「小規模だが評価できる大学」
「面倒見が良い大学」ともに全国2位。
2022年春に新たな転機を迎える、
「ゼミの武蔵」の今とこれから
入学から4年間、全学生が伝統の「ゼミ」をはじめとした少人数教育のもとに学ぶ武蔵大学。大学通信が全国進学校の進路指導教諭に実施した調査で、今年も複数の項目にランクインしている。
旧制高校時代から続く同大の少人数制ゼミは、建学の理念の一つ「自ら調べ自ら考える力ある人物」を育む場として受け継がれ、今や「ゼミの武蔵」の名は誰もが知るところだろう。近年はグローバル教育にも力を入れており、2022年春には新学部「国際教養学部」を開設する。外部からの評価だけでなく、学生の満足度も高い同大の教育の今とこれからについて、ランキングの結果とともに見ていきたい。
武蔵大学がランクインした項目
◎小規模だが評価できる大学 全国2位
◎面倒見が良い大学 全国2位
◎入学後、生徒を伸ばしてくれる大学 全国私大6位
◎教育力が高い大学 全国私大6位
◎就職に力を入れている大学 全国私大18位
創立から99年。日本初の私立七年制高校がルーツ
明治期から昭和初期にかけて政財界で活躍した実業家・根津嘉一郎(初代)。渋沢栄一率いる渡米実業団の一員としてアメリカを視察した根津は、実業家たちが大学や美術館に多額の寄付をしていることに強い感銘を受け、1922(大正11)年に日本初の私立七年制高校を開校した。これが武蔵大学のルーツである、旧制武蔵高等学校だ。旧制武蔵高校は、創立当初から少人数教育を徹底し、ゼミも1年次から必修だったという。この伝統が、4年制大学となった現在にも受け継がれている。
発表や討論など、学生主体で双方向の学びを行う「アクティブラーニング」。近年、多くの大学が導入し、新学習指導要領にも取り入れられた学習方法だ。低学年次からゼミで学べる大学も増えてきてはいるが、武蔵大学はこの教育を開学から99年続けてきた、いわば先駆けなのだ。
写真=根津嘉一郎(初代)
同大で開講されるゼミは毎年400以上を数え、平均13名の少人数形式で行われる。ゼミはあくまでも学生が主役であり、自発的な学習姿勢が求められるが、少人数のため教員や学生同士の距離が自然と近くなり、議論も活発になりやすいという。「自分で調べたことを発表し、仲間や教員との対話から物事の本質を見極め、追究する」という、ゼミならではの学びのサイクルを繰り返すことで、自らの考えをわかりやすく伝える力や、他者の意見に耳を傾ける力などが養われる。
※印は国立、無印は公立、◎印は私立を表す。
2021年11月8日現在のデータ。回答数は739校。
また、ゼミという一つのチームで学ぶ環境が学生の意識を高め、専門の学習を深めるだけでなく、自主性や課題解決力、コミュニケーションスキルなどを育む。国内外でのフィールドワークや他大との合同ゼミなどの機会はもちろんだが、同大のゼミの特徴として、経済学部の「ゼミ大会」を筆頭に、学びの成果を発表する場が全学部に用意されていることが挙げられる。さらに、産学連携のもと異なる学部の学生がチームを組み、企業からの課題に取り組む「学部横断型ゼミナール・プロジェクト」も特徴的なゼミの一つ。専門性や価値観の異なる学生との学びや、企業人との対話を通して、実社会で必要となる多角的な視点を身につけることができるという。
写真=ゼミ大会の様子
新学部「国際教養学部」を2022年春に開設
これまで各学部で独自に展開してきたグローバル教育を、全学的な取り組みとして進化させる計画がある。それが、2022年4月に開設する新学部「国際教養学部」だ。
同学部には「経済経営学専攻」と「グローバルスタディーズ専攻」の2専攻があり、リベラルアーツ&サイエンス教育(人文社会科学・自然科学を広く含む総合科目、専門科目、外国語科目)を軸にした総合的な学びと、英語で行う授業で専門領域を極めることができる。武蔵大学の建学の理念に基づき、「他者尊重の精神に基づく協働力を備え、イノベーションの推進や危機の克服の先頭に立つことのできるグローバルリーダーの養成」を、その教育のねらいとしている。
「経済経営学専攻」では、武蔵大学の学位と並行してロンドン大学の経済経営学士号の取得をめざす「パラレル・ディグリー・プログラム(PDP)」を軸に据え、少人数での質の高い授業を展開。日本にいながら、世界水準の経済・経営学の知見を身につけることはもとより、高い英語力と教養、そして統計分析の手法を兼ね備えた、グローバルに活躍できる人材を育成する。2015年に経済学部で導入したこのPDPは、プログラムの開始以来、順調に成果を上げている。
「グローバルスタディーズ専攻」では、従来の枠組みでは解決困難な課題に世界が直面する現代の状況を見据え、高度な語学力を養うとともに、国際関係、コミュニケーション、文化の側面から学際的に学びを深める。さらに、留学や異文化体験を通して、地球規模の課題と向き合うことのできるグローバルリーダーを育成する。
同学部では、専攻の枠を越えて学ぶ科目を用意するほか、他学部の科目も広く履修できるカリキュラムを予定している。専攻の違うさまざまな学生とともに学ぶことで、幅広い教養や視点を身につけ、より広くグローバルに活躍できる力を養う。こうした考え方も、同大がゼミを中心に実践してきた多彩な取り組みが強く反映されたものだといえるだろう。
写真=PDPの授業風景
既存の3学部でも独自のグローバル教育を展開
2022年には、経済学部と人文学部に新たなグローバル科目・プログラムも設置する。
経済学部では、「海外インターンシップ」と「グローバル企業研究」の2つのグローバル科目を新設。「海外インターンシップ」では、経済発展が著しいアジアを中心とした各国へ渡航し、現地企業での就業体験を通してビジネス戦略やマーケティングを学ぶとともに、異文化への理解を深める。「グローバル企業研究」は、海外展開する企業が抱える課題に対して、学生がチームで取り組むPBL(Project Based Learning、課題解決型学習)授業を実施。解決策を企業に提案するまでの過程で、世界基準の思考力や協働力を磨いていく。いずれもグローバルなビジネスの現場に触れる実践的な内容で、1年次から履修できる。
人文学部では、外国語運用を特訓する「グローバル・チャレンジ(GC)」と、物事を俯瞰的に捉える目を養う「グローバル・ヒューマニティーズ(GH)」の2つのプログラムがスタートする。
「GC」は、各地域の文化や社会を踏まえつつ、英語、ドイツ語、フランス語、中国語、韓国・朝鮮語の各言語のレベルアップを図る強化プログラムで、所属学科にかかわらず好きな言語を選択できる。所属学科で扱う言語のプログラムを選択した場合は、現地の大学への留学を基本とし、その言語を文献や要旨に使用して卒業論文を書くレベルにまで到達することをめざす。
「GH」は学科横断型の講義やワークショップを通じて、各学科が扱う地域別の学びを越え、より俯瞰的でグローバルな観点から物事を捉える眼を養う3学科共通のプログラムだ。資料分析やフィールドワーク、芸術批評などを取り入れ、より実践的に人文的教養を深める。また、卒業論文などで学んだことを日本語と外国語、複数の言語で表現できる力を磨く。
また、2017年にスタートした社会学部の「グローバル・データサイエンスコース(GDS)」は、新時代の世界共通語ともいえる「データ」と「英語」のスキルを修得し、ビッグデータの分析などを通して社会に貢献できる人材を養成する。1年次から海外英語研修で集中的に英語力を磨き、「GDS実践」で国際ボランティアや海外企業インターンシップなどに参加。提携する広告代理店がリサーチした大規模な調査データを教材として活用するなど、実践力を養成する場が数多く用意されている。
伝統の少人数教育が卒業まで学生をサポート
学生一人ひとりと真摯に向き合う少人数教育の伝統は、ゼミにとどまらない。学生の満足度も高い武蔵大学の教育力は、キャリア支援にも垣間見える。同大のキャリア支援センターには、キャリアカウンセラーの有資格者など経験豊富な職員が10名以上常駐。1年時から就職観を育成し、就職活動が本格化する3年生には全員に面談を行い、学生が主体的に進路決定できるよう導いていく。また、さまざまな業界で活躍する卒業生と、内定を得た4年生による「武蔵しごと塾」では、グループワークや本番さながらの模擬面接などを通して、学生の職業観や就職活動における表現力を養う。近年はグローバル教育の充実にともない、海外企業や外資系企業などへの就職希望者の支援にも取り組んでおり、多様化する学生の興味やニーズに対応できる、きめ細かなサポートがなされている。
2020年度は新型コロナウイルス感染拡大の影響から、キャリア支援センターはいち早くオンラインでの支援に舵を切り、4年生対象のオンライン講座の開催、3年生全員への「就活スターターキット」の郵送を皮切りに、個別相談はすべてWeb相談に変更された。
2021年の春には新たなプログラム「オリジナル企業リスト配付説明会」をオンラインで実施。キャリア支援センターが過去に開催した説明会の参加企業など約180社のリストをもとに、就活での企業選びやインターンシップ先の選び方のポイントを伝授。2日間で350名の学生が参加し、好評を博した。2021年度の個別面談はWebか対面を学生が選べる選択制にし、応募書類のメールでの個別添削指導や電話相談など学生一人一人に合わせた支援を続けている。また、1~2年生、3年生がそれぞれ、4年生の体験談を聞ける取り組みも充実させており、動機付けとなる機会を用意している。
※印は国立、無印は公立、◎印は私立を表す。
2021年11月8日現在のデータ。回答数は739校。
国際教養学部の開設に合わせ、学びの場をより充実させるラーニングコモンズを有した「11号館」の建設を進めるなど、グローバル化に向けた武蔵大学の取り組みはますます進化を続けるようだ。2022年の学園創立100周年に向け、同大では新たなビジョンとして「異文化を理解し未来を創造する教養あるグローバル市民の育成」を掲げた。開学以来の伝統であるゼミをベースに、専門の学びはもちろん、語学力やグローバルな視野まで磨く多彩な教育を推進してきた武蔵大学。同大ならではの独自の取り組みに、これからも注目していきたい。