1907年、国内3番目の帝国大学である東北帝国大学として開学した東北大学は、「研究第一」「門戸開放」「実学尊重」を建学の理念として多様な分野で活躍する人材を輩出してきました。
2018年11月、大野英男総長のもと「東北大学ビジョン2030」を策定し、20年7月にそのアップデート版 (1)を公表しました。オンライン化を強化することで、ニューノーマルを見据えた大学改革を加速させようというものです。「教育の変革」「研究の変革」「社会との共創の変革」「大学経営の変革」を掲げ、質の高い教育と世界トップレベルの研究を推進。ポストコロナ時代を担うグローバル人材の育成に努めています。
※このインタビュー動画は2020年8月3日に収録したものです
- (1) 『東北大学ビジョン2030』アップデート版: 新しい日常(New Normal)を見据えて、教育、研究、社会との共創を進める。
▼「教育の変革」ではオンラインを戦略的に活用した多様な教育プログラムの機動的展開や、距離・時間・国・文化等の壁を越えた多様な学生の受け入れを推進。
▼「研究の変革」ではポストコロナ時代のレジリエントな社会構築に向けた研究推進や国際共同研究コミュニティ形成と若手研究者の活躍を促進。
▼「社会との共創の変革」では不確実性が高まるポストコロナ社会を見据え、変化する課題に迅速に対応し社会価値を創出する機動的な産学共創体制を確立。
▼「大学経営の改革」では、データ活用による大学経営の高度化、ニューノーマル時代にふさわしい働き方への変革などを目指している。
新型コロナにオンラインで対応
全学生にアドバイザー教員を配置
東北大学は学部・大学院を合わせて約1万8000人の学生に対し、前期の開講科目が約4000科目ありますが、新型コロナウイルス感染症に対し、全科目をオンライン化で対応しました。新1年生は今年度から、各自がパソコンを用意するBYOD(Bring Your Own Device)を導入したため、混乱もなくスムーズに移行することができました。
とりわけ感染防止の観点から、学生にアルバイトをしないように要請をしたことから、総額4億円の「東北大学緊急学生支援パッケージ」を実施。新入生をサポートする上級生に、大学が月2万円を支給する「ピアサポーター制度」をはじめ、独自の緊急給付型支援などで学生の経済支援を行いました。
このほか、オンライン授業エキスパートTA(ティーチング・アシスタント)として100名を雇用したり、パソコンやWi-Fiルーターの貸出などを実施しています。特筆されるのは、すべての学生一人ひとりにアドバイザー教員を配置したことです。
大野英男総長は「新型コロナ対策で本学もオンライン授業を導入しましたが、その結果、大学運営の面でもオンラインの良さを認識することができました。例えば、6月1日には『東北大学オンライン事務化宣言』を出し、印鑑を廃止するなど業務運営のデジタル化への取り組みを開始しました。また、アメリカやカナダの協定校の学生と、オンラインによる『国際共修授業』を実施したほか、4月にはウェブによる『世界主要放射光施設サミット (2)』を開催しました。こうした経験なども踏まえて、2020年7月に『東北大学ビジョン2030』のアップデート版を公表したのです」と説明します。
- (2) 世界主要放射光施設サミット: 2020年4月24日、世界20の主要放射光施設および関連学術組織の代表によるサミットをWebで開催。世界の放射光施設が戦略的に国際協力を展開し、新型コロナウイルス抑圧に臨むことを宣言する「AOBA commnique2」を採択した。「AOBA commnique2」活動計画では、(1)新型コロナウイルスのパンデミックに対処する科学的研究において、情報を共有し横断的な取り組みを発展させる、(2)世界的なX線科学研究施設ネットワークの構築、(3)ITシステムの研究開発の促進、(4)遠隔操作で実験できるリモートシステムや実験試料を送付して実験するメールインシステムの経験を共有する――などを挙げている。
東北大学ビジョン2030
アップデート版を策定
「東北大学ビジョン2030」は東北大学の3つの伝統的理念である「研究第一」「門戸開放」「実学尊重」を基盤として、教育、研究、社会との共創の好循環を実現するための戦略ビジョンです。
これに対し、アップデート版は「東北大学コネクテッドユニバーシティ戦略〜ニューノーマルを見据え社会変革を先導する大学を目指して」と題し、オンライン化を強力に推進。サイバー空間とリアル空間の融合的活用を通して大学の諸活動を拡張し、ビジョン2030の実現を加速することを謳っています。
このため、第一に距離・時間・国・組織・文化・価値観などの壁を越え、東北大学が社会・世界とダイナミックにつながることによって、これまで以上に自由度の高い学びと知の共創を可能にする大学として飛躍すること。第二に、コロナ禍で顕在化した社会の分断や格差を越えてボーダレスかつインクルーシブに世界を繋ぐ新たな大学像を確立することを戦略に置いています。そして、「教育の変革」「研究の変革」「社会との共創(産学共創)の変革」「大学経営の変革」の項目ごとに具体案を明示しています。
「本学は1913年に日本で最初に女子学生を受け入れた大学で、門戸開放という理念を掲げています。現在も障害者や留学生なども含め多様な学生を受け入れており、オンラインの強化でその多様性がますます増えていきます。こうして真のインクルーシブな大学として進化させていきたいと考えています」(大野総長)。
コロナ関連の研究はじめ
世界トップ級の研究推進
東北大学では、229件にのぼる「新型コロナウイルス感染症特別研究プロジェクト」を推進しており、その一部については自主財源により支援しています。「ウイルス検出と分析」「予防および治療法開発」「アウトブレイク対応」「社会システム・デザイン」「デジタル・コミュニケーション」「基礎・臨床・疫学研究」「国際協力」の7本柱を軸に、文系部門から理系部門まで全学の部局が参加しています。
また、「ポストコロナ社会構築研究スタートアップ支援」の公募や、COI(センター・オブ・イノベーション)東北拠点によるコロナ禍に対応した研究活動、データ駆動科学オンラインセミナー開催などに取り組んでいます。
一方、文部科学省予算によるものとしては、予算額約5億円の「呼気オミックス解析システム」の構築を展開中です。
こうした新型コロナウイルス関連以外でも東北大学は世界トップレベルの研究を推進しています。特に、東北大学が強みを発揮する「材料力学」「スピントロニクス」「未来医療科学」「災害科学」の4領域を選定し、世界最高の研究成果を創出すべく重点的に整備しています。
青葉山キャンパスの整備についても、農学部・農学研究科の移転に続き、2023年の運用開始を目指して「次世代放射光施設」の建設を官民地域パートナーシップで進めており、脳の神経回路の可視化といった医学領域をはじめ、スピントロニクスの材料開発など世界から研究者が集まる施設となり、グローバルイノベーションキャンパスとして発展していくことが期待されています。
「教育力」も高い評価
21年度から新入試を導入
東北大学は今年3月、タイムズ・ハイヤー・エデュケーション(THE)が発表した「世界大学ランキング日本版2020」で第1位にランクされました。このランキングは主に教育に焦点を当てて評価したもので、大野総長は「高校生や高校の先生、保護者の皆様との間でどういう教育の場を創っていくのかを20年にわたってコミュニケーションしてきました。その地道な取り組みが実ったのだと思います」と説明します。
2019年は、未来社会に向けて備えるべき現代的リベラルアーツの素養を修得する「挑創カレッジ」を開講しました。「グローバルリーダー育成」「コンピュテーショナル・データサイエンス」「企業家リーダー育成」の3つのプログラムからなり、このうちデータサイエンス関連については、これからの時代を生きるリーダーにとって必要不可欠ということから、今春から文理を問わず全学部学生が必修で学んでいます。
そして、東北大学では学生の「やる気、挑む心」に応える新しい入試を2021年度入試 (3)から導入します。先進的な総合型選抜(AO入試)により、東北大学第一志望者のための入試機会を増やそうというものです。志願理由書、面接試験などで東北大学への思いを伝える場を作り、基礎学力+α(意欲、適性、好奇心など)を総合的に評価。また、同入試で不合格でも一般入試で再チャレンジが可能となるよう、全学部で複数回の受験機会を設けました。
スピントロニクスをベースとした卓越した業績で、世界的に著名な研究者でもある大野総長は「東北大学は2030年までに、世界から尊敬される三十傑大学になることを目指しています。これから入学してくる皆さんは、力を大きく伸ばして羽ばたいてほしい。そのための、羽ばたく仕方を学ぶ、あるいは身につける場が東北大学です。本学の素晴らしい環境の下でぜひ成長してください」とエールを送っています。
- (3) 2021年度入試の主な変更点:
●英語4技能評価の重視
・一般選抜 共通テストの英語の配点を全学部でリーディング150点、リスニング50点とする。
・AO入試Ⅱ期 いくつかの学部の面接試験で「英語で話す基礎的な能力」を評価
●個別学力試験での「思考力、判断力、表現力」の重視
・一般選抜前期日程 国語の試験時間延長(120分→150分)
●主体性評価の重視
・一般選抜 受験生本人によるチェックリストの採用(裏づけは調査書<受験生の自己評価と身近にいる教師の他者評価>を尊重)
・面接試験の導入(歯学部前期日程、理学部後期日程)