【進化する私立高校②】聖学院高等学校 グローバルイノベーションクラス

中学・高校情報 取材:松本 陽一 編集協力:美和企画
【進化する私立高校②】聖学院高等学校  グローバルイノベーションクラス

写真=STEAMの授業風景(高2)

高校生活はその後の人生に大きな影響を与える大切な時期。自分の個性にあった環境で過ごすためにも、早いうちから高校選びをすることが重要です。このシリーズでは、私立高校に誕生した新コースを中心に、各校の見逃せない取り組みを紹介しています。ぜひ参考にしてください。今回は「自ら世界の課題を見つけ、解決する力を養いたい」という方におすすめしたい、聖学院高等学校の「Global Innovation Class:グローバルイノベーションクラス」を紹介します。

<お話を伺った先生>
高校新クラス設置統括長・広報部長/児浦 良裕先生

17年ぶりの高校募集で求めているのは、聖学院で“次世代の教育の象徴”になる人材

【進化する私立高校②】聖学院高等学校  グローバルイノベーションクラス

GICのカリキュラム概念図

聖学院は長らく中高一貫校でした。なぜ今、高校募集再開の決断をされたのですか。

児浦:ここ数年、大学入試改革や、アクティブラーニング、探求を中心としたカリキュラムが学習指導要領に盛り込まれるなど、教育の現場では多くの変革が起こっています。本校では、学習指導要領の改訂を待たず新しい教育に挑戦し、生徒が飛躍的に視野を広げ、成長する姿を目の当たりにしてきました。その結果、「高校からでも聖学院で学べないんですか?」という声を多く頂くようになりました。そこで、聖学院中学校の内部進学者だけでなく、外部からも進学者を募る形で、新クラス「Global Innovation Class」(以下、GIC)を誕生させることとなりました。2021年度から高校入試を再開し、まずは1クラスのみ開設。内部選抜者8割、外部からの入学者2割、総勢30人前後の内訳でスタートし、少人数でカリキュラムの精度を高めています。

カリキュラムはどのようにして決められたのですか。

児浦:GICの目的は「ものづくり、ことづくりを通して世界に貢献できる人材の育成」です。この目標を定めたのは、過去に行ってきた海外研修での経験が大きいですね。例えばカンボジア実習では、現地の人と協力してソーシャルビジネスを立ち上げるプロジェクトを行っています。すると「商品を開発し、動画を作り、インスタでアップして情報を広げる」という一連の活動のなかで必ず、マーケティングやデータ分析の技術と動画をはじめとしたコンテンツ作成の能力、つまり「ものづくり、ことづくり」のスキルが求められます。こうしたスキルで生徒の方が高い能力を持っていれば、高校生であっても現地の人に喜んでもらえます。誰かに喜んでもらえた経験は生徒たちの高いモチベーションになります。

それなら、こうした能力をきちんと身につけるためのコースを作ろう、と考えたのがGICで、「Immersion(イマージョン)」「STEAM(スティーム)」「PROJECT(プロジェクト)」という独自の科目を構築しました。これらは課題の発見・解決までの思考方法はもちろん、具体的な技術も身につけるためのカリキュラムです。

自分で設定した課題に長期的に向き合う経験を積む

「Immersion」「STEAM」「PROJECT」はそれぞれどのようなことを学ぶ科目ですか。

児浦:「Immersion」は、ネイティブと日本人の先生がチームを組んで行う科目で、SDGsの理解につながる情報を英語でインプットし、それにまつわる自身の考えを英語でアウトプットする訓練を行います。英文法を正確に学ぶ「英語」の授業とは異なり、文法やスペルを間違えてもいいし、最初は翻訳ソフトを使ってもいいから、とにかく自分の考えを英語で伝えられるようにしよう、というのが目標です。


英語を使う場面は衣食住に密着した家庭科や社会科との親和性が高いので、家庭科や社会科と絡めたコンテンツを用意しています。例えば「世界の料理をみんなでつくろう」という試み。イスラエルやドイツ料理についての英語の資料を読み、最終的に調理実習で試食体験までして、どんなことを感じたか英文でまとめます。ちなみにこのコンテンツは「世界の台所探検家」として活躍する岡根谷実里さんの協力のもとで実現しました。

「STEAM」は、科学、技術、工学、芸術、数学の融合科目で、「ものづくり、ことづくり」に必要なツールを身につけます。高1では、世界のどこでも共通な課題となり得る「人が幸せになる空間をデザインする」という授業を行っています。空間をトータルデザインするには、家具を作って配置するといったものづくりの技術だけでなく、音や色使い、光の使い方などまで考える必要があります。自分の思う理想の空間をデザインするにあたり、生徒たちはプログラミングで音や光を制御したり、レーザーカッターで色をコントロールしたり、3Dプリンタを扱って必要なものを工作したりして作品を仕上げていきます。また、数学を用いたデータサイエンスも「STEAM」の授業で扱います。

「PROJECT」はこれらの学びの集大成ともいえる位置付けの科目で、ゼミ形式で行います。「宗教・文化」「起業・国際」「環境・海洋」「音・食・体×生活」「哲学・メディア・藝術」の5コースを用意。生徒はいずれかのコースに属し、その中で一人一人、自ら課題を設定し、長期的な視野で課題解決のための行動を起こします。

「LiberalArts(リベラルアーツ)」は、どのような科目ですか。

「LiberalArts」は、前述の3科目の下支えとなる、教養を身につけるための科目です。世界情勢や人間の根源的な問いなどに向き合い、自分の考えをまとめる作業を繰り返します。思考を習慣化し、常に「自分ならどうするか」と考え続けることは、当然「PROJECT」でも生きてきます。

GICでは分野横断型の学びが多いので、大学では国際基督教大学や慶應義塾大学湘南藤沢キャンパスをはじめ、リベラルアーツ的なカリキュラムを組んでいるアメリカの大学に進学を希望する学生が多い傾向です。

自らの発案で何でも挑戦できる、忙しいけれど、刺激的な毎日

【進化する私立高校②】聖学院高等学校  グローバルイノベーションクラス

LiberalArtsの授業風景(高1)


GICがスタートして丸2年が経ちます。生徒の様子はいかがですか。このクラスにはどんな生徒が向いていますか。

内部進学者の中に少数の高校入学者が入ってくるので少し心配していましたが、あっという間にクラスに馴染んでくれました。高1も高2も、私たちの想像を超えて、高いモチベーションで課題探求に臨んでくれています。ちなみに、現高1の学級委員は高校から入学した生徒です。

このクラスに進学するには、何よりも生徒自身の強い意志が重要です。積極的に思考しアクションを起こさないといけないので、忙しさも活動範囲の広さも普通の高校生活とは異なります。ですから入試科目も「英語」、「思考力」、「面接」のみに特化しました。「思考力」とは、国語、数学、理科、社会の総合的な力を評価するために聖学院が独自で考案した入試科目です。長文を読んで情報を読み取ったり課題を発見したりしたうえで、自分なりのアイデアを提案するなど、思考力や表現力を評価する内容です。一般的な科目の成績だけで合否を決めるわけではありませんので、もし興味のある受験生がいたら、ぜひ一度事前相談に来てください。

最後に高校受験にいどむ学生にメッセージをお願いします。


学校選びで皆さんに問いたいのは「自分の意思はそこにありますか? 周りの勧めで受験先を決めていませんか?」ということです。

内申点やその時の偏差値を学校選びの指標にするのではなく、各校のカリキュラムを吟味して「ここで3年間過ごしたい」と思えるかどうかをよく考えてください。高校時代を無目的に過ごすと、大学時代も無目的に過ごしがちです。大切な人生の時間をどう使いたいか、まずは自分の心に正直に向き合ってみてください。

【進化する私立高校②】聖学院高等学校  グローバルイノベーションクラス

児浦 良裕先生

【生徒の声】自らコーヒーを商品化し、自分の体を使ってデータも分析 

【進化する私立高校②】聖学院高等学校  グローバルイノベーションクラス

高校2年生 篠原  飛陽さん

 

私は「PROJECT」の授業で、コーヒーを販売しています。タイの実習で訪れた貧困地域で生産されたコーヒー豆を、現地の人とダイレクトトレード(取引)をして適正価格で購入し、パッケージも自分でデザインして商品化しました。商品の売り上げはタイの貧困層の子ども達の学習支援に使われます。

現在、2年生の「STEAM」の授業で、数学を用いたデータサイエンスの手法を学んでいるのですが、せっかくならこの「PROJECT」にも使えるようなデータを取ろうと思い、コーヒーの効能について、自分の体を使って実験をしています。

具体的には、カフェインをはじめとしたコーヒーの成分に、どれほど脂肪燃焼を促進させる効果や糖の吸収を抑える効果があるのかを「食後にコーヒーを飲んで運動した週」「食後にコーヒーを飲まずに運動した週」、と1週間ごとに条件を変えてデータをとっています。

もし良い効果が出れば、そのデータを添えてジムなどで売ってもらい、運動前の摂取を推奨するなどでこのコーヒーの販売促進に繋げることができると考えています。

私は「支援と日常がともにある社会」の実現を目指しています。そのためには、多くの人が社会問題を自分ごとにする必要があります。このコーヒーについても、消費者の方に「コーヒーの購入がこんな支援につながった」と、細かくフィードバックを行なうことで、より自分の行動と社会問題との関係を意識してもらえると思っています。まずはこの「PROJECT」を発展させ、もっと現地の人に寄り添える支援にしていきたいです。

【進化する私立高校②】聖学院高等学校  グローバルイノベーションクラス

篠原さんが商品化したオリジナルコーヒー