【進化する私立高校①】実践学園高等学校 リベラルアーツ&サイエンスコース
写真=カリフォルニア大学バークレー校のFrank Schultz博士による「グローバルリーダーシップ研修」
- 偏差値や塾のすすめで志望校を決めがちな高校受験。しかし、それではもったいないほど、現在の私立高校のカリキュラムは多様化しています。このシリーズでは、私立高校に誕生した新コースを中心に、各校の見逃せない取り組みを紹介していきます。シリーズ第1回では、英語で何かを表現したい、国際社会で活躍したいという方にぜひおすすめしたい、実践学園高校のリベラルアーツ&サイエンスコース(以下、LA&Sコース)をご紹介します。
<お話を伺った先生>
LA&Sコース主任/岩内 孝輔先生
LA&Sコース高2担任/大関 友里恵先生
「英語を学ぶ」カリキュラムから「英語による自己表現」ができる人間教育へ
まず、コース設立の経緯と概要を教えてください。
岩内:このコースは、4年前に「英語コース」から名称変更をしたところからスタートしています。グローバル化が進む社会では、英語を学ぶことに価値を置くのではなく、英語をはじめとした語学についてどう理解を深め、どう活用するのか、そのためにどんな教養を身につけるべきか、を考える必要があります。そこで、教養やスキルを身につけるコースとして「LA&Sコース」と変更し、「英語を使って何をするのか」「どれだけ多様な社会とつながり、幅広いことを学ぶか」という点まで視野を広げて、カリキュラムを改定してきました。
大きな特徴として、少人数制や北米留学が挙げられますね。
大関: 1クラス12名以下に制限しています。現在の1年生は27名で、1クラス9名の3クラス構成です。各クラスに担任とネイティブの副担任がつき、一人一人の生徒との人間関係を密に築いています。また、いくら英語が話せても、中身の人間性が伴っていなければ意味がありませんよね。そこで、まずは日本語で自国のことを知る「イノベーション教育」を導入し、1年生のうちに視野を広げてもらっています。
岩内:「イノベーション教育」では、日本各地の人に地域の特性や産業、地域ならではの問題点などをヒアリングします。そして問題解決につながるような新しいアイデアをグループで創造し、それをプレゼンします。自分の知らない世界について学んだり、課題解決をする過程を経験しておくのです。その後1年生の3学期と2年生の1学期を北米で過ごします。帰国後はより高次元な英語プログラムに挑戦していきます(表参照)。
岩内:さらに「LA&Sコース」には、コース名を冠した「LA&S」という授業があります。幅広い教養を身につけることを目的に、高1から高3まで、週に1コマ設置しています。内容はドラマやプログラミング、IT、アート、クリティカルシンキングなどオールイングリッシュで学ぶもので、ネイティブの教員が知恵を絞りながら行なっています。難しい内容ではありますが、新しい考え方や授業の受け方を生徒側も模索できます。
ネイティブの副担任のアイデアを借りた、チャレンジングな企画が豊富
ネイティブの先生方も、随分活躍されるのですね。
岩内:何かおもしろそうなものがあったら、どんどんトライしよう、というのが本コースの大きな特徴ですから、ネイティブの先生もさまざまなことに挑戦してくれます。海外で使われている英語学習アプリなどの情報を教えてくださり、そのおかげで最近、オンライン上で英語の本を多読できるシステムを導入しました。それぞれのレベルに合わせた本が選択されるので、自分のペースでどんどん読み進めることができます。
大関:長期休みにはネイティブの先生によるオンライン英会話もあります。生徒のバックグラウンドを知っていて会話を掘り下げることができ、しかも無料というこのオンライン英会話は本当に贅沢なシステムだと思います。
ネイティブの先生がいることで、日常的に異文化を知ることもできますね。
岩内:さまざまな文化(国や人種、組織、年齢など)のちがいを受け入れ、効果的に機能できる能力のことをCQ(異文化適応力)といいますが、「LA&Sコース」では、このCQを体系的に学べるようカリキュラムに組み込んでいます。1年生には留学に行く前に異文化や価値観のちがいなどを学んでもらうのですが、モチベーションが高い子ほど留学先でそのような違いに悩んでしまう傾向があるので、「異文化理解の難しさを知ることが、本当の意味でグローバルな世界で活躍するグローバルリーダーになるための条件だ」と考えています。身近な実体験としてもネイティブの存在はありがたいですね。
大関:「期待するほど日本人との違いがない」など、生徒が想像する外国人像と実際の外国人像のギャップにも悩むようです。海外に対する固定観念や先入観をどれだけ捨てられるか、共通の価値観をどれだけお互いに探り合うことができるか、ネイティブの先生たちはその大切さを日々の会話の中で伝えてくれています。
留学後は、より発展的な英語力を鍛える
帰国後はどのような授業で英語力を上げていくのですか。
岩内:英語で物事を考えて英語で発信する力を磨くため、特に力を入れているのが、海外の大学と協力して行う2つのプロジェクトです。
1つはカリフォルニア大学バークレー校のFrank Schultz博士による「グローバルリーダーシップ研修」です。留学帰りの2年生をメインターゲットにした1週間のプログラムで、7月に開催しています。本校のグローバル教育顧問を務める早稲田大学名誉教授・藤井正嗣先生のつながりで、今年はSchultz博士を本校にお招きして行いました。講義とワークショップを3日間行なったのち、4日目に自分たちの考えたビジネスモデルを、英語でプレゼンテーションします。また、最終日には「LA&Sコース」の全生徒を対象にしたSchultz博士の特別講義があります。
大関:特別講義は「リーダーシップ」がテーマでした。生徒が100%理解するのは難しいだろうと思っていましたが、質疑応答で3年生がどんどん英語で突っ込んだ質問をしてくれて、教員の私たちも驚かされました。1年生にとっては、頼もしい先輩たちの姿を見て「自分たちもああなれるんだ」と、勇気付けられたと思います。
もう1つはどのようなものですか。
大関:帰国後の2年生を対象にしたシンガポール国立大学(NUS)の「メンタリングプログラム」です。実は、世界中で英語を母国語としている人よりも、第二外国語として話す人の方が多数派です。つまり世界に出ると、発音にも表現にも独特のくせのある英語に接することの方が多いのです。そこでこのプログラムでは、シンガポール国立大学の学生さんと一緒に「マーケティング」に関するグループワークやセッションを行うことで、その考え方や異文化コミュニケーションを体感します。ある程度英語に慣れたタイミングで、あえて「全然聞き取れない」とか「伝わらない」という経験をすることで、自分のレベルを改めて見直す機会になります。
IELTS(アイエルツ)や英検のスコアを強みに難関校に進学
卒業までに、英検準1級、IELTS6.0という数値目標が出ていますが、これらについてはどのような対策をされていますか。
岩内:現在、留学前に英検2級を取れる生徒がほとんどで、英語が得意な子は留学後にすぐに準1級を取ってしまいます。むしろ、IELTSに重きを置き、スコア6を最終目標にして試験対策をしています。英検のようなレベル分けがないので最初は非常に難しく感じるのですが、1年次から毎年1回必修で受け続けることで、自分のレベルがわかり、励みにもなります。日本の高校生レベルではあまり普及していませんが、IELTSは海外大学進学の際のスコアとして広く受け入れられています。大学受験でも大学入学以降も使える指標ですので、ネイティブの先生方と一緒に、スコアアップのための研究を続けています。
※IELTSは教育や移住のための英語能力判定試験で、国際的な指標として各国で取り入れられている。
大学受験では、高い英語力はどのようなアドバンテージになりますか。
大関:英語教育で有名な上智大学、立教大学などでは「英語外部検定利用入試(=外検入試)」を広く導入していています。ですから外検入試を使わない手はないな、という流れになっています。
※外検入試:英検®、TOEFL、TOEICなど、各種の英語資格の成績によって出願可能な試験制度。
岩内:大学入試の中でも、例えば総合型選抜では、高校時代の取り組みについて書いたり、英語によるエッセイ(論文)の提出が求められる場合があります。これも、3年間で挑戦してきたことを素直に出せば評価されますので、無理やりアピールポイントを見つける必要もありません。
大関:入試のエッセイで課されるテーマは「今後どのような形で海外と関わりたいか?」など、このコースの学生にとっては、すでに何度も考えてきたことが多いです。自分をどう表現して世界に飛び出していきたいか、等身大の自分をアウトプットすれば、十分アピールポイントになります。ネイティブの先生も、提出直前まで生徒と一緒に粘り強く英語の添削をしてくださいます。
最後に、このコースに向いている学生像と、進学を検討している皆さんへメッセージをお願いします。
大関:このコースの生徒たちは、主体的に自分を表現することが大好きです。クラスのみんなで一緒の取り組みや発表をする機会も多いので、充実した高校生活を謳歌したいという方は、ぜひ一度学校説明会に足を運んでみてください。
岩内:将来の目標が決まっている必要はないですが、英語が好きで「いろんなことを経験し、スキルを身につけたい」と、未来に向かって積極的である生徒さんを求めています。入試では最低限の英語力は求められますが、英語の成績は入学後にいくらでも挽回できますので、それよりはこのコースの特殊な活動に対して、モチベーションを持っていることが大切です。また、留学には費用もかかるので、保護者の方の理解も不可欠です。「来年はどんな新しいチャレンジができるのだろう」と、ワクワクしながら授業に臨んでくださる生徒さんを期待しています。
ありがとうございました。高校の3年間は貴重な学びの時間です。高校生活をより充実したものにするためにも、ぜひ、積極的に自分にあった高校選びを行なってください。
(編集協力:美和企画)
(左)岩内 孝輔先生 (右)大関 友里恵先生