変化し・進化する私立中学・高等学校
〜質実剛健の印象が強い男子校から、「居場所」がある開放的な共学校へと生まれ変わった横浜高等学校~

中学・高校情報 取材 林郁子(ライター)
変化し・進化する私立中学・高等学校 〜質実剛健の印象が強い男子校から、「居場所」がある開放的な共学校へと生まれ変わった横浜高等学校~

少子化をはじめとする社会の変化につれて、教育の現場もここ20年ほどで大きく様変わりしている。共学化や経営統合などによって、教育体制や校風、偏差値、大学合格実績が驚くほど変化した学校も少なくない。受験の際にはぜひ保護者の世代のイメージを刷新して、学校選びに取り組みたい。

横浜高等学校(横浜市金沢区)は、男子校から共学化した学校の一つ。昔から多くのプロ野球選手を輩出し続けている野球の強豪校として知られているが、2020年の共学化を機に生徒一人ひとりが自分らしく学ぶことができる、「自由」で「グローバル」な学校へと生まれ変わった。共学化以来、幅広い生徒を集める人気校となり、海外大学をふくむ進学実績も大きく伸ばしている。入試広報部長として新たな「横高」を牽引してきた館山和央教頭に、同校の共学化における戦略や今後のビジョンについてお話を聞いた。

大きな話題となった、野球の名門校として全国的な知名度を誇る横浜高校の共学化

横浜高等学校は、第二次世界大戦中の1942年に教育家の黒土四郎によって旧制横浜中学校として創立された。建学の精神である「信頼を受くる人となれ」「責任を重んぜよ」「秩序を守れ」の三条、「誠意」「総力」「努力」「創造」「忍耐」の五訓を校訓とし、長年男子校として歩んできた。高校野球の強豪校として知られている通り、1973年の第45回センバツ大会初出場初優勝以来、春夏の甲子園大会や国体等で何度も優勝を飾っており、松坂大輔選手や筒香嘉智選手をはじめとする多くのプロ野球選手を輩出してきた。硬式野球部以外でもバドミントン部、剣道部、アーチェリー部、将棋部など全国レベルの部が揃う。

こうした男子校としての全国的な知名度を誇っていた同校が、2016年10月に2020年度からの共学化を発表。のちの新聞報道で、教育関係者や受験生とその保護者だけでなく、高校野球ファンの間でも話題となった。

共学化の背景について、館山先生はこう語る。

「理事長兼学校長の葛藏造が、女性の社会進出がうたわれる時代、本校も社会に目を向けて根幹から変えていかなくてはならないと考え、共学化という大きな改革に踏み切りました。また、当時多くの私立男子校・女子校が共学化を進めており、本校としても『今、動かなければ』というタイミングでもあったと思います」

共学化を機に、グローバルな学校へと舵を切る

2020年の共学化に向けて、同校ではさまざまな改革が進められた。

改革の根幹となるのは、建学の精神である三条五訓に、新たに加えられた理念(ミッション)である「思いやりあふれる青少年の育成」と「社会で活躍できるグローバル人財の育成」。また、展望(ビジョン)として、「グローバル教育」の推進を掲げ、ビジョン実現に向けた3本の柱として「グローバル教育」「キャリア教育(ライフデザイン教育)」「深い学び」を定め、基本コンセプトを「21世紀を生き抜く力」とした。

「グローバルを具体的に打ち出すために、2018年から順次海外大学との提携を進めました。英検2級以上などいくつかの条件をクリアすることで、提携海外大学への入学が保証されるシステムです。現在、アメリカ、フィリピン、オーストラリア、カナダ、台湾など5カ国10大学と提携を結んでいます」

また、グローバル化に合わせ、同校では「自由」な校風のもと生徒が自分らしい学校生活を楽しめるように、TPOを重んじることは前提にしつつ、服装や髪型などの校則を細かく決めるのではなく、生徒が自分で考える余地を大切にした。

女子生徒が快適に過ごせるように校舎を全面改修し、イメージを一新

校舎やグラウンドのリノベーションは工事期間を分けて、学校を使いながら順次進められた。まずは、京急線側にある広大な第一グラウンドは全面人工芝にし、生徒の誰もが自由にくつろげるスペースへと改修した。校舎内も見た目をきれいにするだけでなく、女子トイレや女子専用のシャワー室といった女子生徒のための設備を新設するほか、コモンルームや学習室など生徒が交流するスペースを設け、Wi-Fiなどのインターネット環境も整えた。校舎外観もおしゃれなレンガ造り風のものになった。

「女子生徒は、くたびれている、暗い学校には決して来てくれません。ですから、男子校に女子生徒を迎え入れるには、女子用の設備を整えるだけでなく、全面的に見た目をきれいに刷新する必要がありました。東京オリンピックが近づくにつれて建築資材がどんどん値上がりしていった頃ですから、早めに工事に着手できたのは幸いだったと思います。特に力を入れたのが道路に面した第一グラウンドです。ここが変わるとイメージが一新されます。以前はグラウンドの周囲は木々に囲まれて中が見えないようになっていたのを、人工芝の広いグラウンドと学校の活動の様子がしっかりと見えるようにしました。電車から学校が見えることで駅から徒歩2分という本校のアクセスのよさもアピールできたと思います」

変化し・進化する私立中学・高等学校 〜質実剛健の印象が強い男子校から、「居場所」がある開放的な共学校へと生まれ変わった横浜高等学校~

序列のない、生徒一人ひとりが自分らしい学校生活を送るための3つのコース

コース制にも変化があった。同校は1986年から普通科に「特進コース」や「体育コース」を設置するなど、早くから授業内容や授業時間数が異なるコース制で、受験や部活動など生徒の希望する学校生活のために柔軟に対応してきた。共学化前のコースは国公立大をふくむ難関大学への合格を目指す「特進コース」、文理に分かれて私立大学の合格を目指す「文理コース」、部活動などに打ち込みやすい授業時間の「特性コース」の3つ。それらの内容を整え、より特徴を出しつつ、特進を「プレミアコース」、文理を「アドバンスコース」、特性を「アクティブコース」に変更した。このコース名変更には、共学化によるイメージ刷新だけではなく、「コースに序列をつけない」という葛学校長のこだわりがあったという。入学時の偏差値で見れば各コースに明確な差があるが、勉強ができる生徒も、勉強と部活や学校行事を両立させたい生徒も、スポーツに打ち込みたい生徒も、さまざまな生徒を受け入れ、それぞれの居場所をつくりたいという新生横高の姿勢の表れだ。

「アドバンスコースにはグローバルセレクトというネイティブ講師による英語の特別クラスも設けました。各コースに特色をつくることで、成績による振り分けではなく、生徒の希望する進路や学校生活に応じた選択ができるコース制として、幅広い層の受験生を受け入れることもねらいでした」

初年度は想定を大幅に上回る女子人気でスタート

館山先生が共学化に向けた動きの中で、ポイントとして挙げたのは、共学化の発表の時期だ。これまで多くの学校で2年前や1年前に共学化が発表されたが、同校の発表は3年以上前だった。

「移行期間を3年間とったのは校舎の全面改修といったハード面、新たな女子生徒と増員する生徒に対応するための新たな教員募集、制度改革などソフト面の準備に時間が必要ったという事情もありますが、何よりも在校生への『誠意』という意味がありました。男子校として募集をかけて入学した生徒が卒業まで男子校の環境で過ごせること。そして、発表後に入学した生徒は学年の途中である2020年度から共学化することを知ったうえで入学してもらうこと。学校説明は入学前の受験生や保護者への『約束』のようなものですから、そこは守りたいと思いました」

同校の共学化への関心や期待は高く、2020年度の募集に向けた最初の女子対象の学校説明会はキャンセル待ちが出るほどの人気。そのほかの学校説明会も多くの参加者で賑わった。

「2019年に広報を集中して行ったことも成功したきっかけだと思います。学校説明会は毎回多くの参加者が集まり期待と熱気を感じました。とりわけ女子からの注目の高さには驚きました。野球部人気もあったと思いますが、共学化の初年度という点が大きな魅力に感じられたのではないでしょうか。先輩がいない学校で自分たちが1期生になれるタイミングで、新しい環境で挑戦がしたい元気で明るい女子が集まった印象があります」

変化し・進化する私立中学・高等学校 〜質実剛健の印象が強い男子校から、「居場所」がある開放的な共学校へと生まれ変わった横浜高等学校~

館山先生が語る通り、初年度となる2020年度の募集では男女合わせて450名の枠を想定していたところ、推薦の受験者は前年の177名から432名、一般の受験者は399名から1661名と大幅に増えた。入学者数は男女合わせて927名、うち男子393名、女子534名と、圧倒的な女子人気を裏付ける結果となった。

大きな変化を伴う改革には、教員からの反発の声もあった

初年度以降も入学者数は男子校時代よりも大きく増え、県内屈指の人気私立校となった同校。「大成功」と言える改革だが、大きな改革の陰には内外からの反発もあったという。とりわけ、これまで運動部の活動に力を入れることで成果を上げてきた教員からは、運動部強化の方針が変わることや「質実剛健」とされてきた校風が変わること、運動部の活動場所であった第一グラウンドが一般の生徒がくつろぐ場所に変わることなどに反対の声が大きく上がった。

「共学化するにあたり、スポーツにのみ力を入れるという方針を転換し、幅広い生徒が集まり楽しめる学校への変革を目指していた理事長兼学校長の葛は、そうした反発とも丁寧に向き合いました。グラウンドについては『ジャングルジムを設置して公園のようにしよう』なんて冗談のようなアイデアも出ていたほどです。もともと部活中心・部活優先主義を続けると学校が後退すると考えていました。わかりやすくいえば、強い部活に入ることができる子はかぎられるので一般の子は楽しめない。特殊な属性の子たちが入る学校と印象がつくことは逆に言うとその他大勢の一般の受験生に選ばれにくくなってしまうということです。それが男子校時代の本校が抱えていた課題であり、共学化への取り組みはその課題解決も含んでいました」

新たな横高は、館山先生が考案したという「あなたらしく、あたらしく。」のキャッチコピーの通り、多様な個性の生徒が集まり、誰もが自分らしく成長していくことができる学校だ。象徴となるのが、人工芝のグラウンドに集まって生徒たちがお弁当を食べる光景。学校案内の写真などにも使われているが、普段から生徒たちはグラウンドや校内各所のベンチなどに集まって自由に過ごしているそうだ。

変化し・進化する私立中学・高等学校 〜質実剛健の印象が強い男子校から、「居場所」がある開放的な共学校へと生まれ変わった横浜高等学校~

「実は共学化初年度となる2020年はコロナ禍によって入学式以降登校できない日々が続いていました。学校再開後も時短・分散型登校が続きました。昼食も黙食が必須とされている中、『だったら、開けた空間である屋外で食べてもいいことにしよう』とすると、生徒たちは喜んでグラウンドで昼食をとり始めました。ピクニックのような昼食風景は、今では本校の日常です」

生徒増に対応するため、新たに多くの教員を採用したことも、同校の雰囲気を変える一助となった。新たに採用された教員の大半は若手で、今までほとんどいなかった女性教員も増えた。教員の経験値不足というマイナス面も確かにあるが、館山先生は学校説明会などでそうした情報も伝えつつ「生徒に近い立場でともに成長していく教員」と期待をかける。

野球強豪校からグローバルな共学校へと生まれ変わり、さらに進学校への道を模索

現在、同校の共学化への数々の取り組みを「参考にしたい」と、話を聞きに訪れる学校関係者も多いという。ただ、館山先生は「本校は単なる共学化ではなくかなり思い切った改革をしましたから、共学化への取り組みは各学校に合わせたやり方で進めることが大切だと思います」と話す。

「私たちも、共学化については時代の波に乗りつつ、『本校にしかできない改革』を常に念頭に置いていました。私立はそれぞれの学校の個性を打ち出すことが、生き残りに欠かせません。今の受験生の保護者世代には野球の強豪校としてのイメージの強い本校ですが、これからは時代に合わせた変化や進化を続けていき、その中で新たな個性で知られるようになっていきたいですね」

そうした中、同校では、現在打ち出している「グローバルな共学校」から「進学校」への新たな一歩を模索している。

「グローバル化で掲げた改革の一つに海外大学への進学があります。提携校などの取り組みで男子校時代はほぼゼロだった海外大学への進学者が増えているという実績はあるものの、円安の影響もあり、海外への進学者を今後大きく増やすことは難しくなっています。グローバル化を謳う学校の多くが同様の課題を抱え、方針転換やグローバル化の見直しを行なっています。そこで本校では、海外大学への進学をふくむ進路の可能性を広げることを目的に、各コースの学力の底上げに取り組んでいきたい。そして、将来的には『進学校』としての強みもある学校へと進化していきたいですね」