環境・食料問題で最注目の「総合農学」
DXやGXなど先端領域もカバーし、イノベーションを起こせる人材を育成─東京農業大学

PR 取材 井沢 秀(大学通信)
環境・食料問題で最注目の「総合農学」 DXやGXなど先端領域もカバーし、イノベーションを起こせる人材を育成─東京農業大学

米不足による価格高騰が深刻な社会問題となっていますが、地球環境問題をはじめ、ウクライナの戦禍のような国際問題でさえも、家庭の食卓に甚大な影響を及ぼしています。こうした危機感が募る中、最先端の学問領域として注目を集めているのが「農学」です。日本最大の農学・生命科学系大学である東京農業大学は、自然科学系および社会科学系の6学部23学科からなる幅広い学問領域を基盤に、人々の豊かな生活を支える「総合農学」を展開。実学主義の伝統のもと、社会で活躍できる人材を育成しています。近年は農学とデジタル技術の融合を進めながら、地球規模の環境問題にも対応。農学を五感で感じられる「農ある風景」のあるキャンパス作りも推進する同大の教育・研究をご紹介します。

環境・食料問題で最注目の「総合農学」 DXやGXなど先端領域もカバーし、イノベーションを起こせる人材を育成─東京農業大学
江口文陽えぐちふみお学長
1988年東京農業大学農学部卒業。93年同大学大学院農学研究科博士後期課程修了。専門は林産化学、きのこ学。高崎健康福祉大学教授、東京農業大学教授などを経て2021年より現職。日本木材学会賞、森喜作賞など受賞。

実学主義の伝統を継承し、理論と実学を両輪とする「総合農学」を追求

1891年、明治の英傑・榎本武揚(❶)が設立した徳川育英会育英黌農業科に遡る歴史を誇る東京農業大学。今日では、農学の幅広い学びをカバーする6学部23学科を整備。食料から環境、生命、健康、エネルギー、地域再生まで、多様な「学びのキーワード」から自分の興味と関心に合った学問分野に打ち込むことのできる大学として注目を集めています。

開学以来の「実学主義」の伝統を受け継ぎ、理論と実学を両輪として実装する「総合農学」を追究。「人物を畑に還す」を建学の精神に、農学・生命科学を通じて人々の命と暮らしを支える人材を育成しています。

40%に満たない日本の食料自給率の改善や、人々に食や生活の豊かさをもたらす上で、農学領域の果たすべき役割は年々重要性を増しています。多くの大学で農学系の学部新設が続いていることはその証左であり、東京農業大学はそれらの大学を牽引していく存在として教育・研究の質の向上を進めるとともに、農学領域の活性化に向けた数々の取り組みを行っています。

❶榎本武揚
1836年-1908年。江戸幕府の命により4年間オランダへ留学し、国際情勢と欧州の最新科学を学ぶ。帰国後、明治政府において通信、文部、外務、農商務大臣を歴任し日本の発展に貢献。東京農大精神である、未知なるものに怯まず困難に立ち向かう姿勢を、「冒険は最良の師である」と評する。理論と実践を両立させる重要性を唱え、東京農大の教育研究理念を「実学主義」とした。

総合農学にITを組み合わせ持続可能な農林水産業を追究

地球規模の気象変動が大きくなる中、世界中で風水害による被害が増加。日本でも線状降水帯による豪雨災害が頻発しています。こうした状況下で重要性が高まっているのが、環境科学の分野です。江口文陽学長は次のように説明します。

「環境変化と農業には非常に密接な関係があります。温暖化が進めば作れなくなる作物も出てきますし、育種学という観点では、高温耐性の作物の導入や環境変化で新たに発生する害虫からの防除に向けた品種改良も必要になるでしょう。影響は海洋資源にも及びます。農林水産業を持続可能な状況で続けていくための視点を、総合農学が提示することが重要になっているのです」

国レベルでの強化が進むDX(デジタルトランスフォーメーション)やGX(グリーントランスフォーメーション)といったデジタル分野での改革と農学は、とても相性が良いことで知られます。ロボットやAIなどを活用したIT産業との連携によるスマート農業の実現には期待が大きく、多種多様な情報を解析することで「地域の自然災害と作物の関係性を解き明かす」「必要な薬剤の選定に生かす」といったさまざまな活用が可能です。

東京農業大学は2023年度から、全学部生が自由に選択できる「数理・データサイエンス・AI教育プログラム」をスタートさせました。各学部・学科のカリキュラムに情報システム教育を落とし込むことで、農業とITをどのように結びつけるかを先端的に学ぶことができる環境が整っています。

2020年には、世田谷キャンパスに研究発信のハブとするべく『NODAI Science Port(❷)』も開設されました。現在は、同キャンパスに通う学生のうち、研究室に所属する3・4年生と大学院生の約4000人がこの研究棟で過ごし、多彩な分野の研究に没頭し、知識や意見の交換を行っています。今後、世界に通用する研究や人材が巣立っていくポート(港)になっていくでしょう。

環境変化や食料問題はグローバルな課題でもあり、その解決に向けた「農学の国際化」も非常に重要です。東京農業大学は2001年から「食と農と環境を考える世界学生サミット(❸)」を毎年開催。世界各国から集結した学生や教員が、食料・農業・環境といった課題について国境を超えて議論する場となっています。

さらに、国内・国外を問わず、さまざまな教育機関との大学間連携も推進しています。学問領域をどのようにマッチングするかという面で、国内随一の専門的な知見を有する東京農業大学が「ハブ」となり、国内外の大学をつなげることで、農学の活性化や国際的な教育活動の発展を目指しています。

さらに、地域が豊かになるための世界規模の農業支援にも力を入れています。

「世界では国や地域ごとに異なる問題を抱えています。グローバルな視点から各国の食料飢餓をなくすために、東京農業大学が持っている技術・技法・研究力を生かしたい。食材の保存期間を伸ばすポストハーベストの領域を含め、新たな取り組みを国際社会で行っていくことで、食料の安定供給やフードロスの減少に少しでも貢献したいと考えています」(江口学長)

❷NODAI Science Port(農大サイエンスポート)
世田谷キャンパスの4学部15学科83研究室が集う、東京23区内最大級の教育研究施設。建物には大学が保有する杉を建材として使用し、学生は自分たちの育てた木がどのような加工を経て建材になるのかを、実学主義に基づき、見たり触ったりしながら学ぶことができる。エリア一帯は、キャンパスの象徴的空間である「農大の森」に隣接し、森に向かった窓や素材感など、大地との一体感を強調するデザインが採用されている。
❸食と農と環境を考える世界学生サミット(ISS)
2001年に創立110周年を記念してスタート。海外協定校、外国人留学生および日本人学生が一堂に会し、世界の食料・環境問題を考え、人類の持続的発展と青年自らの役割について協議する場として毎年開催されている。


環境・食料問題で最注目の「総合農学」 DXやGXなど先端領域もカバーし、イノベーションを起こせる人材を育成─東京農業大学

探究的学びと起業家教育で多くの即戦力人材を輩出

東京農業大学の教育が目指すのは、幅広い教養と強いメンタル、物事をしっかり考えられる思考力を持った、社会で壁にぶつかった時もそれを乗り越えていけるような人材の育成です。卒業論文を全学生に必須として課すのは、数的・統計的な処理・解析能力を高めるとともに、一つのテーマに対して実験計画を立て、最終的に完遂させる「探究学習」としての側面を重視しているからです。

「自然や環境の変化を見た時に、『なぜ起きるのか』という疑問を持ち、実験やディスカッションを通してその問いの着地点を探っていく。ものごとを五感で感じられる人材を育てるためにも、本質的で探究的な学びが大切なのです」(江口学長)

こうした大学での学びに向き合えるように、東京農業大学は高大連携に力を入れ、高校の探究活動のサポートにも力を入れています。

人材育成の面では、アントレプレナー教育の拡充も進めています。東京農業大学が行うのは、単なる起業のための教育ではなく、自社の経営を幅広く考えられる思考力と、いかに会社に利益をもたらすかという視点の涵養です。こうした「アントレプレナーシップ」を持った人材を育てることは、企業で即戦力として活躍できる人材の育成に直結するとともに、起業や就農を目指す際の自信を育むことにもつながっています。

江口学長は志望校を選ぶ高校生に向けて、「その大学で『何をやりたいか』『どんな教員がいるか』『どんな研究があるか』などをしっかり調べてから進学先を選ぶことで、自分を磨き、社会で幸せになるための大学生活を実現してほしい」とアドバイスを送っています。

東京農業大学には何らかの強い目的意識を持って入学してくる人が多く、母校愛の強い学生が大半だといいます。江口学長は最後に、そんな学生への思いを語ってくれました。

「学生のことが非常にかわいいからこそ『学長としてしっかり働きたい』という気持ちが強いですし、学生が活躍し、学生が輝く東京農業大学であり続けたいと思っています」

■経堂の森

世田谷キャンパスの経堂門から入構して直ぐの国際センター北、アカデミアセンターの東に位置。多くの学生が利用しているほか、地域住民にも里の風景を楽しんでもらえるよう、一般開放している。

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