写真＝ビジネスデータサイエンス学部 石橋 健 准教授
日本におけるデジタル人材の絶対数不足が言われて久しい。特に日本経済の未来を考えた時、ビジネスの現場におけるデータサイエンス関連の人材不足は深刻だ。そうした状況を背景として誕生したのが、関西大学のビジネスデータサイエンス学部。学びの特徴と養成される人材像について、ビジネスデータサイエンス学部の石橋健准教授に聞いた。
関西大学のビジネスデータサイエンス学部（BDS）は、ビジネスとデータサイエンスの力でイノベーションを創造するリーダーの養成を目指す学部として、2025年4月に大阪府吹田市の吹田みらいキャンパスに設置された新学部である。石橋健准教授が設置の背景を語る。
「ビジネスの現場では、データサイエンスに関する技術を有しているだけではなく、実際に利活用できる人材を必要としています。ビジネスの知識とデータサイエンスの技術の両方が備わっている人材が求められているという現状が学部開設の背景にあります」
データサイエンスの技術だけでは、ビジネスにおける今日的な課題の解決は難しく、そこにはビジネスの知識が不可欠。BDSは、ビジネスとデータサイエンスの学びを融合することで、ビジネスにおける新たな価値を創造できる、「ビジネスデータサイエンティスト」の養成を進める。
アクティブラーニングで新たな価値創造を目指す
BDSがビジネスデータサイエンティストに求められる資質として定義するのは、「ビジネス力」「データサイエンス力」「人間力」。この3つの力について見ていこう。
ビジネス力獲得のために用意されたのは、「マネジメント系」「会計系」「マーケティング系」「経営情報系」で構成されるビジネス系科目。4分野を体系的に学ぶことにより、ビジネスを創造できる実践的な力が養成される。
データサイエンス力を養成するデータサイエンス系科目には、数学やデータリテラシーなどに関する「プラットフォーム系」、統計などに関する「データサイエンス系」、人工知能の活用法などに関する「AI系」の3分野がある。データサイエンス系科目は、文理の枠にとらわれない学びになるため、文系の生徒は数学に不安を感じるかもしれない。しかし、データサイエンスを学ぶ上で必要な数学の基礎的な内容は、入門科目で学べるので安心だ。
BDSのカリキュラムには、ビジネス系科目とデータサイエンス系科目を橋渡しするアクティブラーニング系科目が用意されている。両科目をアクティブラーニングが結びつけることで実践的な学びとなる。経済・経営系学部や情報系学部など、伝統的な分野の学部では実現できない学びを提供できることがBDSの強みだ。石橋准教授は言う。
「新たな価値創造には、ビジネスとデータサイエンスの融合が不可欠。アクティブラーニング系科目では、両方の知識や技術を使って価値を創出する考え方を学びます。座学で学んだ理論を、アクティブラーニングを通して融合する、理論と実践の往環により効果的な学びを展開します」
1年次のアクティブラーニングでは、自分たちでは解決できない多くの課題に直面することになる。そこで実感した自らに足りない知識や技術について2年次に座学で学んだ上で、再びアクティブラーニングに臨むことにより、1年次より高度なデータ分析ができるようになる。こうした理論と実践の往還を繰り返すプロセスを経て、最終的により実践的なデータ分析ができる人材が養成される。データサイエンス分野における技術変化のスピードは速いが、アクティブラーニングを通して得られる自身をアップデートする意識は、社会に出てからも技術をアップデートし続ける汎用的な能力に繋がるという。
BDSのアクティブラーニングの特徴は、チームでの学びを重視していること。その理由について、石橋准教授が説明する。
「自分一人でデータを見ていると視野が狭くなりがち。チームのメンバーと多様な意見を交わす中でこそ、広い視野を持ってよりよい価値を見出せるようになる。チームで学ぶことにより、様々な人と協働できる能力が身に付くのです」
アクティブラーニングは、企業から提供される実際のデータを使用することも特徴の一つ。現実の売上から改善・改革につながる情報を取り出すという、実社会での作業に近いリアルな学びは、学生の能力を高めるための大きな役割を果たす。企業との繋がりという点では、企業から出される実践的な課題を解決するPBLもあり、アクティブラーニングとともに、社会人基礎力の一つである「チームで働く力」の獲得を後押しする。
目指すのは人間力あるビジネスデータサイエンティスト
ビジネス力とデータサイエンス力と併せてBDSが重視しているのは人間力。進化のスピードが速いデータサイエンス分野では、学び続け・行動し続けることで自らをアップデートし、主体的に人生を切り開ける人間力を持った人材が求められている。石橋准教授は言う。
「データサイエンスは技術でしかなく、人間が関わらないとデータの価値は分かりません。企業からは、データサイエンスの技術は大学などの協力で向上するが、データをうまく活用することができないという話を聞きます。データから価値のある情報を生み出して、プロジェクトを回すには人間力が不可欠なのです」
BDSが養成するビジネスデータサイエンティストは、基礎的なビジネス力やデータサイエンス力および人間力に加え、専門性を身に付けている強みがある。
「3年次からは研究室に配属され、ビジネスもしくはデータサイエンスの専門領域のスキルを磨きます。両方の専門領域を高める学生もいるでしょう。専門的な知識を持って他者と協調し、社会のどんな分野でも活躍できる人材養成を目指します」
こうして養成されるビジネスデータサイエンティストには、企業や官公庁、シンクタンク等におけるデータ分析や政策・企画立案など、様々な職種が想定される。ビジネス現場におけるデジタル人材不足は深刻で、大学生の就職活動においてデータサイエンスの素養を持った学生は引く手あまた。ビジネスとデータサイエンスの知識や技術を持つだけでなく、他者と協調しながら周りの人との架け橋になれる、BDS卒業生の活躍の場は大きく広がっていると言えよう。
最後に、社会から渇望されるビジネスデータサイエンティストを養成するBDSにはどのような生徒が向いているのか、石橋准教授に聞いてみた。
「ビジネスデータサイエンティストとなるために重要なアクティブラーニングにおいて、最も重視しているのがグループワーク。そこに積極的に関わり学びたいという活発な生徒が向いていると思います。社会で成長していくために不可欠な、ビジネスとデータサイエンスの仕組みや考え方を身に付けたいと思っている生徒を文系・理系問わず待っています」
