桐蔭学園の「アクティブラーニング型授業」~5年間の歩みから、No.1の秘密に迫る~

PR 大学通信 小林 聡
桐蔭学園の「アクティブラーニング型授業」~5年間の歩みから、No.1の秘密に迫る~

大学通信では毎年、首都圏の学習塾にアンケートを実施している。その中に今年「アクティブラーニングに力を入れている中高一貫校はどこか」という質問を加えた。昨今の学校教育において定着したキーワードだからだ。この項目で桐蔭学園がトップに立った。しかもポイントで2位以下を大きく引き離しての堂々の1位だ。なぜこの学校が1位に選ばれたのか、どのような取り組みが進められているのか。その秘密に迫ってみた。

■アクティブラーニングに力を入れている

順位 学校名 所在地 男・女・共 ポイント
1 桐蔭学園中教 神奈川 共学 79
2 栄東 埼玉 共学 39
3 聖徳学園 東京 共学 20
4 昌平 埼玉 共学 19
5 八王子学園八王子 東京 共学 18
6 駒込 東京 共学 17
6 広尾学園 東京 共学 17
8 東京都市大等々力 東京 共学 16
8 洗足学園 神奈川 女子 16
10 並木中教 茨城 共学 15
10 工学院大付 東京 共学 15
10 三田国際学園 東京 共学 15
10 トキワ松学園 東京 女子 15
14 鷗友学園女子 東京 女子 14
14 渋谷教育学園渋谷 東京 共学 14
16 湘南学園 神奈川 共学 13
17 順天 東京 共学 12
18 田園調布学園 東京 女子 11
18 富士見丘 東京 女子 11
20 聖徳大付取手聖徳女子 茨城 女子 10
20 千葉明徳 千葉 共学 10
20 桜丘 東京 共学 10
20 公文国際学園 神奈川 共学 10

100名以上の東大合格者がいた学校が改革に着手するまで

桐蔭学園という学校に、どのようなイメージをお持ちだろうか。定期テストのたびに習熟度別クラスの入れ替えを実施するなど勉強に厳しく、また野球やラグビーなどに代表されるように部活動が盛んな「ハードな進学校」というイメージを持つ人が多いのではないだろうか。スポーツの方は今でも全国レベルで活躍している部が多い一方で、近年、東大合格者数の方は残念な状態が続いている。

桐蔭学園は1964年の創立以来、故鵜川昇校長の強力なリーダーシップのもと進学実績を急伸させ、1992年のピーク時には114名の東大合格者を出したことで脚光を浴びた。開成、麻布に続く第3位である。当時は桐蔭学園の教育システムに適応した生徒が入学し、その生徒たちが教員の要求以上の成果を挙げていくサイクルができていた。

しかし時代が進んで若者の気質が変わり、社会が求める学力や人材像も変わった。その変化の中で、これまでの指導システムと生徒たちとのマッチングにズレが生じ、教員の要求と同等の成果を生徒が挙げられず、進学実績が低下してきたのが5年くらい前までの桐蔭学園と言えるだろう。

新しい進学校のカタチと3つの柱

そのような状況の中、桐蔭学園は2014年に創立50周年を迎え、改革に着手した。当時の平岩敬一理事長は記念式典でこのように語ったという。

「これまでの桐蔭教育が、監督の指示を忠実に守ってプレーしてきたあり方に近いものだとすれば、これからは、トレーニングの蓄積をもとに、重大な局面においては指示を待つことなく自分たちで解決していく能力を養うような教育をしていきたい」

この言葉が桐蔭学園の改革を象徴している。

次の50年を見据えた学校改革を進める中で、社会へつなぐ、大学へつなぐ「新しい進学校のカタチ」を提案するという目標が立てられた。そしてそれを実現するため、「アクティブラーニング型授業」「探究(未来への扉)」「キャリア教育」という3つの柱を掲げ、これからの社会に求められる新しい学びを追求していくこととなった。これが今や桐蔭学園の代名詞とも言える「アクティブラーニング」の出発点だ。

これまでの教育とのギャップ

しかし、アクティブラーニングを始めると言っても、これまでの桐蔭学園の教育とは正反対の要素も少なくない。生徒より前に教員が授業に対する意識を変え、アクティブラーニングの手法を学ぶ必要があった。

そこで桐蔭学園では、アクティブラーニング研究の第一人者で、当時京都大学の教授だった溝上慎一・現理事長を教育顧問に迎え、理論と実践の両面からサポートを受けることとなった。溝上理事長からは「立ち止まって考えている暇はありません。走りながら考えていきましょう」と発破をかけられ、学校を挙げて推進していく体制を構築した。それが「AL(アクティブラーニング)推進委員会」だ。

委員となった教員は、まず合宿を実施して、アクティブラーニングのワークショップで研修を積んだ。そして、アクティブラーニングの考え方や手法を教員間に浸透、普及させる役割を担い、開始初年度の2015年度には放課後に計12回の研修を行った。

桐蔭学園のアクティブラーニングを現場で牽引してきた川妻篤史先生(教育企画室長)は、当時をこうふり返った。

「当初は、先生がたのAL型授業の導入に対する不安は大きかったと思います。しかし、AL型授業を導入し始めると、不安よりも期待が大きくなりました。なにより授業中に学び合う生徒たちの姿がじつに生き生きしたものに変わっていったからです。そのとき、AL型授業は桐蔭学園のみならず、日本の教育をも変えうる大きな力をもっていると確信しました」

こうして教員の意識は変わり、授業での実践経験が積まれていった。

桐蔭学園の「アクティブラーニング型授業」のカタチとは

「アクティブラーニング」と言うと、机を向い合わせたグループワークやペアワーク、プレゼンテーションを思い浮かべる人は多いだろう。確かにそれは間違っていない。しかし桐蔭学園の授業では、グループワークなどのアクティブラーニングが行われる時間は全体の20%程度だ。50分授業だとすると10分程度に過ぎない。意外に思われるかもしれないが、これが桐蔭学園の「アクティブラーニング型授業」なのだ。

なぜそのような形になっているのか。それは、アクティブラーニングを取り入れるとは言え、従来型の講義や、個人で行う作業の重要性が認められているからだ。

典型的な授業の進め方は、「個」→「協働」→「個」のサイクルになる。以下、授業の流れを具体的に見てみよう。

①授業の始めに教員が目標を明示し生徒が共有する
②予習の確認や従来型の講義を行う…「個」
③講義内容に基づくグループワーク等を行う…「協働」
④ワークの内容を発表する…「協働」
⑤授業のふり返り(リフレクション)を行う…「個」

「個」と「協働」を経て、最後のふり返りで「個」に落とし込むのが有効なのだという。理解した内容を言葉で「外化」し、さらに文字として「外化」してふり返ることが、個々の成長につながるということだ。

「『個』からスタートしない協働ワークはうまくいきません。協働ワークで大事になってくるのは、自分の思考を外に出すことです。外に出すべき思考が定まっていない状態で協働ワークを行っても、『活動あって学びなし』に陥ってしまいます。そして、最後に『個』に戻すことも重要です。私たちが目指しているのは、『個』の資質・能力を育成することであり、ふり返りは主体的な学習者を育てる上で極めて有効です」(川妻先生)

桐蔭学園の「アクティブラーニング型授業」~5年間の歩みから、No.1の秘密に迫る~

「まなボード」を使ったグループワーク

桐蔭学園の「アクティブラーニング型授業」~5年間の歩みから、No.1の秘密に迫る~

ワークの後は、「個」の作業でふり返る

協働するために必要なツールは充実している。「まなボード」というホワイトボードを各教室に10枚配備。タテ40センチ・ヨコ60センチのサイズで、これがグループワークにおけるコミュニケーションツールとなる。また、プロジェクターとスクリーンも全教室にあり、ICTの活用は万全だ。

冒頭で紹介した中高一貫校ランキングで桐蔭学園は、「アクティブラーニングに力を入れている」のほかに、「施設・設備が充実している」という項目でもランキングのトップだった。アクティブラーニングを支える設備の充実は、トップの評価を裏付けている。

■校舎など施設、設備が充実している

順位 学校名 所在地 男・女・共 ポイント
1 桐蔭学園中教 神奈川 共学 40
2 明治大付明治 東京 共学 36
3 東洋大京北 東京 共学 35
4 埼玉栄 埼玉 共学 24
4 広尾学園 東京 共学 24
6 玉川学園 東京 共学 21
7 市川 千葉 共学 20
7 日本大藤沢 神奈川 共学 20
9 山脇学園 東京 女子 19
10 かえつ有明 東京 共学 17
11 中央大付横浜 神奈川 共学 16
11 桐光学園 神奈川 共学 16
13 工学院大付 東京 共学 14
13 立正大付立正 東京 共学 14
13 法政大第二 神奈川 共学 14
16 千葉日本大第一 千葉 共学 13
16 成城学園 東京 共学 13
18 立教新座 埼玉 男子 12
18 渋谷教育学園幕張 千葉 共学 12
18 聖光学院 神奈川 男子 12

生徒はどう受け止めているのか

このように進められている桐蔭学園のアクティブラーニングだが、生徒はどう受け止めているのかが気になるところだ。

ここに桐蔭学園が実施した生徒アンケートがある。

Q1:あなたは学校の授業の中で「学習のまとめをみんなで発表する」学習をどのくらい行っていますか?
Q2あなたは「考えたり調べたりしたことをいろいろ工夫して発表する授業」がどのくらい好きですか?

Q1については学園の中学生の62.9%が「よく行っている」「時々行っている」と回答。全国平均を12.5ポイント上回った。同じく高校生は51.3%で16.2ポイント上回った。

Q2については学園の中学生の58.3%が「とても好き」「好き」と回答。全国平均を11.3ポイント上回った。同じく高校生は52.6%で14.3ポイント上回った。

ここから浮かび上がる桐蔭学園の生徒像は、個人や協働で行う作業を踏まえて人前で発表することに対する意識が高い、ということのようだ。また、生徒からは以下のような声が多く聞かれる。

「友人の考えに接することで、自分の世界観が広がった」
「友人とアイデアを出し合い、試行錯誤して答えを導き出せると気持ちがいい」
「グループワークで一緒に考えることで、ひらめきが生まれることがある」
「グループワークで友人から教えられることは記憶に残りやすい」
「先生と一緒に授業を作っていく感覚がめばえた」

他者との協働で、多くの収穫が得られているようだ。とは言え、思春期真っ只中の中高生だ。グループワークや発表などをおっくうに感じる生徒も少なくないだろう。しかし、中高の時からこうした経験を積んでおくことが、その先にある大学での学び、社会での仕事の糧になることは間違いない。

アクティブラーニングのフロントランナーとして

アクティブラーニングを導入した2015年から2018年まで、桐蔭学園では毎年全国の学校の教員を招いて「アクティブラーニング公開研究会」を開催してきた。

我流ではなく、溝上現理事長を理論的な支柱として実践してきた桐蔭学園のアクティブラーニングを、全国の教育関係者と共有することが目的だ。参加者に授業を見てもらい、評価してもらう。他校の教員に授業を見られるのだから、桐蔭学園のやり方が丸裸にされるのも同然だ。いい面だけが見られるわけではなく、悪い面や失敗事例をさらけ出すことにもなる。

しかし桐蔭学園は、理論と実践を兼ね備えたアクティブラーニングのフロントランナーとして、悪い面も含めて見て評価してもらい、それを全国の教育関係者と共有したいと考えている。それが結果的には桐蔭学園のアクティブラーニングを進化させる糧となり、同時に全国で推進されているアクティブラーニングの底上げにもつながれば、という願いが込められている。

公開研修会はどのような効果をもたらしたのか、川妻先生はこのように話す。

「何よりも大きかったのは、公開研究会に向けて準備に取り組んだ本校の教員の学びの場となったことです。参加者からは『自分の学校に持ち帰りたい内容が多々ありました。様々な形のアクティブラーニングを見ることができました』(公立中高教員)といった感想が多数寄せられました。日本の教育改革をリードする学校として多くの方々に認知されるようになり、多方面から評価していただけたことは、私たちにとって大変励みになりました」

共学化とアクティブラーニングの関わり

ところで桐蔭学園は2018年に高校が男女共学となった。それまでは男女「別学」という珍しい形だった。この共学化はアクティブラーニングの推進と深い関係がある。

アクティブラーニングの大きな意義の一つに、他者の多様な意見に触れるということがある。グローバル化が進むこれからの社会には欠かせない視点だ。ダイバーシティや男女共同参画の観点では、学校現場において男女の別なく意見を出し合い、協力して学ぶことが効果を生む可能性が大きい。そこでこれまでの伝統だった「別学」をやめ、「共学」とする大きな改革を行った。

男女がともに学ぶことになり、アクティブラーニングにどのような変化があったのか。

「別学での協働ワークは、異性に対して気兼ねする必要がないので、発言しやすい雰囲気があります。しかし、同性が集まっているためにメンバー同士で同調する傾向も見られました。それに対して、男女が混ざる共学では『他者』を意識した程よい緊張感が生まれます。こうした緊張感の中でしっかりと自分の意見を表明できる力が、これからの社会で求められているのだと思います」(川妻先生)

桐蔭学園の「アクティブラーニング型授業」~5年間の歩みから、No.1の秘密に迫る~

男女のペアワークも日常の風景になった

大学入試改革への対応

アクティブラーニングの有用性は理解できるものの、「アクティブラーニングで学力は向上するのか」「大学受験の役に立つのか」という疑問が当然湧いてくる。

実はまだ、それははっきりしていない。

しかし、2021年度入試から始まる大学入学共通テストでは、従来の選択式の問題だけではなく、記述式の問題など思考力・判断力・表現力を問う問題が出題される予定だ。また、これまでの入試を大きく変えようとしている大学も少なくない。大学が受験生に求める能力は確実に変化している。

アクティブラーニングで培われる、知識を操作する能力(活用や探究、問題解決)や、知識を介して他者や集団で活動する能力(ディスカッションやプレゼンテーション)は、その方向性と向きを同じくしていることは間違いないだろう。

ここまで桐蔭学園におけるアクティブラーニングの取り組みを見てきたが、No.1に評価される理由が見えたのではないか。筆者が感じた桐蔭学園のアクティブラーニングの強みは以下の3点だ。

○学校全体で、組織的にアクティブラーニングを推進していること。
○我流ではなく、溝上理事長を理論的支柱にしていること。
○他校にも情報をオープンにし、評価に耳を傾けていること。

2014年に教育顧問となった溝上慎一・京都大学教授は今年、桐蔭学園の理事長に就任した。教育関係者の間で大きな驚きをもって受け止められたニュースだったが、溝上理事長、そして桐蔭学園の本気度を感じた人も多かったのではないか。

今回、外部からの評価で「アクティブラーニングに力を入れている中高一貫校No.1」となったことについて、桐蔭学園としてはどのようにとらえているのだろうか。入試広報部長の佐藤透先生はこのように話す。

「『本物のアクティブラーニング』『本校独自のAL型授業』を追究してきた結果でしょうが、何よりも生徒たちの前向きな取り組みが大きな力になっています。さらなる質の向上を目指して日々研鑽に努めていきたいと考えています」

桐蔭学園のアクティブラーニングは今後ますます磨きをかけ、進化していくことだろう。