【私立中学校】2023年度入試状況から読み解く2024年度入試予測
コロナ下で3年目となった2023年度の中学入試。その中でも、受験生総数は史上最多の5万3000人にのぼり、上位校に挑む「チャレンジ志向」の高まりも見られました。ただ最近の「付属校人気」は収まってきたようです。2023年度の結果分析から、来春2024年度の入試動向を探っていき、「2月受験」のポイントなどもアドバイスします。
私立中の人気がアップし、受験生総数は「史上最多」に
私立中学校を中心にして、中学受験がかつてないほど「ブーム化」しています。
首都圏(1都3県)では、私立・国立中学校の受験生総数(私立が主体)が、大手塾の推計で2015年度の約4万5500人から毎年増加を続け、2020年度に約5万1400人と「5万人」の大台に。
コロナ禍となった2021年度も横ばいの5万1400人で、2022年度は約5万2000人に増え、今春2023年度には約5万3000人で史上最多になったのです。
私立中受験へ向かうムーブメントは“逆風”のコロナ下でも加速。私立・国立中の受験率(私立が主体)は2021年度17.3%→2022年度17.6%→2023年度18.0%と上がり、「6人に1人」の割合を優に超えるようになりました。
私立中の人気上昇は、将来の見えにくい社会情勢が背景にあります。急激なAI(人工知能)などの技術革新や、波乱をも含んだグローバル化、そのような「新しい時代」に対応するため、私立の中高一貫校ではアクティブラーニングやSTEM教育(理数系教育の総称)、国際化へのプログラムなど各種の先進的な取り組みが活発です。きめ細かな学習指導、面倒見の良さといった私立ならではの基軸も信頼、期待感を高めているようです。
一方で、公立中高一貫校も高い評価が定着し、公立一貫校(1都3県)の受検者を加えると、中学受験率はこの4年間(2020~2023年度)、約22%(推計)が続いており、首都圏では「5人に1人以上」もが中学入試に臨んでいます。
さて、来春の2024年度には、1都3県で小学校卒業者が約8700人も減少する見通しです。このため私立・国立中の受験生総数はいくらか減るでしょう。ただ、受験率がまた上がると、その総数はあまり減らないとも予想されます。いずれにせよ、全体的に「激戦入試が続く」と想定して、本番まで充分な対策学習を行っていきましょう。
埼玉、千葉などの1月入試「試し受験」層の増加も
では、埼玉、千葉県などの「1月入試」から主な学校の受験動向などをチェックしていきます。
埼玉県の私立中入試は1月10日が開始日で、首都圏のなかで最も早い日程です。このため埼玉では、ほかの都県からの「試し受験」層が特に上位校に多数集まっています。
その“筆頭格”が、「マンモス入試校」の栄東です。2023年度に同校は4回の入試枠を設け、この合計の受験者は1万1621人で、前年に比べ1474人増とかなり増えました。最も大規模入試のA日程(1月10日または11日を選択)では受験者7689人(前年比820人増)、倍率は1月10日1.4倍→1.5倍、11日1.7倍→1.9倍と上向きました。東大特待合格のみを判定する東大特待Ⅰ(4科または算数1科)は受験者1366人(同101人増)で、倍率は4科2.1倍→2.1倍、算数1科4.3倍→3.9倍。
かたや開智では、受験者の合計(5回試験)は3366人で、前年に比べ12人増にとどまりました。先端1で受験者が1562人と最も多く、この倍率は前年と同じ1.6倍に。また、合格者全員が最上位のS特待となる先端特待では受験者279人で、倍率3.0倍と前年から横ばいでした。同校は、2024年度に「創発クラス」を新設、いずれかの試験でS特待合格を取ると、このクラスが選択可能に。なお、試験の名称がそれぞれ変更され、先端1は第1回に、先端特待は特待Aになります。
ほかの難関・上位校では、2023年度に浦和明の星女子の1回は受験者52人減(2001人→1949人)、倍率は2.0倍→1.9倍とわずかに低下。淑徳与野の1回では受験者26人増、倍率は前年と同じ1.9倍に。2024年度は、淑徳与野が「医進コース入試」(1月11日午後、算数・理科)を新設します。
立教新座の1回は受験者38人増(1647人→1685人)、倍率2.0倍→2.1倍と若干の上昇。
2024年度には、「開智所沢中等教育学校」(仮称)が開校する予定で、注目を集めそうです。なお国際学院は中学募集を停止します。
千葉県の私立中入試(一般)は1月20日に開始されます。2月入試までの間隔が短いことから、千葉では埼玉に比べ「試し受験」層は少なめですが、それが2023年度はプラスに転じたようです。
市川の1回では、受験者が前年に比べ239人増え(2430人→2669人)、男子枠の倍率は2.1倍→2.3倍に、女子枠では2.6倍→2.9倍に上がりました。
渋谷教育学園幕張は、この10年ほど東大合格者数の全国ベストテンに定着。同校の1次は受験者101人増(1797人→1898人)、しかし合格者が多めに出され倍率は2.8倍→2.7倍と若干低下。
昭和学院秀英の1回は受験者41人増(1149人→1190人)で、倍率は2.9倍→3.0倍に。午後入試(1月20日)は受験者609人、倍率4.1倍でした。
東邦大付東邦の前期も受験者は21人増、ただ合格者の増員により倍率は前年と同じ2.2倍に。
常磐線の沿線では、専修大松戸が1回の受験者11人増、2回71人増。倍率は1回2.3倍→2.5倍、2回は4.3倍→5.3倍に上昇しています。
なお、茨城県の江戸川学園取手は、3コース制の募集で2023年度は1月には試験を2回実施。受験者は1回で20人減(743人→723人)、2回は37人減。1回は合格者減で前年と同じ倍率1.8倍になり、2回は2.3倍→2.0倍に下がりました。
寮がある地方の学校の「首都圏会場入試」も1月の“選択肢”です。2023年度は北嶺(北海道)、盛岡白百合学園(岩手)、佐久長聖(長野)、静岡聖光学院、不二聖心女子学院(静岡)、西大和学園(奈良)、早稲田佐賀など約20校が1月に首都圏入試を実施。これらの受験者は合計で約1万1600人でした。
2月の入試動向をチェック「激戦化」の学校も目立つ
東京都、神奈川県の私立中入試は2月1日に開始され、6日ごろにほぼ終了します。上位校を中心に受験状況などをみていきましょう。
●男子校
2023年度に、男子御三家などでは、開成の受験者が前年に比べ143人増(1050人→1193人)と急増、倍率は2.5倍→2.8倍に上昇。同校では2023~2024年度に全ての校舎・施設の建て替えが完了することも「追い風」になったようです。駒場東邦も受験者増(31人増)、ただ倍率は1.9倍で前年から横ばいに。一方、武蔵(47人減)、麻布(10人減)は受験者が減少、武蔵の倍率は3.5倍→3.1倍に下がり、麻布は前年と同じ2.4倍。
神奈川では、聖光学院の1回は受験者が91人増(620人→711人)、2回も91人増。倍率は1回2.8倍→3.2倍に、2回4.1倍→4.9倍にアップ。また栄光学園も受験者増(75人増)となり、倍率2.7倍→2.9倍と上向きました。
ほかの難関・上位進学校でも受験者が増えたところが多くなりました。本郷(1回81人増・2回201人増・3回41人増)や、高輪(A18人増・B86人増・C69人増・算数午後82人増)、海城(1回56人増・2回70人増)、桐朋(1回54人増・2回66人増)、逗子開成(1回49人増・2回56人増・3回94人増)、城北(1回31人増・2回63人増・3回29人増)、芝(1回7人増・2回110人増)などは全回の試験が受験者増に。例えば、本郷の倍率は1回2.9倍→3.5倍、2回2.0倍→2.3倍、3回10.2倍→10.7倍と上がりました。これらの学校の試験は倍率が上昇し、厳しくなっています。
2023年度は、とくに男子進学校で「チャレンジ志向」の高まりがみられ、この「動き」は2024年度も警戒したほうがよいでしょう。
かたや暁星(1回43人減・2回67人減)、攻玉社(1回16人減・2回2人減・特選〈算数〉12人減)など受験者が減ったところも。暁星の倍率は1回2.8倍→1.7倍に、2回12.3倍→6.2倍にダウン。前年(2022年度)の受験者増の反動が出た模様で、2024年度は「揺り戻し」が予想されます。
大学付属校をみると、早稲田(1回61人増・2回52人増)、立教池袋(1回51人増・2回9人増)は受験者が増え、倍率が上がりました。早稲田は2023年2月の新校舎完成(3号館、複合体育施設)も影響したようです。同校は併設の早稲田大に推薦進学するのは約半数という「半進学校」です。
ほかの難関・上位付属校では、明治大付中野(1回124人減・2回80人減)、学習院(1回82人減・2回69人減)、慶應義塾普通部(18人減)、早稲田大高等学院中学部(5人減)などで受験者が減少しています。学習院の倍率は1回2.8倍→2.1倍、2回4.7倍→3.4倍に緩和。少し以前の「付属校人気」はピークを過ぎ、一区切りついたことがうかがわれます。
一方、日本学園は2026年度に明治大の系列校になって「明治大学付属世田谷」と校名を変更、同時に共学化する予定です。2023年度の中学入学者から「およそ7割が明治大へ推薦進学できることを目指す」と学校側が発表。このため、合計の受験者(3回試験)が885人増と大幅に増えました。倍率は前年の1.5~1.7倍から急転し4.7~12.7倍にアップ。合格レベルも大幅に上がっています。
●女子校
女子御三家は、桜蔭で受験者が73人増え(534人→607人)、倍率1.9倍→2.1倍とやや上昇。同校は2023年秋に校舎(東館)建て替えが完了することもプラス要素に。雙葉は受験者9人増、倍率は2.9倍で前年から横ばい。女子学院では受験者64人減で倍率2.6倍→2.3倍とやや低下。
豊島岡女子学園の1回は受験者35人減(999人→964人)、ただ倍率は前年と同じ2.4倍に。2回(4人減)、3回(39人減)も受験者は減って、倍率は9.9倍→8.0倍、10.3倍→7.3倍と下がっても高倍率です。2、3回は「狭き門」が続くでしょう。
上位校などで受験者が増えたのは、湘南白百合学園(1回<国語>117人増、〈算数〉40人増・2回97人増)や、田園調布学園(1回72人増・2回72人増・3回75人増・午後〈算数〉13人増)、品川女子学院(1回67人増・2回64人増・算数1科83人増・「表現力・総合」51人増)、立教女学院(57人増)、恵泉女学園(1回50人増・2回3人増・3回15人増)、香蘭女学校(1回27人増・2回105人増)、東洋英和女学院(A19人増・B45人増)、吉祥女子(1回16人増・2回40人増)など。
このなかで、例えば、田園調布学園の倍率は1回2.1倍→2.7倍、2回1.7倍→2.1倍、3回2.9倍→3.9倍、午後〈算数〉1.5倍→1.8倍とアップ。
一方、受験者が減ったのは、学習院女子(A47人減・B86人減)や、横浜共立学園(A32人減・B51人減)、鎌倉女学院(1次31人減・2次37人減)、白百合学園(30人減)のほか、頌栄女子学院、富士見、大妻、普連土学園、日本女子大附など。これらは全回の試験で受験者減に。
学習院女子では、倍率がA入試2.6倍→2.2倍、B入試5.9倍→3.7倍にダウンしています。
そのほか、フェリス女学院(3人減)、横浜雙葉(3人減)の受験者は微減でした。2024年度には、横浜雙葉が2回試験を新設し、これまでの定員(90人)を1回60人、2回30人と振り分けるため、「難化する」とも予測されます。
●共学校
2023年度に、大学付属校でトップレベルの慶應義塾中等部は、男子枠の受験者が194人減(891人→697人)と急減、女子枠は20人減(372人→352人)。男子枠の倍率は6.4倍→5.2倍に下がり、女子枠では6.2倍→6.1倍とわずかに低下。
早稲田大系属早稲田実業学校でも、男子枠の受験者は13人減(308人→295人)、女子枠は4人減(192人→188人)。倍率は、男子枠3.6倍、女子枠3.9倍で両方とも前年から横ばいに。
また、神奈川の慶應義塾湘南藤沢では受験者76人減、倍率は6.1倍→4.7倍に下がっています。
ほかの上位付属校でも、中央大附横浜(1回113人減・2回56人減)、法政大(1回55人減・2回13人減・3回78人減)、明治大付明治(1回6人減・2回45人減)などで受験者減少が目につきました。中央大附横浜では、倍率は1回3.3倍→2.6倍、2回2.9倍→2.7倍と特に1回でダウン。
一方、受験者が増えた青山学院も19人増にとどまりました(倍率は4.0倍→4.3倍)。
最近の一時期(2016~2020年度)、大学入試改革(2021年度)を要因として、大学付属校の人気が目立って高まっていました。しかし、この3年間(2021~2023年度)の受験状況からして「付属校人気」は落ちついてきたとみられます。
さて、共学の進学校の中では渋谷教育学園渋谷がトップ校です。同校の受験者は1回10人減(422人→412人)、2回34人増、3回10人増。倍率は1回3.6倍→3.7倍、2回3.1倍→3.6倍、3回8.2倍→8.7倍と全回で上向くという結果に。
大変、注目を集めたのが芝国際です。2023年度に共学化し、校名を変更(旧・東京女子学園)。新校舎や新たな教育体制もあって、受験者の合計(5回試験、帰国生入試を除く)は2180人増と膨れ上がりました。倍率は全回の試験で10倍以上(10.6倍~17.1倍)に。合格レベルも上位校にせまる高さに急上昇。こうした「厳しさ」から2024年度には「敬遠傾向」が出る可能性も。
すでに、広尾学園小石川(2021年度開校)は、上位校の一つに“成長”しています。ただ2023年度は、受験者の合計(6回試験)が702人減と急減し、倍率は前年比でかなり緩和(3.9倍~13.0倍)。受験生が芝国際などへ流れたようですが「合格レベルは下がっていない」と分析されます。
2月1、2日で合格取りたい「午後入試」も上手に活用して
東京、神奈川の2月入試は1日、2日がとくに活発であり、3日以降になると試験を行う学校数や定員が少なくなります。そうした状況を反映し、2023年度に全体の平均倍率(午前)は2月1日が約2.2倍、2日は約2.5倍で、それが3日には約3.2倍に。3日以降は倍率6倍~10倍以上の「超激戦校」もみられました。
このように、2月3日以降は“危険”もあるため、「午後入試」も使って1日、2日で合格を確保という併願パターンが最近では「当たり前」に。
午後入試は、多数の中堅校や上位校の一部などが2月1日、2日を中心に実施。近年は1教科入試(算数や国語)を午後に取り入れる動きも。
2023年度は、2月1日の午後入試の受験者は約2万8500人で、同1日午前の受験者(約4万3100人)の約66%にのぼっています。また2月2日のその割合も約55%と半数を超えました。
2月1日午後の枠では、例えば、東京都市大付は受験者が計1113人、広尾学園は計950人、東京農業大第一は790人集まっています。
ただ、学校によっては午後入試がレベルや倍率的に「厳しい」ところもあるので、午後の受験校も慎重に選択する必要があります。
2023年度には「チャレンジ志向」の受験生がとくに男子で増え、中には偏差値が高めの学校(試験)ばかりを連続受験して「全滅」(全てに不合格)というケースもかなりあったといわれます。
そんな失敗を避けるために、2月1、2日の午後入試をうまく活用する、あるいは1月中に確実な押さえ校(すべり止め)を併願するといった適切な受験プランを組むようにしましょう。
2024年度のおもな変更点は「新タイプ入試」も選択肢に
2024年度入試の主な変更点などを挙げましょう。
先に触れたように、横浜雙葉は2回募集(2月1日、2日)に変更、面接を廃止します。鎌倉女学院では2次を1日前倒しして、1次2月2日、2次3日の形に。なお横浜雙葉の「2日」への参入により、同日の湘南白百合学園(「4教科」)、鎌倉女学院(1次)は受験者が減るかもしれません。
芝浦工業大附では2月4日の試験を廃止し、その分、1回(2月1日)、2回(2日午前)の定員を75人→90人、40人→50人に増やす予定です。また、日本女子大附は1回(2月1日)の定員を約10人増員します(約100人→約110人)。
試験教科などは、日本学園が3回試験の全てに4科入試を導入、出題レベルは「やや難化の2023年度と同様」(学校側)といいます。また大妻中野は「アドバンスト」の1回(2月1日)、4回(3日)を4科入試に変更(2、3回は2科のまま)。香蘭女学校(2回試験)では2月1日の1回のみが2科・4科選択から4科入試に変わります。学習院女子ではA、B入試とも面接を廃止。横浜共立学園は、コロナ対応で面接中止の継続を決めました(A、B方式とも)。
京華女子は、京華、京華商業高と同じ敷地内の新校舎(2024年1月完成予定)に移転、「3校ワンキャンパス」に。橘学苑は中学募集を停止。
ところで、最近は、英語を取り入れた入試方式(2023年度は約140校)や、公立一貫校の出題に合わせた「適性検査型」の試験が私立中に広がっています。「自己アピール型」も増えており、「思考力型」「教科総合型」「プログラミング」などの試験を行う学校も。これらの「新タイプ入試」に適した能力があれば、併願プランに加えてみるのもよいでしょう。