高校からの評価で「教育力」「研究力」私大トップ!大学改革がさらに進む理工系私大の最高峰~東京理科大学
「世界の未来を拓くTUS」を掲げ、
新たな価値を創造する科学技術を先導――。
理工学部が創域理工学部へ、先進工学部5学科に
1881(明治14)年、東京大学を卒業して間もない若き21名の理学士らにより創立された「東京物理学講習所」を起源とする東京理科大学。真に実力を身に付けた学生だけを卒業させる「実力主義」の伝統を今日まで貫き発展させ、「未来を拓く実力」として再定義。その力を養う「TUSくさび形教養教育カリキュラム (※)」が今年度スタートした。
さらに、創立150周年を迎える2031年に向け、「世界の未来を拓くTUS」を掲げた長期ビジョンの実現を推進。科学技術による新たな価値創造を目指し、2023年度、理工学部が「創域理工学部」に名称変更。先進工学部には「物理工学科」と「機能デザイン工学科」が新たに加わり5学科体制となる。
- (※) TUSくさび形教養教育カリキュラム
理工学の専門知と並列に、そして互いに補完しあう形で教養知を教育するための全学的教員組織である「教養教育研究院」を2021年に設立。このカリキュラムの特徴は、学部の高学年においても教養を学ぶ機会を確保する点にある。学生が興味関心を広げ、新しいことに挑戦できるように設定している。
東京物理学校の精神を引き継ぎ
「未来を拓く実力」を育成
理学、すなわち今日でいう基礎科学は、21世紀の知識基盤社会を支える工学などの応用科学や技術の発展の淵源であり、「理学の普及を以て国運発展の基礎とする」という東京理科大学の建学の精神は、今なお一層の重要性を増している。
その歴史は、約150年前の明治初期にさかのぼる。自由民権運動が盛んな頃で、政治・経済・法学などが活発になる一方、理学を教える学校は東京大学の他にはなかった。そうした風潮の中、日本の近代化を進めるためには理学の普及が必要であるとの信念から1881(明治14)年、東京大学理学部物理学科で学んだ21人の青年が志を一つにして創立したのが、東京理科大学の起源である東京物理学講習所(後に東京物理学校と改称)である。
“万人に公平に教育の機会を”という創始者たちの切実な想いにより、1943年度までは志願者を全員入学させ、授業料は特別に安いものであった。彼らは、本業を終えた夕刻に無給で教壇に立ち続けたのである。夜学であったことは、現在の理学部第二部(夜間学部)に引き継がれている。半面、“真に実力を身に付けた者だけを社会に送り出す”ことの責任を全うする方針は譲らなかった。理工系の学問は、理論が階層的な構造をしており、あるところでつまずくとその先が全く理解できないものになっているため、関門制度を設けるなど、進級や卒業は必然的に厳しくなった。東京理科大学を象徴する「実力主義」たるゆえんはここにある。
そして、大きく変化する時代の要請に応え、実力主義の伝統を堅持しつつ発展させ、「未来を拓く実力」として再定義。「高い志とノブレスオブリージュの精神」「高い専門性と科学的思考力」「独創性と進取の気性」「共創力」の4つを育むべき精神と能力として掲げている。
こうした取り組み等により、大学通信が2022年、全国624進学校の進路指導教諭を対象に実施した「イチオシの大学」ランキングにおいて、「教育力が高い大学」「研究力が高い大学」でそれぞれ全国5位・全国7位、私立大学ではいずれもトップという高い評価を得ている(下表参照)。
▼2022年度「教育力が高い大学」ランキング(調査:大学通信)
順位 | 設置 | 大学名 | 所在地 | ポイント |
---|---|---|---|---|
1 | 国 | 東京大学 | 東京 | 464 |
2 | 国 | 東北大学 | 宮城 | 443 |
3 | 国 | 京都大学 | 京都 | 288 |
4 | 公 | 国際教養大学 | 秋田 | 130 |
5 | 私 | 東京理科大学 | 東京 | 116 |
6 | 私 | 早稲田大学 | 東京 | 106 |
7 | 国 | 大阪大学 | 大阪 | 97 |
8 | 私 | 国際基督教大学 | 東京 | 91 |
9 | 国 | 北海道大学 | 北海道 | 85 |
10 | 国 | 九州大学 | 福岡 | 73 |
▼2022年度「研究力が高い大学」ランキング(同)
順位 | 設置 | 大学名 | 所在地 | ポイント |
---|---|---|---|---|
1 | 国 | 東京大学 | 東京 | 934 |
2 | 国 | 京都大学 | 京都 | 779 |
3 | 国 | 東北大学 | 宮城 | 527 |
4 | 国 | 東京工業大学 | 東京 | 239 |
5 | 国 | 大阪大学 | 大阪 | 193 |
6 | 国 | 名古屋大学 | 愛知 | 121 |
7 | 私 | 東京理科大学 | 東京 | 99 |
8 | 国 | 筑波大学 | 茨城 | 97 |
9 | 国 | 北海道大学 | 北海道 | 94 |
10 | 国 | 九州大学 | 福岡 | 78 |
日本の理科大から世界の理科大へ
分野の壁を越え価値創造に挑む
2031年には創立150周年を迎える東京理科大学。「日本の発展を支えてきた理科大」から「世界の未来を拓くTUS」への発展を目指し、150周年時を見据えた長期ビジョン「TUS VISION 150」の実現を進めている。
石川正俊学長はこう説明する。
「教育のDX化により大学の発展も加速しています。インターネットの発達で、革新的な科学技術の知見が瞬く間に世界に広がり、人類共通の知識になるという、スピード感のある時代です。こうした中では、科学技術の定義も変わってきます。『世界の未来を拓くTUS』を目指す理科大では、次々に新しいものを生み出す発展を前提とした仕組みづくりが必要でしょう。今、科学者教育に求められるのは三つの力です。それは、『現在の科学技術を支える力』『次の科学技術を創造する力』『変革する科学技術に適応できる力』です。理科大の教育では今の科学技術だけではなく、未来への道筋を示していかなければなりません。それが理科大の強みとなり、輩出する人材の強みになると思います」
学部学科の再編も着実に進んでいる。2023年度、理工学部が「創域理工学部」に名称を変更。また、先進工学部には「物理工学科」と「機能デザイン工学科」が新たに加わり、5学科体制となる。
「両学部の再編は、科学技術の構造が変わってきたことに対応するものです。従来、科学技術は真理を探求することだと理解されてきました。それとは別に、新しい価値を創造する科学技術が重要になってきています。与えられた問題があるわけではなく、何もないところから自ら発想したことを科学技術を用いて実現し、それが社会に受け入れられることで新たな価値が生まれ、社会を変えることになります。価値の創造と真理の探求は、一体として進める必要があるのです。これからの大学は価値の創造を強化することで、未来の科学技術の先端に立つべきだと考えています。そのためには、学問分野の枠を超えた融合や統合が必要になります」(石川学長)
理工学部が創域理工学部へ
理工学部がある広大な敷地の野田キャンパスは、学科間の壁が低く、風通しの良い雰囲気の「リサーチキャンパス」である。東京都心と筑波研究学園都市の中間にある立地を生かし、外部の研究機関との連携が活発であり、学生のころから外部と共同研究に取り組む機会に恵まれている。
現行の理工学部では、学部創設50周年を機に2017年度から、学部教育と大学院修士課程を一体化した「6年一貫教育コース」と、大学院で各専攻の研究室に所属しながら他専攻の研究室とともに研究に取り組む「横断型コース」を設けている。
「創域理工学部」では、これまでの融合的・横断的な教育・研究をさらに推進。異なる10学科による新しい学問領域や価値の創造を目指すとともに、異分野間で対話や協調、共感をしながら、1つの専門分野だけでは解決できない問題に取り組む。新しいものを生み出すプロセスも含めて「創域」ととらえる。
入学時から創域の意識を持って自分の学科の枠にとらわれずに学べるよう、1年次は「創域特別講義」を必修とする。野田キャンパスの全学科の教員が融合という観点から講義。異なる学科の学生からなる少人数グループでのディスカッションを通じ、異分野の学生との思考法の違いも経験する。
融合を進めるにあたり必要となるのが、理工系の共通言語である。数学、化学、物理学、データサイエンスなどの「専門基礎教育」を共通化し、1、2年次に学ぶ。
さらに、大学院修士課程1年次には「創域融合特論」を設置。融合領域のテーマについて、横断型コースの研究事例の紹介やディスカッションへの参加などを通じ、融合型研究の最前線を体感することができる。
- ●2023年度一般選抜において、創域理工学部「専門コース」対象の「S方式」を新設
- 「数理科学科」と「電気電子情報工学科」の2学科で導入。出願時に志望する「系」を決めて出願する。数理科学科は「数学系」「先端数理系」の中から選択。電気電子情報工学科は「電気・制御システム系」「エレクトロニクス・マテリアル系」「情報・通信システム系」の中から選択。各学科の要となる科目の配点を高く設定。数学または物理が得意な受験生は大チャンス。進みたい分野が決まっている受験生に向けた方式で、得意科目を重視した選抜を行い、入学後も専門分野の学修をサポートする。
先進工学部は5学科体制に
一方、先進工学部は、「イノベーションキャンパス」として2013年に誕生した葛飾キャンパスにある。前身である基礎工学部は、「IT」「ナノテクノロジー」「バイオテクノロジー」を中心とする当時最先端の工学研究を進めるため、1987年に創設。その後、2021年度に学部名称を先進工学部に変更し、既設の電子システム工学科、マテリアル創成工学科、生命システム工学科の3学科に、2023年度から理学部第一部応用物理学科を改組した「物理工学科」と、新設の「機能デザイン工学科」が加わり、5学科体制となる。
先進工学部で重視するのは、「デザイン思考」である。前例のない問題や未知の課題にアプローチする発想法で、自ら解決すべき問題を見つけ出し、最善の解決策を探っていく。何が問題なのかを理解し気づきを得るため、相手の状況に「共感」することから始まり、定義、概念化、試作、検証のプロセスを経て、イノベーションを生み出す。
新たに加わる物理工学科では物理学の論理を現実社会に応用し、物質科学、複雑科学、エネルギー科学、ナノデバイスの4分野でのイノベーション創出を目指す。また、機能デザイン工学科では、ナノ医療やロボティクス分野にデザイン思考でアプローチし、「ヒトのカラダを助ける工学」を創出する。5学科とも1年次は「デザイン思考入門」を必修化。デザイン思考のプロセスを体験するグループワークなどを通じ、異なる学科の学生が協働で新たな価値の創造に挑む素地を養う。
「東京理科大学は、知識だけでなく、展開力や融合する力、価値を創造する力など『科学技術のすべて』を学べる大学に変わります。科学技術が中心となって動く社会で生き生きと活躍するためのスキルを本学で身に付け、自らの道を進んでいってほしいと思います」(石川学長)