【大学選び入門】学びと挑戦に満ちた「プロジェクト」で大学を選ぶ-ミツバチプロジェクト編

大学選び入門 ライター 松本 守永
【大学選び入門】学びと挑戦に満ちた「プロジェクト」で大学を選ぶ-ミツバチプロジェクト編

写真提供:工学院大学

充実した大学時代とその先に広がる豊かな人生に向けた、大きな分岐点と言える大学・学部選び。より良い選択をするためのヒントを探る本シリーズ。今回は、大学が取り組む「プロジェクト」に注目。近年、取り組む大学が増えつつある養蜂活動を例にしながら、プロジェクトとは何か、プロジェクトにはどんな魅力や可能性があるかを考えます。

みなさんの気になる大学は、どんなプロジェクトに取り組んでいますか?あるいは、みなさんが興味あるトピックは、どの大学がプロジェクトとして取り組んでいますか?さっそく調べてみてください。

学部を横断し、社会を舞台に学ぶ「プロジェクト」

大学では、専門分野の知識や理論を数多く学びます。それらに加えて近年では、「社会人として役立つ力」を身につけるための学びの充実化が図られています。その代表例が「プロジェクト」です。

プロジェクトでは、商品開発や地域課題の解決など、実社会に即したテーマを学びの題材とします。そこでは、ともに学ぶ学生や課題を抱えている企業・自治体の職員、地域住民などとのディスカッションを通して課題の発見や、解決策の立案、メンバーへのプレゼンテーションという学びを経験することができます。年齢や経験、価値観などが異なるメンバーとともにテーマに取り組むことで、コミュニケーション能力をはじめとしたチームで協働する力を養うこともできます。これらの性質から、社会人として役立つ力を身につけられる実践的な学びとして、取り組む大学が増えています。

プロジェクトは、大学によっては「課題解決型学習(PBL/Project Based Learning)」と呼ばれていることもあります。指導教員のもとで1つのテーマに取り組む「ゼミ」でもプロジェクトと同様の学びが行われていますが、こちらは基本的に、同じ学部・学科内の学生とともに取り組みます。対するプロジェクトでは、学部・学科の枠が取り払われてメンバーが集まることが多いです。より多様なメンバーが集まり、切磋琢磨しながら1つの目標へ向かって進むことができるのが、プロジェクトだと言えるでしょう。

学部や学年の枠を越えて同じ興味を持ったメンバーが集まるという点では、プロジェクトは部活動やサークル活動、同好会に通じるものがあります。しかしサークルや同好会は、「同じ興味を持つ仲間が集まり、自主的に活動している団体」であることも少なくありません。対するプロジェクトは、大学が積極的に活動をサポートしているケースが多いです。大学によっては、プロジェクトを正式なカリキュラムの一部として組み入れていたり、プロジェクトでの活動を単位として認定する仕組みを整えているところもあります。企業や自治体、地域住民との連携が不可欠なプロジェクトにおいて、大学が調整役や相談役となってくれることは、スムーズな活動ための心強い存在といえるでしょう。

企画や運営、学内外での調整や交渉をすべて学生が主体になって行う

【大学選び入門】学びと挑戦に満ちた「プロジェクト」で大学を選ぶ-ミツバチプロジェクト編
写真提供:千葉商科大学

ここからはプロジェクトの具体例として、千葉商科大学の「CUC100ワイン・プロジェクト養蜂局」が取り組む養蜂事業を紹介します。

CUC100ワイン・プロジェクトは、大学創立100周年に向けてオリジナルのワインつくることをめざして誕生したプロジェクトです。活動のスタートは2019年。地域との協働や農業、エネルギー問題、生態系などについての学びを深めてきたプロジェクトはさらに発展し、2022年からは養蜂事業に取り組むことになりました。

「本学は近隣の大学や病院とコンソーシアムを結成し、地域の活性化や防災活動などに取り組んでいました。ミツバチは『環境指標生物』とも言われ、自然と人間との共生のシンボルとされる生き物です。養蜂事業を通して、大学近隣の地域が今まで以上に人と自然とが調和した街になることが、私たちのプロジェクトの狙いです」(人間社会学部3年・小西俊太郎さん)

養蜂局のメンバーは2年生から4年生の合計16人(2022年5月11日現在)。当番を決めて日常的なハチの世話をするほかに、学生に対して「ミツバチは危険ではありません」という啓発活動を行ったり、蜜を採取できる場所の地図を作って学内外に情報発信したりと、活動は多岐に渡っています。

「やるべきことが多くて、すごく忙しいです。でも、期日に間に合うように作業の手順を考えたり、メンバーで手分けしたりといったプロセス自体が楽しいですし、いい経験になっています。プロジェクトに参加する前と比べて、スケジュールを管理する力はずいぶんと養われたと思います」(人間社会学部3年・浅見乃絵さん)

プロジェクトでは今後、採取した蜜を商品化していく予定です。また、「ミツバチの観察会を行ったり、蜜の採取体験会も行いたい」(小西さん)とのこと。蜜ろうでろうそくづくりのワークショップを開催し、大人から子どもまで楽しめるイベントも計画しています。それらの企画・運営は、もちろん学生が主体となって行います。

小西さんと浅見さんは、「プロジェクトのことを地域の人にもっと知ってもらいたい」「もっと地域の人との交流を増やしたい」と、今後の抱負を口にします。養蜂というテーマを通して、学生時代の目標や熱中できるものに出会えることこそが、プロジェクトの意義のひとつと言えるでしょう。

全国で大注目!多くの学びと出会える「ミツバチ」

【大学選び入門】学びと挑戦に満ちた「プロジェクト」で大学を選ぶ-ミツバチプロジェクト編
写真提供:千葉商科大学

大学での学びに養蜂が取り入れられている背景には、ミツバチと養蜂が持つ特有の性質があります。

まず挙げられるのが、食や命、自然に関する学びとの親和性の高さです。千葉商科大学の養蜂事業の指導を行う「銀座ミツバチプロジェクト」の田中淳夫副理事長によると、ミツバチは「命をつなぐ生物」です。すなわち、ミツバチが受粉させることで植物が実り、その果実を鳥が餌とし、鳥は植物の種を運び、その種が芽吹いて新たな植物が誕生します。このサイクルのカギを握っているミツバチは、人と人とのつながりや、人と自然とのつながりを考えるためには格好の教材なのです。

ミツバチが活動できる環境を実現するには、蜜を採取する植物が不可欠です。そのため、養蜂は緑化などの環境保全に関する学びと自ずと結びつきます。安定的な養蜂を考えることは、天敵となるスズメバチなど、ミツバチを取り巻く生態系を考えることにもつながります。さらに、商品化やPR・販売活動など、養蜂を通してマーケティングを学ぶこともできます。このように、大学ならではの学びとの相性がいいことも、養蜂に取り組む大学が増えている背景にあります。

ミツバチは学内・学外の区別なく活動します。地域の豊かな植物なくして安定した養蜂は行えません。また、ときとして危険なイメージもある“ハチ”に対する地域の理解も、養蜂には不可欠です。これらの養蜂ならではの性質が、「地域を舞台にした実践的な学びを」という大学のめざす道とマッチしていることも、大きな要因の1つと言えるでしょう。

プロジェクトは学生を成長に導き、社会を変える力も持つ

【大学選び入門】学びと挑戦に満ちた「プロジェクト」で大学を選ぶ-ミツバチプロジェクト編
工学院大学で開発された蜂蜜を使った商品

プロジェクトは、教室や研究室の中だけでは養うことができない力を伸ばすことができます。地域や企業との連携、学部・学年を越えた学生同士での切磋琢磨、大学全体が一体になって取り組むなど、プロジェクトならではの性質がもたらすやりがいや成長について、工学院大学の「みつばちプロジェクト」を例にしながら見ていきましょう。

<工学院大学「みつばちプロジェクト」>
創立125周年を記念する学生企画として、2012年にスタート。その後も活動を続け、大学がバックアップを行う「学生プロジェクト」となる。メンバーは67人(※)。これまでにはちみつだけでなく、入浴剤やハンドクリームを商品化してきた。
※2022年4月時点。2~4年生

■プロジェクトのおもしろさ
商品開発がおもしろいです。私たちは、ハンドソープの開発にチャレンジしました。共同開発した化粧品会社の方とは、泡の色や香り、柔らかさ、ワンプッシュで出てくる量など、「そこまで考えているのか」というほど、細かな点まで議論しました。いろいろな意見が出て、メリット・デメリットを考えながら最適な商品にしていくプロセスがおもしろかったです。もちろん苦労も多かったですが、実際に使ってもらって「良かった!」と言ってもらえたときの嬉しさは忘れられません。SNSでリアルな反響が伝わってくることもやりがいにつながりました。(情報学部3年・末久祐仁さん)

■プロジェクトを通じた成長
2021年度の代表を務めました。心がけていたのは、団体全体としての課題は何かを考え、それを改善するための行動を行うこと、そして行動を振り返り、改めて課題を考えることでした。これはちょうど、仕事でも不可欠なPDCAのサイクルを回していたことだと、後になって気づきました。知らず知らずのうちに社会人としての訓練ができたように思います。大所帯の団体なので、養蜂に対する知識量や理解度、熱量も人それぞれです。それらを把握し、相手に合わせた説明の仕方や伝え方を心がけたことも、コミュニケーション力を養ってくれたように思います。プロジェクトで経験したことは、就職活動で自信をもってPRできる材料になりました。(情報学部4年・樋熊柊介さん)

専攻は応用化学なので、ミツバチをはじめとした生き物や養蜂とはちょっと違った分野だと言えます。ただ、ミツバチのお世話をしたり越冬の難しさを実感したりするうちに、生態系というものを強く意識するようになりました。生物の一生のサイクルをじっくりと見つめて考えるような活動に取り組むことが、いま、挑戦してみたいことのひとつです。また、団体のなかでは八王子支部の副支部長を務め、来年は広報部にも所属する予定です。メンバーをまとめたり情報発信をしたりという、これまでにはあまり経験していない役割にチャレンジできることも、プロジェクトに参加しているからこそです。違った分野への興味、違った役割への挑戦が、私を成長させてくれているように思います。(先進工学部2年・山田愛さん)

■学部横断である意義
工学系の大学である本学で、生物学や農学、あるいは経営学の性質を持つ養蜂というプロジェクトに取り組んでいることは非常に意義深いと思います。なぜなら、情報や機械、化学など、まったく異なる分野の学生たちが集まり、それぞれの意見をぶつけ合うことができるからです。発見や気づきを得るには最高の舞台だと言えるでしょう。生き物を扱うことには、特有の責任がつきまといます。それもまた、学生を成長させてくれています。工学系の大学でありながら、商品化まで行えていることは本当に素晴らしいことだと思います。みつばちプロジェクトは、本学が誇るプロジェクトの1つです。(顧問を務める先進工学部・大野修准教授)

工学院大学のみつばちプロジェクトでは、天敵となるスズメバチの駆除を行っています。そのことを知って自身の研究への活用を考えたのが、海洋生物や植物、微生物から医薬品として応用可能な化合物の発見に挑んでいる大野准教授です。大野准教授はプロジェクトからもたらされるスズメバチの死骸を分析し、代謝物からアルツハイマー病の治療薬に活用できる物質を発見しました。アルツハイマー病は現在の治療では治癒することができないうえ、認知症の約半数を占めています。大学が取り組むプロジェクトは医療の進歩を後押しし、よりよい社会を実現する力すら備えていると言えるでしょう。

「プロジェクト」を大学選びの視点の1つに!

【大学選び入門】学びと挑戦に満ちた「プロジェクト」で大学を選ぶ-ミツバチプロジェクト編
写真提供:千葉商科大学

ここまでで見てきたように、プロジェクトを通して先輩たちは様々な経験をし、社会へ結びつく力を養っています。「複数のプロジェクトにチャレンジしています」「ガクチカ(学生時代に力を入れたこと)は、間違いなくプロジェクトです」と教えてくれる先輩もいるように、多くの学生たちをプロジェクトは引きつけています。「おもしろい」と思うことに熱中する時間は、間違いなく人を成長させてくれます。プロジェクトでは、そういった出会いとの可能性が非常に大きいです。ぜひ、プロジェクトを大学選びの1つの視点として、情報を集めてみてください。

先輩たちへのQ&A

Q1 ミツバチから人生や社会について学ぶことはある?

●ミツバチの寿命はわずか1カ月。その限られた時間を、どのように生きるか、自分がすべきことは何なのかを、懸命に考えて行動しているように思います。見習いたいです!(千葉商科大学・小西さん)

●巣や子どもを守るために、ミツバチは自分よりも体の大きなスズメバチに向かっていって戦います。その一生懸命さや熱意に、自分もこうありたいと思うことがあります。(千葉商科大学・浅見さん)

●オスもメスも女王バチも、それぞれに役割を持っていて、それが集合して1つの組織ができています。まるで人間のようで、自分の役割をまっとうすることの大切さを考えさせられます。(工学院大学・末久さん)

●ミツバチはダンスで情報を交換します。「ホウ・レン・ソウ」の大切さは種を越えるのだなと、妙に納得しました。(工学院大学・山田さん)

●ミツバチは巣を半分に分けて移動するとき、移動先を群れの多数決で決めます。しかもその意思決定に女王バチは参加しない。トップが力を持ちすぎることを抑制する、よく考えられた組織運営だと思いました。(工学院大学・樋熊さん)

Q2 プロジェクトのやりがい、おもしろさは?

●伝統あるプロジェクトなので、自分自身がプロジェクトの過去と未来との架け橋になっているような気がして、そこがやりがいになっています。10年先を想像しながら、「そのために、今しておくことは……」と考えることがおもしろいです。(千葉商科大学・小西さん)

●年齢や経験、考え方が違った人と接することができ、刺激を受けられるところがおもしろいです。それぞれに頑張っている姿を間近に見ると、「自分も頑張ろう!」と思えます。(千葉商科大学・浅見さん)

●お世話をしているミツバチたちの元気な姿を見ることがやりがいです。なんだか我が子のような気分で、「大きくなったね」っていう気持ちになるんです。(工学院大学・山田さん)

Q3 大学の好きなところは?

●実学を意識した学びが豊富なところです。学生がイキイキしているところも好きです。(千葉商科大学・小西さん)

●たくさんのプロジェクトが行われているところです。複数のプロジェクトを掛け持ちもOK!私も掛け持ちで活動しています。学べる機会が豊富ですよ。(千葉商科大学・浅見さん)

●理系の学びに特化していて、理系分野の最先端の知識や技術に触れられるところです。(工学院大学・樋熊さん)

●専門分野以外も横断して学べるところです。海外でホームステイしながら本学の授業を受けられる「ハイブリッド留学」も魅力的で、チャレンジしたいと思っています。(工学院大学・山田さん)

●学生が「やりたい!」と思ったことを、学生支援課を中心として大学全体でバックアップしてくれるところです。商品開発もそのおかげで実現しました。(工学院大学・末久さん)