生徒一人ひとりの夢の実現を目指して、ハイレベルな学習プログラムと体験重視の教育によって難関大学や海外大学への合格実績を伸ばし続ける広尾学園中学校・高等学校。近年は特に海外大学の合格者・進学者数を増やしている。
1918年に設立された順心女学校を前身とし、2007年の共学化に伴い校名を改めた同校は、順心女子学園時代の1973年に文部省(現文部科学省)の海外帰国子女研究指定校となり、以降、帰国生を積極的に受け入れてきた。2006年にはスーパー・ランゲージ・ハイスクールの指定として国際教育や英語教育を強化。広尾学園として新たにスタートを切った2007年には「インターナショナルコース」を設置し、2018年からは教育課程特例校の認定を受け、世界基準の教育を展開している。
大学通信が実施する首都圏の学習塾の塾長・教室長を対象にした「学習塾が勧める中高一貫校」ランキングでは、毎年「グローバル教育に力を入れている」や「理数教育に力を入れている」などの項目で高い評価を獲得。今年度は「グローバル教育に力を入れている」の項目で1位にランクインした。
今回は、インターナショナルコースの統括長を経て現在教頭を務める植松久恵先生に、全国でもトップを誇る同校の海外大学合格実績の背景や、植松先生が大切にする進路指導の方針についてうかがった。
あわせて、2025年度に新設された海外進学者を対象とした独自の奨学金制度「宮下尚之奨学金」の授与式をレポート。支援者である宮下尚之氏(株式会社ワンキャリア代表取締役社長 執行役員CEO)と、奨学金第一期生となる岩澤悠さん(インターナショナルコース・高校3年生)からもお話をうかがった。
生徒が海外大学への進路選択を広げやすい教育環境
─毎年多くの生徒が海外大学を受験されていますが、近年は特に合格者数が増えており、今年の「学習塾が勧める中高一貫校」ランキングでは「グローバル教育に力を入れている」で1位となりました。まずは、近年の海外大学合格者数について教えていただけますか?

植松:前提として海外大学を目指す学生は、複数の大学に出願をしています。これは海外の大学は大学ごとに出願に必要な条件や求める学生像が異なっており、日本の大学の偏差値による合格ラインのような一定の基準がないため、合否について事前に予想することが難しいという理由があります。また、特待生など奨学金がもらえる枠での合格を目指すために複数の大学を受験する場合もあります。そのうえで、のべ人数では2023年は148名、24年は206名、25年は375名の海外大学合格者がいます。25年の場合、実際に海外大学を受験した生徒数は47名で、国内大学と併願して最終的に国内大学に進学した生徒もいます。今年度は2026年1月現在まだ出願中なので生徒数はわかりませんが、多くの生徒が海外大学受験を視野に入れて準備をしています。
─本科、インターナショナル、医進・サイエンスの3コースがありますが、海外大学を受験するのはインターナショナルコースの生徒のみですか?
植松:インターナショナルコースの生徒がほとんどですが、毎年数名は本科や医進・サイエンスコースの生徒も受験しています。
─海外大学進学を選択する生徒が増えている背景について教えていただけますか?
植松:背景としては、これまで多くの卒業生が海外大学に進学しているほか、年間を通して海外大学の関係者が来校して説明会を行うなど、生徒にとって海外大学が身近なものであるため、物理的にも心理的にも海外大学進学へのハードルが低いことが大きいと思います。ほかにも生徒たちが利用するフロアには、海外大学のパンフレットを設置して生徒がいつでも手にとれるようにしていますし、奨学金のお知らせなども掲示して、生徒たちが学校生活を送るなかで常に目に触れ、意識できる環境になっています。
─海外大学が来校しての説明会を開催されるなど、生徒への情報提供に力を入れていらっしゃいます。この取り組みはいつから始まったものですか?
植松:2013年頃からです。本校は、中学校からインターナショナルコースを設けており、中学校では帰国生を中心に外国籍の生徒なども含む英語力を持った生徒によるアドバンスドグループとこれから英語力を身につけて国際的に活躍したいと望む生徒によるスタンダードグループとに分かれています。アドバンスドグループの授業は一部を除きすべて英語で行われており、スタンダードグループの授業でも一部を英語で行っています。外国人教員も多く在籍をしており、帰国生はもちろん小学校まで国内で過ごしてきた生徒も、中学校からは日常的に英語に触れ、英語で話し、英語で学ぶ環境に身を置いています。そうした生徒たちを見ていると、大学でも引き続き、グローバルに学ぶ環境を選択できるようにすることが学校としての使命ではないかと考えるようになり、まずは海外の大学との情報交換を始めました。その結果、少しずつ本校に興味を持ってくれる大学が増えていき、現在は大きいイベントも合わせて年間で200大学ほどが来校し、本校の生徒たちに向けて説明会などを実施してくれるようになりました。
─海外の大学に進学するメリットは何ですか?
植松:海外大学に進学する生徒は増えていますが、海外の大学がよいか国内の大学がよいかは生徒それぞれの学びたい内容や学びたい環境によるため、必ずしも海外の大学だからよいというものではありません。私たちはあくまで生徒の選択肢が広がればよいと思い、国内大学に比べると非常に少ない海外大学の情報も積極的に提供するようにしています。進路については、すべての生徒に「何のためにどこで何を学ぶのか」を深く考えるように指導しています。そのうえで、学部や学科による区分けが明確な日本の大学では学びづらく、学科を超えて学びたい生徒や分野を問わず学びたい生徒、また、例えば映像や演劇のように日本の大学では専門的な学問として確立していない分野に進みたい生徒にとっては海外大学を選択肢に含めることは、目指す学びの実現にために有効です。
海外進学を目指す生徒を支える、独自の奨学金制度がスタート
─長期的な円安の影響もあり、海外大学進学においては学費など経済面でのハードルも高くなっています。貴校ではどのようなサポートをされていますか?
植松:海外大学進学において経済面での課題は避けて通れません。しかし、だからこそ、進学を望む生徒を経済的な理由のみで諦めさせることがないように、私たちは責任を持ってサポートしたいと考えています。進路指導においては、国内の支援組織や財団の奨学金や助成金の情報はもちろん、海外の大学や関係団体が設けている奨学金制度などについても情報を集め、随時アナウンスをしています。応募書類の作成についてもバックアップしています。また、こうした奨学金は早期に応募期間が設けられているものも多いため、海外大学を考えている生徒は意思決定のタイミングも重要になります。計画的に進められるよう声をかけて海外大学進学準備のペースメーカーになれるように心がけています。
─今年度から新たに、広尾学園独自の「宮下尚之奨学金」が創設されたそうですね。
植松:「宮下尚之奨学金」は、株式会社ワンキャリアの宮下尚之社長から「志を持って海外に羽ばたく生徒を支援したい」というお申し出をいただいて設立されたものです。広尾学園の海外大学進学者から1名の奨学生が選抜され、4年間で1000万円(年間250万円)の奨学金を受けられます。本校の生徒にとって大きなチャンスであると同時に、単なる資金提供にとどまらず「社会があなたたちの志を応援してくれている」というメッセージとして、生徒たちを支えてくれる存在になってくれると思います。
─海外に進学する生徒にどのようなことを期待されていますか?
植松:海外に限らず、本校の生徒たちには進路指導の際に「自分はその場所で何を学びたいか」を深く突きつめて考えるよう伝えています。ただ、その進路は高校時代に考えたことですから、進学後に目標が変わったり、異なる夢を見つけたりしても当然です。さまざまな出会いの中で経験値を高め、自らの強みを研ぎ澄まし、世界のどこででも活躍できる人になってほしいと思っています。そして、できることなら、みなさんのそうした学びは多くの人の支えによって実現したものですから、一人ひとりの人生の幸せを追求しつつ、社会にも貢献できる人になってほしいと願っています。
「宮下尚之奨学金」授与式レポート
毎年1名に4年間で1000万円の奨学金を提供
2025年度に広尾学園で初となる民間人からの「宮下尚之奨学金」が創設された。この奨学金は株式会社ワンキャリアの代表取締役社長 執行役員CEOである宮下尚之さんが私財を投じて創設したもので、1名につき4年間で1000万円(年間250万円)の奨学金を提供する。今後、広尾学園の海外大学進学者から奨学生が選抜され、4年間にわたり奨学金を受ける。
2026年1月31日には、広尾学園で奨学金の授与式が開催された。式には宮下社長と第一期生に選ばれたインターナショナルコース3年生の岩澤悠さんとその両親、広尾学園から池田富一理事長、金子暁副校長らも出席。宮下社長から岩澤さんへ目録が授与され、池田理事長から宮下社長へは感謝状と記念品が手渡された。
【岩澤悠さんインタビュー】よりよい教育のあり方を考えるために、教育と公共政策を学びたい

私は帰国生ということもあり、広尾学園のインターナショナルコースで学んできました。高校になって大学への進学を考え始めていたときに、広尾学園から海外大学に進学した先輩たちのお話を聞く機会があり、目標を持って海外で学んでいる先輩たちがキラキラと輝いて見えたことから、私も海外の大学で学んでみたいと思うようになりました。
同じ頃、私は「教育」や教育に関わる「公共政策」に興味を持つようになりました。そのきっかけは、私は広尾学園で学ぶ中で、自分自身海外生活の経験がありバイリンガルだからこそ学習者として得られるメリットが多くあると実感したことです。英語から得られるメリットを広げるために、高校時代には日本の小学生にオンラインで英語を教える活動もしました。ただ、個人の活動ではなく、よりよい教育のあり方を考えていきたいと思い、そのために大学では「教育」や「公共政策」について学びたいと考えました。また、そのためには世界から留学生が集まる海外の大学で学ぶことで、より多様な価値観や文化を体験することができ、自分の視野も広がるのではないかと思い、海外大学の受験を決めました。
今回、「宮下尚之奨学金」の第一期生となれたことについては、大変ありがたいという気持ちと、いただいた期待に応えたいという強い思いを持っています。一方で、私が先輩たちを見て憧れたように、楽しくキラキラとした大学生活も送りたいと思います。向こうで新たにやりたいことが見つかるかもしれません。今は期待で胸がいっぱいです。
【宮下尚之社長インタビュー】志を持って海外で学ぶ学生が100人増えれば、日本の未来は変わる

私は、学生の皆さんより一足先に社会に出た先輩として、今一生懸命学んでいる高校生の皆さんに、少しでもエールを届けられたらと思っています。広尾学園では長年多くの海外大学進学者を輩出しており、ハード面でもソフト面でも信頼できると考えて、協力させていただきました。この奨学金が、海外大学への進学を目指す高校生のみなさんの可能性を広げることができれば嬉しいです。
奨学生を選ぶ面接では、岩澤さんが目指す「教育」への思いを聞かせていただき、その夢に共感しました。ただ、どうか気負いすぎずに、自分らしく大学生活を楽しんでほしいですね。
私たちの会社では、「人の数だけ、キャリアをつくる。」をミッションとしています。若い世代のみなさんが、海外大学進学によって自らの可能性を広げ、よりよいキャリアを築いていくことを心から応援したいと思います。
海外大学に進学することについてはさまざまな障壁がありますが、奨学金で経済的な障壁を取り除くことができれば、日本や社会に対する貢献にもなると考えています。私は、この奨学金を少なくとも10年は継続して行うつもりでいます。10年間で10人の学生を支援できますが、私と同じ志を持った民間企業の方が10人いれば、100人の学生に海外大学で学んでもらうことができます。今より100人多くの学生が、高い志を持って海外の大学で存分に学び、見識を広げることができれば、日本の未来はきっとよくなると信じています。この奨学金がその一歩になることを願います。

