入学から4年間、全学生が伝統の「ゼミ」で学ぶ武蔵大学。大学通信が全国進学校の進路指導教諭に実施した調査で、今年も複数の項目にランクインしている。
旧制高校時代から続く同大の少人数制ゼミは、建学の理想の一つ「自ら調べ自ら考える力ある人物」を育む場として受け継がれ、今や「ゼミの武蔵」の名は誰もが知るところだろう。近年はグローバル教育にも力を入れており、2022年春には新学部「国際教養学部（仮称）」を構想中だ。外部からの評価だけでなく、学生の満足度も高い同大の教育の今とこれからについて、ランキングの結果とともに見ていきたい。
武蔵大学がランクインした項目
◎小規模だが評価できる大学 全国2位
◎面倒見が良い大学 全国3位
◎入学後、生徒を伸ばしてくれる大学 全国13位
◎教育力が高い大学 全国17位
◎入学後、生徒の満足度が高い大学 全国18位
◎就職に力を入れている大学 全国30位
創立から98年。日本初の旧制七年制高校がルーツ
明治期から昭和初期にかけて政財界で活躍した実業家・根津嘉一郎（初代）。東武鉄道や南海電気鉄道などの鉄道敷設や再建事業に携わり、「鉄道王」と呼ばれた根津は、1922（大正11）年に日本初の私立七年制高校を開校した。これが武蔵大学の前身となる、旧制武蔵高等学校だ。旧制武蔵高校は、創立当初から少人数教育を徹底し、ゼミも1年次から必修だったという。この伝統が、4年制大学になった現在にも受け継がれている。
発表や討論など、学生主体で双方向の学びを行う「アクティブラーニング」。昨今は多くの大学が導入し、低学年次からゼミで学べる大学も増えてきてはいるが、武蔵大学はこの教育を開学から98年続けてきた、いわば先駆けなのだ。
写真＝根津嘉一郎（初代）
同大で開講されるゼミは毎年400以上を数え、平均14名の少人数形式で行われる。ゼミはあくまでも学生が主役であり、自発的な学習姿勢が求められるが、少人数のため教員や学生同士の距離が自然と近くなり、議論も活発になりやすいという。「自分で調べたことを発表し、仲間や教員との対話から物事の本質を見極め、追究する」という、ゼミならではの学びのサイクルを繰り返すことで、自らの考えをわかりやすく伝える力や、他者の意見に耳を傾ける力などが養われる。
小規模だが評価できる大学
また、ゼミという一つのチームで学ぶ環境が学生の意識を高め、専門の学習を深めるだけでなく、自主性や課題解決力、コミュニケーションスキルなどを育む。国内外でのフィールドワークや他大との合同ゼミなどの機会はもちろんだが、同大のゼミの特徴として、経済学部の「ゼミ大会」を筆頭に、学びの成果を発表する場が全学部に用意されていることが挙げられる。
さらに、産学連携のもと3学部（経済・人文・社会）の学生がチームを組み、企業からの課題に取り組む「三学部横断型ゼミナール・プロジェクト」も特徴的なゼミの一つ。専門性や価値観の異なる学生との学びや、企業人との対話を通して、実社会で必要となる多様な視点を身につけることができるという。
写真＝ゼミ大会の様子
3学部それぞれに展開する独自のプログラム・コース
こうした「ゼミの武蔵」ならではの強みを生かしながら、近年はグローバル・ボーダレス化する社会を見据え、3学部それぞれに独自のプログラム・コースを設置した。
まず、2015年に経済学部で「PDP（ロンドン大学と武蔵大学とのパラレル・ディグリー・プログラム）」を開始。これは、武蔵大学に通いながら両大学の授業を受講し、2つの大学の学位を取得することができる日本初のプログラムだ。30名程度の入学生を対象とし、語学や数学の成績などで選考を行っている。
1年次の4～7月に授業や語学研修で徹底的に英語力を鍛え、IELTSスコア5.5以上を取得した学生は9月から始まるロンドン大学のIFP（基礎教育プログラム）を4科目履修する。その後、IFPの期末試験に合格すると、2年次の9月からはBSc（専門教育プログラム）の履修が可能となり、3年間で12科目を学んで試験に合格すれば、ロンドン大学の経済経営学士号を取得することができる。
ロンドン大学のBSc Programmeは、180カ国以上、5万4000人が学ぶ世界共通のプログラム。今年6年目を迎えた同大では、1期生2名、2期生4名がロンドン大学の学位を取得し、今後もこの世界基準の学位を取得する学生が増えていくと期待されている。
写真＝PDPの授業風景
人文学部は、2017年に特訓型の語学プログラム「GSC（グローバル・スタディーズコース）」を開始した。人文学部のどの学科からでも所属できる英語プログラムは、国際関係、グローバル文学、グローバル日本学などの専門領域を英語で学び、英語で発信する力を磨く。英語による授業と留学だけで卒業することも可能だ。このほかにドイツ語、フランス語、中国語、韓国・朝鮮語の4つの特別プログラムもあり、いずれも高度な語学力と幅広い視野、発信力を身につけ、半年または1年間の留学を推奨している。
同じく2017年にスタートした社会学部の「GDS（グローバル・データサイエンスコース）」は、新時代の世界共通語ともいえる「データ」と「英語」のスキルを習得し、ビッグデータの分析などを通して社会に貢献できる人材を養成する。1年次から海外英語研修で集中的に英語力を磨き、「GDS実践」で国際ボランティアや企業インターンシップなどに参加。提携する広告代理店がリサーチした調査データを教材として活用するなど、実践力を養成する場が数多く用意されている。
新学部「国際教養学部（仮称）」を2022年春に設置構想中
これまで各学部で独自に展開してきたグローバル教育を、全学的な取り組みとして進化させる計画がある。それが、2022年4月設置構想中の新学部「国際教養学部（仮称）」だ。
同学部は、「経済経営学専攻（仮称）」と「グローバルスタディーズ専攻（仮称）」の2専攻があり、リベラルアーツ＆サイエンス教育（人文社会科学・自然科学を広く含む総合科目、専門科目、外国語科目）を軸にした総合的な学びと、英語で行う授業で専門領域を極めることができる。武蔵大学の建学の三理想に基づき、「他者尊重の精神に基づく協働力を備え、イノベーションの推進や危機の克服の先頭に立つことのできるグローバルリーダーの養成」をその教育のねらいとしている。
同学部では、専攻の枠を越えて学ぶ科目を用意するほか、他学部の科目も広く履修できるカリキュラムを予定している。専攻の違うさまざまな学生とともに学ぶことで、幅広い教養や視点を身につけ、より広くグローバルに活躍できる力を養う。こうした考え方も、同大がゼミを中心に実践してきた多彩な取り組みが強く反映されたものだといえるだろう。
伝統の少人数教育が卒業まで学生をサポート
学生一人ひとりと真摯に向き合う少人数教育の伝統は、ゼミにとどまらない。学生の満足度も高い武蔵大学の教育力は、キャリア支援にも垣間見える。同大のキャリア支援センターには、キャリアカウンセラーなどの専門資格を持つ職員が10名以上常駐。就職活動が本格化する3年生には全員に面談を行い、学生が主体的に進路決定できるよう導いていく。また、さまざまな業界で活躍する卒業生と、内定を得た4年生による「武蔵しごと塾」では、グループワークや本番さながらの模擬面接などを通して、学生の職業観や就職活動における表現力を養う。近年はグローバル教育の充実にともない、海外企業や外資系企業などへの就職希望者の支援にも取り組んでおり、多様化する学生の興味やニーズに対応できる、きめ細かなサポートがなされている。
また、2020年度は新型コロナウイルス感染症の影響を受けて就職活動も様変わりするなか、従来行ってきた対面での個別相談はすべてWeb相談へと変更し、4年生にはオンラインでの講座開催や企業合同説明会を実施している。新3年生にはキャリア支援センターのノウハウが詰まった同大オリジナルの『就活ガイドブック2021』や、武蔵キャリアマガジン『MESSAGE』などを含めた「就活スターターキット」を全員に郵送した。また、応募書類のメール添削指導や電話相談なども行い、変化の激しい社会状況に柔軟に対応しながら、就活生にとって最適な情報を届け、学生一人ひとりに寄り添った支援を続けている。
面倒見が良い大学
新学部「国際教養学部（仮称）」の設置に合わせ、学びの場をより充実させるラーニングコモンズを有した新校舎の建設を予定するなど、グローバル化に向けた武蔵大学の取り組みはますます進化を続けるようだ。2022年の学園創立100周年に向け、同大では新たなビジョンとして「異文化を理解し未来を創造する教養あるグローバル市民の育成」を掲げた。開学以来の伝統であるゼミをベースに、専門の学びはもちろん、語学力やグローバルな視野まで磨く多彩な教育を推進してきた武蔵大学。同大ならではの独自の取り組みに、これからも注目していきたい。