2020年度入試状況から読み解く
私立高等学校 2021年度入試予測

入試
2020年度入試状況から読み解く 私立高等学校 2021年度入試予測

写真=日本大学櫻丘高等学校

首都圏の私立高校入試は都県ごとに制度や受験事情に違いがある。各エリアの最新の「入試地図」を把握し、私立で「成功」を勝ち取るための受験準備を的確に進めていこう。都県別に2020年度の結果分析を行い、2021年度入試の変更点なども紹介する。

首都圏ではここ数年、公立の押さえ(すべり止め)ではなく、第1志望として私立高を受験する生徒が増え、2020年度はそうした「私立志向」がより高まったといわれる。

その要因の一つは、学費面の“ハードル”が下がったことだ。国の授業料補助(「高等学校等就学支援金」)が2020年度に拡充。年収約590万円未満のモデル家庭を対象に、全国私立高の平均授業料並みの年39万6000円が支給される。

また、国の補助に上乗せする形で、東京都、神奈川県、埼玉県などでは年収590万円以上でも各都県私立高の平均授業料相当を支給する制度があり、それぞれ年収の上限額を2020年度に引き上げている(ただし東京都では都内生、神奈川、埼玉県は県内生で県内校通学者が条件)。

2021年度入試では、こうした授業料支援により、私立第1志望者の増加が続くとも予測される。

東京都 大学付属校の人気動向は?推薦、併願優遇の受験策も

東京都内の私立高校では、受験のメインである一般入試は2月10日以降に実施される。

ここ数年、一般入試では「付属校人気」がトピックになっている。2020年度は、MARCH(明治、青山学院、立教、中央、法政大)の付属校のなかで、中央大(182人増)、中央大杉並(137人増)、明治大付中野(113人増)、青山学院(109人増)、明治大付中野八王子(109人増)で受験者が目立って増えた。倍率は、中央大杉並が2.6倍→4.0倍に、明治大付中野八王子は4.2倍→5.6倍にとかなりアップ。

早慶では、早稲田大系属早稲田実業学校の女子枠は合格者数の削減などで4.2倍→5.0倍に上昇。ただ、同校の男子枠(3.4倍→3.1倍)、慶應義塾女子(3.7倍→3.3倍)、早稲田大高等学院(2.6倍→2.6倍)では受験者がやや減って倍率はやや低下か横ばいに。

ほかの付属校では、日本大櫻丘(374人増)、東洋大京北(319人増)、武蔵野大(264人増)、東海大付高輪台(129人増)などで受験者が急増。日本大櫻丘は試験を1回から2回実施に増やしたことが“成功”に。武蔵野大は女子校から高校を共学化した(併設中学は2019年度に共学化)。

近年、私立大学入試が入学定員の厳格化などで厳しくなっていることや、大学入試改革(2021年度より)への不安感が収まらないことが「付属校人気」の背景にあると考えられる。

一方、難関・上位レベルの進学校をみると、倍率は、開成では前年(2019年度)と同じ2.8倍で、豊島岡女子学園は2.0倍→1.8倍とやや低下。巣鴨(1.5倍→1.6倍)、城北(1.4倍→1.5倍)、桐朋(1.3倍→1.4倍)では若干上がっている。

2021年度は巣鴨が試験日を2月10日から同12日に変更、レベルや地理面での競合校が少なくなり「受験者増」が予測される。なお、豊島岡女子学園は2022年度から高校募集を停止し、完全中高一貫校となる予定だ。

中堅校などでは、八王子実践(628人増)、品川翔英(365人増)、東洋(161人増)などで一般受験者が急増した。このなかで、品川翔英(旧・小野学園女子)は2020年度に共学化し校名を変更する。

さて、都内私立の一般では多くの中堅校などで「併願優遇」の枠がある。都立(公立)志望者などは、これを利用して押さえ(すべり止め)の都内校を確保するパターンが一般的だ。

併願優遇とは、その高校を第2志望やそれ以下で受験するときの制度。各高校の内申点などの基準を満たせば、入試前の時点で“ほぼ合格”などの優遇が行われる。2020年度は一般入試実施校184校のうち併願優遇は約145校に広がった。

次に、推薦入試について述べていこう。2020年度に推薦を行ったのは、全体の9割以上の169校。推薦の試験は1月22日以降に行われる。

都内私立では、単願推薦(第1志望)のほか、他校と併願できる推薦も行う高校がかなりある(2020年度は約80校)。ただし、併願推薦は埼玉、千葉など都外の受験生のみが対象だ。

中堅校などは、単願、併願推薦ともに“内申基準イコール合格基準”というところが大半だ。この場合は、中学校を通した12月の「入試相談」でほぼ合格が内定する。秋以降の「個別相談会」で推薦や、併願優遇(一般)の合否を打診できる高校も多い。

その一方、一部の難関・上位校などは内申基準を出願条件としており、推薦本番の学科試験、面接などで合否を争う。2020年度も上位大学の付属校などは倍率2~4倍台の「激戦」だった。

では、2021年度入試の変更点などをみておこう。共学化を行うのは、女子校の八雲学園(中学は2018年度から共学)、村田女子だ。村田女子は校名を「広尾学園小石川」に変更し、本科、インターナショナルの2コース制に改編する。

国学院大久我山は、理科系コースのみだった女子部でも文科系コースの募集を開始する。一方、日本工業大駒場は理数、創造工学科の募集を停止して普通科のみになり、文理未来コースを新設。

2020年度に高校募集を再開した聖学院では、一般の定員を約5人から約10人に増やし、推薦入試(定員約5人)も導入、さらにグローバルイノベーションクラスを新設する。

巣鴨では先述した試験日変更のほか、理科、社会を加えた5教科入試を導入。ただし3教科(国・数・英)のみの受験も可能とする。なお、本郷は高校募集を停止し、完全中高一貫校となる。

神奈川県 「内申重視」傾向は変わらず 横浜が共学化で人気上昇!

2020年度入試状況から読み解く 私立高等学校 2021年度入試予測
写真=横浜高等学校

神奈川県の私立高校では、都内私立高と同じで推薦入試は1月22日以降、一般入試は2月10日以降に行われる。

私立第1志望ならば、まず推薦の受験を考えてみよう。2020年度は神奈川の私立56校のうち、50校が推薦入試を実施している。

県内私立の推薦は単願(第1志望)のみで、本番では面接、作文などが課され、学科試験は行わない。各高校の内申点の基準などを満たせば、中学校を通した12月の「入試相談」で合格が内定し、本番は無競争(全員合格)という高校が例年、大多数になっている。

2020年度も、推薦で不合格が出されたのは、慶應義塾(倍率は2.6倍)、白鵬女子(同1.2倍・全コースの合計)などわずかだった。日本女子大附の推薦は「入試相談型」ではないが、受験者の減少(109人→78人)により全員が合格に。

一方、横浜は男子校から2020年度に共学化し、推薦の受験者(177人→432人)が急増した。

では、一般入試についてみていこう。

県内私立を押さえ(すべり止め)にするときは、一般入試の「併願受験」や「書類選考」の枠を利用するのが受験パターンの基本だ。

「併願受験」とは、各高校の内申基準などを満たせば12月の「入試相談」でほぼ合格とされる。ただし公立など他校に不合格となったらその高校に入学することが条件だ。県内校の大半(約45校)がこの併願受験を実施。また「単願受験」を併用する高校も多い。2020年度は約3万1000人が併願、単願受験を利用した。

最近は、一般入試に「書類選考」を導入する高校も年々増えている。これは、各校の内申基準などを満たして「入試相談」を経れば、試験を受けることなく合格が決まる入試方式。法政大国際、法政大第二の場合は第1志望者が対象だが、それ以外の実施校では「併願可」としている。

2020年度は鎌倉女子大、柏木学園などで新たに導入し、併願可の書類選考は県内29校に広がった。受験者は合計で約1万人となった。

近年は「書類選考が受験の中心」という状況の学校や、一般を書類選考のみで募集する学校(湘南学院など)もみられる。

2020年度は共学化した横浜が「注目校」に。同校では一般の受験者(併願・単願受験、書類選考など)が399人→1661人と大幅に増え“大盛況”。

一方、慶應義塾や日本女子大附、桐光学園、法政大国際、法政大第二など一部の上位校では併願受験や併願可の書類選考を行っていない。

上位校の一般入試の状況はどうだろうか。

2020年度に倍率が高かったのは、法政大国際の「学科試験」(3.8倍)、同「思考力入試」(3.8倍)、法政大第二の「学科試験」女子枠(3.6倍)・同男子枠(3.5倍)、中央大附横浜のB方式(3.4倍)、山手学院のオープンA(3.1倍)、慶應義塾(2.6倍)、鎌倉学園のB方式(2.4倍)などだ。

さて、2月の一般には「オープン入試」という制度もある。内申を使わずに本番のテストで合否を決める枠が、併願受験などの実施校ではオープン入試と総称される。2020年度は、この実施校は30校に。“内申勝負”の併願制度で確保した学校より「入試学力で『上』を狙いたい」といった場合はオープン入試で挑戦するのも一策だ。

最後に、2021年度の変更点を挙げておこう。日本女子大附では一般入試に「専願」制度を新設。推薦の内申基準に届かなくてもこの一般・専願で受験可能になる。

横浜清風は一般入試に「書類選考」を導入する。アレセイア湘南の一般では進学コースが学科試験から書類選考に変更、これで3コースの全てが“書類選考中心”の一般募集に。一方、関東学院六浦は一般に「オープン入試」を新設する。

横浜翠陵では一般の面接が廃止される。

埼玉県 「1月併願」中心の入試地図 個別相談会に必ず参加して

埼玉県の私立高校では、入試は1月22日以降に実施される。東京、神奈川の私立のような「推薦」「一般」といった日程の区分は設けていない。

例年、この「初日」(1月22日)からの数日間に大半の県内私立が併願入試(併願推薦)を複数回行っており、この1月の併願入試に受験生の側も集中するという「入試地図」が定着している。

1月の併願入試とは、3月の県公立入試まで他校と自由に併願できる制度だ。さらに、試験前の「個別相談会」で合格がほぼ判明するという大きなメリットがある。このため「受験しやすい」と人気が高く、2020年度も、県内私立の総応募者数のうち、1月併願入試が約73%を占め、単願入試(単願推薦)は約16%、一般入試は約11%だった。

この1月併願で押さえ(すべり止め)の県内校を確保したうえで、公立やさらにレベルの高い私立にチャレンジという受験パターンが埼玉では一般的になっている。

県内私立47校のうち、1月併願の制度がないのは、難関校(慶應義塾志木、早稲田大本庄高等学院、立教新座)や、音楽系高校(東邦音楽大附東邦大第二、武蔵野音楽大附)など少数だ。

1月併願入試、または単願入試を受験するときは各高校で夏~秋以降に開催される「個別相談会」に必ず出席しよう。この場で、模試の結果や内申点(通知表のコピー)などを提示すると、私立側が併願、単願入試の合否の見通しを話してくれる。学力段階別のコース制の高校では、「その成績ならば〇〇コースで…」といったアドバイスなども受けられる。

2020年度には併願、単願入試など全体の受験者がかなり増加したのは、花咲徳栄(553人増)、埼玉平成(413人増)、星野(358人増〈女子部243人増・共学部115人増〉)、大宮開成(349人増)、浦和麗明(296人増)など(2次募集を除く)。

一方、難関校では「個別相談型」ではない推薦入試(第1志望)、一般入試を実施している。

2020年度の一般の状況をみていこう。早稲田大本庄高等学院では2次試験(面接)を廃止し、その影響もあって受験者は男子枠(131人増)、女子枠(65人増)ともに増加、しかし共に合格者がかなり増員され、倍率は男子枠4.2倍→3.4倍、女子枠4.9倍→4.0倍に下がった。慶應義塾志木は受験者の減少(51人減)で倍率3.6倍→3.5倍と若干の低下。立教新座では受験者増(115人増)、倍率は2.2倍→2.3倍と若干上がった。

2021年度の変更点を挙げておこう。城北埼玉は本科、フロンティア(2020年度新設)の2コースがあり、フロンティアコースも1月併願入試を1回→2回実施に増やす。武南では単願入試や、特進コースの併願入試のいずれも面接を廃止する。難関校では、早稲田大本庄高等学院が試験会場を早稲田大学(東京都新宿区)のみに変更する。

コースなどの変更では、大宮開成は特進選抜Sコースを募集停止に。その分、特進選抜Ⅰ類、Ⅱ類コースの定員を各100人→各150人に増員。浦和学院ではアスリート選抜コースを導入する。

千葉県 前期の定員比率が96%に!「前期勝負」で合格を取りたい

2020年度入試状況から読み解く 私立高等学校 2021年度入試予測
写真=光英VERITAS高等学校(2021年に聖徳大学附属女子が共学化し、校名変更)

千葉県の私立高校入試は「前期・後期選抜」の枠組みだ。2021年度には、試験は前期では1月17日以降、後期はこれまでよりも10日遅くなり2月15日以降に行われる。県公立入試が「1回化」で日程も変わることへの対応だ。

ただ、千葉私立の大多数で定員が前期に偏っており、後期の枠は狭いのが最近の実状だ。県内私立の全体では、2020年度は前期の定員比率が96%にのぼり、後期はわずか4%だった。

そうしたなか、後期の募集を取りやめ「前期のみ」の高校がかなり増加。2020年度は、新たに上位校の市川、昭和学院秀英が後期を廃止し、県内私立53校のうち26校が後期を実施しなかった。また、後期の募集が若干名のところもある(4校)。

2021年度には、上位校の専修大松戸、日本大習志野、千葉日本大第一などで後期が廃止されることが注意点だ。

受験生の側も、前期へ大幅にシフトしている。2020年度に県内私立全体の応募者数のうち、前期が占める割合は約97%(途中集計値)に。

このように、県内私立入試は「前期決戦化」の傾向が非常に強くなっており、「前期で合格を勝ち取る」ことが受験作戦のカギになる。

さて、中堅レベルなどの高校では、前期の推薦(単願、併願)、とくに併願推薦(第2志望以下)が受験の中心という状況だ。

単願推薦(第1志望)、併願推薦は各校の内申点の基準などを満たせば、中学校を通した12月の「入試相談」でほぼ合格とされるところが、中堅校などでは大半になっている。

こうした前期の併願推薦で押さえ校(すべり止め)を確保して、公立や私立上位校にチャレンジという受験パターンが普及している。

近年は、前期で推薦のほか、一般の試験も行う高校が多いため、推薦の内申基準に届かないときは、その学校を前期の一般で狙う作戦もある。

一方、上位レベルの高校では「テスト勝負」の一般のみを実施するところが主流だ。

おもな難関・上位校の2020年度の状況をみてみよう。県内最上位の渋谷教育学園幕張では、「学力枠」は受験者78人減、合格者の増員により、倍率は3.2倍→2.5倍にダウン。市川の一般(前期)は受験者減(54人減)などで倍率1.9倍→1.8倍と若干の低下。昭和学院秀英(前期)でも、受験者減(107人減)などで倍率は2.3倍→2.2倍と若干下がった。

2021年度は県公立入試が「1回」へ変わる。その不安感から公立志望者の上位層などが私立併願校を増やすことも考えられる。このため、私立上位校で受験者が増え、難化する可能性がある。

なお、茨城県では、江戸川学園取手は2020年度に一般を1月に2回実施。倍率は、医科コースの1回3.0倍、2回2.6倍。東大コースの1回3.0倍、2回2.5倍。難関大コースでは他コースからのスライド合格を含めると1・2回ともに1.2倍だった。

2021年度に千葉私立では、聖徳大附女子が共学化し、校名を「光英VERITAS」に変更。これに伴い音楽科は募集停止に。

専修大松戸では従来の3科入試のほか、理科、社会を加えた5科入試を導入する。特待生はE類型の5科受験者から選抜し、一方、A類型には第1志望入試を新設する。

茨城の江戸川学園取手は、第1志望者対象の推薦入試(難関大コースのみ)、ポートフォリオ(活動履歴)入試を導入。また、一般入試などで、3科型、5科型のどちらでも英語の配点を高くした「英語重視方式」を選択できるようになる。