2018年3月卒 有名企業400社への実就職率推移
大学生の売り手市場になって久しい。多くの大学で就職率の右上がりが続く中、次に大学が求めるのは就職の質。「就職は数少ない大学教育の成果を可視化できるデータ。有名企業に就職者を多く出すことは、ブランド力アップに直結するので力を入れている」と話す大学関係者は多い。
では、現時点で有名企業に強い大学はどこなのか。大学通信は、日経225採用銘柄や大学生の人気企業ランキングなどを参考に選んだ有名企業400社を対象とした実就職率ランキングを作成している。「有名企業に強い大学ランキング」はそのうち、上位30校を抜き出したものだ。
ランキングを俯瞰すると、旧七帝大(東大、京大、北海道大、東北大、名古屋大、大阪大、九州大)に東京工業大、一橋大、神戸大を加えた難関10国立大は全大学がランクイン。私立大も就職者数2人以下の企業が未公表の慶應義塾大を除く大半の有名大学が入っている。有名企業が求める資質を持った学生が有名大学に多いということだが、人事担当者からすれば、多くの卒業生が有名企業で活躍している大学からの採用に安心感があるのも事実。
メガバンクの採用減でランキングが変動
大勢のエントリー者の中から効率的に選抜するため、近年の就活は、インターンシップなどのプレエントリー段階で優秀な学生を囲い込んで別路線で選考する“選抜ルート”と、通常の路線で選考する“一般ルート”がある。有名大学には、選抜ルートに乗れたと考える学生が他大学より多いという。
ランキングを詳細に見ると、例年、大学の顔ぶれに大きな変化はないが、実就職率の変動は意外に多い。その一因は3大メガバンクの採用総数の変化。17年と18年を比較すると、みずほFGが1880人→1365人、三井住友銀行が1347人→803人、三菱UFJ銀行が1206人→1024人と減少しているのだ。
この影響を受けたのは、昨年まで3年連続でトップだった一橋大。メガバンクの就職者が前年を11人下回ったこともあり、実就職率が4ポイント下がって2位となった。一橋大と入れ替わって昨年の2位から1位になったのは、メガバンクの影響を受けにくい東京工業大。同大に限らず理工系大学は、多くの製造業で採用数が変わらないこともあり、7位の東京理科大や12位の九州工業大、17位の芝浦工業大、20位の京都工芸繊維大などで前年の実就職率を上回った。
文系学部の学生数が多い大学は、前出の一橋大の他、6位の早稲田大、11位の東京外国語大、19位の同志社大などでメガバンクの就職者が減少し、僅かながら実就職率が下がった。特に就職者全体に対するメガバンクの占有率が高い女子大は影響が大きく、ランク外ではあるが、聖心女子大や東京女子大、日本女子大などで実就職率が下がっている。対照的に、金融業の就職者数が比較的少なく、グローバル企業を意識する学生が多いリベラルアーツ系の3位国際教養大と25位国際基督教大は前年を上回った。
HRテクノロジーの導入で就活が変わる
このように実就職率の変動はあっても、ランキングを有名大学が占めることに変わりはないが、こうした流れの変化を感じさせるのが、インターンシップの一般化だ。かつてのインターンシップは意欲が高い学生が参加するものだったが、今は「なんとなく就職に有利」という理由で、目的を持たずに参加する学生が増えているという。キャリアに対して意欲的な学生とそうでない学生がはっきり分かれるようになった時、有名大学の学生でも、就職に対するしっかりとした意欲を持っていないとインターンシップの段階ではじかれる可能性が高くなる。
さらに今後は、ビックデータやAI(人工知能)などのIT技術を活用して自社と学生のマッチングを図る、HR(Human Resource)テクノロジーが就活に取り入れられるようになる。そうなると、企業はエントリー数が多くても対応が可能になるので、選抜ルートに乗せる学生を学校群で絞る必要がなくなる。ITの活用で物理的に就活が厳しい地方の学生もエントリーしやすくなるので、これまでより多くの学生に門戸が開かれることが期待される。
18年卒の学生の有名企業実就職率が大きく上がった地方の大学に注目すると、前年を5.5ポイント上回って12.2%になった信州大や、同じく5.1ポイント上回って9.6%になった愛媛大などがある。これは、優秀な学生を採用したい有名企業の目が地方に向いていることが第一の要因だが、HRテクノロジーの普及で、こうした流れが加速する可能性があるのだ。実際、HRテクノロジーを採用に活用することに関心があるとする企業は数多くあり、特にエントリー数が増えている大規模企業の関心が高いという。今後、HRテクノロジーにより就活が変わる可能性は高いのだ。
すでに通常の就活プロセスでHRテクノロジーの活用している企業もある。情報技術の発達により、有名企業の就活のスタートラインに誰もが立てるようになった時、各大学の本当の就職力が見えてくるのではないか。