2022年度入試状況から読み解く
私立高等学校 2023年度入試予測
首都圏の私立高校入試は都県ごとに制度や受験事情に違いがあります。各エリアの最新の「入試地図」を押さえて、私立で「成功」を収めるための受験プランをよく検討しましょう。来春2023年度入試につながる2022年度の結果分析を都県別に行い、変更点などもご紹介していきます。
東京都 難関・上位校の動向は?大学付属校で「難化」も
東京都内の私立高校では、受験のメインである一般入試は2月10日以降に行われます。
近年(2018~2020年)の一般入試では「付属校人気」の高まりがトピックに。しかし前年の2021年度は上位大学などの付属校で「受験者急減」(100人~200人以上の減少)が目立ちました。
2022年度の一般入試ではどうだったでしょうか。早稲田大高等学院では「急減」の反動が出て受験者248人増となり、倍率は前年の2.3倍から2.7倍に。中央大も反動で受験者124人増、倍率2.9倍→3.6倍(繰り上げ合格を含む)と回復しました。
中央大附は前年の減り幅を超える受験者増(220人増)で倍率3.0倍→4.2倍とかなりアップ。
ほかに青山学院(57人増)、明治大付中野(48人増)、明治大付明治の女子枠(34人増)などで受験者が増加に転じました。このなかで、明治大付中野は2023年度に一般の定員を約30人削減(約135人→約105人)するため、難化が予想されます。
かたや、法政大(144人減)などは受験者が減り、同校の倍率は3.7倍→2.8倍(繰り上げ合格を含む)に低下しました。明治大付明治の男子枠(受験者9人減)では合格者が多めに出され、倍率2.8倍→1.8倍と低めに。「狙いやすい」と見られ、2023年度は受験者が増えそうです。
早稲田大系属早稲田実業学校では、男子枠は受験者88人減。しかし定員減(80人→約50人)により倍率は2.5倍→3.1倍に上がっています。女子枠の受験者は微増(2人増)ながら、定員減(40人→約30人)で倍率3.3倍→4.7倍と厳しさを増しました。
なお、慶應義塾女子は受験者がほぼ変わらず(1人減)、倍率は前年と同じ3.4倍に。
一方、難関・上位レベルの進学校をみると、開成では受験者66人増、倍率2.6倍→3.0倍と上向きました。桐朋の倍率は1.3倍→1.4倍とわずかに上がり、城北は1.9倍→1.8倍と若干低下。巣鴨では「5科」「3科」の選択制で、「5科」の倍率は前年と同じ1.4倍、「3科」は1.6倍→2.0倍に上昇。
さて、都内私立の一般入試では「併願優遇」の枠を設ける中堅校などが多数にのぼっています。都立志望者などは、これを利用して押さえ(すべり止め)の都内校を確保するのが一般的なパターンです。
併願優遇とは、その高校を第2志望やそれ以下で受験するときの制度で、各校が定めた内申点の基準などを満たせば、入試前の段階で“ほぼ合格”とするなどの優遇があります。2022年度は一般募集校182校のうち150校近くが併願優遇を実施。
この実施校のなかでは、朋優学院(875人増)や、八王子学園八王子(370人増)、桜丘(359人増・コロナ追試を含む)、目黒学院(301人増)、昭和第一学園(374人増)などで一般受験者が急増しました。朋優学院では、新設された最上位の国公立TGコースに受験者1016人が集まったことがプラス要因に。
次は、推薦入試について述べましょう。2022年度に推薦を行ったのは、全体の9割以上の167校です。推薦の試験は1月22日以降に行われます。
都内私立では、単願推薦(第1志望)に加え、他校と併願できる推薦も行う高校がかなりあります(2022年度は約80校)。ただし、併願推薦は埼玉、千葉など都外の受験生のみが対象です。
中堅校などは、単願、併願推薦とも各校の内申基準イコール合格基準というところが大半です。この場合、中学校を通した12月の「入試相談」でほぼ合格が内定します。秋以降の「個別相談会」で推薦や、併願優遇(一般)の合否を打診できる高校も多くなっています。
その一方、一部の難関・上位校などの推薦は内申基準を出願条件としており、推薦本番の学科試験、面接などで合否を争います。2022年度も上位大学の付属校などは倍率2倍台~6倍の「激戦」もみられました。
では、2023年度の変更点などを挙げておきましょう。東京女子学園、日本音楽(女子校)は共学化を行い、それぞれ校名を「芝国際」(予定)、「品川学藝」(同)に変更。自由ヶ丘学園(男子校)も共学に変わります。
明治大付中野では、これまでのスポーツ推薦に加え、普通タイプの推薦入試(単願・定員約30人)を新設。一方、かえつ有明は推薦入試を廃止し、一般入試の併願優遇も廃止します。
東洋では一般入試の併願優遇、併願推薦を特進選抜コースだけでなく、特進コースでも新たに実施。法政大は一般入試での面接を廃止します。
東洋大京北では、一般入試の定員を1回で20人削減(100人→80人)、2回は10人増(20人→30人)。なお2回は2月11日から13日に移します。
コースなどの変更では、関東国際が外国語科にイタリア語コース、スペイン語コースを導入。目黒学院は、共学部のスタンダードコースと男子部(スポーツサイエンスコースのみ)を統合し、スタンダードキャリアコース(共学)を新設します。八王子学園八王子では文理コースの3種クラスを特選、特進、進学に改編。また総合コースのうち文科系を、文・理を問わないリベラルアーツ系に変更します。
神奈川県 「内申重視」の状況変わらず、「書類選考」へ受験生がシフト
神奈川県の私立高校では、都内私立高と同じで推薦入試は1月22日以降、一般入試は2月10日以降に行われます。
私立第1志望ならば、まず推薦の受験を考えてみましょう。2022年度は神奈川の私立55校のうち、50校が推薦入試を実施しています。
県内私立の推薦は単願(第1志望)のみで、1月の本番では面接、作文などが課され、学科試験は行っていません。2022年度は、一部の高校(北鎌倉女子学園、聖セシリア女子)では書類審査のみでした。各高校の内申点の基準などを満たせば、中学校を通した12月の「入試相談」で合格が内定し、本番は無競争(全員合格)という高校が例年、大多数になっています。2022年度も、推薦で不合格が出されたのは、慶應義塾(倍率は2.3倍)などわずかでした。
では、一般入試についてみていきましょう。
県内私立を押さえ(すべり止め)にするときは、一般入試の「書類選考」や「併願受験」の枠を利用するのが“定番”的な受験パターンです。
「書類選考」とは、試験を行わない制度で、各高校の内申基準などを満たして12月の「入試相談」を経れば、合格が決まります。法政大国際、法政大第二の場合は第1志望者のみが対象ですが、それ以外の実施校では、公立など他校と「併願可」としています。ただし他校に不合格となったらその高校に入学する決まりです。前年の2021年度からコロナ禍の影響で一段と導入する学校が増え、2022年度は併願可の書類選考を県内私立39校が実施。この受験者は合計で約2万7000人でした。
近年は、「書類選考が受験の中心」という状況の学校も増えており、一般を書類選考のみで募集する学校(2022年度は捜真女学校、向上、湘南学院、横浜創学館など)もあります。一方、日本大藤沢では2022年度に書類選考を廃止しました。
「併願受験」の制度も、各校の内申基準などを満たせば12月の「入試相談」でほぼ合格とされますが、2月の本番試験を受験しないといけません。2022年度は、県内で併願受験の実施校は約40校に。そのほか「単願受験」を併用する高校も多くあります。2022年度に併願、単願受験を利用したのは約1万4000人。この2年間(2021、2022年度)は「書類選考」へ受験生がぐっとシフトしています。
一方、一部の難関・上位校では併願可の書類選考や併願受験を行っていません。慶應義塾、日本女子大附、桐光学園、法政大国際、法政大第二などです。
上位校の一般入試の状況はどうでしょうか。2022年度に倍率が高かったのは、桐蔭学園のA方式(5.4倍)、中央大附横浜のB方式(4.7倍)、法政大国際の「学科試験」(3.2倍)、法政大第二の「学科試験」(男子枠3.2倍・女子枠2.9倍)、山手学院のオープン(B2.7倍、A2.2倍)、慶應義塾(2.4倍)、日本女子大附(2.2倍)などがありました。
さて、書類選考(併願可)や併願受験を実施している学校では、内申を使わず本番のテストで合否を決める枠が「オープン入試」と総称されます。オープン入試の枠があるのは33校(2022年度)です。2022年度は、このオープン枠の受験者が全体的に増加。とくに桐蔭学園のA方式は244人増と急増し、前年の倍率2.4倍からの急上昇となりました。
“内申本位”の併願制度(書類選考、併願受験)で確保した学校より「『上』を狙いたい」という場合などはオープン入試でチャレンジしてみるのもよいでしょう。
最後に、2023年度の変更点にふれておきましょう。
聖ヨゼフ学園(女子校)では中学の共学化(2020年度)に続き、高校が共学に変わります。
武相では併願、単願受験(一般)で、進学コースの場合、本番試験で高得点を取れば進学コースの特進クラスに入れるという制度を導入。
湘南工科大附は、最上位の進学特化コースを新設。一方、橘学苑では国際コースが募集停止となります。
埼玉県 「1月併願」中心の受験地図 個別相談会に必ず参加を!
埼玉県の私立高校入試は1月22日以降に実施されます。東京、神奈川の私立のような「推薦」「一般」といった日程の区分は設けていません。
例年、この「初日」(1月22日)からの数日間に、県内私立の大半が併願入試(併願推薦)を2、3回行っており、1月の併願入試に受験生の側も集中するというのが埼玉私立の「入試地図」です。
1月の併願入試とは、3月の公立・合格発表まで他校との併願が自由で、さらに、入試前の「個別相談会」で合格がほぼ判明する“優遇”があるのです。このため、「受験しやすい」と人気が高く、2022年度も、県内私立の総応募者数のうち、1月併願入試が約76%と大半を占め、単願入試(単願推薦)は約16%、一般入試は約8%でした。
県内私立47校のうち、1月併願の制度は上位校から中堅校など大多数の高校にすっかり定着。例年、この併願制度がないのは、難関校(慶應義塾志木、早稲田大本庄高等学院、立教新座)や、音楽系高校(東邦音楽大附東邦大第二、武蔵野音楽大附)など少数です。また、2022年度は青山学院大系属浦和ルーテル学院が1月併願を廃止し、単願入試のみとしました。
一般的には、1月併願で押さえ(すべり止め)の県内校を確保し、そのうえで公立やさらにレベルの高い私立にチャレンジという受験パターンが埼玉では「当たり前」になっています。
さて、1月併願入試、または単願入試を受験するときは各高校で夏ごろ~秋以降に開催される「個別相談会」に必ず出席しましょう。この場で、模試の結果や内申点(通知表のコピー)など成績が分かる資料を提示すると、私立側が併願、単願入試の合否の見通しを話してくれます。ただ、コロナ対応で人数制限が設けられ、予約が取りにくい場合もあるので「予約は早めに」ということが注意点です。
2022年度は、併願、単願入試など全体の受験者がかなり増加したのは、栄北(401人増)、栄東(360人増)、大宮開成(355人増)、山村国際(307人増)、浦和学院(264人増)などがありました。
一方、難関校では「個別相談型」ではない推薦入試(第1志望)、一般入試を実施しています。
2022年度の一般の状況をみてみましょう。県内の難関校では前年(2021年度)に男子校(男子枠)で受験者が急減(160人以上~300人以上の減少)しました。
しかし、早稲田大本庄高等学院の男子枠では、前年の反動が出て受験者が309人増と急増、女子枠は121人増。倍率はそれぞれ2.4倍→3.2倍、3.2倍→3.8倍に上がりました。かたや慶應義塾志木では受験者29人増、合格者の増員で倍率3.1倍→3.0倍に若干低下。立教新座は前年の反動で受験者200人増、倍率2.0倍→2.3倍と上向きました。
では、2023年度の変更点にふれておきましょう。
西武学園文理では入学金優遇制度を新設。これは同校や系列校の在校生、卒業生の親類縁者を対象に入学金を免除する制度です。
コースなどの変更では、西武台がSTEAMコースを新設し、4コースから5コース制に。浦和麗明では、これまでの特選(Ⅰ類・Ⅱ類・Ⅲ類)、特進の2コース制を改め、特進コースを募集停止に。また入試ではコース(類型)アップチャレンジ受験制度が廃止されます。
千葉県 前期の定員比率が98%に 前期で合格取れる作戦を
千葉県の私立高校入試は「前期・後期選抜」の枠組みです。試験は、前期では1月17日以降、後期は2月15日以降に行われます。
県公立入試が2021年度に「1回化」されたことに対応し、後期はそれ以前(2月5日以降)より10日遅く設定されています。
千葉の私立入試は「前期勝負」の状況であり、後期は日程が遅くなったことで“需要”がさらに少なくなりました。前年の2021年度に、後期の枠を無くした学校がいっそう増え、2022年度は暁星国際、昭和学院が後期枠を廃止。これで、県内私立53校のうち、前期のみの高校は39校に増えました。
上位レベルの高校では、後期の実施校がなくなったことに注意しましょう。後期を実施した高校(14校)でも、大半はその後期の定員は20人以下と少なく、「若干」としたところも(5校)。県内私立の全体では、前期の定員比率が約98%となり、後期はわずか約2%です。
受験生の側も、同様に前期へ集中しています。2022年度は、県内私立の総応募者数のうち、前期が占める割合は約99%(途中集計値)にのぼりました。
このように、県内私立は「前期決戦」の入試状況ですから、「前期で合格を勝ち取る」ことが一般的な受験作戦となります。
中堅レベルの高校などは、前期の推薦(単願、併願)が受験の中心で、とくに併願推薦(第2志望以下)に多くの受験生が集まっています。併願推薦で押さえ校(すべり止め)を確保して、公立や私立上位校にチャレンジという受験パターンが千葉の生徒には「定番」的です。
例年、中堅校などは併願推薦、単願推薦(第1志望)とも、各校の内申点の基準などを満たせば、中学校を通した12月の「入試相談」でほぼ合格とされるところが大半になっています。
前期の日程では、推薦のほか、一般の試験も行う高校が多いので、推薦の内申基準に届かないときは、その学校を前期の一般(単願・併願)で狙ってみる作戦もよいでしょう。
なお2022年度に併願、単願推薦など全体の受験者がかなり増えたのは、日本体育大柏(492人増)、昭和学院(337人増)、西武台千葉(293人増)、秀明八千代(288人増)などがありました。
その一方、一部の上位レベルの高校は「テスト勝負」の一般のみを実施という形です。
おもな難関・上位校の2022年度の動向をみてみましょう。県内最上位の渋谷教育学園幕張の「学力枠」では受験者が前年に比べ114人増、倍率は2.4倍→3.1倍と厳しさを増しました。
市川の一般も受験者増(203人増)などで倍率1.5倍→2.2倍と「難化」しています。かたや昭和学院秀英では、受験者はやや増加(18人増)ながらも合格者の増員で倍率は1.9倍→1.8倍と若干低下しました。
なお茨城県では、江戸川学園取手は一般を1月に2回実施。倍率は、医科コースの1回3.5倍、2回3.8倍。東大コースの1回3.0倍、2回3.5倍。難関大コースでは他コースからのスライド合格を含めると1回1.1倍、2回1.2倍でした。
では、2023年度の変更点を挙げておきましょう。
麗澤では1、2回(一般)ともリスニングを英語の試験内に含めます。これまではリスニング試験を英語の試験とは別に行っていました。
二松学舎大附柏は、進学コースに限り併願推薦を廃止します。一方、国府台女子学院では単願推薦のうち内申基準がない制度を取りやめます。西武台千葉では、アスリート選抜コースが進学コース内に含まれ、この希望者はスポーツ推薦(単願)で進学コースを受験することになります。