2020年度入試状況から読み解く
私立中学校 2021年度入試予測

入試
2020年度入試状況から読み解く 私立中学校 2021年度入試予測
私立中学校の総受験生は近年増加が続いており、2020年度には国立中を含めると「5万人」の大台を突破。まだ不透明な大学入試改革や新しい時代への「対応力」が私立中に期待されている。そうしたなか、2020年度は伝統ある男子進学校などで人気の高まりがみられた。首都圏の受験状況などから2021年度入試の動向を探っていこう。

「私立中人気」が高まり、難関・上位校は激戦続く

私立中学校を中心とした「中学受験」がブームのような盛り上がりをみせている。

首都圏(1都3県)では、私立・国立中の総受験生(私立が主体)は2020年度に約5万1400人となり、前年の2019年度に比べて1900人増え(大手塾の推計)、これで2016年度から5年連続の増加だ。そこから算出すると、2020年度の私立・国立中の受験率(私立が主体)は17.3%(前年16.8%)になり、「6人に1人以上」の割合だ。なお、公立中高一貫校(1都3県)の受検者を加えると、2020年度の受験率は約22%と推計され、首都圏ではここ数年、「5人に1人以上」が中学入試を受験している。

なかでも私立中の人気がアップしている理由の第一は、大学入試改革(2021年度以降)といわれる。新たな「大学入学共通テスト」では、英語の民間試験と記述式の導入(国語、数学)が先送りと決まった。それでも今後、大学入試がどうなるのかという不安感は収まっていない。

こうしたなか、「大学入試への対応に信頼性のある私立中へ」という志向が強まっており、その一方で、大学受験を避けられる「私立中の大学付属校へ」という付属校人気もここ数年の傾向だ。

また、AI(人工知能)などの技術革新、グローバル化の深化によって急変する時代を生き抜くための「人間教育」を私立中に求める家庭も多いとみられる。

このような「私立中人気」は来春の2021年度入試でも継続しそうだ。ただ、コロナショックの経済情勢の影響で、私立中の総受験生は減少に転じる可能性もある。いずれにせよ、難関・上位レベルなどの人気校は例年「激戦模様」となっており気を抜けない。各自の志望校に合った対策学習を充分に進めていこう。

埼玉、千葉などの1月入試 栄東は延べ1万人が受験!

2020年度入試状況から読み解く 私立中学校 2021年度入試予測 写真=栄東中学校・高等学校

では、「1月入試」(埼玉、千葉県など)から主な学校の受験動向や2021年度の変更点などをみていこう。

埼玉県の私立中入試は1月10日が開始日で、この「初日」からの数日間に大半の埼玉校が集中的に試験を行い、1月10、11日などに「午後入試」を取り入れる学校も多い。

埼玉県では、最近、栄東が「超マンモス入試校」となっており、2020年度に同校は4回の試験を実施し、合計の受験者は1万107人(前年比524人増)にのぼった。

2021年度に栄東は1回(1月10日または同12日を選択)、特待生試験(同16日)、2回(同18日)と入試の枠などを変更。特待生試験は4科または算数1科の選択制で、特進の東大クラス特待合格を判定。1、2回では東大クラス特待合格、東大クラス合格、難関大クラス合格の3種を設定。

開智では、2020年度は5回の試験を行い、合計の受験者は3933人(前年比333人減)だった。開智は2021年度に募集を先端クラスのみに変更。入試枠は先端1(1月10日)、先端特待(同11日)、算数特待(同11日午後)、先端A(同13日)、先端2(同14日)となる。先端特待、算数特待は合格者の全員が特待生になり、ほかの試験では一般合格と特待合格が出され、先端1、2は一般合格を、先端Aは特待合格をそれぞれ多めにする。

さて、浦和明の星女子の1回では2020年度の受験者は46人増(2007人→2053人)、倍率は前年と同じ1.9倍だった。淑徳与野の1回は受験者206人増で、倍率は1.8倍→1.9倍と若干の上昇。

立教新座の1回も受験者167人増(1704人→1871人)で、倍率は2.3倍→2.4倍と若干上がった。

受験者の増加が特に目立ったのは大宮開成だ。1回693人増、2回410人増、特待生選抜435人増となり、前年(2019年度)に2倍未満だった倍率が、それぞれ2.6倍、5.9倍、3.4倍にアップ。近年の大学合格実績の「伸び」が要因とみられる。

一方、千葉県の私立中入試(一般)は1月20日に開始される。2月入試までの間隔が短く、最近は埼玉までの交通(電車)の便が良くなったことも影響し、東京などの「試し受験」の生徒が千葉から埼玉へかなり流れている模様だ。

2020年度に千葉県の1月入試の延べ受験者数は約2万人(前年比・約1300人増)、埼玉ではその人数は約4万600人(同・約3900人増)だった。

千葉県のなかで、市川の1回はひと頃まで受験者3500人台の“マンモス入試”といわれていた。この1回では2020年度の受験者は2774人(前年比160人増)、男子枠の倍率は2.0倍→2.1倍、女子枠は2.6倍→2.9倍と上向いた。

県内最難関の渋谷教育学園幕張は最近、東大合格者数の全国ベストテンに定着している。同校の1次は受験者46人増(2012人→2058人)、さらに合格者の絞りこみで倍率は2.7倍→3.3倍に上昇。

東邦大付東邦の前期では受験者18人減(2410人→2392人)、倍率は2.5倍→2.4倍と若干低下。12月の推薦(単願)は受験者747人、24.9倍もの高倍率だった。2021年度には推薦枠を30人→40人に増やし、前期の定員を250人→240人に削減する。

昭和学院秀英の1回では受験者124人増、倍率は3.3倍→3.9倍にアップ。「初日」(1月20日)の午後入試は受験者801人、倍率5.8倍だった。

常磐線の沿線では、専修大松戸の受験者は1回6人増、2回90人増。倍率は1回では2.3倍→2.4倍と若干上がり、2回は合格者が多めに出され4.6倍→4.5倍と若干低下となった。

2021年度には聖徳大附女子が中学、高校とも共学化し、校名を「光英VERITAS」に変更する。

茨城県では、県内トップ校の江戸川学園取手は3コース制の募集で、1月中には試験を2回実施。2020年度の受験者は1回で22人増(772人→794人)、2回は85人減。1回の倍率は前年と同じ2.0倍、2回は1.9倍→1.6倍とやや下がった。

寮がある地方の学校の「首都圏会場入試」も1月の“選択肢”の一つになっている。2020年度は早稲田佐賀、西大和学園(奈良)、佐久長聖(長野)、静岡聖光学院、秀光(宮城)、盛岡白百合学園(岩手)、函館ラ・サール(北海道)など約20校が1月に首都圏入試を実施。これらの受験者は合計で約9300人だった。

2月の受験動向をチェック 伝統男子校へ「揺り戻し」が

2020年度入試状況から読み解く 私立中学校 2021年度入試予測
写真=巣鴨中学校・高等学校

東京都、神奈川県の私立中入試は2月1日に開始され、5日ごろにほぼ終了する。上位校を中心に受験状況などをみていこう。

【男子校】 2020年度に、男子御三家などでは、開成の受験者が前年に比べ29人増え(1159人→1188人)、駒場東邦(49人増)、武蔵(11人増)も増加し、麻布では27人減少(998人→971人)。開成の倍率は、前年の2.9倍から3.0倍に。駒場東邦は1.8倍→2.0倍と上がり4年ぶりに2倍台に回復した。

神奈川の聖光学院(1回79人増・2回43人増)は1・2回とも受験者が増加。栄光学園(65人減)では、前年の受験者急増(約130人増)の反動もあったのかダウンに(倍率は3.2倍→3.0倍)。

2020年度に目立ったのは、伝統ある男子進学校の人気アップだ。とくに巣鴨(Ⅰ期151人増・Ⅱ期240人増・Ⅲ期190人増・算数選抜225人増)と、世田谷学園(1次93人増・2次211人増・3次198人増・算数特選109人増)では受験者が大幅に増加した。第1志望者が集まりやすい2月1日(午前)の枠をみると、巣鴨Ⅰ期は2.6倍→3.8倍、世田谷学園1次は2.7倍→4.0倍と倍率がかなり上昇。そのほか、城北(1回69人増・2回76人増・3回37人増)、高輪(A60人増・B108人増・C88人増・算数午後46人増)、成城(1回43人増・2回149人増・3回109人増)、海城(1回15人増・2回39人増)などの伝統進学校が全回の試験で受験者増となった。

ただ、「激戦」の度合いを増した、これら男子進学校のなかでは2021年度に敬遠層が出ることも予想される。

一方、大学付属校で2020年度に受験者が増えたのは、早稲田(1回100人増・2回91人増)、学習院(1回77人増・2回37人増)など。早稲田大高等学院中学部は微増(1増)にとどまった。早稲田の倍率は1回2.8倍→3.2倍、2回3.8倍→4.3倍に上がっている。

なお早稲田は併設の早稲田大に内部進学するのは約半数という「進学付属校」だ。

【女子校】 2020年度に、女子御三家では3校とも受験者が増えた。雙葉は52人増(339人→391人)、桜蔭は22人増、女子学院は3人増。雙葉の倍率は2.7倍→3.3倍に上昇。

レベルで御三家と肩を並べる豊島岡女子学園の1回では受験者14人減(1000人→986人)、倍率は前年から横ばいの2.5倍に。同校の2回、3回は受験者が増え、それぞれ7.2倍、8.2倍の高倍率だった。2、3回の「狭き門」の傾向は2021年度も続くだろう。

上位~中堅レベルでは受験者増となったところがかなりあり、男子校と同様に伝統校で人気の高まりがみられた。

なかでも、全回を午後に実施した恵泉女学園(1回142人増・2回197人増・3回172人増)は“午後人気”も影響してか受験者が大幅増。2021年度には2回(2月2日)を午前に変更する。

ほかには、東洋英和女学院(A60人増・B28人増)、洗足学園(1回43人増・2回70人増・3回62人増)、白百合学園(41人増)、晃華学園(1回39人増・2回6人増・3回39人増)、東京女学館(1回25人増・2回67人増・3回43人増・4回53人増・国際学級42人増)などで受験者が増加した。なお、田園調布学園は1回で20人減ったものの、同日に新設された算数1教科の「午後入試」は受験者339人を集め、2回は145人増、3回81人増と大きく増えた。

これらの学校の各試験はいずれも倍率が上がり、白百合学園では2.1倍→2.8倍に、東洋英和女学院Aは2.1倍→2.7倍に。

大学付属校では、日本女子大附(1回58人増・2回72人増)、立教女学院(11人増)などの受験者が増えている。

また、香蘭女学校(1回36人増・2回71人増)では立教大への推薦進学枠を2021年春から80人→97人に拡大と発表されたことも受験者増の“追い風”になったようだ。

【共学校】 2020年度に、大学付属校でトップレベルの早稲田大系属早稲田実業学校では、男子枠の受験者は60人減(419人→359人)、女子枠のほうは10人減(232人→222人)だった。男子枠の倍率は4.1倍→3.5倍、女子枠は4.1倍→4.0倍と下向いている。

同じくトップレベルの慶應義塾中等部では、受験者は男子枠35人減(870人→835人)、女子枠37人減(388人→351人)。倍率は男子枠5.1倍→4.9倍、女子枠7.2倍→6.1倍と下がった。

慶應義塾中等部の1次試験は2月3日であり、この3日に一時的に移動した青山学院(例年は2月2日)へ受験生が流れたとみられる。

その青山学院でも受験者は74人減(959人→885人)、ただ倍率(男子3.3倍、女子5.4倍)は前年から横ばいに。

神奈川では慶應義塾湘南藤沢の受験者が75人増(394人→469人)。同校の1次試験は2月2日で、例年と違って、青山学院と試験日が重ならなかったことも影響したようだ。倍率は4.8倍→5.2倍に上がった。

ほかに、上位大学の付属校で受験者が増えたのは、中央大附(1回10人増・2回54人増)などだ。

2020年度は「共学校から男子校へ」という動きがかなり大きく、男子の受験者が減った共学校が多くみられた。

例えば、明治大付明治の受験者は1回が男子57人減、女子61人増で、2回は男子70人減、女子13人増に。法政大第二では1回の受験者は男子枠29人減、女子枠64人増、2回のほうは男子枠79人減、女子枠は前年と同数だった。

さて、共学の進学校では上位校が数少ない中、渋谷教育学園渋谷がトップ校だ。同校の受験者は1 回63人減(439人→376人)、2回49人減、3回85人減と全回で減少。倍率は1回3.1倍、2回2.7倍、3回6.4倍でいずれも低下した。2021年度は反動(受験者増)に注意しよう。

同校に次ぐレベルの共学進学校、広尾学園でも各回の受験者は減少が目立ち、反動が起きる可能性がある。

「午後入試」もうまく活用し、2月1、2日で合格確保を

東京、神奈川の2月入試は1日、2日がとくに活発であり、3日以降になると試験を行う学校数や定員が少なくなる。

そうしたなか、最近は1日、2日を中心に「午後入試」を多数の中堅校などが実施(2020年度は1日に約150校、2日に約110校)。この1、2年は算数などの1教科入試を午後に設ける学校も目につく。

午後も使って併願の幅を広げるという受験パターンはぐんと普及しているのだ。

2020年度は2月1日だけで午後入試の受験者は約2万4300人で、1日午前の受験者(約4万700人)の約60%にのぼった。

この1日午後の枠に、例えば、東京都市大付では受験者が計1086人、広尾学園は計830人集まっている。

2021年度には、獨協、神奈川大附などが2月1日に午後入試を導入。山脇学園、桐蔭学園中教は2月2日の試験を午前から午後に変更する。

近年は、午後入試もうまく活用し、1日、2日の「前半戦」で合格を確保する重要性がより高まっている。総受験生の増加によって、とくに3日以降は全体の倍率が上がり厳しくなっているからだ。

3日以降の「後半戦」では、2020年度に倍率6倍~10倍以上の「超激戦校」もみられた。そのような“危険”もあるため、2月1日、2日、あるいは1月中に合格を取れるように的確な併願校を選択する必要がある。

もし2日までに良い結果を出せなかったら、3日以降にどの学校を受けるか、2月の「後半戦」の受験パターンも慎重に考えておこう。

2021年度の変更点を把握して 新タイプの入試も「選択肢」

2020年度入試状況から読み解く 私立中学校 2021年度入試予測写真=広尾学園小石川中学校高等学校(2021年に村田女子高等学校から共学化し、校名変更)

2021年度入試の変更点などを挙げておこう。

新たに開校するのは、広尾学園小石川(共学校)だ。これは村田女子高校が共学化・校名変更を行い、同時に併設中学校の募集を再開するもの。

芝浦工業大附(男子校)では中学の共学化を行う予定だ(高校は2017年度に共学化)。

試験日などの変更では、吉祥女子が2月4日の3回を廃止。その分、同校では1回、2回の定員をそれぞれ114人→134人、90人→100人に増やし、倍率などがやや緩和する可能性がある。

青山学院は2020年度には2月3日だった試験日が、従来の2月2日に戻る。このため、ほかの上位大学付属校の2日試験で受験者が減るところがありそうだ。

一方、青山学院横浜英和は定員をA日程70人→60人、B日程50人→30人、C日程40人→30人と削減。倍率などの「アップ」に注意しよう。

試験教科では、清泉女学院(2月2日午後)などが算数のみの1教科入試を導入する。東京農業大第一では1回(2月1日午後)をこれまでの2科・4科選択制から算数・国語または算数・理科に変更。芝浦工業大附は、算数・言語技術または算数・英語の「特色入試」(2月2日午後)を新設する。

近年は、英語を取り入れた入試の実施校が急速に増加(2020年度は約140校)。また、公立一貫校の出題形式に合わせた「適性検査」型の試験が、多数の私立中に広がっている(2020年度は約150校)。ほかにも、「思考力型」や「教科総合型」、「自己アピール」「プログラミング」などの試験を行う学校もみられる。これらの「新タイプ入試」が志向や能力に合っている場合は、併願プランの“選択肢”に加えるのもよいだろう。