Society5.0をリードする人材を育成―金沢工業大学の新たな教育改革
従来の社会では「現実」はface to faceの実空間だった。これに対して新しい社会「Society5.0」では、「サイバー空間×フィジカル空間」が「現実」となる。そこではAIを代表するような情報技術と複数の分野の科学技術が融合し、人間を中心とした新たな価値の提案や社会変革がもたらされる。
金沢工業大学ではSociety5.0に対応できる人材を「高度な情報技術と複数の専門分野の知識と実践的スキルによって社会で適切な価値を創出できる人材」であると考えている。
同大ではこうした人材の育成を目指し、2016年度から実施してきたイノベーション創出を可能にする「世代・分野・文化を超えた共創教育」に加えて、
(1)全学的な情報技術教育の導入
(2)社会実装を実現する6年制メジャー・マイナー制度の導入
(3)実務家教員を起点とした深い産学連携
という3本の柱から構成される教育改革を推進している。
(1)全学的な情報技術教育の導入
昔の社会では、身に付けるべき基本的な知識や能力を「読み書き算盤」と言っていたが、Society5.0では「情報技術」の習得が社会人として必須の知識・スキルとなる。
そこで2019年度から「AI基礎」と「ICT基礎」を開講。2020年度入学生から必修科目として実施することで、「プロジェクトデザイン教育(※)」における問題発見・解決に活用できるようにする。
さらに発展・応用系として「AIとビッグデータ」コース(「AI基礎」を含む6科目)、「IoTとロボティクス」コース(5科目)、「ICTと情報セキュリティ」コース(「ICT基礎」を含む3科目)という3コースを導入し、Society5.0で必要とされる高度な情報技術を身につける。
※問題発見から解決にいたる過程・方法をチームで実践しながら学ぶ、全学生必修の同大オリジナルの教育。
(2) 社会実装を実現する6年制メジャー・マイナー制度の導入
Society5.0で必要となる複数の専門分野の知識と社会で活用できるスキルを身につけるため、「工学×リハビリテーション」「工学×経営」「工学×バイオ」といった6年制一貫コース(学部4年間+大学院2年間)によるメジャー・マイナー制度を導入する。1年次終了時に成績上位者に対して面談を実施し、一貫コースへの進級を促す。2019年度は一部試行で開始し、2020年度から本格的に実施する。
さらに、「工学×看護」「工学×医学」「工学×心理」「工学×幼児教育」といった他大学と連携した学びも2020年度から一部試行を開始し、2021年度から本格的に実施する予定である。
なお他大学との連携では、VR(Virtual Reality)を使った遠隔授業を計画している。
(3)実務家教員を起点とした深い産学連携
金沢工業大学では、社会に役立つ研究は研究室の中でのみ行うのではなく、生み出した研究成果を実社会の中に組み込み、その中で新たな発見を得て研究を深めていく「社会実装型の教育研究」を目指している。
2019年度からは実際の現場でさまざまな問題に向き合い、新たな解決法を生み出すリアリティを持った実務家教員による教育を推進。企業での経験を生かしてアクティブラーニング科目や卒業研究・修士研究の研究指導などを担当することで、産学連携による社会実装型教育研究の充実をはかる。
また実社会にある課題を深く理解できる人材を育成するために、企業や行政と連携した「オンキャンパスインターンシップ」も推進する。学部1年次から行われるプロジェクトデザイン教育では、企業や行政からリアルなテーマが提供され、企業担当者の指導を受けながらプロジェクトを推進していく。
2年次以降の専門基礎科目の一部でも、企業と連携したオンキャンパスインターンシップを実施。正課外プログラムでも企業や行政と連携して実社会の問題解決に取り組むプロジェクトを設け、工学教育の世界標準であるCDIO(Conceive、Design、Implement、Operate)に基づく実践力を身につける。
社会人が学生とともに授業を受ける「社会人共学者」制度でもより幅広い専門領域での受け入れを可能にすることで、学生が社会人とともに学ぶ機会の充実をはかる。