東京医科歯科大学医学部附属病院が、非侵襲で生体の神経活動を可視化する脊髄磁界計測システムを用いた腰部、頚部、末梢神経の生体磁界計測に成功

研究・産学連携 大学プレスセンター
東京医科歯科大学医学部附属病院が、非侵襲で生体の神経活動を可視化する脊髄磁界計測システムを用いた腰部、頚部、末梢神経の生体磁界計測に成功

─ 東京医科歯科大学、金沢工業大学、リコーでのオープンイノベーションで製品化を目指す ─

国立大学法人東京医科歯科大学、学校法人金沢工業大学、株式会社リコーは共同で、非侵襲(身体を傷つけることなく)で脊髄の神経活動を可視化する「脊磁計」を開発し、実用化に向けて取り組んできた。このたび頚部、腰部に加え、手掌部や腕神経叢部といった末梢神経の磁界計測にも成功した。

【ポイント】
●脊髄磁界計測システム「脊磁計」を使った腰部神経磁界計測に関する研究がClinical Neurophysiologyに掲載された。
● 脊磁計を使って頚部、腰部に加え末梢神経の磁界計測にも成功した。
● 本成果によって、脊磁計の臨床における応用先の広がりに期待できる。

国立大学法人東京医科歯科大学、学校法人金沢工業大学、株式会社リコーは共同で、脊髄の神経活動によって生じるわずかな磁界を計測し、身体を傷つけることなく脊髄の神経活動を可視化するシステム「脊磁計」を開発し、実用化に向けて取り組んできた。

このたび、ハードウェア・ソフトウェア・評価手法の開発により、頚部に加えて、これまで計測が困難とされてきた腰部についての神経磁界計測に成功した。その研究成果の1つが国際臨床神経生理学会連合(IFCN)の機関誌 Clinical Neurophysiologyに掲載され、表紙に選ばれた。

さらに、手掌部や腕神経叢部といった末梢神経の神経磁界計測も成功した。本成果により、脊磁計の臨床における応用先が広がり、実用化に向けて大きく前進した。

研究の背景

脊髄をはじめとする神経疾患において、人体組織の形態情報を画像化するMRI(Magnetic Resonance Imaging)による画像診断に加えて、電気生理学的機能診断が必要なことが多くある。これまで脊髄をはじめ、骨や軟部組織に囲まれた神経の電気活動を体表から測定することが難しく、障害部位の特定が困難であった。

研究成果の概要

ハードウェア・ソフトウェア・診断手法の開発により、頚部に加えてこれまで計測が困難とされてきた腰部についても神経磁界計測に成功した。さらに、手掌部や腕神経叢部といった末梢神経の神経磁界計測も成功した。本成果により、脊磁計の臨床における応用先が広がり、実用化に向けて大きく前進した。

脊髄の活動により生じる磁界の強さは地磁気の10億分の1と非常に小さく、また神経活動の伝播は最大秒速80m程度と非常に速いため、神経活動の測定には高性能な磁気シールドと高帯域で高感度な磁気センサー、そして高度な信号処理技術が必要となる。

金沢工業大学は、非常に高感度かつ高時間分解能のSQUID(Superconducting QUantum Interference Device:超伝導量子干渉素子)センサーを開発し、微弱な信号を数十マイクロ秒単位で計測可能とした。

リコーはセンシングされた信号を処理し、脊髄の活動の情報と形態画像とを重ね合わせて表示するシステムを構築した。東京医科歯科大学は、この「脊磁計」を用いた脊髄神経機能診断法の確立に向けた研究を行った。

脊髄磁界計測システム「脊磁計」

脊髄磁界計測システム「脊磁計」

研究成果の意義

人体組織の形態情報を画像化するMRI(Magnetic Resonance Imaging)に加え、脊髄の機能を可視化することにより、脊髄疾患の障害部位の特定や定量的な評価などへの活用が期待されている。

※本システムは未承認医療機器のため、販売・授与できません。

【論文情報】
・掲載誌:Clinical Neurophysiology
・論文タイトル:Visualization of the electrical activity of the cauda equina using a magnetospinography system in healthy subjects
https://www.sciencedirect.com/journal/clinical-neurophysiology/vol/130/issue/1

【研究者プロフィール】

●川端茂徳
東京医科歯科大学・特任教授・博士(医学)
東京医科歯科大学大学院卒業。東京医科歯科大学大学院整形外科学講座 講師を経て、2015年より現職。専門は脊椎外科。1999年より、脊髄機能診断、脊髄磁界計測の研究に携わる。

●足立善昭
金沢工業大学・教授・博士(工学)
大阪大学大学院基礎工学研究科修了、通商産業省工業技術院電子技術総合研究所研究官を経て、1998年に金沢工業大学に着任。以来、微小磁気計測とその応用の研究開発に従事。1999年より東京医科歯科大学と共同で脊髄磁界測定の研究開発に携わる。

頚部の神経活動

頚部の神経活動

腰部の神経活動

腰部の神経活動

末梢(手掌)の神経活動

末梢(手掌)の神経活動

末梢(腕神経叢)の神経活動

末梢(腕神経叢)の神経活動