多様なフィールドで活躍できる人材を育成
立正大学法学部のフィールドワーク
立正大学法学部では、教室で学んだ知識を活かして、実際の社会で活躍できる人材育成を目指し、実践的なフィールドワークを積極的に行っている。民間企業や公務員など、様々な人脈を駆使し、多くのフィールドワークの開拓を続ける。フィールドワークの詳細について、法学部の西谷尚徳准教授に話を聞いた。
-座学中心という印象が強い法学部で、フィールドワークを実践する意義についてお聞かせください
座学が中心というイメージが強い法学部でフィールドワークを実践する背景には、学生の進路が多様化しているという現状があります。
従来の公務員志望だけでなく、民間企業やその他の分野に関心を抱く学生も増えています。こうした多様な学生のニーズに応えるためには、座学で得た知識を活かし、法学の世界にとどまらない、社会の現状を肌で感じてもらうことが重要だと考えました。
私が担当する公務員・民間企業のフィールドワークでは、公務員や民間企業を志望する学生に対して、実際の職場を体験し、仕事内容ややりがいを理解してもらう機会を提供しています。これは、単なる知識の習得だけでなく、将来のキャリアを考える上で貴重な経験となります。
フィールドワークでは、学生が企業や官公庁の職員と直接交流し、仕事について本音で語り合う機会を設けています。一般的なインターンシップとは異なり、より深く自分自身のキャリアについて考えることができる点が特徴です。
このように、フィールドワークは、単なる座学にとどまらず、学生が自ら考え、将来のキャリアを設計するための実践的な学びの場となっています。いわば、インターンシップの枠を超えた、本当の意味でのキャリア形成・キャリア教育と言え、それが、フィールドワークを実践する意義なのだと思います。
-今回の「食」に関するテーマを取り上げた経緯について教えてください
この度の「食」に関するテーマを取り上げた経緯は、農林水産省からの提案がきっかけでした。農業や食物、栄養に関する学部にとどまらず、幅広い学問分野で「食」を深く掘り下げる企画の提案をいただいき、私としては「よし!きた!」という感じでした。
例えば法学部という括りで見てみたときに、「食」と「法律」がどう繋がっているのかといった事は、我々が気付きを与えてあげないと、学生はなかなか気づきません。令和4年に施行された「みどりの食料システム法※」にしましても、食と農に関するところで「なんで法律なのか?」から始まり、その場で色々と学ぶ過程で、古くから食に関する法律が定められていることの必然性について、現場で経験することによって、初めて気づくことになります。このように、「食」が、法学部として関わりやすいテーマという事が分かっていたことが今回取り上げた経緯になります。
さらに、学問分野の違う他大学も含めた学部と交流することで、より深く自分たちの学びについて考える機会を設けることができるというのも、取り上げたきっかけです。
-参加した学生の反応はどうだったのでしょうか
参加した学生の反応は概ね良好でした。特に2、3年生の学生からは、ゼミでの議論や知識共有の機会として非常に有意義だったという声が聞かれました。
また、農水省職員の仕事内容や、都市農業振興基本法といった具体的な事例に触れることで、自身の学びを社会と結びつけ、深い理解を得ることができたという声も聞かれました。
学生たちは、今回の参加を通じて、自身が学んでいる法学が、食料の生産や流通といった社会の重要な課題解決にどのように貢献できるのかを具体的にイメージできたようです。また、農水省職員との直接的な交流を通じて、公務員の仕事内容や、やりがいについても理解を深めることができたと話す学生もいます。このような場に、参加して、初めて理解できた事も多くありますので、それがフィールドワークの良さと実感しています。
今回の企画は、学生たちが自身の学びを社会と結びつけ、将来のキャリアを考えるきっかけとなることを意図していました。その点において、非常に有意義なものだったと考えています。
-フィールドワークの学習効果をどのように感じましたか
フィールドワークの学習効果となりますと、実は、我々も成績評価までは行うものの、具体的な効果の検証は進んでいません。ただ、卒業生から様々な声を聞く機会があります。
例えば、「思ってもみない経験ができた」「公務員への興味が深まった」といった肯定的な意見もあれば、「思っていた仕事と違った」といった意外な発見をした学生もいました。後者も、別の進路を考えるきっかけになったり、ゼミでの議論を深める材料になったりと、必ずしも悪いことばかりではありません。
また、農水省や品川区における公務員実務や民間企業など、様々なフィールドで経験を積むことで、学生はそれぞれのゼミでの研究に新たな視点をもたらします。さらに、他の学生と知識を共有することもできるでしょう。こうした効果は、通常の科目を通して得られる学びを超えた、大きなプラスになると考えています。
さらに、この科目は3年生に配当されている科目ですが、先輩から話を聞いたりして、興味を持った2年生が次の年に履修することも多く、縦のつながりが生まれています。これは、検証はできていませんが、学生たちの探究心や学習意欲を高める効果があると感じています。
-立正大学法学部には他にもフィールドワーク科目が多数ありますが、このほかのフィールドワークの概要を教えていただけますでしょうか
私が担当している、公務員実務(農水省・品川区)、民間企業以外にも、国会議員秘書会、矯正保護、社労士といった様々な分野でのフィールドワークを実施しております。
これらのフィールドワークは、学生の多様なニーズに応えるため、座学だけでは得られない実践的な経験を提供することを目的としています。例えば、国会議員秘書会では実際の政治現場を、矯正保護では保護施設での実務を、そして公務員や民間企業ではそれぞれの組織における業務を体験したりすることができます。
これらのフィールドワークを通じて、学生は法学の知識を社会でどのように活かしていくのかを学び、将来のキャリア形成に繋げていくことが期待されます。
-フィールドワークの今後の展開について先生はどのようにお考えですか
民間企業に関して考えているのが、企業との連携による課題解決型のフィールドワークです。従来のインターンシップにとどまらず、企業が抱える具体的な課題に対して、学生が解決策を提案するような、より実践的なインターンシップを推進したいと考えています。これは、学生が社会に出て直面するであろう課題の解決能力を養うとともに、企業にとっても新たな視点やアイデアをもたらすことを目的としています。
品川区との連携による新しい教育展開も考えています。品川区との教育提携を活かし、学生が地域の子どもたちに対して、バーチャル空間を活用した新しい教育プログラムを企画・運営するような活動も進めています。これは、学生が教育の現場で実践的な経験を積むとともに、地域社会に貢献できるような人材育成を目指しています。
農水省との連携により、地域課題の解決にフィールドワークを役立てたいという計画もあります。農水省や地域住民、農家など、様々な関係者との橋渡し役として、法的な知識を活かした課題解決に取り組んでいきます。特に、農家と行政との間で発生する課題に対して、学生が両者の立場を理解し、より良い解決策を提案できるような人材育成を目指しています。これらの取り組みを通じて、学生が社会に出て活躍するための基盤となる能力を養うとともに、地域社会の発展にも貢献したいと考えています。
これからも、社会で活躍できる人材の育成を目指し、継続的に効果的なフィールドワークを実施できるシステム構築を進めていきたいと思っています。
※みどりの食料システム法
環境と調和のとれた食料システムの確立のための環境負荷低減事業活動の促進等に関する法律
写真=今回お話をいただいた西谷先生、 当日も学生指導にあたりました