やりたいことがみつからない―。
ある女子高生からの相談で考えたこと
高校生にもなって進路が決められないって、変ですか?
「将来やりたい仕事が、まだ決められないんです」
大学受験に関する情報発信をしていると、中高生から進路について相談されることがあります。その一定数を占めるのが大学選びのもっと手前に位置する、こんなお悩みです。今の生徒は小学校からキャリア教育が行われていて目指す職業に向けて学部・学科を選択することが常識とされているんですね。だからこそ彼らは「決められない自分」に焦りや不安、(時に罪悪感さえ!)感じていたりします。
では早々に将来の目標を決めて大学や学部を選ぶのが最善なのかというと、私は必ずしもそうとも言えないと思います。なりたい自分や就きたい職業から逆算する進路選択は、一見効率が良くてムダがない。コスパもよく見える。でも、そもそも「その常識」は正しいのでしょうか。無理して世の中の?誰かの?価値観に自分をあてこんでいませんか。たとえキャリア教育を受けていたとしても高校生の時に想像できる職業なんて限定的ですし、ちょっと前を振り返っても変化のスピードが猛烈に早い現代では、10年後の職業やどんな人材が欲しいかという企業の人材ニーズが様変わりしていることなんてザラです。
とは言っても、学ぶ分野が決まらなければ大学選びが進まないのも事実。そんなとき、同じ悩みを抱えるみなさんにぜひ選択肢に入れてほしい学部があります。意外かもしれませんがそれは「文学部」です。文学部というと、たしかに文化的なことも読書も好きだけど。「学んだことをどう活かすのかわからない」「就職に直結しない」というイメージをお持ちの方が多いかもしれません。
でも文学とは言語、文化、歴史などを幅広くカバーする「人文科学」という立派な学術分野のひとつ。あらゆる国の、歴史、文化、そして当時の政治・経済・社会といった複雑な軸のなかで人間とその営みの普遍性を学ぶ、じつは奥深い学問なのです。つまり文学を学ぶということは、自分の中に「時代がどんなに変わろうと揺るがない判断基準を持つ」ということ。ある意味一番柔軟であたらしい。「柔軟に考える武器」を手に改めて自分自身、社会、職業について考察を深めていくことで皆さんの将来の可能性はもっと具体的に広がっていくことでしょう。
思ったより幅が広い文学部。
自分の「好き」を掛け算でつくる
そして文学部本来の学びに、キャリアプランに合わせて資格を取得したり、専門分野以外の学びを領域横断で掛け合わせたりと、独自のカリキュラムを提供する大学も出てきました。東京都調布市にある白百合女子大学文学部も、2025年度から新カリキュラムをスタートする大学のひとつです。
国語国文学科、フランス語フランス文学科、英語英文学科の3学科を擁する同学部では、卒業に必要な単位数のうち各学科の専門科目が占めるバランスを見直し、自由に選択できる単位数を拡大。「専門強化」「キャリア形成」「資格取得」の3つカテゴリーに分かれた合計20ものプログラムの中から、自分の興味・関心に合わせて幅広い分野の学びを組み合わせることができるようになったのです。
・専門を深めるプログラム
「国語国文学科スペシャリストプログラム」「フランス語特別強化プログラム」「オールイングリッシュプログラム」の3つを用意。高いレベルの語学力を習得するとともに3学科の専門性を高めるべく多彩な授業が展開されています。
・キャリアとライフ・デザインのためのプログラム
最先端のデジタル技術やAIと文学との関係について学べる「デジタルリテラチャープログラム」、ホテルや航空会社などホスピタリティ・ツーリズム業界を目指す学生向けの「ホスピタリティ・マネジメントプログラム」など、幅広い学びの領域をカバーした11のプログラムが用意されています。
・資格取得を目指すプログラム
「中学・高校教員免許取得プログラム」「登録日本語教員養成プログラム」「TOEIC対策プログラム」など、6つのプログラムで専門職に就くための知識を実践的に習得します。
たとえば具体的には決まっていないけど「海外で働いてみたい」という憧れがあるなら、「グローバルビジネスプログラム」でビジネススキルを習得しながら海外インターンシップを経験することも可能。並行して「社会課題プログラム」でSDGsなどグローバルな視点で社会課題に目を向けていけば、将来関わっていきたい分野をじっくり探すことができるでしょう。
少し変わった領域では、ミュージカルや演劇を見るのが好きな人や、国語国文学科で学ぶうちに歌舞伎や能に興味が出てきたという人は、「舞台芸術実践プログラム」で日本・フランス・イギリス・アメリカの舞台芸術や演劇を学ぶこともできます。そこに「複言語・複文化海外研修プログラム」を組み合わせることで、海外研修のなかで多様な言語と文化を体験して、舞台芸術をより深く探求することができるのです。演出、脚本、美術、衣装など、学びの中から意外な仕事につながっていくかもしれません。
このように新カリキュラムでは、まず「好きなこと」「興味・関心のあること」を学んで自分の世界を広げて、掛け算で可能性を広げていけます。従来のような学科のボーダーも存在しないため、自分オリジナルの学びを構築することができるようになりました。
悩ましい学びとキャリア(人生・就職etc)とのバランス
しかし「好きなこと」を自由に学べるいっぽうで、どのように将来の就職やキャリアに結び付けていけばいいのか、不安に感じる学生も多いはず。そこで白百合女子大学の文学部では、学びと将来に向けたキャリアの両面で学生がバランスよく成長できるよう「Wアドヴァイザー制度」を採り入れています。
これは学生1人に対して「学び」をサポートする「アカデミック・アドヴァイザー」(教員が担当)と「キャリア」をサポートする「キャリア・アドヴァイザー」(職員が担当)の2名がついて、将来の方向性を一緒に見つめながら学びをコーディネートしてくれる制度です。
「この分野に興味があるなら、関連しているこのプログラムを学ぶと理解が深まるよ」
「将来この方面に進みたいなら、この資格を取っておくと有利だよ」
こんな風に、入学から卒業まで寄り添って伴走してくれる大人が2人もついてくれるなんて、保護者にとっても心強いですよね。ひとりひとりの個性や適性に応じてきめ細やかなサポートを行ってくれるので、納得いく進路を見つけていくことができそうです。すべての学生と丁寧に向き合い、大切に育てていこうという最近の大学の姿勢がこうした取り組みにもよく表れていますよね。
最初はみんな何者でもない
頑張るうちにカタチができて行く
ちなみに今回ご紹介した白百合女子大学文学部の新カリキュラムは、「領域横断型チャレンジ履修」と呼ばれています。
そんな白百合女子大学文学部の就職率を見てみると、国語国文学科で98%、英語英文学科で99%、フランス語フランス文学科で100%という素晴らしい結果が出ています。就職先も卸売・小売業、教育関連、情報通信関連、運輸業関連、医療系関連など、驚くほど多彩でした。さらには就職決定先満足度が95%というデータからも、ほとんどの学生が納得した就職活動ができていることがわかります。
<文学部 主な卒業後の進路(2023年度卒業生)>
【卸売業、小売業】伊藤忠商事株式会社/ルイ・ヴィトン ジャパン株式会社/日本ロレアル株式会社/株式会社SKY GROUP/クリスチャンディオール合同会社/ブルガリ・ジャパン株式会社/株式会社ファーストリテイリング/富士フイルムグラフィックソリューションズ株式会社
【運輸業、郵便業】全日本空輸株式会社/日本航空株式会社/スカイマーク株式会社/株式会社Kスカイ/株式会社住友倉庫/東京国際埠頭株式会社/株式会社JR東日本サービスクリエーション/株式会社ジェイエア/澁澤倉庫株式会社
【宿泊業、飲食サービス業】ザ・リッツ・カールトン東京/ブルガリホテル東京/株式会社ザ・キャピトルホテル東急/株式会社セルリアンタワー東急ホテル/株式会社ニュー・オータニ/三菱地所ホテルズ&リゾーツ株式会社/星野リゾートグループ
【情報通信業】伊藤忠テクノソリューションズ株式会社/Sansan株式会社/レバレジーズ株式会社
【金融業、保険業】日本生命保険相互会社/株式会社商工組合中央金庫/株式会社横浜銀行/株式会社みずほフィナンシャルグループ/三井住友トラスト・ローン&ファイナンス株式会社/損害保険ジャパン株式会社/大和証券株式会社/東京海上日動火災保険株式会社
【教育、学習支援業】東京都教育委員会(中学校)/千葉県教育委員会(中学校)/千葉県教育委員会(高校)/茨城県教育委員会
【学術研究、専門・技術サービス業】アンダーソン・毛利・友常法律事務所/伊藤忠人事総務サービス株式会社/株式会社電通デジタルアンカー
【公務】江東区役所/船橋市役所/市川市役所(行政職)
いまはまだやりたい仕事が選べなくても、さまざまなことを見て、学び、経験しながら頼れる教職員と共に将来のことを考えていける大学。まだ進路を決められない高校生には、そんな「文学部」という環境の選択があってもいいのかもしれない――。そして最終的にはなんでも自ら選んで決めていける――。“一生モノの自分”になって欲しいと願っています。