昭和女子大学は、海外キャンパス「昭和ボストン」の設置や海外大学との「ダブル・ディグリー・プログラム(DDP)」をはじめ、グローバルを軸とした数多の教育改革を推進。2025年度は国際学部が3学科体制となって新たなスタートを切った。そして、2026年春に新設予定の総合情報学部*では、急速に高度情報化する社会で新たな価値を創造できるデジタル人材の育成を目指す。常に大学のあり方を模索し、学生の未来を切り拓くための改革に挑戦し続ける昭和女子大学の現在とこれからについて、坂東眞理子総長に伺った。

昭和女子大学 総長
坂東眞理子
東京大学卒業後、総理府(現内閣府)入省。内閣広報室参事官、総理府男女共同参画室長、埼玉県副知事などを経て、1998年にオーストラリア・ブリスベンで女性初の総領事に就任。その後、内閣府初代男女共同参画局長を務めたのち、2003年に昭和女子大学に着任。2007年に学長就任、以後2014年に理事長、2016年より総長を務める。
語学を使って中身ある対話ができる“人間力”を育てる
―改めて貴学のグローバル教育についてお聞かせください。
これまで、大学としての存在意義や役割、私たちが有する資源を生かして学生のためにできることは何かを問い続けてきました。具体的には1988年に設置した「昭和ボストン」や、1992年から交流する上海交通大学の存在などがあり、本学の一番の強みを生かしたグローバル教育に力を入れてきたのです。2009年には「国際学科」を新設し、専門的な対話ができる英語力を身につけること、そして英語に加えてアジアやヨーロッパの言語を学ぶことを必須としました。2013年にはグローバルビジネス学部、2017年には国際学部を開設し、DDPの拡充やテンプル大学ジャパンキャンパス(TUJ)との単位互換など、学生の幅広いニーズに対応するプログラムを提供しています。
―今年度から「国際学部」がリニューアルされました。
国際学部は、既存の英語コミュニケーション学科を「国際教養学科」と「国際日本学科」に再編し、「国際学科」を含めた3学科体制としました。国際教養学科は、英語で専門領域を学び、TUJや昭和ボストンなどへの留学で磨いた高度な英語力を生かして国際機関や外資系企業での活躍、海外の大学院への進学などを目指す人材の育成が主たる目的です。国際日本学科は、ジャパンスタディーズや異文化理解、地域創生について学びます。今や日本企業もグローバルな企業活動が当たり前ですから、そうした分野での活躍、また地域活性化、特にインバウンドの受け入れなど、日本の魅力や資源を世界に伝え、未来へつなぐ仕事ができる人材を育成することが主なコンセプトです。
どの学科も「語学」がキーワードの一つにあがってきますが、会話ができるというだけでは単なる語学力にとどまってしまいます。現代社会においては、語学を使って何を語り、何ができるか、どのような考えを持って判断できる人かという“総合的な人間力”を求める気運を感じます。今回リニューアルした3学科は、こうした世の中の流れにも呼応する明確なカリキュラムになったと思います。
データやデジタル技術を暮らしやビジネスに生かす
―来年度は、「総合情報学部」を新設される予定です。
理系といえば、本学には環境デザイン学部と食健康科学部がありますが、もともと文系の学部から始まった大学ですから、どうしても理系が少ない状況でした。そうした中で、これからの社会でニーズの高い分野は何かと考えたとき、やはり情報ではないかと。AIをはじめ日進月歩で進化するこの分野では人材が足りていませんし、工学系では気後れしてしまうような女子生徒でも、デジタルビジネスやアプリ開発といった内容なら挑戦してみたいと思ってくれるのではないかと期待しています。
総合情報学部には「データサイエンス学科」と「デジタルイノベーション学科」の2学科を設置します。データサイエンス学科は、AIや統計学などを学んでデータを分析したり、新たなデータ活用方法などを提案したりできる人材の育成が主な目的です。デジタルイノベーション学科は、AIやVRといった最新のデジタル技術を活用した新商品やサービスの開発、企業での業務革新などに寄与できる人材の育成を目指します。
2学科とも本学がこれまで築いてきた健康や心理、ビジネス分野の学びを生かす「ドメイン」を軸に学びます。データや数字というと抽象的なものに感じられがちですが、健康やビジネスなどの具象的な話題と結びつけて考えることで、データサイエンスやデジタル技術が身近なものになっていくのではないかと考えています。社会や日常に近い分野でデータやデジタル技術を使いこなすことで新たな活用方法を開発し、社会実装につなげる人を育てたいのです。
困難を越えた先にある“おもしろさ”を見出す
―昨年度、DDPの修了者が100人を超えました。
卒業生が10万人いる中の100人ですから割合は高くないですが、私たちは最先端の教育ができていると誇りに思っています。学生たちは本当によくがんばっていますし、先生方も学生の後押しをしっかりやってくれています。海外大学と本学の2つの学位を取得するわけですから、挫折しそうになることもあるでしょう。単に学力だけの問題ではなく、困難を乗り越える精神力も重要です。教職員のフォローも含め、本学がDDPで積み上げてきた実績は誇るべきものです。女子大でもこれだけ大変な課題を学生がやり遂げている、それこそ男子生徒も入学したいと思ってくれるような魅力ある教育を今後も続けていきたいですし、もっと認知されてほしいと願っています。
―新たな取り組みなどがあればお聞かせください。
昨年から「日本語教育センター」を設置しました。本学も海外からの留学生が増えていますが、こうした留学生向けの日本語学習や論文の書き方指導のほか、日本人学生と学ぶ共修授業の提供などを行っています。さらに、海外の高校や日本語学校で学ぶ生徒を対象に「Showa Direct 4.5」を開始しました。これは半年間で専門教育に必要な日本語を学んだあと、本学の各学科で日本人学生とともに日本語で学び、4・5年間で学位取得を目指すプログラムです。現在は健康デザイン学科で3人の学生が学んでいますが、これらの取り組みを通して多様な国や地域から意欲ある学生が集まることは本学の学生にもよい刺激になりますし、切磋琢磨してくれることを期待しています。
―女子大学を取り巻く状況についてはいかがでしょうか。
「女子大の役割はもう終わったのではないか」と言われることがありますが、まだできることはたくさんあります。男女の進学率は近づいてきているとはいえ、女子学生には自分はこういう人生を生きていくんだという将来への見通しやビジョンを持った人がまだ少ないと感じます。そういう学生たちにこそ、女子だって何でもできる、チャレンジできるんだと実感してほしいですね。本学は教授や役職者の6割が女性で、多くは育児休暇などの支援制度を活用してキャリアを継続しています。こうしたロールモデルがいる環境も、学生にさまざまな気づきを与えてくれるでしょう。案外、自分の可能性を狭めているのは自分自身だったりするんですよね。私はずっと共学校で学びましたが、女性は社会でセカンドクラスのキャリアしか期待されていないと思い込んでいました。一番大事なのは、そういうアンコンシャス・バイアス(※)から自分を解き放つこと。それを意識的にできるようサポートするのが女子大の役割だと思っています。
※無意識のうちに“こうだ”と思い込んでいること
―最後に、受験生へのメッセージをお願いします。
楽【らく】な人生ではなく、楽【たの】しくてワクワクする人生を目指しましょうと言いたいですね。自己肯定感、専門知識やスキル、人間としての心の深さ、交渉力、説得力、いろんな力を持つ女性たちが責任を持って社会に働きかけ、自分の人生に働きかけていく。もちろんそこには困難もありますが、それを乗り越えた先にある“おもしろさ”を見出してほしいのです。昭和女子大学は「楽じゃないけど楽しい」経験ができるプログラムをたくさん用意していますので、ぜひ本学で自分の人生を輝かせるための力を養ってほしいと思います。
