【進化する私立高校③】十文字高等学校 自己発信コース
写真=留学生とのディスカッション
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近年の高校では、多様化する国際社会に適応する力を育てようと、独自のカリキュラムを備えた新たなコースがいくつも誕生しています。そうした私立高校の新コースを中心に、各校の見逃せない取り組みを紹介するこのコーナー。今回は「マイテーマを見つけ、自分で探究をしたい」という方におすすめしたい、十文字高等学校の「自己発信コース」を取り上げます。3年間という限られた高校生活を有効に活用するためにも、ぜひ自分にぴったりの高校を見つけてください。
<お話を伺った先生>
自己発信コース主任/飯島 奈海先生
自己発信コース高1担任/三浦 亮先生
自立して社会で活躍できるよう主体性を重んじたコース設定
「自己発信コース」はどのような目的で設立されたのですか。
飯島:本校の校歌に「世の中に たちてかひある 人と生きなむ」という一節があります。これは、しっかりと自立して世の中で活躍する女性を育てるという学校の理念に即したものなのですが、急速に変化する社会を前に、より主体的に動ける生徒を育てる必要性を感じていました。そこで、校長発案のもと立ち上げることになったのが「自己発信コース」です。3年間の準備期間を経て、2022年4月からスタートしました。カリキュラムの特徴としては、探究に重きをおき、また、海外のさまざまな国々の人とも協働できるよう、英語にも力を入れています。
三浦:カリキュラムは、田中茂範先生 (現 :慶應義塾大学名誉教授・PEN言語教育サービス代表)のお力をお借りし、学内で勉強会を開きながら構想を練りました。田中先生は非常に論理的で、まず主体性を育てるための「探究」とはどのようなものか、探究について深く考えるところからスタートし、生徒の育成に必要な技能までを詳細に指導してくださいました。準備期間は、数時間に及ぶ会議を繰り返すなど大変さはありましたが、とても充実していて、我々教員一同も大変勉強になりました。
カリキュラムのおもな特徴を教えてください。
飯島:「自己発信コース」では、高校1年から3年まで、「総合的な探究の時間(通称:J-Lab.)」を週に4時間設けています。さらに、PBL(Project Based Learning)という授業形式を取り入れているのが大きな特徴です。
PBLは、設定した課題に対し、チームで調査し、話し合いながら問題を解決していく学習スタイルです。あらかじめ答えのある問題を教員が一方的に教えるのではなく、課題解決のために何が必要かを自分たちで考えて発表し、そこに他者からフイードバックを受け意見を取り入れていくため、主体性がないと先に進みません。
三浦: J-Lab.では、4月の「自己紹介スライド」から始まり、「高校生ビジネスプラン・グランプリ」(日本政策金融公庫主催)や「SDGs探究AWARDS」(未来教育推進機構主催)といった校外の賞に挑戦するなど「課題の設定と解決策の提案」を繰り返し実践します。生徒たちは課題の解決策に立ち向かうため、必要な資料を探す、地域や企業の方へ取材する、ワークショップへ参加するなど、さまざまな手段で情報を集めます。
飯島:PBLでは「ディスカッション」「リサーチ」「プレゼンテーション」のスキルが非常に重要なので、高1ではこれらのスキルを磨くための「スキルディベロップメント(通称:J-Skill)」という科目を週に1時間設けています。J-Skillでは「取材の仕方」「資料の調べ方」など、J-Lab.を進めるうえで必要な個別スキルも身につけます。
学校を飛び出してさまざまな人間関係を構築
地元企業とのゴミ拾い活動
中間試験がないのも「自己発信コース」の特徴ですね。
飯島:このコースは「観点別評価」を採用し、「知識・技能、思考・判断・表現、主体的に学習に取り組む態度」で評価するので、「普段の授業で評価がつく」という特徴をはっきりと打ち出すためにも中間試験を廃止し、期末試験のみにしました。もともとJ-Lab.では学校の外に視野を広げ、探究する場を開拓していってほしいと考えていたので、中間試験の4日間は学校外でまとまった活動をするために使っています。
三浦:これまでに、地元の企業主催のゴミ拾い活動、大手企業への取材、留学生を招いて各国の課題について考えるワークショップ、社会人・大学生とのzoomディスカッションなどを行ってきました。
学内だけだと、どうしても「教員:教える側」と「生徒:教わる側」という人間関係に偏ってしまいます。しかし、地域の方や、年齢の近い留学生、教員以外の大人である企業の方々などと交流すると、生徒も一人の人間として相応の意見や行動を求められます。学校の先生以外に承認されるという体験はあまりないので、よい経験になるのではないでしょうか。この1年間だけでも、生徒たちは随分人との接し方が変わったと感じています。
飯島:加えて生徒は、思考の言語化の訓練ができていると思います。思ったことをすぐ口に出すのではなく、自分の意見を頭の中で整理してから発言するようになってきました。また、他者の視点の重要性も理解してきています。PBLでは、自分たちの探究課題の中間発表を定期的に行います。そこで他の生徒からの指摘を受けると、自分たちの研究に何が足りていないのかが明確になります。他者の意見を素直に受けて、軌道修正をする。また、他者の発表をきちんと聞いて、的確に評価するという能力が確実に身についています。
早い段階から「マイテーマ」を意識し、大学の総合型選抜へと結びつける
コースが始まってちょうど1年ですが、生徒さんに変化はありましたか。また、今後の課題はありますか。
三浦:このコースは1クラス、20名でスタートしたばかりです。そのうち11名は中学からの内部進学者、9名が高校からの進学者です。入学時に比べると、前向きに物事を捉え、粘り強く考え抜こうという姿勢が強くなりました。また、発表なども自信をもってはきはきと行っていますね。他のクラスに比べて大きく異なるのは、発表後のフィードバックへの高い意識です。他者からの厳しい意見でも真剣に耳を傾け、自分の足りないところを補い、また、相手の発表にはきちんと評価を下しています。
飯島:J-Lab.のゴールは、生徒一人一人が「マイテーマ」を探究し、卒業までに英語で論文をまとめることです。そしてその過程で努力してきたことこそが大学の総合型選抜に活かせると考えています。そのためには、生徒のモチベーションを最大限引き出す必要があります。理想は、生徒たちから「マイテーマの探究に必要だから、この人に会ってみたい」「こんなアンケートをとりたい」「この分野の知識を深めたい」といったアクションが自発的に起こり続ける状態です。この段階まで生徒たちをうまく引き上げるのが教員の役割だと認識しています。
コースが始まって新たに生じた課題としては、読書習慣があります。あまり本を読まない生徒が多いので、読書習慣を身につけるため、ブックリストを作ってもらうことにしました。より早い段階から読書を習慣付け、「マイテーマ」探しが始められるよう、入学前の生徒にも課題図書を含め5冊の本を読んでくることをお願いしています。
進学先にはどのような学部を想定されていますか。
飯島:海外を視野に入れている生徒も少なくありません。高校入学前から「いろいろな国の人たちと学びたい、協働したい」という意欲を持っていて、高校在学中に留学するケースもあります。
三浦:最終的には進学先についても生徒たちが自ら見つけられるようになるといいなと思っています。「マイテーマ」を探究することは、自分自身を深く知ることでもあるので、本当に自分にあった学問分野、進学先を見つけることができるのは生徒自身だと思います。
最後に「自己発信コース」への進学を検討している中学生にメッセージをお願いします。
飯島:「自己発信」というと人前での発信力に目が向きがちですが、そもそも「何を発信したいのか」という軸がないと、発信ができません。自分のテーマを見つけるのは難しいことですが、自分なりのテーマ探しにチャレンジ精神をもって挑んでみたい、自分のテーマを大切にしながら社会の役に立ちたい、と思っていたらこのコースに向いていると思います。
三浦:自分の興味関心がわかっていて、好きな分野に向かってワクワクしながら挑戦できる人は、このコースを楽しめると思います。また、意外かもしれませんが、世の中の何かに納得がいかずモヤモヤを抱えている人も素養があると感じています。モヤモヤするということは、どこかに問題意識があるということです。そのモヤモヤを解決するためにエネルギーを傾けると、新しい自分の可能性にも気づけるのではないでしょうか。
ぜひ私たちと一緒に探究してみましょう。