湘南白百合学園中高は、江ノ島と相模湾を望む高台に建つ。青い空と海、豊かな緑に囲まれた環境が魅力で、この風景に心を惹かれて入学を決める生徒も少なくないという。

校内のテラスから相模湾を望む
訪問した5月9日は、来週に運動会を控えたタイミングだった。教頭の水尾純子先生によれば、練習中には「ぎゃはは、というような笑い声が飛び交っている」そうで、「この声こそ、湘南白百合の声なんです」と話す。生徒たちは湘南の自然の中で、のびのびと過ごしている。
私立中学の受験校選びについて、水尾先生は「学校は実際に足を運ばないと分からない」と語る。校名や偏差値、あるいは親の世代の印象だけでは今の学校の姿は見えてこない。むしろ、そうした過去のイメージにとらわれすぎることで、子どもに合う学校を見落としてしまう危うさもあるという。
先生自身も中学受験を経験し、親としてもわが子の受験に伴走してきた。学校を選ぶ際には、「うちの子にはこの学校が合いそうだな」と感じる親の直感も大切だが、「こういう学校だから」と親の価値観を押し付けるのではなく、会話のキャッチボールを重ねることが重要だと話す。子ども自身が学校に対する理解を深めていくためには、親子の対話が欠かせない。
子どもが「制服がかわいい」といった理由で学校に興味を持つこともある。水尾先生は、そのような純粋な視点を大切にしつつ、そこから一歩進んで「その学校のどこが好きか」「どんなふうに通いたいか」といった会話を通じて、学校選びを深掘りしていってほしいと語る。
中学受験は、子どもが自立する前の「最後の親子の二人三脚の時間」だと水尾先生は言う。模試の結果に一喜一憂しがちだが、「一番堪えているのは子ども。親が動揺してしまえば、子どもが逃げ場を失う」と語る。大切なのは、親が子どもの状況を冷静に見つめ、感情的に引きずられすぎずに適切な距離で寄り添うことだ。湘南白百合の生徒の中にも、「親が話を聞いてくれたことで救われた」と受験を振り返る声が多い。
受験生はまだ小学生だ。ゲームもすれば漫画も読む。兄弟姉妹で性格がまったく違う。「上の子の成功体験が下の子にそのまま当てはまるとは限らない」と先生は話す。子どもの数だけ受験ストーリーがある。だからこそ、湘南白百合では中学入試当日、教員一同が「今日ここにいる受験生一人ひとりに、それぞれの物語がある」と心に刻みながら受験生を迎えているという。

生徒が設計に関わったラーニングコモンズ
校舎の中を見学させてもらうと、生徒主体の工夫が随所に感じられた。たとえばラーニングコモンズは生徒自身が設計に関わった空間で、個別ブースやグループ学習スペース、さらにはメンターが学習をサポートするエリアもある。外観こそ歴史を感じさせるが、校内では学びの形が進化し続けている。
2024年度には文部科学省の「DXハイスクール」に指定され、ICT環境の整備も進む。校内のパソコンルーム一帯はリニューアル工事が始まり、より高性能な機器が整備される予定だという。伝統を大切にしながらも、学びの環境は着実にアップデートされていた。