ご縁があった学校がわが子に一番あった学校
1月10日の埼玉入試から中学受験が本格スタートします。数日後から1カ月後には、中学受験が終わります。うれし涙も悔し涙もあることでしょう。親子で本当によくやり切りました。多少の失敗があっても水に流し、お子さんも自分もほめてあげましょう。
大事なのは、ご縁があった学校がわが子に一番あった学校だ、と心から信じることです。第一志望校でなくても、最大限にその学校をほめて、お子さんが入学を楽しみにできるようにしましょう。
それを怠ると、「こんな学校にしか合格できなかった」と子どもが自分を責めたり、「本来私がいるべき学校じゃない」と思い込んだりして、進学後に不登校になるケースがあります。そうならないように、中学校生活が楽しみになるような声かけをしましょう。
春休みに学びの種をまくと探究の芽になる
入学までの過ごし方も大事です。学びの種をたくさんまきましょう。博物館や美術館、名跡を訪れて偉人に想いを馳せ、科学の面白さ、自然の神秘を感じましょう。どんなところにも学びの芽があるはずです。興味を抱けば、入学後の探究学習につながります。探究学習を深めてコンクールに入賞するなどすれば、大学入試にも活用できます。
現在は大学受験で一般入試の枠が減り、総合型入試が多くなっています。総合型入試で一番の強みになるのが探究学習です。取材をしても、中高時代の探究学習で学んだことを、さらに大学で学びたいと志望理由書に書いて、推薦入試で合格した、という話はよく聞きます。
ある生徒は魚が大好きで、探究学習で魚の研究を続け、今は東京大学大学院で研究しています。別の生徒はパソコンが好きで、中高でパソコン研究部で活躍し、今は大学3年から大学院に飛び級して研究をしています。
好きで興味を持ったことが、探究の学び、しいては、大学入試や大学での研究、将来の職業までつながるのです。
子どもの好きを大事にする
とはいっても「うちの子はゲーム三昧でアカデミックな興味を示してくれない」というご家庭もあるでしょう。しかし、この年代は反抗期、親が無理やりやらせようとするのは禁物です。「博物館の展示が面白そうだから行きたいんだけど、一緒に付き合ってくれるとうれしいな」というくらいの誘いに乗ってくれれば上出来です。「本人の意思を無視して、海外短期留学に行かせようとしたら、出発当日に家出をされた」というお母さんもいました。
一見遊んでいるようにしか思えないものも、極めれば強みになります。不登校の生徒が、ゲームを極めてプロのeスポーツ選手になった、ポケモンカードゲームを極めて世界大会に出場し、その経験を生かして大学合格した、というケースもありました。マンガに没頭して読み漁った経験が、大手出版社の就職につながった、ということもあります。
親の価値基準で口出しせず、子どもの好きを大事にしましょう。
中学のうちに失敗させる
わが子が「燃え尽き症候群」や「深海魚」にならないか心配する親もいるでしょう。成績が下がったまま浮上しないことから深海魚と揶揄されますが、失敗は中学のうちにさせることが大事です。
特に繰り上げ合格などギリギリ入学できた場合は注意が必要です。親は心配で「勉強しなさい」と口すっぱく言いがちですが、反発を招くだけで、よけい勉強しなくなります。
親が高学歴の場合も注意が必要です。自分と同じ水準を求め、「どうしてこんなに成績悪いの。私が学生の頃は…」などと言えば、火に油を注ぐだけで、さらに勉強しなくなります。
実際に親から「勉強しなさい」と口すっぱく言われ続け、反抗して勉強しなくなり、高校を退学になったケースがありました。
一方、親が勉強に口出ししないと、勉強するようになる場合があります。ある生徒は、中1の時点で赤点の科目が多く、系列高校への進学も危ぶまれましたが、「自分の人生は自分で責任持ちなさい。勉強しないで成績が悪ければ、退学になります。退学になったら、働くか、通信制高校に行くか、自分で考えて決めなさい」と親から宣言されました。すると最低限の勉強はするようになり、その後一度も赤点をとりませんでした。
遅刻も同じです。遅刻癖が直らないある生徒は「明日からは絶対に起こさないから、自分で起きて行きなさい」と大音量の目覚まし時計を親から渡されたといいます。翌日、いつものように目覚まし時計を止めて二度寝をしていましたが、お母さんは意を決して、子どもが自分で起きるまでそのまま見守りました。結局、学校に着いたのは昼休みで、大恥をかき、それからは自分でちゃんと起きるようになったといいます。
中学では成績が悪くても、欠席や遅刻が多くても、義務教育なので卒業できます。たいていの中高一貫校では高校へ進学できます(各学校の内部規定にもよります)。しかし、高校は義務教育ではないので、成績が悪かったり、欠席や遅刻が多かったりすると、進級できません。留年か中退か選ぶことになり、中退して通信制高校に転入するのが一般的です。
ですから、親は口出しをやめて、中学のうちに失敗させましょう。人から言われるのではなく、自分で危機感を感じて立て直すのが大事です。大学受験の調査書は高校の成績と出欠席数だけで、中学の記載はありませんから、中学のうちに失敗させて、高校できちんとできれば問題ありません。中学のうちに何でも自分できちんとやれるようになれば、将来にわたって大きな力になります。
「〇〇したら」という提案はやめよう
中学高校で親ができることは、子どもの話を聞いてあげることだけです。「いい学校でよかったね」「いいお友達でよかったね」「いい先生でよかったね」と肯定してあげましょう。すると、子どもはやる気を出して、自分から勉強や部活動、学校行事などに積極的に取り組んでいきます。合格最低点で入学した子が、親の肯定的な声かけでやる気を出して、東大現役合格したケースもありました。
親はつい良かれと思って、「塾に行ったら」「留学に行ったら」などと提案しますが、それは「あなたはそのままではダメだから、私が主導してあげます」という否定のメッセージです。それを言われ続けると、敏感な子どもは不登校になってしまいます。
子どものありのままを肯定し、子どもがやりたいことを応援してあげましょう。
何のために中学受験したのか考える
今は高校生の10.4人に1人が通信制に通う時代です(※令和7年度文部科学省調査より算出)。スポーツや芸能など特殊な才能を伸ばすために通信制に通う場合もありますが、不登校になって通信制に転入することが大半です。それくらい、全日制高校に通いとおすことが大変な時代です。私はたくさんの不登校の生徒やその保護者、さらに多数の私立中高を取材して、それを実感しています。
そして、幸せな中高生時代を送るためにも、例え不登校になったとしてもそこから立ち直るためにも、愛情ある親子関係が不可欠です。口出しせずに、子どもを信頼して、ありのままを愛してあげましょう。
そして、何のために中学受験したのか、何のために勉強を続けるのか、これを機に親子で考えてみましょう。学歴をつけ、いい会社に就職し、社会で成功し、お金持ちになるためでしょうか。作家・三浦綾子さんの『続氷点』から言葉を贈ります。
「一生を終えてのちに残るのは、われわれが集めたものではなくて、われわれが与えたものである」
あなたがお子さんに与えられるもの、そして、お子さんがまだ見ぬ大事な人や、世の中の人々に与えられるものが、きっとあるでしょう。
※全日制と定時制の生徒287万3619人、通信制の生徒30万5197人
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小山美香(こやまみか)
大学卒業後「サンデー毎日」(毎日新聞社=現・毎日新聞出版)の編集記者として、取材、執筆に取り組んだ後フリーランスに。「本と出会う」(BS-i=現・BS-TBS)のキャスター、タウン誌記者などを経て、読売新聞オンラインの「中学受験サポート」で、のべ約180校の私立中学校高等学校を取材。3児の母として3度の中学受験を経験。著書に『中学受験をして本当によかったのか? 10年後に公開しない親の心得』(実務教育出版)
