【大学選び入門】人と社会の役に立つアイデアをカタチにできる人を育てる!–女子美術大学「共創デザイン学科」

大学選び入門
【大学選び入門】人と社会の役に立つアイデアをカタチにできる人を育てる!–女子美術大学「共創デザイン学科」

「美大」は、画家やアーティストを目指す人が専門技術を身につける場所だと思っていませんか。実は、それだけではありません。近年、経済分野で「デザイン」という言葉が使われることが増え、物のデザインに加え「企画やプロジェクトそのものをデザインする力」が求められています。この力を学べる、女子美術大学「共創デザイン学科」について松本博子学科長にお話を伺いました。

「デザイン」に求められる、幅広い役割

【大学選び入門】人と社会の役に立つアイデアをカタチにできる人を育てる!--女子美術大学「共創デザイン学科」


-2023年4月に新設された「共創デザイン学科」は、どのような学科ですか。

デザインの思考法や基礎スキルに加え、企業が「サービスを考え出し、商品として具体化し、消費者に届ける」際に求められる「構想力」や「企画力」、プロジェクト進行中に多様な領域の人たちと関わるうえで必要な「コミュニケーション力」などを身につけることを目的としています。

いま、デザイン力が必要とされる場面が、とても広がっています。これまでは商品の形やパッケージ、ポスターなどの目に見えるものが「デザイン」と解釈されてきました。しかし現在は「企画・計画・構想」などの目に見えないものをプロデュースすることも「デザイン」の範疇(はんちゅう)と言われるようになりました。

この傾向は、2018年に経済産業省・特許庁が『「デザイン経営」宣言』※1という報告書を出して以降、加速しています。採用する側も、これまで企業の中で実施してきた「企画・計画・構想」の分野で、「幅広いデザイン力」をもった人財を求めています。

私自身も長く企業に勤めていた経験から、経済や経営の分野にデザインの視点を持ち込むことの重要さと、女性がもっと活躍する社会の基盤づくりの必要性を強く感じていました。こうした背景もあり、広い意味でのデザイン力をもち、社会的なポジションを築いていける力のある女性を育てようと、新設に至りました。新学科設立について、女子美の名誉理事長である大村智先生※2に賛同いただけたことも後押しになりました。

※1 『「デザイン経営」宣言』の中では、「企業が大切にしている価値、それを実現しようとする意思を表現する営み」をデザインと定義しています。
※2 大村智先生…化学者。細菌が生産する化学物質を発見し医薬に役立てた功績で2015に年ノーベル生理学・医学賞を受賞。

-入学後、それぞれの能力はどのように身につけていくのですか。

まず、デザイン全般についての教育を行います。デザインを構築する方法を学ぶことは、共創デザイン学部のカリキュラムの基礎として欠かせないものです。

その上で「共創教育」を行います。社会はビジネス、テクノロジー、クリエイティブがそろってようやく物事が進み、さらに共創を深めることでイノベーティブな発想や事業が生まれると考えています。このため、ビジネスやテクノロジーについても基礎から学ぶ機会を設け、デザインと融合するような応用授業に発展させています。他分野の知識を学ぶことは、企画や構想を練る際に大いに役立ちます。あとでご紹介する産官学連携の取り組みでも、これらの知識を実践的に身につけることができます。

さらに、女性が生きていくためのライフマネジメント教育を行うのが女子美の特徴です。結婚や出産、子育てや介護と仕事とのバランス、まだ社会に残るちょっとした偏見とどう向き合うのか、など、人生には多くの課題があります。そうした問題に直面しながらも、社会的に信用を得て活躍していくためにはどうすればよいか。すでに社会で活躍している先輩を講義に招くなどして、折れない心を育てることを大切にしています。

社会経験豊富な教員陣や産官学連携のプロジェクトから、実践力を学ぶ

【大学選び入門】人と社会の役に立つアイデアをカタチにできる人を育てる!--女子美術大学「共創デザイン学科」


-授業にはどのような特徴がありますか。

授業は6名の専任教員をはじめ、企業や自治体に籍を置く70名以上の非常勤講師で担当します。また、協力をしてくださる企業も50社近くにのぼっています。実際に企業で仕事を動かした経験のある教員ならではの、実態に即した授業を行いますので、早くから社会で求められる考え方やマナーなどを学ぶことができます。

また、1年次から課題解決型の産官学連携プロジェクトを実施します。答えのある問題ではなく、十社十色のご要望に応える「実学」ですから、正解はありません。自分たちが学んだことをフルに活かして、答えを探っていく経験を積みます。全員参加のものや、希望者のみで行うものなど、形式はさまざまです。これまでに以下の表のような取り組みを行っています。課題解決については学生主体で進めさせ、教員は最低限のアドバイスにとどめています。企業が求める社会貢献と利益を考え、さらにユーザーの視点を入れながら、持続可能性にまで踏み込んだ提案ができるようになればベストです。学生のアイデアには、企業の人が思ってもみない視点が含まれていたりします。こうした実践経験を積んでいくことで、社会に出た際に、企業の利益だけでなく、ユーザー視点や持続可能性といった、企業の社会性にまで踏み込める、デザイン的な視点をもった人財になって欲しいと考えています。また、共創デザイン学科の学生は、試作品や絵で、自分のアイデアを相手に伝えることができます。美大だからこそ培えるコミュニケーション力を身につけられるのも大きな強みです。

【大学選び入門】人と社会の役に立つアイデアをカタチにできる人を育てる!--女子美術大学「共創デザイン学科」

 

 

産学連携の取り組み例

〔バンダイナムコアミューズメント〕
指定されたキャラを「推し活」してもらうための工夫を考える。

〔真多呂人形〕
木目込み人形(木に掘った溝に布を押し込んで衣装を纏わせる人形)やお節句を身近に浸透させるしくみづくりを考える。

〔障害者支援施設〕
障害を持つ方々が得意とする技術を生かせるアクセサリーの提案(デザインや制作手順のほか、材料費の原価計算まで)。

〔妙高市のNPO法人〕
新潟県妙高市の地域活性。雪深い土地のため、薪を使った暖炉がある家庭が多い。この薪を利用した地域活性の案を、地元の専門学校生とともに考える。

〔アップサイクルデザイン〕
さまざまな企業から工業廃材の提供を受け、素材の特徴を生かした作品を作る。廃材の二次利用による価値の創出だけでなく、どうしたら廃材を出さずにすむか、といった課題までを考える。

-学科1期生の学生のようすはいかがですか

62名の1期生はみな個性豊かです。ファッションも、ものづくりのスキルもいろいろで、多様性にあふれています。そんな学生に共通していることは、産官学連携などでどんなに難しい課題が出ても、自発的に取り組もうとする意欲を持ち合わせていることです。

また、入学時から「社会貢献したい」「世界で活躍したい」という気持ちが強い学生が多いですね。将来入りたい企業も、規模や利益ではなく、その企業がどんなふうに社会課題を解決できるのか、というところまですでに意識して選んでおり、とても頼もしく思っています。

「美大は候補外だった」という学生にも入学してほしい

-「共創デザイン学科」はどのような学生に向いていますか。

プロジェクトの川上で、一から構想や企画をすることに興味がある人に向いています。授業はほぼグループワークで進みますので、自分とは異なる価値感をもつ人たちと、お互いを尊重し、多様性を認め合いながら作業をすることが求められます。将来、人と協力して何かを成し遂げたい、という人に入ってきてほしいですね。

入学時に美術的スキルは求めませんので、これまで美大の進学は考えていなかった、経済や経営分野の学問に興味がある人たちにも、ぜひ入学してほしいです。


-どのような入試が行われるのですか。

一般選抜では学力試験のほかに、専門試験があります。共創デザイン学科の専門試験では、与えられた環境課題に対し、アイデアシートのようなものに自分の考えを表現してもらいます。表現方法は自由。図解、イラスト、文章など、なんでもよいです。

総合型選抜では、最近気になった自分視点のニュースを3つ調べて、レポートを持参してもらいます。街中での出来事や趣味など、本当に小さいテーマで構いません。昨年は大きなパネルに図解までドローイングしてきた子もいました。そのほか、高校時代までに力を入れてきた部活やアルバイト、自主制作、課題作品について、わかりやすくまとめたポートフォリオ(作品集)の提出があります。写真と文でレポートしたり、ファイルにまとめたりしても構いません。

いずれも技術力の高低ではなく、自分なりの表現手法で分かりやすく伝えられているか、発想に独自性があるかが評価基準になります。


-最後に、入学を検討している高校生に向けてメッセージをお願いします。

思考の訓練のために、日常から小さいことも気にかけてください。まわりのものをなんでも肯定するのではなく「おや?なんか変だな?」と違和感を持つと、デザインに必要な視点が鍛えらます。少し踏み込んだ言い方ですが、学生には「世の中のあらゆることにケチをつけよう」と言っています。また、社会的なニュースでも自分の好きな分野のことでも、問題意識を持って一歩突き詰めて考えてみてください。こうした思考の積み重ねが、入試はもとより、将来の自分にとって強みになります。

最後に、人の話に耳を傾けることを大切にしてください。自分の考えだけで先走ると、共創にはつながりません。コミュニケーションの基礎として、最初から否定するのではなく、人の考え方をまず聞いてみるように心がけてみてください。

【大学選び入門】人と社会の役に立つアイデアをカタチにできる人を育てる!--女子美術大学「共創デザイン学科」

<お話を伺った先生>
松本博子先生(まつもと ひろこ)
女子美術大学芸術学部共創デザイン学科教授、学科長

同大学美術研究科博士前期課程デザイン専攻

専門はデザイン学。環境材料・リサイクル、地域研究、教育学の研究も行う。東芝に長く勤務し、家電のデザインで数々のベストデザイン賞を受賞している。