兵庫県神戸市にある夙川中学校・高等学校は、2019年から学校法人須磨学園の下で新たな学校として再始動した中高一貫の進学校だ。2025年3月に卒業を迎えた中高一貫1期生からは、初年度にも関わらず東京大学に合格者を輩出。難関国立大や国立の医学部医学科にも多数の合格者が出た。
東大に合格した生徒は、どのような学校生活を過ごしてきたのか。また、高い合格実績の背景には、どのような取り組みがあるのだろうか。
好きをとことん追究した6年間 その先にあった東大合格
夙川中学校・高等学校にとって新たな教育体制下での初めての挑戦となった2025年度入試は、多数の難関大合格者が出るなど、初年度としては異例の大成功と言える結果だった。
具体的な合格実績は以下の通りだ。難関国立大は、東京大学、京都大学、大阪大学、九州大学、神戸大学、東京科学大学にそれぞれ1人が合格。国立大の医学部医学科は、香川大学、佐賀大学、琉球大学にそれぞれ1人ずつ。防衛医科大学校には2人が合格した。卒業生が49人であることを考えれば、難関大への合格率は非常に高い。
東大に合格した生徒は学校での6年間をどのように過ごしてきたのだろうか。土屋博文高校校長は、東大に合格した生徒の学校生活の様子や志望理由について次のように話す。

土屋博文 高校校長
「中学の頃から個人研究などの取り組みを熱心に行っており、『大学で化学や生物を詳しく学びたい』という思いを持っていました。一方で、『将来的には文系に転向して司法試験を受けることも視野に入れている』と話していて、進振り制度のある東大を志望したようです」
この生徒は、理科研究部に所属し、中1の頃から数学・理科甲子園に出場。オープンスクールでは来場した子どもたちに向けた理科の実験を担当するなど、自分のやりたいことに積極的に取り組んできたという。好きなことに次々と挑戦できる場をできる限り提供する教育が6年間で生徒を大きく伸ばし、最終的には東大合格までたどり着いた。
少人数教育で一人ひとりの「好き」を後押し モチベーションの高さが生徒を伸ばす
中高一貫1期生が入学した当初、彼らは中学入試の段階で特に上位に位置していたわけではなかった。それにも関わらず大学入試でこれだけの実績を残せた背景には、生徒と教員の距離が近く、少人数制による手厚い指導を実現できていることがある。中学校長を務める西泰子理事長は次のように説明する。

西泰子 理事長
「この学年は6年間、同じ担任の下で学びました。教員は原則持ち上がりです。物理的な距離が近いコンパクトな校舎で学ぶため教員と生徒の精神的な距離も近く、人間関係はタイトになり、信頼関係も構築されます。生徒の得意不得意や調子の良し悪しを深く把握できる点は、少人数教育の大きなメリットと言えます」
夙川中学校・高等学校は「好きを大切にする」ことを教育目標としており、教員が生徒一人ひとりの好きなことを見抜き、しっかりと把握。チャレンジできる場を与えることで、生徒のやる気を引き出している。土屋校長は言う。
「生徒たちは興味・関心を持つと、放っておいても自分から取り組むようになります。だからこそ大切なのは、いかに早くからそうした関心を持たせるかということ。早ければ早いほどいいのは間違いありません」
生徒の成長について、西理事長も次のように続ける。
「結局はモチベーションが全てであり、好きになることが一番です。『やったらできる』という自己肯定感と、外部からの『すごいね』という称賛が、子どもたちを伸ばしていくのだと思います」
須磨学園と連携した教育や進学指導 教員の親身なサポートも実績に直結
医学部入試に向けた面接サポートなど、大学入試対策も長年のノウハウの蓄積がある須磨学園の教員と連携して行われている。全員が塾などに通うことなく大学へ合格していくのは、学校での指導が充実していることの表れだろう。
須磨学園との連携は多岐にわたっており、高1の夏には須磨学園の卒業生が夙川の生徒に向けた講演会を開催。放課後のティーチング・アシスタントも須磨学園の卒業生が務めるなど、中高一貫1期生ながらロールモデルとなる先輩と交流する機会が豊富なことも生徒に良い影響を与えたという。
こうした学校体制の充実はもちろんだが、生徒の成長にとって何より大きいのは、目の前の生徒のために頑張ろうとする先生の存在だ。土屋校長は校長業務の傍ら、週に21コマの数学の授業を担当。中高一貫1期生の躍進を6年間支え続けた。
「子どもたちが目を輝かせる瞬間を見た時や、授業後にこちらが少し考えてしまうような深い質問をしてくれた時は嬉しいですね。これからの日本や世界を背負っていく人とさまざまな話をして、彼らの自由な発想を聞けるのは、教員をやっていてとても楽しいところですね」(土屋校長)
アットホームな環境で「好き」を伸ばし「面白い」自分を発見できる学校

海外研修の様子
夙川中学校・高等学校は、何よりも「好き」を大切にする学校だ。学校生活では勉強だけでなく課外活動も充実。中2~高1までは毎年海外研修を実施しており、中2はアジア4カ国、中3はアメリカ西海岸、高1はヨーロッパへ全生徒が渡航。現地の学生との交流や、大学・企業・博物館などの見学を行っている。外から日本を見る機会が多いことは、自分の将来を考えていく上でも大きな経験となっているという。
今後も少人数制での手厚い教育を継続し、生徒の成長を後押しすることを続けていく。
「本校は『優秀だね』と言われる生徒を育てるよりも、『面白いね』と言ってもらえる生徒を育てたい。面白い学校であり続けたい、と思っています」(西理事長)
「生徒には自分の好きなものや興味のあることを見つけて、それをどんどん伸ばしていってもらいたい。本校にはさまざまな経験ができる場が用意されていますから、それらを活用しながら新たな自分を発見してほしいですね」(土屋校長)