めた。同年、石川県立金沢泉丘高校では校則で男子はスラックス、女子はスカートと決められていたが、誰でも制服を自由に選べるようになった。

(5)学校そのもののリニューアル
校名変更の周知、別学から男子校や女子校の共学化、大学進学特別コース設置による進学校化を進めるにあたって、学校の古いイメージが残る制服も変えたい。

一方で、制服そのもののあり方に疑問を呈した学校も現れた。

2022年、岐阜県立加納高校は校則を改定し服装を制服に限らない選択制とした。公立高校では県内初の私服着用可となった。

長野県佐久長聖高校では、数年前から私服で登校できるカジュアルデーを設けている。「この日に何を着ていこうかと考えることが大切」というのが、校長の考えだ。

長い間、制服とは縁がない学校がある。国立では筑波大学附属、筑波大学附属駒場、そして猛暑対策として夏季限定自由の金沢大附属だ。私立は麻布、女子学院、武蔵、灘、東大寺学園、広島学院など。公立では札幌南、秋田、山形東、仙台一、仙台二、西、戸山、国立、長野、松本深志、長岡、旭丘、天王寺などだ。進学校が多い。

通学服は生徒が決めるものだ、私は考える。季節に合った服、行動しやすい服、その時の体調に適した服を自分で考えることが大切だ。それが制服でも私服でもいい。酷暑、酷寒下では耐えられない制服の強制には反対する。昨今のような異常な暑さの夏場には、Tシャツの校章を付けるだけいいではないか。そんな視点から制服=通学服をみてほしい。

小林哲夫(こばやし・てつお)

1960年神奈川県生まれ
教育ジャーナリスト
大学や教育に関する問題を書籍、雑誌、WEBなどに執筆。
「大学ランキング」(朝日新聞出版)編集統括。
「学校制服とは何か その歴史と思想」「東大合格高校盛衰史」「ニッポンの大学」など著書多数。