【中学受験】名物塾長に聞いた!–親が心得ておきたい「受験との向き合い方」(後編)

中学・高校情報 ライター 松本 守永
【中学受験】名物塾長に聞いた!–親が心得ておきたい「受験との向き合い方」(後編)

先行きの見通せない社会情勢もあってか、年代を問わず受験熱は高まるいっぽうです。特に首都圏での中学入試は志願者数がピークを迎えるなど、熱狂とも言える様相を呈しています。それは時として「偏差値至上主義」を巻き起こし、本来の受験の目的を見失った進路選択を招いています。このような状況に異を唱え、「学校に勝ち負けはない」という考えのもとで独自の指導を行うのが、「進学個別桜学舎」(東京都台東区)です。中学受験はもとより、高校受験や大学受験にも通じる「受験との向き合い方」をテーマに、塾長の亀山卓郎先生に話を聞きました。

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――中学入試の勉強は5年生からでも間に合いますか?

一概には言えませんが、ある一定の学校までであれば5年生からでも間に合います。私たちの塾では、5年生の1年間で小学校4・5年生の内容を勉強します。小学校の6年生で1年間かけて学ぶ内容は6年生の前半に終わらせ、後半は復習と過去問に取り組みます。上位校は特有の出題傾向があるので、そこに的を絞った対策が必要です。ただ、私たちは基本的に上位校をターゲットにしていません。そのため、対策の期間も必要ない。よって、5年生からでも間に合うのです。

得意・不得意の教科によっても、2年間で間に合うか間に合わないかという違いも出てきます。理科と社会は覚えることが多くて大変と言われがちなのですが、意外とそんなことはありません。特に、「電車が好き」「恐竜が好き」など、理科・社会の学びにつながる“取っ掛かり”がある子はぐんぐん伸びていきます。

逆に一朝一夕にはいかないのが、国語と算数です。積み上げていく教科ですし、日々のさまざまな経験や心の動きが学びの土台になっているからです。すなわち、「教養」が問われるのです。

私は、今の日本から教養という言葉が死後になりつつあると感じてします。中学入試だけでなく、高校入試でも大学入試でも教養は問われなくなっています。教養とは、本を読んだり様々な体験をすることなどを通して、「へえ、そうなんだ」「なるほどなあ」と思うことで身に付けていくものです。資格やスキルとは違って、教養があるからといって、何かに直接的に役立つことはありません。むしろ、「役に立たないけどおもしろい」のが教養です。そして、国語と算数の力は、教養が下支えしているのです。暗記や受験のテクニックとは別次元のものなので、すぐに伸ばすことはできないのです。

ちなみに私立中学は、発展性のある生徒を求めています。発展性のある生徒とは、興味あることを探究していく子どもです。それはすなわち、豊かな教養を備えた子どもです。この傾向は上位校ほど強いです。「役に立つかはわからないけど、おもしろい」ことに敏感な子どもが集まってくるのが、上位校だと言うこともできます。


――子どもの成績がなかなか上がらないと悩む親に対して、アドバイスはありますか?

中学受験のいいところは、義務ではないところです。嫌ならやめてもいいのです。経緯は家庭それぞれに違うにしても、子どもたちは義務ではないことに対して、自らの意志でチャレンジしています。それはすごいことだと思います。親はまずそのことを認識してください。そして一通りの受験が終わったときは、結果には関わりなく子どもたちを労ってあげてください。そうすることで子どもたちは次のステップへ進むことができます。

11歳や12歳というのは、個人ごとの成長差が大きい時期です。男女差も大きいですよね。中学入試とは、そういう時期における到達度合いを示しただけとも言えます。中には早くに到達する子もいますが、20歳ぐらいになればみんな同じところまでたどり着きます。12歳のときに思ったところにたどり着けなかったからと言って、悲嘆することはありません。その子にはその子に合ったペースで成長していけばいいのです。親としては焦る気持ちもわからないではありませんが、そんなときは、「何のための受験なのか」という受験のコンセプトに立ち返ってみてください。


――中学・高校・大学のそれぞれの入試で、違いはあるでしょうか?逆に、共通点はあるでしょうか?

子どもが自分で判断することが大切という話をしてきましたが、中学入試はやはり、親の受験でもあります。本人任せにするのではなく、親によるリードとガバナンスは欠かせません。高校入試は半分は親の受験で、半分は子ども本人の受験です。本人に意思はありますが、まだ大人とは言えません。それゆえのもどかしさが生まれたり、親との対立も生まれます。そこで、塾が両者の橋渡しをすることになります。大学入試は完全に本人の受験です。親は「口は出さない」ことが役割だと考えておきましょう。このように、受験という機会を通して段階的に親離れしていくのです。このセオリーに当てはまらない親子関係や受験との向き合い方になった場合は、思ったような結果にたどり着かない可能性が高まります。

共通点は、自分で勉強する子どもが納得の結果を得ていることです。また、周囲の大人と信頼関係が築けている点も共通しています。中学入試に挑んでいる子どもたちが自習室にやって来て、信頼する大人に見守られながら勉強していることをお話ししました。これは中学生や高校生も同じです。当塾では中学校以降も通ってきてくれている卒業生が大勢います。彼ら・彼女らは、勉強や進路について相談することはもちろん、学校での出来事など、いろんなことを話してくれます。おそらく、話すことでもやもやがすっきりし、リフレッシュして次の日から学校に行くことができるのだと思います。私たちも定期的に卒業生の様子を目にすることで、もし異変があった場合には早めに察知し、手を打つことができます。そういった関係性を大人と築けている子ども、そして安定した学校生活を送っている子どもは、勉強も安定している傾向にあります。


――桜学舎が考える受験の「成果」とは何ですか?

子どもたち自身が行きたい学校へ行けるように導くことが、私たちが考える成果です。これを私たちは、「あなたの桜が咲く」と言っています。親や塾が行かせたいところではありません。それだった「他人の桜」になってしまいますからね。

さらに大きな視点で言えば、私たちの会社のキャッチフレーズである「For Your Marvelous Future」を実現することが成果です。

「Marvelous」とは、予想すらしなかったような素晴らしさを表す言葉です。子どもたちは途方もなく大きな可能性を秘めています。それに気付き、伸ばすことができるかは、周囲の大人次第でもあります。子どもたちと接する中でその子なりの可能性を見つけ出し、「こんなこともできるよ」「こんなところまで行くことができるよ」と教えてあげたいのです。道を示すこと、そして落とし穴があるときは注意を促してあげることが、私たち大人の責任であり役割だと考えています。そのうえで、本人の選択を尊重し、支えていきたいです。

受験勉強、さらに言えば人の成長に近道はありません。急いで2段飛ばしや3段飛ばしのようなことをすると、必ずつまずいてしまいます。1段ずつ、ゆっくりきちんと上るしか方法はないのです。慌てずに、私たちと一緒に着実に階段を上っていきましょう。




【中学受験】名物塾長に聞いた!--親が心得ておきたい「受験との向き合い方」(後編)
話をうかがった方

進学個別桜学舎 塾長 亀山卓郎先生

1968年生まれ、千葉県千葉市出身。成城大学文芸学部マスコミュニケーション学科卒。大手塾・個人塾などで教務経験を積んだ後、2007年に東京都台東区に「進学個別桜学舎」を開校。首都圏模試の偏差値60を切る学校への指導を専門に、「親子で疲弊しないノビノビ受験」を提唱する。著書に『ゆる中学受験~ハッピーな合格を親子で目指す』(現代書林)。