北海道東部の中核都市・北見市に1966年に開学した北見工業大学。日本最北の国立大学であり、敷地面積18万5千㎡のキャンパスでは、学部生と大学院生を合わせて約2千人の学生が学んでいます。2022年には小樽商科大学、帯広畜産大学とともに北海道国立大学機構(❶)を構成し、第一次・第二次・第三次産業に関連する学習環境を網羅。文理融合型の新たな教育体制の確立が模索されています。工学系単科大学である北見工業大学単独では、2026年度に現在の工学部1学部2学科体制から、先進工学科の「1学科複数分野制」へと改組され、デジタルスキルと工学的なスキルを兼ね備えた人材育成に注力していく方針です。
①北海道国立大学機構
正式名称は、国立大学法人北海道国立大学機構。北見工業大学、小樽商科大学、帯広畜産大学の3つの国立大学法人の統合によって設置。2018年の基本合意の後、2022年4月1日に正式に発足した。
榮坂俊雄学長
1987年北海道大学大学院工学研究科電気工学専攻博士課程修了(工学博士)。同大学工学部助手や米国ノートルダム大学客員助教授などを務め、1992年に助教授として北見工業大学に着任後、2007年に教授。副学長などを経て2024年より現職。
段階的に専門性を高める1学科4分野9ユニット
周辺に4つの国立公園が広がる雄大な自然環境のもと、「自然と調和するテクノロジーの発展」をテーマに、「人を育て、科学技術を広め、地域に輝き、未来を拓く」という理念を掲げる北見工業大学。現在は工学部に地球環境工学科と地域未来デザイン工学科を持つ1学部2学科体制ですが、2026年4月には「1学科複数分野制」へと改組されます。
改組後は、文部科学省から認定を受けた「数理・データサイエンス・AI教育プログラム」を1年次の「全学共通基礎教育科目」に位置づけて必修化。工学とデータサイエンスの知見を駆使して社会課題を解決に導く人材育成に重きが置かれます。また、2年次以降の専門的な学びに移行するための導入科目も幅広く設けられるほか、工学技術者に求められる倫理観なども「リベラルアーツ科目群」で身につけます。2年次になると、4つの専門分野から一つを選択。「専門分野コア科目」で興味・関心に応じた知識を修得し、各分野の専門人材に成長するための土台を形成します。3年次になると、主に分野別に設けられた合計9つのユニットから一つを選択し、先進的な「ユニット発展科目」を履修。専門性を高め、4年次から所属する研究室での卒業研究につなげます。
専門的かつ実践的な問題解決能力を磨く
2年次に選択できる1分野目は「情報エレクトロニクス分野」。高度情報通信社会を支えるソフトウェアやハードウェア、通信技術などを扱い、3年次からは「情報工学・宇宙理学ユニット」に移行。銀河天文学や音響工学、ホログラフィ、バーチャルリアリティなど、興味に応じて専門的な学びに臨みます。
「機械・エネルギー分野」では、設計生産システムや知能・生体システム、熱・流体エネルギーなど、各分野の発展と融合による機械システムの高度化や、カーボンニュートラルの実現などがテーマ。「再生可能エネルギーと電力システム」「水素エネルギーと蓄電材料」「省エネルギーと半導体」といった異分野の知識を統合し、複雑なエネルギー分野における問題解決能力を養います。3年次からの「機械システムユニット」では、自動車や船舶、航空機などの産業を中心に、ロボット技術や機械設計、バイオメカニクス関連の技術を磨き、「エネルギー工学ユニット」では、次世代型の蓄電システムや半導体技術、カーボンニュートラルに向けた技術を磨きます。
「社会基盤・環境分野」では、人々の安全・安心・快適な生活を支える社会基盤の整備や防災・減災のほか、持続可能な社会を実現する自然環境の保全や気候変動対策などがテーマ。3年次からの「環境防災・インフラユニット」では、まちづくりや環境保護・保全、防災・減災に貢献できる人材を育成し、「雪氷理工学ユニット」では、雪氷リモートセンシングやメタンハイドレートなどに関する技術力を高め、積雪寒冷地である北海道ならではの気象災害対策で活躍できる人材を育成します。
「応用化学・生物分野」では、省エネルギーに関する新素材開発や、医療に貢献する新素材開発、デジタル社会を支えるナノテクノロジーや材料技術の開発をはじめ、物質化学や材料工学、生命化学、食品工学、食品科学の応用などを想定。3年次からの「マテリアル・半導体ユニット」では、ナノテクノロジーやグリーンケミストリー技術を駆使した医療材料やエレクトロニクス材料の開発などに挑戦し、「生命化学・食品科学ユニット」では、有機化学や植物科学、食品科学分野の知見を生かす技術力向上を目指します。
なお、3年次からのユニット型教育では、2年次に選択した分野を問わない2つのユニットも設置されます。「データサイエンスユニット」では、AI技術やシミュレーション技術、ロボット技術、言語処理技術などの社会実装に向けた実践力を育み、「マネジメント工学ユニット」では、社会連携や地方創生といった文理融合型のテーマに挑戦でき、学生の幅広いニーズに応えます。
学部の段階で大学院の高度な学びに触れられる
専門的な学びの成果を実社会での活躍につなげるために、北見工業大学ではキャリア支援も充実。キャリアアップ支援センターによる「進路選択ガイダンス」や、就職担当教員による個別の就職相談をはじめ、さまざまなプログラムが実施され、2025年3月に卒業した学部生の就職決定率は100%を記録しました。
一方、大学院博士前期課程への進学率は、例年工学部の全国平均を上回る40%強。修了後は高度な専門性を備えた人材として研究職の第一線へと歩みを進めています。近年は大学院改革(❷)も進められ、博士前期課程では2026年度に「データサイエンスプログラム」の新設も予定しています。学部3年次の「データサイエンスユニット」が、2年次の分野を問わず選択可能なことと同様に、同プログラムも学部での専門分野にかかわらず進学できます。
②大学院改革
博士前期課程では2023年4月に「マネジメント工学プログラム」が新設され、従来からの「機械電気工学プログラム」「応用化学プログラム」「社会環境工学プログラム」「情報通信工学プログラム」と合わせて1専攻(工学専攻)5専修プログラムへと改組された。
また、学内には「地域循環共生研究推進センター」「冬季スポーツ科学研究推進センター」「オホーツク農林水産工学連携研究推進センター」「地域と歩む防災研究センター」が設置されており、それぞれが持つ知見を大学院での研究に生かすことで、専門性の向上が期待できます。しかも、学部生でも4年次に大学院科目の先行履修(❸)が可能であり、高い学修効果が期待できます。
③大学院科目先行履修
4年次後期から博士前期課程で開講されている「専修プログラム専門科目」を履修可能。修士論文の執筆に向けた指導も受けられる。
向学心と好奇心に応える入試制度と学内環境
北見工業大学の入試では、一般選抜の前期・後期や、学校推薦型選抜が実施されるほか、特徴的なのは総合型選抜。「第一次産業振興枠」は、農業や林業、水産業など、第一次産業が抱える課題を工学技術やマネジメントの視点で解決し、産業の活性化を担う人材を育成するためのもの。「冬季スポーツ枠」は、カーリングとアルペンスキーにおけるプレーヤーとしての競技力向上や、指導者・研究者としてのスキルアップを目指す学生が対象。在学中は積雪寒冷地における健康維持・増進や、スポーツによる地域活性化のために新たな産業を生み出す力も養います。
また、「ユニット確定枠」は、3年次のユニットを入学時に確定させ、集中的かつ効果的に専門知識や技術を身につけるための選抜枠。学びたい内容や将来像が明確な受験生が主な対象として想定されています。さらに、この「ユニット確定枠」では「女子特別枠」も設定。北見工業大学では、2021年に12.5%だった女子志願者が、2023年に14.7%、2025年に15.7%と右肩上がりで推移しており、入学後に宇宙開発サークルやロボコンチーム、環境保全の学生団体などで活動する学生もいます。学生約5名に対して教員1名を個別担任とし、学業面から生活面まで幅広くサポートするアットホームな校風も魅力であり、キャンパス内に男子寮と女子寮も完備。学生同士の交流に利用できる「コミュニケーションアトリウム」や、学生が誰でも利用できる工作施設「ものづくり工房(❹)」など、充実の環境が学生を支えています。
④ものづくり工房
3Dプリンターや高速旋盤、卓上精密旋盤、卓上フライス盤、卓上ボール盤、コンターマシン、ブラストマシンなどが揃い、研究活動のほか、サークル活動などで利用することも可能。経験豊富な技術職員も常駐する。