学部創設から20年。次の20年に向けてイノベーションの新たなカタチを創造する─成城大学社会イノベーション学部

PR 取材・文 鈴木秀一郎 構成 副島光基
学部創設から20年。次の20年に向けてイノベーションの新たなカタチを創造する─成城大学社会イノベーション学部

成城大学では、日本初にして唯一の「社会イノベーション学部」が2005年に誕生。
社会課題を解決に導こうとする高い意欲を持つ学生の多さが特長だ。学部創設から20年。
卒業生は企業や行政機関、NPOなど、国内外の幅広いフィールドへと歩みを進め、イノベーションの担い手として活躍している。
では、同学部ではどのように人材育成を行っているのか。南山浩二学部長にお話を聞いた。

学部創設から20年。次の20年に向けてイノベーションの新たなカタチを創造する─成城大学社会イノベーション学部
思い込みから自由になることで自由な発想力が磨かれる

政策・戦略・社会・心理の4領域を横断的に学習

成城大学社会イノベーション学部は、社会に持続した発展をもたらすイノベーションについて学問横断的に理解を進め、社会課題の解決策を広く発信できる人材の育成を目指しています。デジタル技術の発展やグローバリゼーションの進展に伴い、私たちの日常生活も大きく変貌をとげました。技術革新のみならず、社会的に意義のある新たな価値を創造する活動として、イノベーションが必要とされているのです。

そこで本学部では、国・自治体の政策や国際機関などの取り組みに焦点を当てる「政策」領域、企業の経営戦略・商品開発に焦点を当てる「戦略」領域、人間の心理と行動に焦点を当てる「心理」領域、そして、社会や文化に焦点を当てる「社会」領域の4領域を多角的に学習します。経済学や経営学、心理学、社会学、英語など、多彩な専門分野を持つ教員陣から幅広く学べるほか、社会で活躍する卒業生との交流も盛んです。

また、企業や自治体などと連携したPBL(Project Based Learning:課題解決型学習)にも注力しています。外部機関との交流を重ねることで、学生にとっての「当たり前」が変化し、新たな発想も生まれています。

身近な日常での気づきがイノベーションの第一歩

さて、私は家族社会学や福祉社会学などが専門です。日本では男性が外で働き、女性が家事や子育てをするという家族のあり方が、高度経済成長期に一般化したとされています。しかし、今や共働き家庭が増え、晩婚化や未婚化も進んでいます。同性間のパートナーシップもあるでしょう。人々のライフスタイルや家族の形態は多様化しています。日本の社会保障システムは、夫婦と子ども2人程度の家族を標準的なモデルとして設計されてきましたので、法制度や社会的な仕組みを変えていく必要性に迫られているのです。

また、日本では戦後長らく家族による介護を前提にしてきましたが、介護保険制度などが整備されました。しかし、家族によるケアや同制度だけでは限界があり、福祉人材の待遇も恵まれているとは言い難い状況です。人材が定着しづらいこともあり、サービスの質をいかに保つかが課題となっています。ここでもイノベーションが求められているのです。

とはいえ、学生からすれば、突然これらの社会問題を示されても、リアリティを感じにくいかもしれません。まずは身近な日常における人々の困りごとを認識し、その解決策を模索することもイノベーションの第一歩になるでしょう。私たちが身近で当たり前だと思っていることは、時代や地域が変われば、必ずしも当たり前ではなくなります。思い込みから解放されることが、イノベーティブな発想に結びつきますので、歴史を学び、国際比較を行うことも大切です。国際比較をするには英語力を高め、国際的な情報に触れる必要もあるでしょう。

多方面との対話を重ね多様な考えに触れてほしい

ここでひとつ、グローバルな課題を考えてみましょう。環境問題は、国の制度や自治体の取り組みのほか、国際機関の動向も関係し、企業にも産業廃棄物や家庭ごみを減らす生産過程・商品開発が求められます。また、人々の環境意識を高めるためには、心理学・社会学の視点も必要です。このように本学部では、多様な視点を織り交ぜながら、実践的に解決策を考えていくことができるのです。

その際、まず重要なのは課題設定。社会にとって意義のある課題を設定するためには、ある程度の知識も必要です。知識の獲得には、関連する情報への感度を磨いておく必要があります。設定する課題が、「なるほど、解決すべきだね」とより多くの人から共感されることも大切です。避けるべきは、自分の尺度だけで考えてしまうことです。その点、本学部なら多様なバックグラウンドを持つ学生のほか、外部機関の方々とも対話を重ね、多様な考えに触れながらイノベーションの第一歩を踏み出すことができるでしょう。幅広い学びと語らいを経て、将来に向けた幅広い選択肢にも気づけますので、本学部で将来に向けた多様な可能性を拓いてくれることを期待しています。

学部創設から20年。次の20年に向けてイノベーションの新たなカタチを創造する─成城大学社会イノベーション学部
成城大学 社会イノベーション学部 学部長
南山 浩二教授
[専門]家族社会学、福祉社会学、質的調査法

イノベーションのバリエーション

教員陣の多彩な専門性で学生の意欲に応えていく
成城大学社会イノベーション学部は、経済学や経営学、心理学、社会学など、幅広い分野を学ぶことができ、学生の多様な興味関心に応える多様な教員陣も大きな魅力だ。そこで、教員には専門分野や研究テーマ、学生には日々のやりがいや入学後に感じる成長ポイントなどを聞いた。

“現場”での実体験と新発見が学生の成長を後押しする

学部創設から20年。次の20年に向けてイノベーションの新たなカタチを創造する─成城大学社会イノベーション学部
政策イノベーション学科 山本 匡毅教授
[専門]経済地理学、地域政策論、産業論

主な研究テーマは、日本の製造業の立地・集積状況など、産業立地の空間編成です。企業の取引拡大と産業立地の変化の要因を探り、地域政策に役立てることが目的です。例えば、2010年代にはサプライチェーン(供給連鎖)が大きく変化。地方の中小企業がアメリカの企業向けに航空機部品を製造し、グローバルな取引を実現させた例もあります。グローバリゼーションによってイノベーションが起きたのです。

こうした変化を肌で感じるために、ゼミでは、PBL(Project Based Learning:課題解決型学修)を重視しています。山形県長井市と連携したPBLでは、地域課題をデジタル技術で解決し、地域創生につなげるためのDXコンテストに挑戦。さらには、成城エリアの脱炭素化をテーマとする世田谷区とのプロジェクトにも参画しています。ゼミには公務員志望の学生が多く、自治体との協働でフィールドワークなどを行う経験はとても貴重なもの。多くの新発見があり、成長につながっています。

近くて遠い「適度な不一致」が消費者の興味を搔き立てる

学部創設から20年。次の20年に向けてイノベーションの新たなカタチを創造する─成城大学社会イノベーション学部
政策イノベーション学科 郷 香野子准教授
[専門]マーケティング・サイエンス、消費者行動論

新製品の開発には膨大なコストがかかりますが、消費者は「まったく新しい」ものを見ても、その価値がわからなければ無視してしまいます。そうなると、せっかく誕生した新製品が世の中に広まることなく終わってしまいます。それを回避できるのが、私の専門であるマーケティングです。製品やサービスは、人のイメージと遠すぎても近すぎても受け入れられず、理想は“適度な不一致”。既存の製品を連想させると親しみは持ってもらえますが、新しさの評価は弱まります。対して、新しさばかりを打ち出しても、親しみを感じられずに無視されてしまうのです。だからこそ、ポジショニングや価値の伝え方で、過去からの連想や想像を促して「ピン」ときてもらうことが大事になります。また、新製品を管理しながら、再び世の中に普及させていくこともマーケティングの重要な役目です。とあるブランドのアイスクリームは売り方を工夫し、発売から約40年を経て過去最高売上を記録しました。こうしたマーケティングのアプローチは、あらゆる社会の課題解決にも役立ちますので、ぜひ本学部で「新しさ」を生み出す力、広める力を養ってほしいですね。

人の認知活動を変化させるデジタル技術とどう向き合うか

学部創設から20年。次の20年に向けてイノベーションの新たなカタチを創造する─成城大学社会イノベーション学部
心理社会学科 新垣 紀子教授
[専門]認知科学、認知心理学、デザイン学

GPS対応のスマホがあれば、自分の現在位置がわかるようになった反面、紙の地図が苦手な人が増えています。また池袋や、新宿、渋谷の位置関係がわからない人も増えています。進化したテクノロジーに依存することで人の認知活動に変化が生じてきたのです。

私は、サービスやテクノロジーと人の心の働きの関係をインタフェースという側面から研究しています。例えば、VR(ヴァーチャルリアリティ)空間でアバターを装着することが人の認知や行動に与える心理的な影響などにも着目しています。というのも、人がどのように物事を見聞きして理解するかという人の認知の仕組みがわかっていなければ、良質なサービスは開発できません。電子機器は、かつては多機能化や高性能化が重視されていましたが、本当に人のためになっているのでしょうか。その問いを社会が認識し「人間中心のデザイン」という考え方にシフトしはじめたことは、サービス開発の上での大きなイノベーションの一つだといえるでしょう。

たった一人の声でも耳を傾け小さな一歩を大切にしたい

学部創設から20年。次の20年に向けてイノベーションの新たなカタチを創造する─成城大学社会イノベーション学部
心理社会学科 後藤 悠里准教授
[専門]国際社会学、福祉社会学、障害学

研究テーマは、障害や国境を越えた人と人とのつながり。最近では、障害女性に着目し、社会的マイノリティの生きづらさを明らかにする取り組みを進めてきました。「自分で努力しなよ」といったひと言で扱われ、かき消されてしまっていた声にしっかりと耳を傾け、必要なアクションにつなげたいと考えたからです。

同様に、ハザードマップの見方がわからないという学生の声をきっかけにして、成城大学の他の教員と学生、そして世田谷区危機管理部災害対策課とともに、防災意識を向上させる取り組みを進めています。防災という一つの目的を通じて、人々が協力し合える環境を構築しようとしています。イノベーションというと「0から1を生み出す」というイメージがあるかもしれませんが、私はまず、「0から0.1」の小さな一歩をつくり出したいと考えています。本学部の学生も「未来は変えられる」という思いを持っているように感じます。前向きに現状の社会課題を解決していこうとする姿勢は心強いかぎりです。

間違える⇒印象に残る⇒正解を覚えられる

学部創設から20年。次の20年に向けてイノベーションの新たなカタチを創造する─成城大学社会イノベーション学部
政策イノベーション学科 ニューベリーペイトン・ローレンス専任講師
[専門]日英対照言語学、外国語教育、第二言語習得

日本語を母語とする英語学習者が難しいと感じる文法や語彙に関する研究を進めています。目指しているのは、複数の意味を持つ多義語を使用される頻度順で掲載する教材づくりです。

日々の授業で感じるのは、「間違えると恥ずかしい」という日本人学生の意識。間違いを避けようと時間をかけ過ぎる傾向があります。ただ、簡単な単語と英文法を使えばいいですし、間違いをとおして学ぶことが大切。間違えれば印象に残り、結果的に正しい知識が身につくのです。

一方で、昨今は翻訳ツールが高度化しており、意志疎通の手助けになることは確かです。ただし、実は誤解が生じているにもかかわらず、コミュニケーションが成立したと思い込んでしまう危険性もありますので要注意です。翻訳アプリに頼らなくても、例えば海外の音楽や映画を深く理解したいといった動機があれば、楽しく英語を学べるはず。自分が好きなことや学んだことを自由に発信できるツールとして英語を認識してもらいたいですね。

キャンパス内でもライブハウスでも空間を改革するチカラを磨きたい

学部創設から20年。次の20年に向けてイノベーションの新たなカタチを創造する─成城大学社会イノベーション学部
政策イノベーション学科3年 福田 遼
千葉日本大学第一高等学校出身

人々が集まり、新しい価値や発想が生まれる空間づくりに興味があります。ゼミでは、学部の「学生共同研究室」をより多くの学生に有効活用してもらうための改革案を検討しています。学生同士で話し合うと、自分の意見をしっかり伝えつつ、相手の意見も尊重できる学生ばかり。私も自分の考えをわかりやすく伝える力や、多様な意見をまとめる力が磨かれています。軽音楽部に所属しており、ライブハウスの空間演出に生かせる気づきもありますし、画期的な技術革新だけでなく、空間の使い方や人のつながり方を工夫する小さな積み重ねが、大きな改革の原動力になるのだと考えています。

「4年間でしたいこと」を入学時にリスト化して実行中!

学部創設から20年。次の20年に向けてイノベーションの新たなカタチを創造する─成城大学社会イノベーション学部
政策イノベーション学科2年 松本 明栄
千葉県⽴幕張総合高等学校出身

私は1年次の短期留学で海外式の授業を経験。「発言しなくてもいいや」から「発言した方がいいな」に意識が変わり、帰国後の授業でも積極性が高まりました。一方、塾講師のアルバイトで子どもたちと接していると、経済格差と教育格差のつながりを感じます。そこで、すべての⼦どもが質の良い教育を受けるために何が必要かを在学中に探究したいと思っています。この教育分野に限らず、⼤学⽣でも起こせるイノベーションはあると思いますし、目指したい将来像も少しずつクリアになってきたため、早めの始動で志望業界のインターンシップに参加し、まずは自分の適性を確かめたいと思っています。

ジェンダー・バイアスの影響を探り改善に向けてアクションを起こしたい

学部創設から20年。次の20年に向けてイノベーションの新たなカタチを創造する─成城大学社会イノベーション学部
心理社会学科3年 中川 真里彩
国府台女子学院高等学校出身

「男の子が赤いランドセルを欲しがり、保護者が落胆」。そんな動画を見て以来、社会に潜むジェンダー・バイアスの影響を探る学びにやりがいを感じています。卒業研究では、時代に応じてジェンダー・バイアスが広告に与えてきた影響をテーマにする予定です。マーケティングや販売戦略に関して経営学的な視点で企業へのヒアリングもしたいですし、心理学的な視点からもこれまでの広告での表現方法を分析したいと思っています。歴史を振り返り、現在を見つめ直すことで生まれる気づきを基に、社会を少しずつ変えていくこともイノベーション。それを実践できる力を身につけていきたいです。

ネガティブを自認する私がポジティブな境地に到達

学部創設から20年。次の20年に向けてイノベーションの新たなカタチを創造する─成城大学社会イノベーション学部
心理社会学科3年 佐藤 璃空
神奈川県立横浜瀬谷高等学校

人はなぜその言葉を発し、なぜその行動を取るのか。個人的な心の問題から、組織での集団心理まで、言葉と心理、行動の関係に興味があります。自分はネガティブで内向的だと自覚していますが、授業でネガティブを肯定的に捉える考え方を知り、「ネガティブでもいい」というポジティブな意識も芽生えました。私は心配性だと思いますが、プラスに考えれば危機管理能力の高さ。物事の新たな捉え方ができるようになったことは、自分の思考におけるイノベーションだと思います。無理やりポジティブに振る舞う必要はないですし、心理学を学んだことで、自信と自己肯定感を高めることができています。