写真=海城中高の2号館
全国有数の進学校として名高い海城中学・高等学校(以下、海城中高)は、JR山手線の新大久保駅から徒歩で約5分という抜群のアクセスを誇る場所に校舎を構えている。都心の一等地である新宿区にありながら、グラウンドや体育館を含む敷地面積は非常に広大だ。この度、海城中高にご協力をいただき、校舎見学をさせていただいたので、その模様を詳しく紹介しよう。
校舎は、長い歴史の中で増改築を重ねながらも、一貫して生徒の学びと活動を最優先する設計がなされている。学校の正門をくぐると、まず、感じるのは、学校全体の伝統的な重厚感と現代的な機能美が融合している点だ。正面を見ると、レンガ色の少々個性的な形状をした2号館が目を引く。その右側には歴史を感じさせる1号館、そして左側には2021年に新築されたガラス張りのScience Center(3号館)がそれぞれの存在感を放ちながら立ち並んでいる。
それでは、1号館から見ていこう。1号館は、中学初期教育の中心となる校舎である。2階および3階には中学1年生が配置されている。隣接する事務室と連携することで、新入生がスムーズに学校生活に適応できるようサポートする体制が整えられている。新入生は、この校舎で学び、学校生活の第一歩を踏み出すことになるのだ。

図書館
2階には、中学校・高校の区別なく利用可能な図書館が設置されている。この図書館は、蔵書数65000冊を誇り、生徒たちの、知的な探求活動を支援する環境が整っている。個人の探求活動に集中して臨めるよう、閲覧席にはコロナ対応時のパーテーションがそのまま残されている。これは、自習時にも有効であるとして、生徒から好評を得ている。
次に紹介する2号館は、2006年3月に増築工事が行われ、従来の4階建て校舎の上に3階分を増築し、合計8階建てというユニークな外観を持つ建物へと変貌した。既存の4階建て校舎を活かしつつ、中間の5階に免震層を設けることで、上部に鉄骨造りの新しい教室フロアを積み増すという、当時としては極めて先進的で難易度の高い工法であったという。
2号館の1階には職員本部室が配置されている。しかし、教員のデスクは各教科の職員室にあり、これは授業を最も重要視し、教科内の情報共有を円滑にする狙いがある。2階にはICT教育部のLAB、3階より上層(5階の免震フロア除く)は中学3年生・高校1年生から3年生の普通教室が配置されている。

デザインチームの生徒主導でリノベされた音楽室
各学年の教室のほかに、目を引くのが、KAIJO DESIGN TEAMが生徒主導でリノベーションに携わった音楽室だ。生徒たちはデジタルツールを駆使して音楽室のデザインを考案したという。ここに、海城中高の生徒の主体性と技術力の高さがよく表われている。

中1の自画像制作
3階の絵画室では、毎年恒例の中学1年生の自画像の制作が行われていた。自画像を描くことは、中学生にとって単に自分を描く以上に、「自分自身と向き合う」重要な学習テーマとなっている。また絵画室の横にある廊下には「KAIJO ART GALLERY」が設けられており、美術の授業で制作された生徒の作品が主に展示されている。

絵画室横の廊下にある「KAIJO ART GALLERY」
2号館には、グローバル教育部も設置されており、帰国生や海外大学進学希望者の支援だけにとどまらず、すべての生徒に海外に目を向けさせ、グローバル社会で活躍できる人材の育成に力を入れている。
4号館には、中学2年生が配置されている。また、情報システム管理室も設置されており、中学1年生から高校3年生まで2000人近くが授業などで使用するMacBookAirなどの端末を、専門の担当員が管理・運用している。

開放的なカフェテリア
4号館を通り抜けると、生徒が昼食をとるための食堂スペースであるカフェテリアが見えてくる。生徒の2割程度が利用するとのことで、1階には売店とパン売り場、2階と3階が食堂スペースとなっている。明るく開放的な雰囲気に設計されている。

山手線内とは思えない広さのグラウンド
カフェテリアの奥には、新宿区の山手線内側という都心の一等地からは想像もできないほど広大なグラウンドが広がっている。全面が人工芝で覆われており、水はけの良さと高いクッション性により、生徒たちが安全で快適な環境で、体育の授業や部活動に熱中し、心身を鍛える上で重要な役割を果たしている。

体育館
隣接する体育館は、2階がバスケットボールやバレーボールなどに使用可能なアリーナとなっている。ひときわ目を引くアリーナの天井はドーム状になっており、自然光を通す設計となっているため、晴れている日は照明がなくても十分な明るさだ。1階には、柔道場と剣道場、そして体育職員室が設置され武道教育を含めた多様な体育種目に対応している。

2021年竣工のScience Center
最後に案内していただいたのが、2021年に竣工したScience Center(3号館)、通称「新理科館」だ。生徒たちの知的好奇心と探究心を最大限に刺激するために、運用が開始された理科教育の新たな拠点である。

「教材校舎」を象徴する剝ぎ取り標本
この建物の最大のコンセプトは、「教材校舎」であること。単に実験設備が整っているだけでなく、建物そのものが生徒の学びの教材となるよう、随所に工夫が凝らされている。
地学実験室前の床面には、建設時に採取された地下10mの地層の剥ぎ取り標本が展示さており、校舎の地下の地層を直接学べる貴重な教材となっている。また校舎の壁面には、温度調節機能を持つ石である、大谷石が使用されているのを始め、特殊な空調設備やソーラーパネル、風力発電などの環境に配慮した設備が導入され、その仕組みや効果が「見える化」されている。生徒は学校生活の中で、これらの仕組みを実体験し、気づきや発見を得ることができるのだ。

地学実験室の体験スペース
フロアごとに見ていくと、1階には、物理実験室と地学実験室、階段教室が配置されている。物理実験室には、天井の高さを活かし、巨大な振り子の実験など、大規模な実験を可能にするための装置が設備されている。これにより、物理現象をダイナミックに観察できる。地学実験室には、化石から岩石まで、教科書の中の資料が実際に並ぶ「触って、感じられる」体感スペースがある。例えば、一辺10センチの立方体に切り出された岩石(花崗岩、閃緑岩など)が並び、生徒は実際に手に取って重さや密度の違いを感じることができるようになっている。

生物実験室
2階にある、生物実験室で特徴的なのは、クリーンベンチ(無菌操作台)が設置されていることだ。これは、内部を無菌状態に保つことができるため、外部の細菌などが混ざるリスクを減らし、特定の細菌の純粋培養といった高度な実験を可能にしている。
3階には化学実験室があり、実験で発生する有毒ガスなどを吸い込み、外部へ排出するためのドラフトチャンバー(局所排気装置)が9台設置されている。これは私立中高として全国トップクラスの数とされている。これにより、生徒一人ひとりが安全に実験を行える環境が確保されている。

温室
屋上には、生物の授業や生物部の活動に利用される温室が設置せれている。特に注目すべきは、温室の壁面には、世界で初めて導入された無色透明の発電ガラスが設置されていることだ。これは、発電しながら光を通すという特性があり、生徒が発電の仕組みや効果を学べる「生きた教材」となっている。このように、屋上も最新の技術を導入しつつ、理科の探究活動を支える重要なフィールドになっている。
ここまで見てきたように、海城中高の校舎は、Science Centerを中心に、生徒たちが将来にわたって自ら学び続けるための「学びのエンジン」を育む場として設計されている。
海城中高では、教員に言われたからやる、成績のために取り組む、といった受け身の学びのスタイルでなく、生徒一人ひとりが心から「面白い」「もっと知りたい」と感じる対象に時間を忘れて没頭する、いわゆる「沼にはまる体験」を大事にしている。このような体験を通して、生徒たちは自らの力で知識を獲得し、疑問を解決する喜びを知ることになる。この「沼にはまる」ためのフックがたくさん用意されている校舎での学びが、高校時代だけで終わらない、生涯にわたって知的好奇心を満たし続けるための「学びのエンジン」を生徒の中に起動するのだ。

おまけ:筋トレ好きの生徒向け。プロテインのみの自販機
