正解のない時代を生き抜く「武器」を作る
千葉県立小金高等学校が仕掛ける、3年間の「熱狂探究サイクル」

中学・高校情報 取材・文 秋岡達哉(大学通信)
正解のない時代を生き抜く「武器」を作る 千葉県立小金高等学校が仕掛ける、3年間の「熱狂探究サイクル」

写真=発表準備をする2年生

創立60周年という大きな節目を迎えた千葉県立小金高等学校(以下小金高校)。11年前、進学重視型の「総合学科」へと舵を切った同校は、今や進学校の枠を超え、公立高校における新しい教育モデルを提示しています。その教育の中心に据えられているのが、生徒一人ひとりが自らのキャリアをデザインするための「探究学習」です。今回、1年生による探究学習の中間発表会を取材しました。同校が掲げる「答えのない問い」に挑む生徒たちの姿から見えた、小金高校流の探究学習をレポートします。

自己理解から始まる3年間の探究サイクル

小金高校の最大の特徴は、総合学科の仕組みを活かした、柔軟で多様なカリキュラムです。生徒一人ひとりの興味・関心に合わせてさまざまな授業が用意されており、個性を大切にした学習環境が整っています。場合によっては、先生と生徒がマンツーマンで行う授業もあります。
こうした環境下で展開される探究学習は、1年次の必修科目である「産業社会と人間(通称:ミライガク)」から始まります。本来は専門学科向けの科目ですが、同校ではこれを「自己理解」と「未来を考える」ための時間と再定義しています。そこで、生徒たちは、自分は何に興味があるのか、何を大切にしているのかを客観的に見つめ直します。
9月には、各自の興味関心に基づいたグループ研究がスタートします。クラスの垣根を取り払い、共通の関心を持つ3~5人のメンバーで編成される班は、原則として3年次まで継続されます。この「研究の共同体」ともいえる強固なつながりが、卒業まで続く深い学びを支える基盤となっています。

「オタク」になれるほどの情熱を、探究の原動力に

小金高校では、これまでの探究学習はSDGsを主軸に置いてきましたが、現在の2年生からは「生徒自身の純粋な興味関心」を起点とする方針に変わりました。一方で、引き続きSDGsをテーマに活動しているグループもあります。探究活動のコンセプトは「勉強、運動以外のもう一つの得意を作ること」。いわば特定の分野に対して誰にも負けない情熱を注ぐ「オタク」といえるほどの専門性を育むことを目指します。
この「熱狂的なこだわり」こそが、VUCA(変動性、不確実性、複雑性、曖昧性)の時代において、自分なりの答えを導き出す「探究的思考」の揺るぎない原動力となると考えているからです。
一方、同校の探究学習では、決して「華やかな成果」だけを求めているわけではありません。重視しているのは、プロジェクトの規模や専門性の高さではなく、「自分なりの『なぜ』を見つけ、試行錯誤の中で、自分なりの答えを導き出すプロセス」そのものです。

今回見学した、各教室で行われた1年生の中間発表会は、まさにその「試行錯誤」の様子が見て取れました。テーマには「オーバーツーリズム対策」「AIによる高校生の心情理解」「災害時の燃料効率比較」など、等身大の疑問が並びます。まだ「たどたどしさ」が残るものの、探究ツールを駆使し、自らの興味を言語化しようとする熱量は本物でした。

学習マネジメント部長の高木先生は、「今日は成果を出す日ではありません。温かい目で見守ってほしい」と仰っていましたが、クラスの枠を超えて結成された班で、生徒たちが自らの興味を客観視し、テーマを絞り込んでいくプロセスそのものに大きな価値があるのです。
一方、2年生の教室では、すでに探究学習の基礎を身につけた生徒たちが、次回の発表に向けて活気ある準備を進めていました。和やかながらも真剣な眼差しで取り組むその姿からは、探究が「与えられた課題」ではなく、「主体的で楽しい活動」として定着している様子がはっきりと伺えました。

正解のない時代を生き抜く「武器」を作る 千葉県立小金高等学校が仕掛ける、3年間の「熱狂探究サイクル」
写真=1年生の中間発表の様子

先進的な課外活動「探究局」の躍動

今回の発表会を通じて、小金高校が取り組む探究学習は、単なる「調べ学習」の枠を超え、生徒の「好き」や「なぜ」を原動力にした、極めて熱量の高い取り組みへと進化していると強く実感しました。その象徴ともいえるのが、昨年の4月に新たに発足した「探究局」の存在です。委員会と部活動の両方の性質を兼ね備えた「外局」として、現在6つのチームが社会課題の解決に向けて、学校の枠を飛び出したダイナミックな活動を展開しています。

中間発表会では、その中から3つのチームが登壇しました。海洋プラスチック問題の解決に挑む「チームオーシャンズ」、松戸産のレモンを活用した、地元の特産品を活用し、レモネード販売を通じて病児・家族支援活動を行う「チームLemon–Lemon」、新入生から回収した参考書を中学生に無料で貸し出し、家庭の教育格差解消を目指す「チームスマイル」。それぞれのプレゼンテーションからは、探究学習の深化がはっきりと伝わってきました。
小金高校の探究学習が掲げる「勉強、運動以外のもう一つの得意を作る」というコンセプト。自らの興味を徹底的に深掘りし、周囲に流されず「自走」する探究局の生徒たちは、まさにこの理念を体現する存在と言えるでしょう。

さらに特筆すべきは、彼らが自身の代だけで活動を完結させず、持続可能な組織文化を築き上げている点です。「オーシャンズ」は第5期、「スマイル」は第3期と、先輩から後輩へと志とノウハウが確実に継承されています。このバトンを繋ぐ文化こそが、一過性のブームに終わらせない、小金高校の探究活動がもつ真の強みだと感じました。

人生を切り拓く「武器」としての探究

最後まで中間発表会を見学して確信したのは、小金高校の探究学習が単なる「大学入試の道具」に留まっていないということです。難関国立大学の推薦入試を見据えつつも、その本質は「よりよい人生を切り拓くためのスキル」の獲得に置かれています。
クラスの枠を超えた3年間にわたる共同研究、そして「探究局」による社会実装への挑戦。同校は基礎学力という土台の上に、独自の「武器」を持つ自立した個人の育成に成功しています。
全学的・組織的にここまで探究を深化させている公立高校は全国的にも珍しく、まさに「進学重視型総合学科」の一つの完成形と言えるでしょう。