広大なワンキャンパスに、文理芸の学問領域9学部21学科と大学院、短期大学部を有する総合大学・九州産業大学。2025年に創立65周年を迎え、「次代を描く感性、世界を動かす実践力」のブランドメッセージのもと、改めて世界で活躍する人材の育成や社会課題の解決に貢献する研究成果の創出へと歩みを進めている。
そうした中、2026年、同大学の理工学部が生まれ変わる(※)。理工学の学びと社会をつなげる「スマートコミュニケーション工学科」「機械電気創造工学科」の新設など、これまでにないアプローチで、技術で社会課題を解決する人材の育成を目指す。学部改組の背景と意義、そして今後のビジョンについて、理工学部長の牛見宣博先生にうかがった。
※記載の内容は届出中のものであり、変更の可能性があります。
理工学部長 牛見宣博 教授
―来年度に予定されている理工学部の改組につきまして、まずはその背景を教えてください。
本学に理工学部が新設されたのは2017年のことです。それまでは「機械」と「電気」が中心だった社会に、それらをつなぐ「情報」が加わった情報メカトロニクス時代の到来に向けて、情報科学科、機械工学科、電気工学科の3学科でスタートしました。loTやAIなど当時としてはかなり先駆的な学びに取り組みながら、世界や地域社会で活躍できる技術者の育成に努めてきました。状況を大きく変えたのは、2020年からのコロナ禍です。オンラインでの授業や会議が社会全体に一気に取り入れられるなど、情報科学技術の進化と普及にはめざましいものがありました。それによって理工学分野にも大きな流れが生まれます。世の中から求められる「技術」の役割が、新しい製品を生むモノづくりだけではなく、人と人とをつなぎ、社会を豊かにするしくみづくりへと広がりました。そうした世の中の変化に柔軟に対応するために、私たちは技術をベースに人や社会をつないでいく新たな理工学部の立ち上げを決意したのです。
「感性」を大切にした理工学の学びを進めたい
―新理工学部が目指す教育について教えてください。
本学の新たなブランドメッセージ「次代を描く感性、世界を動かす実践力」にもある通り、理工学の学びにおいても、感性を磨き、他者の心に訴えかけることができる技術者を育てたいと思っています。「理工学」と「感性」というと相容れないように思われるかもしれませんが、私たちが理工学の技術によって創り出すものは、すべて人と関わってくるものです。生み出す技術のその先にいる人や社会を思い描くような新たな理工学教育に挑戦していきたいと思っています。
―新設される2つの学科には、そうした思いが込められているのでしょうか。
新設される2つの学科のうち、機械電気創造工学科は従来の機械工学と電気工学を融合した学科です。自動車やロボット、スマートフォンなど、今の時代のモノづくりには幅広い専門分野の知識と技術が複合的に必要です。そうしたニーズに対応するために、ハードウェア部分の中核となる機械と電気の両方のスペシャリスト育成を目指します。
そして、まったく新しく始まるスマートコミュニケーション工学科は、まさに先ほどお話した、技術で人と人をつなぐ、人と社会をつなぐ、社会と世界をつなぐための学びに取り組みます。例えば、新たなスマホをつくろうとした時に、どんな機能が求められているのかといったニーズを見つけ、使いやすいデザインを設計するなど、情報科学や機械・電気工学の技術者とユーザーをつなぐテクノプロデューサーの育成を目指します。同時にAIやデータサイエンスを活用するスキルも充実させ、社会課題の解決にも取り組んでいきたいと考えています。
社会の「今」を知り「未来」に向けて学ぶ
―理工学部で「コミュニケーション」という言葉を学科名に入れて打ち出すのは、かなり新しい試みですね。
全国の大学でもまだ多くはないですね。社会の動きに応じたものなので、カリキュラム等で取り入れている大学はもちろんあると思います。本学でも文理芸を融合させた総合大学として、これまでも学部横断で芸術学部とのプロジェクトを進めてきました。また理工学部内でも今年度から「SMArtFusion」と名付けた科学(Science)、モノづくり(Mono)、デザイン(Art)を融合させた学部共通プログラムで、課題を発見し、解決のためのアイデアをカタチにする取り組みを始めています。このプログラムは継続しつつ、スマートコミュニケーション工学科を開設することで、技術と人や社会をつなげる、理工学における新たな分野を開拓していきたいと思っています。
―今の世の中だけでなく先を見据えた改組なのですね。
来年度に理工学部に入学した学生たちが卒業して社会で働き始めるのは2030年です。それを考えると、今、動かなければ次代の社会のニーズに対応することができません。今後も社会の変化に即して、アップデートしていきます。
―最後に高校生に向けてのメッセージをお願いします。
男女を問わず、小学生の頃は理科が好きだった人も多いと思います。また、図画工作など手を動かして何かをつくることが好きだった人も多いのではないでしょうか。もし、「難しそう」というイメージだけで、理工学部を避けてしまうのはとてももったいないことです。新しいことを知るのが好きな人、自分で何かをつくることが好きな人、自分がおもしろいと思ったことを突き詰めたい人、そういった人たちにとって本学の理工学部はきっと「楽しい」学びの場になります。
何より機械や電気、情報科学といった技術は、私たちが生活しているこの社会を支えています。手のひらサイズのスマホから電気水道通信といった社会全体のインフラまで、すべて理工学の技術によってつくられているのです。身近であり、決して欠かすことのできない「技術」について、興味と関心をもってもらえると嬉しいです。そして、この先、それらをつくるのは皆さんの役割になります。皆さんが生きる未来の社会を、皆さん自身の手でより良いものにしていってください。
クリエイティブセンター「コラボリウム」を新設
2025年4月に新設された専門分野の異なる学生が集まり、自分たちのアイデアをカタチにするための創造スペース「コラボリウム」。最新の3Dプリンターや加工機械を設置しており、SMArtFusionプログラムの講義や実験実習、プロジェクト活動を行う拠点となっている。