前向き人間になり就活力を養成する
斎藤幸江の就職ウォーミングアップ講座02

キャリア・就職 斎藤幸江
前向き人間になり就活力を養成する 斎藤幸江の就職ウォーミングアップ講座02

自己評価の低い人は、就職活動でつまずきやすい傾向がある。ポジティブ体質に変身し、勇気をもって目指すゴールに向かおう。

【斎藤幸江の就職ウォーミングアップ講座】
01.混乱も予想される21年就活の歩き方
02.前向き人間になり就活力を養成する
03.インターンシップを成功に導く方程式
04【A】自己分析・自己理解編 ─ 日常生活に視点を置き自分の強みを探し出す
04【B】面接編 ─ 小さなミスを気にせず フランクな態度で臨め
04【C】応募書類作成編 ─ アピールすべき情報を効果的に盛り込もう
04【D】就活クリニック編 ─ こうすれば解決できる就活生の悩みに処方箋
04【E】待遇に関する基礎知識編 ─ 入社前に知っておこう労働時間と賃金の内訳

STEP1. 前を向く姿勢

新卒人材に求められる資質は、「自ら考えて動けること」だ。つまり、この力を養うことが成功の近道というわけ。ここでは学生生活の充実度を上げることで、その資質の育成を図る。また、社会で生かせる、働くことに対する基本姿勢の確立や、労働環境に関する知識の習得法にもふれていく。

物事に消極的な人は概して自己評価が低い。自分のことを肯定的に見られずに否定ばかりしているので、最後は「自分はダメだ」、「できるはずがない」と無気力に陥ってしまう。

これでは就職活動でもなかなか成果は得にくいものだ。自己評価を上げていくためには、足りないところばかりに目を向けるのではなく、多少なりとも努力した点や、不足していたとしても自分が積んだ経験に着目することが重要だ。そうすることで、自分自身や今送っている学生生活に対する評価も変わってくる。さらに生活が楽しくなるだけでなく、過去の経験も肯定的に評価できるようになる。

結果、自己アピールにも自信がもてるようになるという構図――。自分を追いつめたり責めたりせずに、小さくても自分の実績や成果に目を向けることが、自分に対する価値を上げ、行動力の源になってくれるのだ。

さて「図表1」を見て、「半分も入っている」と「半分しか入っていない」のどちらを選んだだろうか。「半分しか入っていない」と思った人は、比較的自己評価が低い傾向にある。

図表1「 あなたは自己否定的、それとも肯定的?」

図表1「 あなたは自己否定的、それとも肯定的?」

就活成功のカギは楽観性悲観的自分にサラバ

自ら考えて動くためには、幅広い視野とフットワークの軽さが必要になる。そして、様々な視点を取り入れ、行動に移していくうえで重要になってくるのが「楽観性」だった。

ポジティブ心理学の提唱者であるマーティン・セリグマンらは、楽観的な人は心身ともに健康で、成功する確率が高いことを調査で明らかにした。では、楽観的と悲観的では、物事の捉え方がどう異なってくるのか。それを示したのが「表1」と「図表2」である。

このように客観的に比較すると、両者の物事の捉え方の特徴がわかり、自分についても分析しやすくなる。就活中に悲観的な見方に陥ったり、落ち込んだりした場合は、これを参考にして、意識を切り替えよう。

この手法はストレスマネージメントとしても有効だ。社会人になって失敗やつまずきに遭遇したときにも、これで気持ちを立て直せるようになるだろう。

自ら考えて動くためには興味の醸成も不可欠

就職活動を目前にした学生から、「やりたいことがわからない」、「何に興味があるのかが見えない」という悩みをよく聞く。日本の新卒採用システムのもとでは、専攻や専門知識にこだわらずに、様々な業界や職種にチャレンジができる。

見方を変えれば、「自分がどうしたいのか」がわからなければ、就職活動は先に進めない仕組みともいえるだろう。前述したように、新卒人材に求められる資質は「自ら考えて動けること」だ。興味がなければ、行動することはムリである。

自分が何に興味をもてるのかを知るためには、生活のなかで興味を育てることが重要になる。しかし、手近なスマホで時間を費やすことに慣れてしまい、行動を起こすことを面倒と感じる学生が増えている。

「先生が面白いとすすめていた本を図書館で探そう」などと興味が湧いても、「面倒だ」と切り捨ててしまう。それが繰り返されて常態化すると、新しいものに興味や関心をもつことが減る。挙げ句の果てに、「何をやりたいか?」という答えを見つけられなくなる。

思いつきは、実際に行動に移すことで、価値がぐんと上がる。そして新たな行動は、楽観性や自信、さらなる興味を生み出していく。どんな小さな興味でも、「面倒くさい」や「別にやらなくても」の一言で片付けず、行動に変えていこう。

表1 「 楽観的VS悲観的の視点のちがい」

■悪いことが起きた場合 → 例:飲食店のアルバイトで客に怒られた。

   悲観的  楽観的
永続性 永続的(不幸は続く、広がる) 一時的(今は、そうだ)
お店に迷惑をかけたので、辞めるしかない。 しばらくへこんでやる気が出ない。
特定 普遍的(いつもそうだ、ほかでもそうだ) 特定(この状況や条件だからだ)
私は、よくミスをする。 試験のことで注意が散漫になっていた。
個人度 内向的(悪いのは、私) 外向的(まわりも悪い)
私は、能力が低い。 そもそもあの客は、キレやすい。

■よいことが起きた場合 → 例:先生に発表をほめられた。

   悲観的  楽観的
永続性 一時的(今はそうだ) 一時的(よいことは続く、広がる)
偶然、よい資料が見つかっただけ。 私は、よく考えてプレゼンをする。
特定 特定(この状況や条件だからだ) 特定(いつもそうだ、ほかでもそうだ)
このテーマだからうまくやれた。 発表には、だんだん慣れてきた。
個人度 先生の機嫌がよかった。/ほかの学生の発表が、よくなかった。 聞き手をよく惹きつけられた。

参考:マーティン・セリグマン著 山村宣子訳『オプティミストはなぜ成功するか』(講談社文庫)第3章「不幸な出来事を他人にどう説明するか」をもとに作成

図表2「 楽観的と悲観的のとらえ方のちがい」

図表2「 楽観的と悲観的のとらえ方のちがい」

STEP2.労働環境を考える

働きやすい職場とは何!? 法律に関心を払おう

社会に出る前に、働き方に対する意識も育てておきたい。そのためにはバイトをしている身近な職場に目を向けよう。ブラック企業の回避や、働きやすい職場の選択につながるからだ。

バイトをしている学生で、職場で労働法が遵守されているかどうかを気にする人は少ない。その結果、気づかずにブラックバイトをしている学生は多い。

「表2」は、厚生労働省が大学生のアルバイト状況を調査したときに使われた設問である。 自分のバイト先の法律遵守状況をこれでチェックし、労働法や労働環境に対する関心を高めるきっかけにしてほしい。

■表2 「 労働条件上の不当な扱い」
●採用時に合意した仕事以外の仕事をさせられた
●採用時に合意した以上のシフトを入れられた
●一方的に急なシフト変更を命じられた
●一方的にシフトを削られた
●実際に働いた時間の管理がされていない(例えばタイムカード
に打刻した後に働かされたなど)
●賃金が支払われなかった(□全額 □残業分 □その他)
●準備や片付けの時間に賃金が支払われなかった
●時間外労働や休日労働、深夜労働について、割増賃金が支払
われなかった
●賃金が所定支払日に支払われなかった
●賃金から一方的に罰金を徴収された
●賃金が一方的に引き下げられた
●1日に労働時間が6時間を超えても休憩時間がなかった
●契約更新があるといわれていたが労働契約の更新がなかった
●仕事中のけがの治療費を自己負担させられた
●商品やサービスの買い取りを強要された
●給与明細書がもらえなかった
●暴力や嫌がらせを受けた
●退職を申し出ても(勤務先の都合を理由に)退職させてもらえ
なかった
●会社の都合で一方的に解雇された
参考:大学生等に対するアルバイトに関する意識等調査(厚生労働省 労働基準局H27.11)

バイトの労働環境に着目仕事観を磨いていく

「表2」で確認してみて、結果はどうだったろうか。予想以上に当てはまった学生は、「正社員じゃないし、法律をきちんと守るアルバイト先なんて、むしろ例外だ」と思いがちである。しかし、「ひとつも当てはまらなかった」という学生も、実際はかなりいる。

「法律はあるらしいけれど、どうせ全部は守られないから」という先入観をもってしまうと、知らず知らずのうちにブラックな労働環境を容認してしまう。そして就職の際に、「どこもそうだから」といわれると、そんなものかと思ってしまうのだ。

将来、働きやすい職場に勤務したいなら、まずは身近なバイトでの法律の遵守状況はどうかという意識をもってほしい。もしバイト先がブラックだった場合、辞めることも検討しよう。

「表2」で、法律違反が8項目に該当して初めてブラックだと気づき、ホワイトな職場に仕事先を変えた学生がいる。ルールや処遇が明確な職場で働いたところ、自分は大切にされている、職場に必要な人材だという自覚をもつことができ、仕事への意欲が湧いてきたとその学生は語る。結果、仕事で積極的に工夫するようになり、自分の強みの把握もできたそうだ。

たとえアルバイトでも働きやすい職場を経験すると、その後の仕事観や職場選び、さらに自己評価にも好影響をもたらす。今のうちから法律や労働環境に敏感になり、「意欲の湧く仕事や職場」を経験しておこう。

さて、ポジティブ心理学は、現在幸せな人が、将来、成功をつかみやすいことを明らかにした。つまり今の学生生活を充実させれば、就職活動もうまくいき、社会人生活もよいスタートが切れるということ。先のことばかりに目を向けずに、まずは学生生活の向上に取り組みたい。

前向き人間になり就活力を養成する 斎藤幸江の就職ウォーミングアップ講座02
斎藤幸江(さいとう ゆきえ)

就職・採用アナリスト。就職情報会社勤務後に独立。現在は、キャリア教育、就職支援、採用・育成支援をテーマに、大学などで授業科目・セミナーの講師、カウンセリングを手がける。雑誌への寄稿にも積極的で著書多数。近著に『キャリアデザインの教科書』(共著 労働調査会発行)。国家資格キャリアコンサルタント。