高大接続改革と連動して国立大の連携・統合が進む
情報技術の飛躍的な発達やグローバル化の進展により大きく変化する産業構造や社会環境。変化に対応できる人材養成のため、高校と大学教育、両者を結ぶ大学入試を変革する高大接続改革が進む。
高校教育改革においては、大学入試を前提とした知識の詰め込み型教育を改め、知識をいかに活用するかが重視されるようになる。その実現に向け、高校の教育現場では、双方向型授業のアクティブラーニングなどを通し、「知識・技能の確実な習得」「知識・技能を基にした思考力、判断力、表現力」「主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度」といった学力の3要素の育成を目指す。
高校生の学力感の変化に合わせ、大学入試はこれまでの知識の再生から、筆記試験の導入などにより、思考力や判断力を重視する入試に変わる。大学入試改革の中心にはセンター試験に代わって実施される「大学入学共通テスト」が据えられ、2020年度に向けた改革が進んでいる。
大学改革について文部科学省は、「各大学の役割・機能の明確化」「経営力の強化」「大学の連携・統合等」の3本柱を示している。
「各大学の役割・機能の明確化」については、「世界を牽引する人材」「高度な教養と専門性を備えた先導的な人材」「高い実務能力を備えた人材」といった人材養成のイメージを提示し、各大学はそれぞれの選択する機能と比重を見直すことによる、強みや特色の明確化が求められている。「経営力の強化」については、大学経営への学外理事の活用を促進するとしている。「大学の連携・統合等」の内容は、「地域連携プラットフォーム(仮称)」の構築とガイドラインの策定および、国公私立の枠を越えた連携を可能にする「大学等連携推進法人(仮称)」の制度創設の検討となっている。
医工連携からはじまった国立大の統合
このように大学改革の方向性が示される中、国立大では、個々の強みを生かすため大学の連携・統合の計画が進んでいる。こうしたケースは過去にもあり、総合大学と医科系単科大学の統合が多くあった。事務経費の削減とともに、医学部と理工系学部などの連携による共同研究の環境作りが主な目的だ。02年に山梨大と山梨医科大が統合して山梨大に医学部ができ、03年には福井大と福井医科大、島根大と島根医科大など7件の統合例がある。
総合大学と医科系単科大学以外では、統合先の総合大学が持っていない学術分野の単科大との統合が多く、筑波大と図書館情報大、九州大と九州芸術工科大、大阪大と大阪外国語大といったケースが見られる。
現在検討されている大学間統合には、名古屋大と岐阜大の運営統合がある。名古屋大は、東大、京大、東北大、大阪大、東京工業大とともに、「指定国立大学法人」に指定されている。指定国立大学法人とは、文部科学省から国際的な競争環境下で世界の大学と伍していく大学としてのお墨付きを与えられた大学のこと。名古屋大は指定国立大学法人構想において、「新たなマルチ・キャンパスシステムの樹立による持続的発展」を掲げる。これは、複数の大学が集まって新たな国立大学法人を作り、その枠組の中で自立性を尊重しながら各大学の強みに応じた教育、研究を展開するものだ。岐阜大との統合は、こうした取組の一環と見られている。
医工連携という観点からは、静岡大と浜松医科大の法人統合による、新たな国立大学法人設置の動きがある。工学部がある静岡大の浜松キャンパスと浜松医科大を中心とした大学と、静岡大の静岡キャンパスを中心とした大学の2校の開校を目指し協議が進められている。
奈良教育大と奈良女子大は法人統合し、教養教育の充実と教科や教員養成の高度化を目指している。奈良先端科学技術大学院大学と奈良工業高等専門学校の協力のもと工学系共同教育課程を設置し、工学学士の授与も検討されている。
前出の例は近隣の大学同士の統合だが、北海道では、遠く離れた小樽商科大、北見工業大、帯広畜産大の3校の運営統合計画がある。特色ある教養科目の遠隔講義システムによる共同受講や、大学間で短期滞在型体験学習などが検討されている。統合計画にはないが、北見工業大に小樽商科大のサテライトキャンパスを開設して遠隔授業を行えば、商学部を持つ大学がない北見で商学を学ぶことができる。地方ではこうした改革の方向性が求められよう。
国立大学の主な統合例
統合年 | 大学名 | 統合大学 |
---|---|---|
2002年 | 筑波大学 | 筑波大学・図書館情報大学 |
山梨大学 | 山梨大学・山梨医科大学 | |
2003年 | 東京海洋大学 | 東京商船大学・東京水産大学 |
福井大学 | 福井大学・福井医科大学 | |
神戸大学 | 神戸大学・神戸商船大学 | |
島根大学 | 島根大学・島根医科大学 | |
香川大学 | 香川大学・香川医科大学 | |
高知大学 | 高知大学・高知医科大学 | |
九州大学 | 九州大学・九州芸術工科大学 | |
佐賀大学 | 佐賀大学・佐賀医科大学 | |
大分大学 | 大分大学・大分医科大学 | |
宮崎大学 | 宮崎大学・宮崎医科大学 | |
2005年 | 富山大学 | 富山大学・富山医科薬科大学・高岡短期大学 |
2007年 | 大阪大学 | 大阪大学・大阪外国語大学 |
学部新設により地域に貢献できる人材養成
大学の連携・統合には、地域連携も含まれており、そうした流れから、学部を改組する大学が数多くある。これまでの国立大は、経済や工学など、従来型の学部が多く、学部組織の変更に積極的ではなかった。最近は、地域貢献を主目的とした学部を新設する大学が増えており、宇都宮大・地域デザイン科学部や福井大・国際地域学部、鳥取大・地域学部、宮崎大・地域資源創生学部などが開設されている。
具体的な学部の特徴に注目すると、高知大・地域協働学部のホームページのトップには、「協働を通じて地域の再生、発展に挑戦する全国初の学部です」という文言が踊る。学生の力を地域の再生と発展に生かす教育研究を通して、地域活性化の中核拠点になることを目指しているのだ。佐賀大・地域資源創生学部の芸術表現コースは、「美術・工芸」と「有田セラミック」の2分野で構成される。有田焼と表現・科学・経営といったアカデミックな教育・研究分野の融合で、地元の産業の発展に貢献する役割を担っている。
地域重視の学部が設置される一方、「世界を牽引する人材養成」に力を入れる大学では、グローバル系学部の設置が進んだ。そうした学部には、九州大・共創学部や千葉大・国際教養学部、山口大・国際総合科学部などがある。
先行きの見えない社会で活躍できる人材養成ができなければ、国立大も生き残れない。改革の行方に注目したい。