生徒の可能性を引き出して成長させる伝統の「男子教育」が、ワンキャンパス化でさらなる進化を遂げる–京華中学・高等学校
大学通信が実施する学習塾の塾長・教室長に実施する「首都圏のオススメ私立中学」のアンケートで、毎年多くの項目で高い評価を得ている京華中学・高等学校(東京都)。2022年に創立125周年を迎えた中高一貫私立男子校として、自律した生徒を育てる「男子教育」を実践し、多くの優秀な卒業生を送り出している。
24年度からは系列校である京華女子中学・高等学校、京華商業高等学校と共に、各校が独立しつつ同じ敷地で学ぶ「ワンキャンパス」もスタート。新たな挑戦への注目度も高い。
「伝統」と「進化」の男子教育を掲げる町田英幸校長に、同校の教育の特色と今後の展望についてうかがった。
適切な距離でしっかりと「見守る」ことが、生徒を成長させるカギ
-毎年、多くの項目でランキング上位となっています。今年は「面倒見が良い」、「入学時の偏差値に比べ、大学合格実績が高い」で1位、「生徒や保護者の入学後の満足度が高い」、「生徒や保護者に勧めたい」の項目では2位という高い評価となりました。
長年、変わらず評価をいただけていることに対しては、正直、とてもありがたいと思っています。中学受験の際に塾の先生に勧められて本校に入学した生徒や保護者の方々が、実際に「良かった」「満足している」という声を再び塾の先生に寄せていただいている結果だと思いますので、今後もその信頼に即した努力を続けていきたいと思っています。
-「面倒見が良い」では14年連続1位という快挙を成し遂げています。長年高い評価を得る京華の「面倒の良さ」とはどういったものなのでしょうか。
学校説明会等ではいつもお話をしていますが、本校が実践する「面倒見の良さ」は生徒の手取り足取り何でもやってあげるという内容ではありません。むしろそうした面では、敢えて手も口も出さないようにしています。小学校では先生や親が何くれと世話を焼いてくれましたが、中学校からは生徒には自分で考え、自分で行動する段階へと進んでいってもらいたいですからね。
本校の面倒見の良さとは、生徒をしっかりと見守り、成長のきっかけを見逃さないことです。中学から高校にかけての男子生徒は、ある日突然、ガラっと変わることがよくあります。特に中学2年生くらいが多いでしょうか。好きなことや夢中になれることを見つけて活発になっていく一方で、自立心が芽生えはじめ、自分の意志表示ができるようにもなっていく時期でもあります。そのため時には反発やトラブルにつながる場合もあります。そんな時に、保護者とは異なる視点と立場から、生徒を適切にサポートするのが私たちの役割です。保護者と連携を取りながら、生徒一人ひとりの成長へと導いていきます。また、中には大きな変化が様子に現れない生徒もいます。けれど、日々きちんと見守っていれば、小さな変化にも気づくことができます。
そうした、生徒一人ひとりに細やかに向き合う姿勢が、「面倒見の良さ」として評価いただいているのだと思います。
長年の男子教育の経験で、生徒を伸ばす適切な指導を実現
-「入学時の偏差値に比べ、大学合格実績が高い」の項目でも1位にランクインしています。生徒の希望する進路の実現のためにどのような取り組みをされていますか。
入学後に成績が伸びるのは、男子生徒の成長の特性を考えると自然な流れです。中学受験は、どちらかといえば保護者の意向が強く反映されがちです。それはまだやりたいことが見つかっておらず、なかなか自発的には勉強できなかったり、将来を考えて学校を選ぶことが難しかったりするためです。先の「面倒見の良さ」につながりますが、毎日の勉強や課外活動といった学校生活の中で、成長のチャンスを掴むことができれば、男子生徒はぐぐっと伸びるのです。
成長に必要なのは、成功体験と失敗を乗り越える力です。私が以前担任をしていた生徒は、成績はほぼ学年最下位でした。けれど、中学3年生の時に彼が得意なスピーチ力で弁論大会に出場することになり、一念発起して努力して挑んだ結果、なんと優勝。やればできると自信がついたことで、大学でやりたいことを真剣に考えるようになって、勉強にも本気で取り組むようになり、東京理科大学に合格しました。
何でも構わないのです、短期間でもいいのです。必死で努力する経験をまずしてほしい。希望通りの成果が得られれば大きな自信になりますし、もし一度失敗しても、やり遂げたことが次の挑戦への原動力になります。勉強以外のスポーツでも芸術でもなんでも、全力で取り組む経験をした生徒は、大学受験でもすごい力を発揮します。事実、部活を引退まで頑張った生徒の多くは、ラストスパートで大きく伸びて希望の大学に合格していますからね。私たちは、生徒自身が気づいていない長所や可能性を見つけて、きっかけを与えたり背中を押したりするだけです。
-コース制や学習支援体制といった、具体的な教育プログラムについても教えてください。
本校は、中学で特別選抜クラス・国際先進クラス(中2から)と、中高一貫クラスの2クラス制、高校でS特進コース、特進コース、進学コースの3コース制を取り入れています。中高6年間を2年ずつ基礎ゾーン、発展ゾーン、大学受験対策として位置づけ、段階的にステップアップするプログラムを展開しています。いずれも、生徒本人の希望や意欲、成績に合わせての編成となり、各自が目指す進路をきめ細かくサポートしています。ここ数年、難関国公立を目指して特別選抜やS特進を希望する生徒が少しずつ増えてきました。学習意欲の高い生徒がいると、その学年全体のモチベーションが上がっていきますから、今後が楽しみですね。同時に、特別選抜やS特進を希望する生徒をもっと増やしていきたいと思っています。
学習支援制度については、「学校完結型」の手厚いサポートの数々があります。例えば、夏休みには、中学1年、2年生を対象に学力の底上げを目指す中学夏期講習、中学3年生と高校1年生には各自の実力を伸ばす勉強合宿、高校2年生と3年生には大学進学に対応した内容の夏期講習など、学年ごとの必要に応じた内容の講習会を開講しています。日常の学習支援として放課後の補習指導も丁寧に行なっています。高校3年生には目標大学に合わせた30以上の受験対策講座を実施しています。6年間一度も予備校に通わず、早稲田大学などの難関私立や一橋大学などの国立大に合格する生徒もいます。受験指導には教員全員が一丸となってあたっており、生徒と世代が近い若い先生方が共に成長していく姿に頼もしさを感じています。
本校は土台を丁寧に築くために先取り教育は実施していません。焦らずじっくり基礎を学ぶことが、最終的に伸びる力へとつながっています。
ワンキャンパスで大きく広がる可能性
-来年度から、男子校、女子校、商業高校の3校がワンキャンパスに集います。どのような変化が期待できますか。
中高男子一貫教育という本校の基軸は変わりません。中高6年間を通して男子生徒を大きく成長させる男子教育の意義と成果は、本校の長年の実績が裏付けています。その上で、研修などを通して3校が交流することで、多様性に触れる機会が増えていくでしょう。男子教育を全うしつつ実学教育や女子教育の良い部分をうまく取り入れていけるといいですね。既に先行するかたちで、今年度の夏季海外研修プログラムを本校と商業との合同で行いました。生徒たちも和気藹々と楽しそうでしたね。来年度も、規模も大きくして実施する予定です。
新しい体育館、校舎、図書館など施設面も大きく刷新しますから、生徒たちがより過ごしやすい学習環境も提供できます。生徒も教員も楽しみにしていますよ。
ワールドワイドな社会勉強で、グローバルな感覚を身につける
-最近のトピックスや今後の取り組みについて、教えてください。
海外スタディツアーを企画中です。これまでも中学3年生全員が参加するシンガポール研修旅行や国際先進クラスのセブ島語学研修、中学2年生から高校2年生の希望者が参加するオーストラリア夏季海外研修プログラムなどを実施してきました。企画中のスタディツアーは、ベトナムなどアジア圏の国で、企業見学や社長の講演会、大学生との共同プログラムなど、語学以外の学びの要素を多く取り入れたいと考えています。海外での社会勉強ですね。
コロナ禍による渡航制限で、本校でも一定期間、海外への留学や研修旅行が中止になってしまいました。今の中高生は、家庭での旅行をふくめて海外に行ったことがない生徒が非常に多い。ですから、まずは、海外に行く機会を増やしたいというのが、このスタディツアーの目的です。さらに今、勢いがあり、どんどん成長しているアジアの国を肌で感じることで、たくさんの刺激を受けてほしいという狙いもあります。成長中とはいっても、まだまだインフラが整っていない場所もたくさんあります。経済や社会的身分などの格差もある。そうした現状を、インターネット越しの情報ではなく、自分の目で見て感じてほしい。
幸い、生徒たちにぜひ海外の経験をしてほしいという思いは保護者の方も同様で、今年度の海外研修や語学研修、ターム留学などには、いずれも非常に多くの応募があり、大盛況でした。初めての海外に最初は及び腰の生徒もいましたが、旅程の半分を過ぎるあたりで一転して異文化に溶け込みます。自分の英語が通じた嬉しさに、帰国後も英語学習に力を入れ始める生徒も少なくありません。
本校での海外スタディツアーが軌道に乗れば、3校合同での実施なども視野に入れていきたいですね。3校合同になることで、より多様でダイナミックな体験ができるでしょう。
反抗期は自立期、受験のために子どもと向き合う時間を
―塾の先生の勧めで学校説明会に参加される保護者の方も多いと聞きます。多くの生徒さんを見てきた町田先生から、受験生の保護者の方へのアドバイスはありますか。
不得意科目の克服は大切なことですが、もし得意科目で十分な得点アップが見込めるのなら、「得意科目を伸ばすこと」にも目を向けてほしいですね。受験勉強のために、長時間苦手な科目をやり続けて、勉強そのものが嫌になってしまう場合もあります。子どもの負担が大きそうなら、塾の先生と相談するなどして、辛いだけの受験勉強にはしないような気遣いも有効だと思います。
また、個人差はありますが、5、6年生で反抗期に入る男の子もいます。今まで通りに子どもが言うことを聞いてくれず、困惑する保護者の方もいらっしゃいますが、反抗期は自立期です。保護者からみれば反抗期ですが、子どもが自分の考えを持ち始める自立のために大切な時期です。もちろん、子どもですから、道理が通らないことや無謀なことを口にすることもありますが、頭から否定しないようにしてください。特に受験に対して、子どもの意見はしっかりきいた方がいい。入学後に、親からされていやだったこととして、「親の価値観で学校を決められた」と言う生徒もいます。学校が嫌いな生徒は伸びません。逆に学校が好きな生徒は入学後にどんどん伸びる。回り道に思えても、焦らず、子どもと向き合う時間をしっかりととるといいと思います。かけがえのない6年間を、充実して過ごせるように、ぜひ一人ひとりの子どもに合った学校を選んでください。