写真=清水佑輔 専任講師
心理社会学科 [専門]社会心理学
「政策」「戦略」「心理」「社会」の4領域を横断的に学習できるのが、成城大学社会イノベーション学部。政策立案や経営戦略の策定など、社会科学領域での学びをベースとする実践力を養うと同時に、実践において果たすべき心理学の役割や方法論を学べる点が特徴的だ。ここでは、社会心理学を専門とし、偏見やステレオタイプ、ウェルビーイングを研究テーマとする清水佑輔専任講師の取り組みを紹介する。
偏見と差別 若者と高齢者
―先生のご専門と具体的な研究テーマからお聞かせください。
専門は社会心理学です。具体的には、偏見やステレオタイプに関する研究を行い、高齢者や障害者が他世代や健常者といかに協力して生活できる社会を築くかについて検討を重ねてきました。日本が直面している少子高齢化や労働力不足といった課題に取り組むためには、高齢者や障害者への偏見や差別を軽減し、社会参加しやすい雰囲気をつくることが重要だからです。
偏見とは、実態と異なる内容や、過剰に誇張された内容として物事が認知され、そこに否定的な感情が重なった状態です。これが表に出て何らかの行動に移行すると、ときに差別として周囲から認識されます。意識的に差別的な行動を起こすケースもあれば、偏見があるがゆえに無意識に差別的な行動につながることもあるため、頭の中に偏見があるだけなら問題はないとはいえないのです。
そこで私が考えたのは、若者が自らの高齢期について考える機会を設け、長期的な視野での人生設計を促す取り組みです。自分が高齢者になった未来を想像し、どのような高齢期を過ごしたいかを考えてもらうのです。それによって高齢者との距離が縮まり、態度も変わってくると思うのです。高齢者を自分たちとは関係のない「外集団」として捉えるのではなく、いずれは自分も加わる集団なのだと、少しでも考えてみることが大切だと考えています。
―若年層が自分事として老後を考えるわけですね。
人種や性別とは異なり、誰もがいずれは高齢者になりますので、この取り組みの効果を検証していく過程で、偏見や差別を解消するための学術的かつ実践的なイノベーションの可能性が見えてくると考えています。
また、単に「お年寄りにやさしく」と促すよりは、超高齢社会の日本だからこそ、意欲ある高齢者にも働いてもらった方が社会には有益なはずです。中年層や若年層が高齢者を阻害する態度では、勤労意欲のある高齢者も働きにくくなりますので、世代の垣根を越えて交流しやすい世の中にしておくことが大切なのです。
ただし、一方では「最近の若者は(ダメだ)」と高齢者が若い世代に偏見を抱くケースもあるでしょう。これも世代間の円滑な関係づくりの障壁になりますので、高齢者側の意識を変える働きかけも大切になります。
科学技術と人生満足度 スマートシティと心理学
―先生が授業で心がけていることを教えてください。
まず、授業とはいえ、人と人との対話ですので、学生の発言を決して否定しないことを重視しています。多くの日本人学生は発言する際に“勇気を出す”ケースが多いと思いますので、まずはその意欲を高く評価したいのです。そして、個々の考えを尊重した上で、適宜アドバイスを送るようにしています。
次に、講義でもゼミでも、日常生活と心理学の知見を結びつけて説明することを心がけています。専門的な研究成果をそのまま伝えるだけでは理解が難しい場合もありますので、日常生活の具体例に当てはめて説明することで、学生の理解が深まり、関心も高まりやすいと考えています。心理学の専門用語を単に暗記しても面白くないでしょうし、日常生活と心理学を結びつけることで楽しく学べるのです。
ただし、「イノベーション心理論」という授業では、工学と心理学を融合させた内容にも踏み込みます。例えば、スマートシティ関連事業に対して人々がどのような態度を取り、どのように先進技術を受け入れるのかといったテーマです。このような授業をとおして、「典型的な心理学」にとどまらない多様な心理学研究に関心を持ってほしいのです。
科学技術の進歩によって人々にどんなリスクが生じ、どんな対策をすべきかは、大いに議論すべきテーマです。そして、人々が不安を感じるポイントをあぶり出す段階でも、その不安の解消を目的に丁寧な説明を行う段階でも、心理学の知見や手法を駆使して果たすべき役割があることを伝えたいと思います。
工学系の技術によって社会全体としては便利になったとしても、個々の幸福感や人生満足度(ウェルビーイング)は向上しているのか。ここも心理学の視点や調査・測定スキルを生かして考えていくべきポイントなのです。
学生のホンネに寄り添い 成長の支えになりたい
―最後に、受験生へのメッセージをお願いします。
私は授業のリアクションペーパーに自由記述欄を設けています。そこには、最近の楽しかった出来事や、ちょっとした愚痴などを書いてくれる学生が多く、中には心理学を結びつけて書いてくれる学生もいます。今を生きる学生の本音や、授業に対する率直な感想に触れられることはとても嬉しいこと。個人が特定されないように配慮した上で、授業で紹介することもあります。それを聞いた学生が共感し、自分と似た学生がいると知って安心したと話してくれるケースもありますので、こうした取り組みも心理学の授業の役目だと考えています。
また、心理学を学ぶ学生は「社会に出てから何をどう役立てられるのかわからない」と口にすることもあります。ただ、例えば心理学の実験やフィールドワークなどを経験していくと、わかりやすく回答しやすいアンケートを作成するスキルや、調査・分析スキルが身につきます。“アンケートらしきもの”は簡単に作成できそうな印象を持たれがちですが、質問内容次第では、回答内容を分析しづらくなるケースもあります。本学部なら、目的に沿った一生モノのアンケート作成スキルが身につくと言ってもいいでしょう。

心理学は、自分自身を含めた人々の感情や態度と、日常生活の出来事を結びつける有効なツールになります。心理学の知見を用いることで、日常の出来事を論理的に説明する力や、そのための調査スキルが養われます。本学部での4年間は、心理学と日常生活を結びつけ、自分と向き合うための貴重な時間となるはずですし、日々の学びが皆さんの成長や人生設計に少しでも役立てば幸いです。
