【私立中学校】2024年度入試状況から読み解く2025年度入試予測
近年は私立中学校により熱い視線が注がれ、中学受験がブーム化。2024年度には受験生の総数は少し減りながら受験率は上昇が続いています。その中で2月の難関校や上位校では「安全志向」もうかがわれましたが、中堅校などは人気アップのトピックも。2024年度の結果分析や最新情報から来春2025年度の入試動向を探っていきましょう。
受験生総数は少し減ったが「5万人」以上の激戦入試続く
近年は“12歳の選択肢”である中学受験の人気が私立中学校を中心に熱くなり、「中学受験ブーム」といわれる状況になっています。
大手塾の推計では、首都圏(1都3県)の私立・国立中の受験生総数(私立中が主体)は2015年度の4万5500人から「右肩上がり」になり、2020年度に大台の「5万人」を突破し5万1400人に。コロナ禍に見舞われた2021年度も横ばいで5万1400人を維持し、2022年度5万2000人→2023年度5万2500人と史上最多を更新。ただ今春2024年度は、小学校卒業者(1都3県)の5000人以上の減少が響き、約100人減の5万2400人でした。
ですが、私立・国立中を受験した生徒の割合、受験率は2024年度も上がりました。この受験率は10年連続でアップ。ここ数年は2021年度17.3%→2022年度17.6%→2023年度17.8%→2024年度18.1%と上昇し、「6人に1人」の割合を優に超えているのです。
AI(人工知能)など劇的な技術革新、様々な面でグローバル化が進む現在の社会情勢……。こうしたなか、私立中の多くでは近年、「新たな時代」に対応するべく、先進的なサイエンス教育、グロ-バル教育の学習環境を整える“リニューアル”を活発に行っています。それらの取り組みなどが私立中への期待感をぐっと高めており、「中学受験ブーム」の要因ともみられます。
一方、公立中高一貫校の評価も総じて高く、公立一貫校(1都3県)の受検者を加えると、中学受験率はこの5年間(2020~2024年度)、約22%(推計)が続いており、首都圏では「5人に1人以上」が中学入試を受けているのです。
さて来春の2025年度には、1都3県の小学校卒業者は約800人減少する見通しで、減り幅が小さいため、私立・国立中の受験生総数は2024年度と同程度になると予測されます。すなわち、「5万人」規模が詰めかける全体的に厳しい入試状況が続くでしょう。各自の志望校への対策学習に気を引きしめて取り組みましょう。
埼玉、千葉などの1月入試埼玉で延べ受験者数膨らむ
では、埼玉、千葉県などの「1月入試」から主な学校の受験動向などをチェックしていきます。
埼玉県の私立中入試は1月10日が開始日で、首都圏のなかで最も早い日程です。このため埼玉では、ほかの都県からの「試し受験」層が上位校を中心に多数集まっています。
その“筆頭格”が、「マンモス入試校」の栄東です。2024年度は同校は4回の入試枠を設け、受験者合計1万1768人(前年比147人増)にのぼりました。最も大規模なA日程(1月10日または11日を選択)の受験者は7847人(前年比158人増)で、倍率は前年と同じ1.6倍に。東大特待合格のみを判定する東大特待Ⅰ(4科または算数1科)は受験者1292人(同74人減)、倍率は4科2.1倍→1.9倍、算数1科3.9倍→4.1倍という結果に。
2025年度にはA日程を「A日程(東大)」(1月10日)、「A日程(難関大)」(11日)の2つの入試枠に分けて、後者では難関大クラスのみの合否判定とします。
開智では、1月中(5回試験)の受験者は合計5440人で、前年に比べ2074人増と大幅に増えました。開智所沢中教の選抜(合否判定)も行う制度がプラス要因とみられます。第1回で受験者が2384人(前年比822人増)と最も多く、この倍率は前年と同じ1.6倍に。合格者全員が最上位のS特待となる特待Aは受験者651人(前年比372人増)で、倍率3.0倍→3.4倍に上がりました。
ほかの難関・上位校では、浦和明の星女子の1回は受験者14人減(1949人→1935人)、倍率は1.9倍→1.8倍とわずかに低下。淑徳与野の1回は受験者145人減、倍率は1.9倍→1.6倍とやや緩和しました。同校が新設した医進コース特別入試(算数・理科)に受験生が流れたようです。新設のこの枠は受験者508人、倍率2.4倍でした。
立教新座の1回は受験者5人減(1685人→1680人)、しかし合格者の絞り込みで倍率2.1倍→2.3倍とやや上昇しています。
2024年度開校の開智所沢中教は、1月中(5回試験)の受験者が合計5203人と“盛況”に。開智グループの一つで信頼感があり、さらに開智の選抜(合否判定)も行う制度が人気の呼び水に。
千葉県の私立中入試(一般)は1月20日に開始されます。2月入試までの間隔が短いことから、千葉では埼玉に比べ「試し受験」層は少なめです。
2024年度は、埼玉の1月入試の延べ受験者数は約5万4400人(前年比・約1万1000人増)に膨らみましたが、千葉ではその人数は約2万1300人(前年比・約300人増)でより差が開いています。
難関・上位の千葉校の状況はどうでしょうか。
首都圏トップレベルの渋谷教育学園幕張。同校の1次では、前年に比べ受験者71人増(1898人→1969人)、倍率は2.7倍→3.0倍に上がりました。
昭和学院秀英の1回も受験者23人増(1190人→1213人)で、倍率は3.0倍→3.2倍に。午後入試(1月20日)は受験者669人、倍率4.4倍でした。
一方、市川の1回では受験者82人減(2669人→2587人)、男子枠の倍率は2.3倍→2.2倍、女子枠は2.9倍→3.0倍とわずかに上下しています。なお、この定員は男子枠180人、女子枠100人でしたが、2025年度には男女280人と変更。これにより女子の合格者が増えそうです。
東邦大付東邦の前期は受験者4人減、倍率は前年(2023年度)と同じ2.2倍に。
常磐線の沿線では、専修大松戸は1回の受験者が107人減、2回は68人減。1回の倍率は2.5倍→2.3倍、2回は5.3倍→4.6倍と下がりました。
茨城県では、江戸川学園取手は3コース制の募集で、2024年度は1月には試験を2回実施。受験者は1回で2人減(723人→721人)、2回は5人増。倍率は1回では前年と同じ1.8倍で、2回は合格者減が響いて2.0倍→2.3倍に上がりました。
寮がある地方の学校の「首都圏会場入試」も1月の“選択肢”です。2024年度は北嶺(北海道)、盛岡白百合学園(岩手)、佐久長聖(長野)、不二聖心女子学院(静岡)、西大和学園(奈良)、愛光(愛媛)、早稲田佐賀など約20校が1月に首都圏入試を実施。これらの受験者は合計で約1万1800人でした。
2月の受験動向をチェック難関・上位層で「安全志向」も
東京都、神奈川県の私立中入試は2月1日に開始され、6日ごろにほぼ終了します。上位校を中心に受験状況などをみていきましょう。
●男子校
2024年度にはトップレベルの学校などで受験者の減少が目立ち、男子の難関層での「安全志向」がうかがわれました。
男子御三家などは、麻布の受験者が前年に比べ84人減り(880人→796人)、武蔵も49人減、開成は3人減。麻布では倍率が2.4倍→2.3倍とわずかに低下。かたや駒場東邦は受験者増(41人増)で、倍率1.9倍→2.1倍とやや上がりました。
ほかの難関校をみると、海城(1回68人減・2回71人減)、早稲田大高等学院中学部(53人減)で受験者が減少。海城の倍率は1回3.4倍→3.0倍、2回3.5倍→3.0倍とダウン。
神奈川では、栄光学園の受験者が98人減(760人→662人)、慶應義塾普通部(31人減)も減少。栄光学園の倍率は2.9倍→2.6倍に。聖光学院(1回46人減・2回48人増)は、1、2回で減・増と分かれ、1回の倍率は前年と同じ3.2倍、2回では4.9倍→5.2倍とやや上昇。
受験者が減った難関校では、2025年度に「反動」(受験者増)の可能性があるので注意しましょう。
一方、難関・上位校などで受験者が増えたところはかなりありました。高輪(A62人増・B62人増・C64人増・算数午後22人増)や、学習院(1回53人増・2回40人増)、浅野(30人増)、サレジオ学院(A19人増・B14人増)、早稲田(1回17人増・2回52人増)、成城(1回6人増・2回93人増・3回53人増)などは全回で受験者増。
このなかで、高輪の倍率はA2.8倍→3.5倍、B3.2倍→3.6倍、C4.7倍→6.8倍、算数午後3.6倍→3.8倍と上がっています。
さて、ここ数年は中堅レベルなどの学校で人気アップが目につきます。2024年度の男子校では、佼成学園の受験者が合計で374人増え、足立学園も合計353人増と急増しました。
●女子校
女子御三家は、桜蔭で受験者が42人減り(607人→565人)、倍率2.1倍→2.0倍とわずかに低下。女子学院の受験者は3人減、雙葉は4人増、それぞれ倍率は2.3倍、2.9倍で前年と同じに。
豊島岡女子学園の1回は受験者60人減(964人→904人)、倍率は2.4倍→2.3倍に。2回(53人減)、3回(51人減)も受験者が減り、倍率は8.0倍→6.7倍、7.3倍→6.3倍と下がりながらも「狭き門」です。2、3回は高倍率傾向が続くでしょう。
ほかの難関・上位校などは、立教女学院(60人減)、鷗友学園女子(1回51人減・2回76人減)、田園調布学園(1回49人減・2回6人減・3回5人減・午後〈算数〉31人減)、恵泉女学園(1回29人減・2回61人減・3回41人減)、晃華学園(1回20人減・2回5人減・3回26人減)などで受験者が減りました。このなかで、立教女学院の倍率は2.5倍→2.1倍、鷗友学園女子は1回2.8倍→2.5倍、2回5.0倍→3.3倍と下がっています。
また神奈川県では、洗足学園(1回19人減・2回51人減・3回80人減)、フェリス女学院(17人減)、日本女子大附(1回14人減・2回45人減)などで受験者が減少。女子の難関・上位層は「安全志向」のケースもかなりあったとみられます。
その一方、普連土学園(1回38人増・2回120人増・3回100人増・午後算数70人増)の受験者は急増、学習院女子(A58人増・B111人増)の増加も目立ちました。普連土学園の倍率は1回1.5倍→2.1倍、2回1.5倍→2.6倍、3回1.4倍→5.0倍、午後算数1.3倍→1.4倍とアップしています。この両校は、前年の受験者減の「反動」もあったようです。
ほかに、東洋英和女学院(A19人増・B10人増)、頌栄女子学院(1回11人増・2回41人増)、横浜共立学園(A9人増・B16人増)、大妻(1回8人増・2回12人増・3回21人増・4回23人増)などで受験者が増えています。
なお、横浜雙葉は1回→2回試験に変更。1回(受験者8人増)では2回の分、定員30人減となったことが響き、倍率1.7倍→2.4倍に上昇。新設の2回は受験者179人、倍率2.5倍でした。
中堅校などでは、三輪田学園で受験者の合計が276人増。法政大への推薦枠(最大30人)が設けられ、前年に続いての受験者急増となりました。
●共学校
2024年度、大学付属校でトップレベルの慶應義塾中等部は、男子枠の受験者が25人増(697人→722人)、女子枠は3人減(352人→349人)。合格者数の調整で、倍率は男子枠5.2倍→5.1倍、女子枠6.1倍→6.2倍と上下しています。
早稲田大系属早稲田実業学校では、男子枠の受験者は35人増(295人→330人)、女子枠は8人増(188人→196人)。倍率は、男子枠が3.6倍→3.8倍に上がり、女子枠では前年と同じ3.9倍に。
また神奈川の慶應義塾湘南藤沢では、受験者14人増で、倍率4.7倍→4.9倍と上がりました。
ほかの上位付属校をみると、青山学院(55人減)や、神奈川の法政大第二(1回83人減・2回115人減)、青山学院横浜英和(A61人減・B47人減・C32人減)などは受験者が減少。このなかで、青山学院の倍率は4.3倍→3.9倍(男子3.3倍→2.9倍、女子5.6倍→5.0倍)と下がりました。
一方、受験者が増えたのは、明治大付明治(1回50人増・2回35人増)など。同校の倍率は1回2.5倍→2.9倍、2回3.6倍→3.9倍に。
2025年度には、例年2月2日に試験を行う青山学院が日曜を避けて同3日に移ります。このため、「付属校狙い」ならば、青山学院と2月2日の上位付属校(明治大付明治1回、立教池袋1回、法政大第二1回など)を併願する作戦も取れます。
さて、共学の進学校では渋谷教育学園渋谷がトップ校です。同校の受験者は1回で12人減り(412人→400人)、2回(55人減)、3回(14人減)も減少。倍率は1回3.6倍、2回3.4倍、3回8.4倍と全回でやや下向きに。
中堅校などでは、順天が2026年度に北里大の付属校になり、同年度から同大への内部進学が開始予定と発表されました。このプラス要因で、同校の受験者(合計)は233人増となり、2025年度も「さらに増加」の可能性があります。
「午後入試」も上手に活用し、2月1、2日で合格確保を
東京、神奈川の2月入試は「前半戦」の1日、2日がとくに活発であり、3日以降になると試験を行う学校数や定員が少なくなります。
そうした中、最近では2月1日、2日を中心に「午後入試」を多数の中堅校や、上位校の一部などが実施しています。近年は1教科入試(算数や国語)を午後に取り入れる動きも。午後を使って併願の幅を広げるパターンは、東京、神奈川の受験生には「当たり前」という状況です。
2024年度は、2月1日の午後入試の受験者は約2万9000人で、2月1日午前の受験者(約4万3000人)の約67%にのぼっています。また2月2日のその割合も約53%と半数以上に。
2月1日午後の枠をみると、例えば、東京都市大付では受験者が計1062人、東京農業大第一は963人、広尾学園は計838人集まりました。
ただ、午後入試のレベルや倍率が高く、押さえ(すべり止め)にはできない学校もあるので、午後の受験校も慎重に見きわめを。
近年は、午後入試を活用し、2月1日、2日の「前半戦」で合格を確保する重要性がより高まっています。受験生の総数が「5万人」以上に膨らみ、3日以降の試験は厳しい傾向にあるからです。
2024年度は、2月1日(午前)の平均倍率は約2.2倍で、2日(同)は約2.6倍、それが3日(同)には約3.5倍に。3日以降の「後半戦」では倍率6倍台~10倍以上の「超激戦校」もみられます。
このように、2月3日以降は“危険”もあるため、1日か2日、あるいは1月中に合格を取れるように適切な併願校を選択することが必要です。
また、2月2日までの合否の結果によっては、3日以降にどの学校を受ければよいか、「後半戦」の受験パターンも事前によく考えておきましょう。
2025年度の主な変更点は「新タイプ入試」利用も一策
2025年度入試の主な変更点などを挙げましょう。共学化を行うのは明法(男子校・高校は2019年度に共学化)です。
試験日の変更では、先に述べた通り、青山学院が例年の2月2日から3日に移動。同校の受験生は女子のほうが男子より多めで、この変更は主に女子に影響を与える可能性があります。例えば、青山学院の女子とレベル的に近い女子校で、2月2日は吉祥女子(2回)、洗足学園(2回)などで受験者が増えるとも予測されます。
東京農業大第一は2月1日午前の試験(4科)を新設する予定です。なお同校は2025年度に高校募集を停止し、完全中高一貫校になります。
青山学院横浜英和では2月2日午後の枠を廃止し、3回→2回試験に。恵泉女学園は2月2日午前の枠を4科のままで2日午後に移します。
山手学院では2月2日午後に「特待選抜Ⅱ」(2科)を新設し、2月6日の枠を廃止。
明治大付中野は1回の定員を約160人→約180人に、2回は約80人→約90人に増員します。一方、浅野では定員を270人→240人に削減。
入試方式などでは、光塩女子学院、日本女子大附が2月1日午後に算数1教科入試を新設。また、この両校とも全回の試験で面接を廃止します(光塩女子学院は全回でアンケートを実施)。立教女学院、横浜共立学園なども面接を取りやめます。宝仙学園では「医学進学コース入試」を導入(2回実施)。佼成学園女子はグローバルコースを新設します。
豊島岡女子学園では、新たに「算数・英語資格入試」を3回実施。試験日は通常の4科入試(1~3回)と同じで、定員は各回とも若干人(帰国生含む)。算数の入試得点(100点満点)を2倍し、英検の各級のみなし得点(100点が上限)と合わせて300点満点です。同日の4科入試と併願もできます。
最近は、英語を取り入れた方式(2024年度は約140校)や、公立一貫校の出題に合わせた「適性検査型」の入試を多くの私立中が行っています。「自己アピール型」や、「思考力型」「教科総合型」「プログラミング」などの試験を行う学校もあります。これらの「新タイプ入試」で自分の能力を生かせる場合は、併願策として利用するのもよいでしょう。