不透明な社会で活躍できる人材養成を目指し大学改革が進む
2020年度入試に向けて文科省が進める大学入試改革と呼応するように、個別大学の改革が進む。大学入試改革の方向は、従来の入試の中心だった「知識・技能」の再生に「思考力・判断力・表現力」「主体性をもって他者と協働して学ぶ態度」を加えた学力の3要素を見る入試に向かっている。
「思考力・判断力・表現力」を問うため、センター試験に代わって実施される大学入学共通テストでは、記述式の導入など問題の見直しが進む。「主体性をもって他者と協働して学ぶ態度」については、高校時代の活動歴等を面接や調査書などで評価することになり、多くの受験生が出願する一般入試での導入は難しい。そこで、増えているのが推薦やAO入試であり、国立大学協会は21年までに推薦やAO入試による入学者を3割に増やすとしている。
19年入試では、東北大が法学部でAO入試Ⅱ期、文学部と理学部でAO入試Ⅲ期を導入する。もともとAO入試の定員が多い同大は、募集枠をさらに拡大するのだ。関西では神戸大がAO方式で、『神戸大学「志」特別入試』を新規実施。センター試験は課さず、評定平均値や個別試験で学力を担保した上で、面接や小論文、プレゼンテーションなどで選抜する。秋田大や山形大、群馬大、徳島大、香川大、長崎大、宮崎大、大阪市立大などで、AOもしくは推薦入試を導入する学部がある。
地域連携型入試を拡大する早稲田大
私立大では、18年入試から早稲田大が地域貢献の意欲が高い受験生を学力型AO入試で獲得する「新思考入試(地域連携型)」を実施。19年入試では現在の文学部や商学部など5学部に法学部が加わる。東海大・医学部は、クラブ活動や課外活動を評価するAO入試を実施する。
一般入試における主体性評価は、18年に関西学院大・教育学部の初等教育学専攻が、リーダーシップに関する取り組みを評価する、一般入試では日本初の「主体性評価方式」を導入した。今後の展開として、青山学院大や慶應義塾大、上智大、早稲田大などで21年からWeb出願時に「主体性」「多様性」「協調性」に関する記入が必須になる。導入当初は合否に関係ないが、将来的には一般入試でも主体性を測る方向に向かうことは間違いなさそうだ。
ちなみに、早稲田大・政治経済学部の一般入試では、21年から日本語と英語の両言語による長文を読み解いた上で解答する学部独自入試と、同年に導入される大学入学共通テストの成績を合算して選抜する。大学入学共通テストで数学ⅠAが必須となり、一般的な私立文系型の受験生は受けにくくなる。
このように文系学部で理系科目を課すケースや、反対に理系学部で国語や地歴を課す動きは、大学入試センターを活用する来春入試でも増加傾向にある。立教大が6科目型を導入し、龍谷大は法学部の中期で数学が必須の4科目型を実施。関西大の理工は前期で5科目型、中期併用型で4科目型を行う。数学的な考え方や国語力を持った学生は入学後の伸び代が大きいという。文系・理系の枠を超えた入試科目設定をするのは、少子化が進む中、学生の質を高めたいという考えがあるのだろう。
拡充が進む英語の4技能を重視した入試方式
グローバル化が進み、大学入学共通テストで外部英語試験の活用が決まったこともあり、19年入試でも「読む、書く、聞く、話す」といった4技能を外部英語検定試験で見る大学が増える。大学の独自試験のハードルを上げる大学もあり、東京外国語大は、19年に新設する国際日本学部の前期日程で、日本初となる一般入試におけるスピーキングテストを実施する。従来から「話す」以外の3技能を実施していた同大は、外部英語検定試験に頼らず4技能を課すことになる。
英語重視の入試は、昭和女子大が国際学部でリスニングテストを導入し、龍谷大の国際学部は500点満点中、英語の配点を400点とする独自方式を実施する。
学部改革に注目すると、グローバル化の流れから、ここ数年のトレンドである、国際系学部の新設が続く。中央大は、26年ぶりの新設学部となる国際経営学部と国際情報学部を設置予定で、津田塾大は学芸学部に多文化・国際協力学科を新設予定だ。立命館大は学部生全員がオーストラリア国立大に留学し、4年間で2大学分の学位が取得できるグローバル教養学部を開設する。学部生全員が海外大学と国内大学の2つの学位取得を目指すのは、日本の大学では初めての取り組みだ。
グローバル系学部の新設が進む一方、1982年に他大学に先駆けて国際政治経済学部を開設するなど、グローバル人材の養成に力を入れてきた青山学院大は、日本の地域に立ち位置を置くコミュニティ人間科学学部を新設予定だ。教育学と社会学をベースする学部で、少人数の演習や日本各地における調査実習などを通し、地域で活躍できる人材養成を目標としている。
知識や技能、思考力などとともに主体性を見るのは、先行きが不透明な社会を自ら切り開いていく力を身に着けてほしいというメッセージ。新設予定の学部もこれから求められる人材像から逆算したものが多い。大学改革は、日本の行く末を決める人材育成のためであり、その成果が日本社会に還元されることを期待したい。