「都内の進学校」と聞いたときには私立高校を思い浮かべる中学生も多いのではないだろうか。実際に首都圏の難関大の高校別合格者ランキングを見てみると、都内の私立高校が上位に数多くランクインしているのは事実だ。しかし、都内において難関大進学を目指せる私立高校のほとんどが「中高一貫校」となっているのが現状だ。なかには高校からの募集枠を設けている高校もあるが、中学からの入学者との学習進度の違いやすでに固定した人間関係など、様々な課題も聞こえてくる。私立高校への出願を考えている中学生には、高校のみの単独校も視野に入れることを薦めたい。今回は、進学実績を伸ばし続けていることで知られる拓殖大学第一高等学校を取材した。

入ってすぐの開放的な吹き抜け。この空気に魅せられて入学を決める生徒もいるという
高校単独校ならではの強み「同じスタートライン」で充実した学校生活
東京都武蔵村山市に所在する拓殖大学第一高等学校(以下、拓大一高)は、都内の私立進学校では珍しい、中等部を持たない高校だけの単独校だ。多摩モノレールと西武拝島線の2路線が乗り入れる、玉川上水駅から徒歩3分と交通の利便性が高いため、東京都内はもちろん、埼玉県や神奈川県から通学する生徒も少なくない。
高校単独で、難関大進学を目指せる私立高校は、都内において数えるほどしかない。単独校のメリットとはどのようなものだろうか。同校入試部長の栗原勲先生に話を聞いた。

拓殖大学第一高等学校 入試部長栗原勲先生(地歴公民科)
「中高一貫校へ高校から入学する際に懸念されることは、中学校からの入学生とのギャップだと思います。友人関係やカリキュラムの進度など、様々な面で差が出てしまう懸念があります。高校単独校としての一番の強みは、中学校まで公立校で普通に過ごしてきた子たちが、みんなと同じスタートラインで高校生活を始めることができることです。」

拓大一高はとくに東京西部では受験生やその保護者から圧倒的な人気を博しているがその理由について、栗原先生はこう話す。
「もちろん一定の進学実績を有していることは理由の一つかもしれません。しかし、勉強だけではなく部活動や学校行事も楽しくやれる。高校3年間をしっかりと充実したものにできると感じてもらえることが最大の理由ではないでしょうか。部活動の加入率が8割を超えているのも、『勉強も真剣に取り組みたいが部活も頑張りたい』層のニーズに本校がマッチしているからでしょう」
文武両道を重視している拓大一高だが、その根底には「普通の学校をめざす」というコンセプトがある。「普通の学校」とはどのような思想なのだろうか。
栗原先生はあっけらかんと言う。
「意外に思われるかもしれませんが特別なことは一切しないということ。特別な授業をするわけでなく、当たり前のことをこなしていれば学力は十分身につきます。部活動の場合もそれで結果がついてきます。また、学校行事をみんなで協力して行うことで協調性など、社会に出てから必要になる人としての基礎力が身につくと考えています。こちらとしては高校生活を充実させるための材料をバランスよく揃えてみなさんを待っているつもりです」

勉強、部活、学校生活と貪欲に二兎も三兎も追う姿勢。一人ひとりが自分の生活を集中して過ごすため短い3年間ながら6年間の中高一貫校に負けない進学実績を上げている。もちろんその裏では生徒の努力を最大限効率よく活かすための工夫もあるはずだ。続いて、学校の制度設計や学習支援の取り組みについても聞いていきたい。
難関大を視野に入れるコース編成と合格実績
25年度入試の合格実績を見てみると、国公立大39人、早慶上理(早稲田大、慶應義塾大、上智大、東京理科大)58人、GMARCH(学習院大、明治大、青山学院大、立教大、中央大、法政大)309人と高い実績を上げている。特にGMARCHは初の300人越えとなっていて、栗原先生は「ボリュームゾーンのレベルがだんだん底上げされている」と話す。
難関大入試には6年制の中高一貫校が有利と言われているが、単独校である拓大一高は半分の3年間で成果を出さなくてはならない。しかし、3年間を大学入試のための勉強だけに充てるのでは、前述の「充実した学校生活」は送ることは難しい。拓大一高は柔軟なコース編成やカリキュラムを用意しており、生徒たちは効率よく学習し、志望する大学への合格を目指すことができる。
1年次は「特進コース」「進学コース」の2コースで基礎学力の充実を図り、2、3年次には文系・理系の志望分野ごとに6系統のコースに編成される。
進学コースは私立大への進学に重点を置いたカリキュラムで編成されていて、入試で必要な科目に焦点を当てて学ぶことができる。このコースの狙いについて栗原先生はこう話す。「最終的に必要な科目に特化して勉強できるという仕組みのコース編成がGMARCH合格者増加の結果に繋がっているのではないかと思います」
特進コースは国公立大や早慶上理などの最難関私立大を目指すカリキュラムだ。最難関私立大の入試に対応する科目を必修としたうえで、志望大学に合わせて受講科目を選択できる。これにより、国公立大受験において重要な大学入学共通テストも6教科8科目の対策が可能となっている。

授業以外の学習をサポートする環境も充実している。放課後に開催される「校内予備校」では年間を通してスケジュールが組まれており、実績のある講師陣による講義を受講することが可能だ。栗原先生は「週6日部活に打ち込む生徒が、休みの日に塾などに行かずに、授業後すぐに予備校の授業が受けられる」と、高校生活を充実させながらも効率的に受験対策ができる点を説明する。
取材が終わった放課後のエントランスホールを見渡してみると、自主的に学習する生徒も多数みられ、校内の様々な場所に学習環境が整っていることが伺えた。
拓大一高の進路指導は教師が生徒を引っ張るのではなく、生徒が自分で考え、決めることを重視する。年間で2回にわたり面談強化週間が設けられており、担任がクラス全員と深く向き合う時間をつくっている。この取り組みについて栗原先生はこう話す。「こちらがするのはあくまで情報提供で、最終的に判断するのは生徒自身です。教師が『君はこういう成績だからこっちの進路の方がいいんじゃないか』と決めつけるのではなく、生徒自身が考える。悩んでいたら、その悩みに対する答えをいっしょに考えて、頭の中を整理する作業を手伝ってあげるのが役目なのかなと考えています」

生徒が主体性を持って物事を考える姿勢は部活動にも活きているようだ。顧問が指定したメニュー以外にも部員自らが「私たちはここが苦手なので、こういう練習をしたいんですけど」といった相談もあるという。栗原先生は「自分たちで考えて解決策を模索する姿勢が、部活動や勉強に活きてきている」と語る。
英語へのハードルを下げる国際教育の取り組み
拓大一高は国際理解教育にも力を入れており、1年生全員を対象とした3日間の「ディスカッションプログラム」を実施している。期間中は日本語を一切使用せず、外国人講師の指導のもと、英語でディスカッションを行い、最終日には英語で発表をする。
この取り組みの狙いについて栗原先生はこう説明する。「英語を喋ることは大変と感じるかもしれないですけど、意外とハードルは低くない。勇気を持って喋ればいいんだということに気付いてほしい」
この取り組みを通じて生徒は「自分にもできた」という原体験を得る。この経験が、その後の大学受験に向けた英語学習へのモチベーションにつながったり、英語をさらに学ぼうとするきっかけになったりするのだ。単に知識を教えるだけでなく、生徒の自信と自発性を育む、拓大一高ならではのプログラムである。
文武両道の学校生活を支える環境で、仲間と切磋琢磨する3年間
拓大一高が目指す「普通の学校」とは、単に勉強か部活動の一方に特化するのではなく、生徒が学校生活のすべてに真剣に取り組むことのできる環境だ。中高一貫校とは異なる高校単独校の強みを活かし、生徒全員が同じスタートラインから高校生活を充実させることのできる環境が、拓大一高には揃っている。
現在、拓大一高を第一志望として選ぶ生徒が大幅に増え、単願での入学者が過半数を占めるまでに至っている。これは、充実した高校生活と確かな進学実績という両面を求める高校受験生の期待に、拓大一高が応え続けている証拠だろう。さらに、国の就学支援金制度や東京都の授業料軽減助成金が充実したことも、大きな後押しとなっている。東京都在住の生徒であれば、授業料が実質無償となるなど私立高校でありながら、家計の負担を大幅に軽減し、質の高い教育が手に入る状況だ。高校選びに迷っている受験生は参考にしてほしい。

