【私立高等学校】2023年度入試状況から読み解く2024年度入試予測

【私立高等学校】2023年度入試状況から読み解く2024年度入試予測

首都圏(1都3県)では近年、私立志望者の比率が上昇するなど全体的に私立高校の人気がアップ。ただ都県ごとに、入試制度には違いがあり、受験動向の「変化」もみられます。それぞれのエリアの「入試地図」などを概観し、来春2024年度に私立を勝ち取る作戦を考えていきましょう。

東京都 付属校人気は落ちついたか?「併願優遇」が多数校に定着

東京都内の私立高校では、受験のメインである一般入試は2月10日以降に行われます。

近年(2018~2020年度)の一般入試では「付属校人気」の高まりが目立っていました。これは大学入試改革(2021年度)への不安感などが主な要因に。しかし、そうした風潮も収まってきて付属校人気は「高止まり」になったともいわれます。

2023年度の一般入試の状況をみてみましょう。「早慶」では、慶應義塾女子は受験者13人増、倍率は前年と同じ3.4倍に。また早稲田大高等学院(受験者21人増)でも倍率は前年から横ばいの2.7倍。一方、早稲田大系属早稲田実業学校は、男子枠は受験者が増え(43人増)、女子枠で減り(62人減)、それぞれ倍率は3.1倍→3.8倍、4.7倍→4.4倍(繰り上げ合格を含む)と上下しています。

青山学院は、試験日を例年の2月12日から同11日に変更(受験者は78人減、倍率4.6倍)。このため、「11日校」の中央大では青山学院への流出で受験者が急減(136人減)し、倍率3.7倍→3.1倍に低下。かたや、「12日校」の明治大付明治青山学院との競合が解消され、受験者増(男子枠83人増・女子枠94人増)となり倍率上昇(男子枠1.8倍→2.2倍・女子枠2.4倍→2.7倍)。2024年度には、青山学院が元の2月12日に戻り、中央大は受験者数が「回復」、明治大付明治は「受験者減」となるでしょう。

ほかの上位大学付属校では、中央大附で受験者が目立って増加(116人増)、しかし合格者が多めに出され倍率は4.2倍→4.0倍とやや低下。明治大付中野八王子(受験者7人増)も合格者の増員で倍率ダウン(4.3倍→3.7倍)。なお同校は2024年度に「明治大学付属八王子」に校名を変更します。

また、受験者が減った法政大(26人減)では倍率2.8倍→2.5倍(繰り上げ合格を含む)に、明治大付中野(23人減)も倍率が下向きました(3.2倍→3.1倍)。かたや、中央大杉並では受験者増(27人増)、倍率2.7倍→2.8倍とわずかに上向きに。

一方、難関・上位レベルの進学校をみると、開成では受験者5人増、ただ合格者増により倍率は3.0倍→2.9倍に。桐朋の倍率は1.4倍→1.5倍、城北は1.8倍→1.9倍とわずかに上がりました。巣鴨では「5科」「3科」選択制で、「5科」の倍率は1.4倍→2.2倍に、「3科」は2.0倍→3.5倍に上昇。

さて、一般入試では、多数の中堅校で「併願優遇」の枠を設けています。都立志望者などが、押さえ(すべり止め)の都内校を確保するには、この枠を利用するのが基本的な受験パターンです。

併願優遇とは、その高校を第2志望やそれ以下で受験する際の制度で、各校が定めた内申点の基準などを満たせば、入試前の段階でほぼ合格が決まるなどの優遇があります。2023年度は一般募集校182校のうち150校近くが併願優遇を実施。

この実施校のなかでは、自由ヶ丘学園(876人増)や、芝国際(527人増)、東洋大京北(420人増)、目黒日本大(384人増)、八王子実践(321人増)などで一般受験者が急増しました。自由ヶ丘学園芝国際はともに共学化などで人気アップに。

次に、推薦入試について述べましょう。2023年度に推薦を行ったのは、全体の9割以上の166校です。推薦の試験は1月22日以降に行われます。

都内私立では、単願推薦(第1志望)に加え、他校と併願できる推薦も行う高校がかなりあります(2023年度は約80校)。ただし、併願推薦は埼玉、千葉など都外の受験生のみが対象です。

中堅校などは、単願、併願推薦とも各校の内申基準などを満たせば、中学校を通した12月の「入試相談」でほぼ合格が内定するところが大半です。秋以降の「個別相談会」で推薦や、併願優遇(一般)の合否を打診できる高校も多くなっています。一方で、一部の難関・上位校などは内申基準を出願条件としており、推薦本番の学科試験、面接などで合否を争います。2023年度も上位大学の付属校などは倍率2~4倍台の「激戦」となりました。

最後に、2024年度の変更点を挙げておきます。

共学化を行うのは蒲田女子で、校名を「羽田国際」に変更する予定です。広尾学園小石川は高校募集を停止し、完全中高一貫校に。

青山学院では定員を減らし、推薦は約70人→約65人、帰国生は約30人→約25人、一般は約80人→約70人となり、「難化」の可能性があります。また、慶應義塾女子は一般の定員を約80人→約70人に削減し、推薦の方を約20人→約30人に増員。

一方、錦城は一般の定員を270人→320人に拡大、推薦の方を150人→130人に減らす予定です。芝国際では推薦を廃止します。

國學院では、一般3回を「公立型」から一般1、2回と同様の出題形式に変更。ただ、この一般3回は「3科」「5科」の選択制に変わり、「5科」の理科、社会は公立レベルの問題とします。

コースなどでは、共栄学園が未来探究、国際共生、理数創造、探究特進、探究進学の新たな5コース制に改編。自由ヶ丘学園はPG(プログレス)、AD(アドバンス)、AC(アカデミック)の3コース、各コースに準じた計9専攻になります。

聖徳学園ではデータサイエンスコースを導入。駒沢学園女子は英語クラスを、昭和第一学園はデザインコースを新設します。安田学園は、下位の進学コースを募集停止とし、3→2コース制に変更。また目黒日本大ではスポーツ・芸能コースが募集停止に。

京華女子は、京華京華商業と同じ敷地内の新校舎(2024年1月完成予定)に移転します。

神奈川県 「内申重視」の状況変わらず人気高まる「書類選考」制度

神奈川県の私立高校では、東京の私立高と同じで推薦入試は1月22日以降、一般入試は2月10日以降に行われます。

私立第1志望ならば、まず推薦の受験を検討しましょう。2023年度は神奈川の私立55校のうち、50校が推薦入試を実施しています。

県内私立の推薦は単願(第1志望)のみで、1月の本番では学科試験は行わず、面接、作文などが課されます。2023年度は、一部の高校(北鎌倉女子学園聖セシリア女子など)は書類審査のみでした。内申点の基準などを満たせば、中学校を通した12月の「入試相談」で合格が内定し、本番は無競争(全員合格)の高校が大多数になっています。2023年度も、推薦で不合格が出されたのは慶應義塾(倍率は2.2倍)などわずかでした。

では、一般入試についてみていきましょう。

県内私立を押さえ(すべり止め)にするときは、一般入試の「書類選考」や「併願受験」の枠を利用するのが受験パターンの基本です。

「書類選考」とは、本番試験が無い制度で、各高校の内申基準などを満たして12月の「入試相談」を経れば合格が決まります。法政大国際法政大第二の場合は単願(第1志望)のみですが、それ以外の実施校では公立など他校と「併願可」です。

コロナ下で2021年度から一段と導入が増え、2023年度は併願可の書類選考を県内私立37校が実施。この受験者は合計で約2万7000人でした。

近年は、「書類選考が受験の中心」という状況の学校も増えており、一般を書類選考のみで募集する学校(2023年度は捜真女学校向上湘南学院横浜創学館など)もあります。

「併願受験」の制度も、各校の内申基準などを満たせば12月の「入試相談」でほぼ合格とされますが、2月の本番試験を受験しないといけません。2023年度は、県内で併願受験の実施校は約30校に。そのほか「単願受験」を併用する高校も多くあります。2023年度に併願、単願受験を利用したのは約1万3000人でした。2021~2023年度には「書類選考」へと受験生がぐっと流れています。

一方、併願可の書類選考や併願受験を一部の上位校では行っていません。慶應義塾日本女子大附桐光学園法政大国際法政大第二などです。

上位校の一般入試状況をみてみましょう。2023年度に倍率が高かったのは、桐蔭学園のA方式(9.5倍)、中央大附横浜のB方式(4.1倍)、法政大第二の「学科試験」(男子枠3.4倍・女子枠2.6倍)、山手学院のオープン(A3.0倍、B2.7倍)、法政大国際の「学科試験」(2.9倍)、「思考力入試」(2.9倍)、慶應義塾(2.6倍)などがありました。

このなかで、桐蔭学園のA方式は受験者が117人増え、合格者の削減(144人→93人)も重なり、前年(2022年度)の5.4倍からさらに倍率高騰に。

さて、2月の一般では「オープン入試」という制度もあります。書類選考(併願可)や併願受験を行っている学校では、内申を使わず本番のテストで合否を決める枠がオープン入試と総称されています。2023年度は、この実施校は33校でした。

“内申本位”の併願制度(書類選考、併願受験)で確保した学校より「『上』を狙いたい」場合などはオープン入試で挑戦するのもよいでしょう。

最後に、2024年度の変更点にふれておきます。

聖園女学院は、新たに高校募集を実施します。一方、相洋は商業科を募集停止に。桐蔭学園では海外子女入試、帰国生入試を廃止します。

中央大附横浜では、定員を推薦35人→30人、一般A(書類選考)35人→30人、一般B(オープン)45人→40人と減らし、「難化」の可能性も。

入試制度の変更では、横浜創英が注目されます。同校は一般入試の「併願受験」制度を廃止し、一般がフリー受験(入試相談を行わない)のみに。また、下位の普通コースを募集停止とし、3→2コース制に変わります。光明学園相模原では一般の単願、併願で面接(2月11日)を廃止し、筆記試験(2月10日)のみで受験しやすくなります。

埼玉県 個別相談会で合否打診できる「1月併願」が受験のメインに

埼玉県の私立高校入試は1月22日以降に実施されます。例年、この「初日」(1月22日)からの数日間に、県内私立の大半が併願入試(併願推薦)を2、3回行い、この1月の併願入試が受験のヤマ場というのが埼玉私立の「入試地図」です。

1月の併願入試とは、3月の公立・合格発表まで他校との併願が自由で、さらに、入試前の「個別相談会」で合格がほぼ判明する“優遇”があるのです。このため、とても利用しやすく、毎年、受験生は1月併願の枠に集中しています。

2023年度も、県内私立の総応募者数のうち、1月併願入試が約75%と大半を占め、単願入試(単願推薦)は約17%、一般入試は約9%でした。

県内私立47校のうち、1月併願は上位校から中堅校など大多数の高校にすっかり定着。この併願制度がないのは、難関校(慶應義塾志木早稲田大本庄高等学院立教新座)や、音楽系高校(東邦音楽大附東邦第二武蔵野音楽大附)など少数です。

ただ、そうした中で、「近年は県公立から埼玉私立の『単願』へ流れる動きも出ている」とある受験関係者は分析しています。

とはいえ、一般的には、1月併願で押さえ(すべり止め)の県内私立を確保し、そのうえで公立やさらにレベルの高い私立にチャレンジという受験パターンが埼玉では「定番」になっています。

さて、1月併願入試、または単願入試を受験するときは各高校で夏頃から秋以降に開催される「個別相談会」に必ず出席しましょう。この場で、模試の結果や内申点(通知表のコピー)などの資料を提示すると、私立側が併願、単願入試の合格の可能性を話してくれます。なお、ここ数年は各地域の公的なテストなども資料とする高校が増えています。

2023年度は、併願、単願入試など全体の受験者がかなり増加したのは、浦和実業学園(481人増)、叡明(300人増)、大宮開成(295人増)、秋草学園(203人増)などがありました。

一方、難関校では「個別相談型」ではない推薦入試(第1志望)、一般入試を実施しています。

2023年度の一般の状況をみてみましょう。早稲田大本庄高等学院の男子枠では、受験者67人増、合格者の絞り込みもあって倍率は3.2倍→3.5倍に上昇。一方、同校の女子枠は受験者101人減で、倍率は3.8倍→3.3倍に下がりました。

慶應義塾志木は受験者38人減で、倍率は3.0倍→2.9倍に若干低下。立教新座は受験者68人増ですが、合格者が多めで倍率2.3倍→2.1倍と下向きに。

では、2024年度の主な変更点を挙げましょう。

城北埼玉は、本科コースの募集を新たに特進、進学の2種のクラス別に行います。春日部共栄では定員を増やし、単願は150人→160人、併願は計230人→計260人とする予定です。

浦和学院は、国際バカロレア認定校となり、国際バカロレアコースを導入します。西武学園文理では、普通科をグローバル選抜、グローバル特進(新設)、グローバル、グローバル総合(新設)、スペシャルアビリティ(単願のみ)の5クラス制に改編。栄北はこれまでの4類型から、特類選抜、特類S、特類Aの3類型に変更します。

千葉県 際立つ「前期勝負」の入試地図併願推薦を「廃止」の動きも

千葉県の私立高校入試は「前期・後期選抜」の枠組みです。試験は、前期では1月17日以降、後期は2月15日以降に行われます。

ただ、千葉の私立入試は「前期勝負」の状況であり、近年はその傾向がより際立っています。

2023年度も、県内私立53校のうち、試験は「前期のみ」で後期を実施しないのが38校と多数派に。上位レベルの高校では、後期の実施校が無くなっていることに注意しましょう。

後期を実施した高校(15校)でも、その大半は後期の定員が20人以下と少なく、「若干名」としたところも(5校)。県内私立の全体では、前期の定員比率が約98%で、後期はわずか約2%に。

受験生の側も、同様に前期へ集中しています。2023年度は、県内私立の総応募者数のうち、前期が占める割合は約99%(途中集計値)にのぼりました。

このように、県内私立は「前期決戦」の入試状況ですから、「前期で合格を勝ち取る」ことが一般的な受験作戦となります。

中堅レベルの高校などは、前期の推薦(単願、併願)が受験の中心で、とくに併願推薦(第2志望以下)に多くの受験生が集まっています。併願推薦で押さえ校(すべり止め)を確保して、公立や私立上位校にチャレンジという受験パターンが千葉では広く普及しているのです。

例年、中堅校などは併願推薦、単願推薦(第1志望)とも、各校の内申点の基準などを満たせば、中学校を通した12月の「入試相談」でほぼ合格とされるところが大半になっています。また、試験の名称は「推薦」ではなくても“入試相談型”で実質的に推薦と同様という高校もあります。

前期の日程で、推薦のほか、一般の試験も行う高校が多いので、推薦の内申基準に届かないときは、その学校を前期の一般(単願・併願)で狙う作戦を取るのもよいでしょう。

なお2023年度に併願、単願推薦など全体の受験者がかなり増えたのは、日本体育大柏(347人増)、東葉(271人増)、千葉明徳(214人増)などでした。

一方、一部の上位レベルの高校は併願推薦を行わず、「テスト勝負」の一般が受験の中心です。

おもな難関・上位校の2023年度の動向をみてみましょう。

県内最上位の渋谷教育学園幕張の「学力枠」では受験者が前年に比べ46人減、倍率は3.1倍→2.8倍とやや下向きました。また市川の一般は受験者26人増ながらも合格者が多めに出され、倍率2.2倍→1.8倍とやや「緩和」しています。一方、昭和学院秀英では、受験者は10人増で倍率1.8倍→1.9倍と若干上がりました。

なお茨城県では、江戸川学園取手は一般を1月に2回実施。倍率は、医科コースの1回2.9倍、2回3.1倍。東大コースの1回2.9倍、2回4.7倍。難関大コースでは他コースからのスライド合格を含めると1回1.2倍、2回2.2倍でした。

では、2024年度の変更点をみておきましょう。

日本大習志野では一般入試が1回→2回実施(1月17日、18日)に変わり、受験しやすくなります。一方、麗澤では新たに集団面接が必須に。

千葉敬愛は併願推薦(「B推薦」)を廃止します。また、敬愛学園東葉ではそれぞれ下位の進学コース、進学クラスに限り併願推薦を廃止。これらを併願(第2志望以下)で受験する場合は、「テスト勝負」の一般に臨むことになるので要注意です。

千葉商科大付では、定員を商業科で40人→70人に増やし、普通科は235人→205人に削減。国府台女子学院では英語科が募集停止となります。